健全な資本主義とは何か - 古田大輔の反共思想と米国の若者との彼我

c0315619_16340716.jpg昨年末のブログ記事で、大塚久雄を復権させようという提案を試みた。現時点で反響は皆無だけれど、我ながら面白い問題提起だと内心で自賛する気分でいる。誰もこれまで発想せず指摘したことのない死角であり、大袈裟に言えば、コロンブスの卵になり得るキーポイント(思想的鉱脈)の発見ではないか。無論、この力業に着手するには若さとエネルギーが要るし、首尾よく成功させるためには経済学と経済史の知識が要る。力の衰えたロートルの専門外の人間が、アイディアと目算だけでなし得る事業ではない。だが、丸山真男や吉野源三郎がこうして復活し、戦後民主主義が生き返った現実を見れば、悔恨共同体の知識人の筆頭格であり、戦後社会科学を主導する二本柱の一つであった大塚久雄が、再び甦って口を開き、われわれに向かって熱い息吹を放つ図を想像しておかしくない。われわれが再び、大塚久雄の中産層の説諭を聴き、健全な資本主義の理念について耳を傾け、その政策論に頷く日が来ておかしくない。大塚久雄のマルクスとウェーバーの基礎理論は、まさに、戦後日本に健全な資本主義を建設するための基本設計の思想であり、その政策論と主体性(人格類型論)を社会に提供するアーキテクチャーのセオリーだった。



c0315619_16341990.jpg戦後民主主義へのコミットを続け、丸山真男を力強く甦らせることができたと、そう自負を持ってこの20年を振り返る私が、大塚久雄の復活復権に自信と期待を持つのは、それほど不自然な心理ではあるまい。実のところ、日本人はそれを潜性的にも待望しているのではないか。中産層の理念型を浮かび上がらせる理論を求め、健全な資本主義とは何かの説得的な概念を求め、どうすればそれを実現できるかの政策論を心の中で暗中模索している状況なのではないか。健全な資本主義の創生と確立について、どうすればそれをこの国で実現できるかについて、そのことをずっと研究してきたのが20世紀の日本の社会科学だった。河上肇の「貧乏物語」から始まって、講座派と労農派の日本資本主義論争を経て、戦後の大塚史学の大系に纏まるところのアカデミーの所産は、つまるところ、日本人が等しく中産層の生き方を得て幸せに暮らすために学究され、織りなされ積み重ねられてきたものである。それは、宝庫としてわれわれの前にある。われわれが、それを忘れているだけであり、無理に目を背けているだけなのだ。明治の廃仏毀釈で、中国の文化大革命で、貴重な文化遺産である仏像や仏典を破壊し焼却したように、バブル後の日本のアカデミーは、脱構築主義に改宗し、戦後社会科学の意義と価値のすべてを否定した。

c0315619_16343273.jpg「総動員体制」だの「国民主義」だののレッテルを貼り、難癖をつけ、戦後社会科学をガラクタ扱いにして唾を吐いた。90年代以降、四半世紀の長きにわたって、脱構築のアカデミーによって不当に侮辱され、マイナスシンボルとしてセメント化されたために、大塚史学をはじめとする戦後日本の社会科学 - 中産層と健全な資本主義の発展のための理論 - は不可蝕扱いの禁断のカバーで覆われ、うち捨てられ、若い世代に忘れ去られてしまったのだ。だから、若い者たちはそれを発見することができない。脱構築という悪性のレンズさえ外せば、脱構築による(意図的で作為的で悪辣な)偏見さえ取り除けば、われわれは、日本人が日本人のために開発したところの、中産層と健全な資本主義の社会形成のための設計理論を手に入れることができる。今、若者たちはマンガ本の『君たちはどう生きるか』を読み、吉野源三郎を発見し、丸山真男を発見し、従来、口汚く罵られ排斥されてきた「戦後民主主義」なるものが、本当はどういう思想と運動だったのか、その真価を手探りで感じ取っているだろう。戦後民主主義と憲法9条の意義を認め始めているだろう。次にわれわれが価値を再発見しないといけないのは、社会主義である。脱構築と新自由主義によって否定され尽くし、悪魔として火刑に処され、呪われた禁句となったところの、社会主義である。

c0315619_16344472.jpgネットの中に、驚くような米国での調査報告があった。とある団体の定点調査の結果だが、何と、米国の若者の3割にがマルクスに対して好意的な意見を持っていて、半数が社会主義に対して肯定的に考えているという数字が出ている。この社会調査をどう受け止めるかは様々だし、単純な結論に導くことには慎重になるべきだけれど、一昨年の米大統領選で目撃したサンダースの空前の人気と支持を思い返せば、この調査内容も十分に納得でき、米国の社会の断面を切り取った有意な材料として考察していいだろう。資本主義の矛盾である格差と貧困の問題に対して、どう考えても、米国の若者の方がストレートに受け止めていて、日本の若者と較べて社会科学的に正しい認識と判断を持っている。資本主義批判の意識を正しく持っている。ということは、多くの人に肯定してもらえる事実だろう。何と言っても、サンダースは「社会主義」という言葉を堂々と選挙戦で掲げて訴えた。自らの政策論を纏めた象徴的な標語として、「民主的な社会主義」というフレーズを隠さず揚言した。そして、あの若者の熱狂と歓呼の現実があった。米国はストレートだ。翻って日本はどうか。日本はそこで思考回路が屈折する。資本主義の否定が社会主義の肯定に繋がらない。社会主義の肯定を恐れて資本主義を否定しない。恐怖して萎縮する。遮断がある。思考回路に余計な障害がある。余計な障害を媒介しているのは脱構築のドグマだ。

c0315619_16345555.jpg昨日(8日)、民放のテレビを見ていたら、水野真紀がキューバを旅行して紹介する番組があり、その中で、社会主義について「資本主義によって生じる格差のない、平等で公正な社会をめざす思想」という説明がされていた。言葉の定義として半ば当を得ているだろう。資本主義の矛盾を克服しようとする思想および運動を社会主義と呼ぶのであり、資本主義を転覆・揚棄しようとする、あるいは資本主義を改良・修正しようとする理念と意思が社会主義だ。だから、資本主義批判は自動的に社会主義となる。米国の場合は、その自動的な思考の通路がストレートで、屈折や障害がないため、資本主義の矛盾である格差への反発はスムーズにサンダースの社会主義政策への支持に繋がる。この場合の社会主義は、20世紀から出現した国家体制としての社会主義 - 統制経済と共産党独裁 - を意味しない。ところが日本の場合、故意に、社会主義の概念と表象を20世紀の国家体制に収斂させ、一義的に決定づける思考と発想で固め、そこから自由になろうとしない。資本主義の反対概念としての社会主義という本来の理念的な考え方に即かない。そのため、現実の資本主義の全肯定になってしまう。一昨日(7日)に放送されたサンデーモーニングでの、古田大輔と関口宏のやり取りがその典型だったと言える。

c0315619_16472989.jpg反安倍でリベラルと目される古田大輔が、社会主義を全否定し、現実の資本主義(新自由主義)を丸ごと肯定し、8人のIT長者や金融長者が世界の50%の人口の分と等しい富を独占するのは自然なことだと平然と言う態度に出るのは、日本特有の思想的あり方であり、脱構築の契機が介在するからだとしか言いようがない。つまり、客観的に、古田大輔は反共思想の持ち主なのであり、反共思想(=脱構築主義のイデオロギー)を刷り込まれてきた若い世代だから、デフォルトで社会主義は邪悪なのであり、そこに寸分の肯定的要素も認められないのだ。資本主義の矛盾に対してネガティブな視線を向ける司会の関口宏は、古田大輔から見て、古臭い左翼思想の染みついた時代遅れの人間なのであり、無価値な用無しの負け犬でしかなく、さっさとマスコミから退場しろと内心で思っている存在に違いない。「健全な資本主義」と言う。寺島実郎が言う。健全な資本主義とは何なのか。それはどのようにして形作ることができるのか。嘗てそれは存在したのか。存在したとすれば、どこでどんな条件で実現されていたのか。そのことを考えるとき、われわれ日本人は、ケインズの他にもう一人の経済学者を想起するべきであり、大塚久雄の名前と学問を思い起こすべきだろう。そうすることで、健全な資本主義の輪郭をかたどることができるはずだ。

嘗て、「地上で唯一成功した社会主義のモデル」と呼ばれた国が東アジアにあった。健全な資本主義のイメージとは、その国の経済と社会のあり方に違いないと私は確信する。

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by yoniumuhibi | 2018-01-09 23:30 | Comments(3)
Commented by 目黒駅は品川区 at 2018-01-09 17:31 x
健全な資本主義とは労働価値学説が成り立つ持続可能な社会ってことですよ!言い換えるならば資本主義が社会として持続可能になるためには労働価値学説が成り立たなくてはならない。
Commented at 2018-01-09 18:27 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2018-01-11 10:32 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。


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