池上彰や斉藤孝が『君たちはどう生きるか』の宣伝に便乗する欺瞞

c0315619_16374505.jpg12月2日の朝日の天声人語に『君たちはどう生きるか』のことが書かれている。朝日は11月3日の社説でもこの本を取り上げていた。マガジンハウスが出したマンガ本は、現在100万部の売れ行きとなっていて、この本の人気は社会現象になっている。私は前の記事で、本がブームになっている割にマスコミで話題になってないと書いたが、その認識は間違っていたようで、TBSの「王様のブランチ」(11/18)やNHKの「おはよう日本」(11/26)などのテレビ番組で紹介されていて、それが宣伝効果となってさらに販売部数を伸ばしているようだ。私がどうしてこの本のブームについてマスコミ報道の不足や無視を感じたかというと、日頃接しているテレビ番組である、NW9、クロ現、報ステ、サンデーモーニング等々に取り上げられてなかったからで、きっと官邸の監視統制の目が光っていて、報復を恐れて避けているのだろうと疑っていた。どうやらそれは邪推だったようで、いずれこれらの番組でも特集されるに違いない。だが、今のこの本のブームと出版マスコミ業界の便乗と喧伝には、私は率直なところ首を傾げてしまう。池上彰とか斉藤孝とか掘江貴文とか、この戦後民主主義の古典とは真逆の陣営に属するところの、まさに敵の思想の猛者である俗物たちが、ぞろぞろと登場して囃し立てている風景は異様で我慢できない。



c0315619_16375936.jpg池上彰や斉藤孝や掘江貴文が広告キャラクターとなり、商品のプロモーション・シンボルとなって拡販されることで、市場の一般読者にとっての本の意味づけは、吉野源三郎が原作で訴えようとする「生き方」(価値観)とは全く別のものになる。原作の意義と真価は歪められる。間違ったイメージになり傷つけられる。この本は、堀江貴文のような銭ゲバの犯罪者にならないよう子供を教え導く本だ。そうした錯誤や矛盾について、マガジンハウスの編集者や羽賀翔一は何も不具合や痛痒を感じないのだろうか。例えば、池上彰と斉藤孝は、中立公平の擬制下にある民放のテレビ番組の中で、繰り返し繰り返し中国を悪魔視するプロパガンダを吐き、視聴者に中国脅威論と反共思想を刷り込み、反発と憎悪を掻き立てさせてきた張本人の論者だ。安倍政権の邪悪な歴史修正主義を捲き散らし、国民を洗脳して右翼思想に漬け込んでいる実行犯の男たちだ。彼らこそ、日本の世論の右傾化を推進してきた現場の工作員であり、今も続けていて、彼らがその業務を精力的に遂行しているから、極右政党である自民党の支持率は異常な高さを維持して選挙に勝ち続ける。池上彰や斉藤孝が、『君たちはどう生きるか』の広告塔となり、表象として二重に被ることが、どれほどの思想的欺瞞であり、意味の歪曲であり、原作と原作者への深刻な裏切りだろうか。この本を読み継ぎ、この本を精神の糧にして時代を生きてきた者たちへの冒涜だろうか。

c0315619_16382717.jpg例えば、丸山真男は文庫版の付録の「回想」の中でこう書いている。「コペル君というあだ名の由来であるこの事例の意味づけは全編の主要主題として流れているのですが、地動説は、たとえそれが歴史的にはどんなに画期的な発見であるにしても、ここではけっして、一回限りの、もう勝負が決まったというか、けりのついた過去の出来事として語られてはいません。それは、自分を中心とした世界像から、世界のなかでの自分の位置づけという考え方への転換のシンボルとして、したがって、現在でも将来でも、何度もくりかえされる、またくりかえさねばならない切実な『ものの見方』の問題として提起されているのです。そうだからこそ、この『転換』が、『静子さんのうちは、うちのお向いで、三ちゃんところはお隣だ』というような子供の世間イメージから、おとなの『地図的』とらへ方という、ひとりひとりの人間の世間認識の成長過程にたとえらえるわけです。もしこの転換が、たんに対象認識の正確さの増大とか、客観性の獲得とかいうだけの意味しか持たないならば、その過程に自分は-つまり主体は何ら関与していないということになります。(略)『おじさん』の、いや、吉野さんのアプローチはそうではありません。地動説への転換は、もうすんでしまって当たり前になった事実ではなくて、私達ひとりひとりが、不断にこれから努力して行かねばならないきわめて困難な課題なのです」。

c0315619_16383926.jpg「そうでなかったら、どうして自分や、自分が同一化している集団や『くに』を中心に世の中がまわっているような認識から、文明国民でさえ今日も容易に脱却できないでいるのでしょうか。つまり、世界の『客観的』認識というのは、どこまで行っても私達の『主体』の側のあり方の問題であり、主体の利害、主体の責任とわかちがたくびあわされている、ということ - その意味でまさしく私達が『どう生きるか』が問われているのだ、ということを、著者はコペルニクスの『学説』に託して説こうとしたわけです」(岩波文庫 P.316-317)。この説諭こそ『君たちはどう生きるか』のエッセンスだが、この観点から鑑みたとき、池上彰や斉藤孝がテレビで垂れている中国論や北朝鮮論はいったい何だろうか。中国と日本との関係を認識し議論するとき、その主体の内側に欠くべからざる基礎的視座は何なのか。例えば尖閣問題にせよ、北朝鮮のミサイル問題にせよ、SFの慰安婦像の問題にせよ、その時々の情勢について客観的で正確な認識と判断を導こうとするときに、そこに、本来分かちがたく結び合わされていなくてはならない主体の責任やモラルがあるとすれば、それはいったい何なのか。丸山真男はそれこそが重要だと言い、天動説的ではなく地動説的なものの見方をするべく、個々が意識的な努力をしないといけないと説いている。池上彰や斉藤孝のテレビ解説こそが、まさしく安倍政権の日本を中心とした自己本位な見方だろう。

c0315619_16385256.jpg例えば、日本と中国との間には1972年に結んだ日中共同声明がある。日本と中国との間の基本法と呼べるものだ。ここには、「日本側は、過去において日本国が戦争を通じて中国国民に重大な損害を与えたことについての責任を痛感し、深く反省する」と書かれている。どのようなときでも、日本人が中国について論じるとき、中国と関係を営むときは、この重い誓いが心構えの基礎となるべきで、日中友好の絆の自覚と自律を持つべきだろう。北朝鮮の問題を論じる際は、マスコミ論者は、胸のうちに、2002年の日朝平壌宣言の文言を思い措くべきであり、「日本側は、過去の植民地支配によって、朝鮮の人々に多大の損害と苦痛を与えたという歴史の事実を謙虚に受け止め、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明した」というコミットを反芻するべきだろう。そうした反省的な精神をもって、中国や北朝鮮についての時事評論に臨むことが、吉野源三郎の説いた地動説的なあり方であり、『君たちはどう生きるか』に即した態度であり、『君たちはどう生きるか』を一般に紹介する論者としてふさわしい行動だろう。池上彰や斉藤孝がやっていることは、安倍晋三の代弁であり、中国や北朝鮮を一方的に悪者にして固める単純化であり、右傾化し国際社会で孤立化する日本の自己正当化であり、国民を戦争へ導く危険なイデオロギーの散布である。そのような者たちが、どうして『君たちはどう生きるか』を推薦する役割を担う資格があるのだろう。

われわれには、中国や韓国・北朝鮮の人々とどう関係するべきか、東アジアの中でどう生きるべきかという問題があるはずだ。
日本人である自分自身の倫理的主体性の問題があり、日本人の一人としての責任の問題があるはずだ。その「どう生きるべきか」を無視して、責任をおざなりにして、中国や韓国・北朝鮮の現実と向き合うことはできない。そもそも、原作者である吉野源三郎とはどういう人物だったのか。朝日の12月2日の天声人語では、吉野源三郎がこの本を出す6年前に治安維持法違反で検挙され、軍法会議で訴追され、1年半投獄されていた過去の経歴に触れている。どのような出来事があったのか、古在由重が丸山真男との対談の中で証言しているので(座談第5巻)次回詳しく見てみよう。

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by yoniumuhibi | 2017-12-05 23:30 | Comments(2)
Commented by 長坂 at 2017-12-06 00:53 x
「君たちは」の醍醐味でもある丸山さんの回想、それを何年も前から定期的に取り上げ、丁寧な解説で蒙を啓いてくれたのが「世に倦む日日」。「君たちは」を読む事で古在さんの「一哲学徒の苦難の道」や三木清や戸坂潤を読む事に。今回の「君たち」ブームの立役者は絶対こちらのブログでしょう。「君たち」が刊行されたのが「1*9*3*7」の年、この時代背景も大事なはず。いくら漫画とは言え「池上さん」や糸井重里絶賛じゃもう全然違う本。「君たち」台無し。
Commented by T at 2017-12-06 23:48 x
100万部とはびっくりですが、小学生の時原作何回も読み返した自分には、今回の漫画化は正直、かなり物足りないものでした。
小説が原作で、映画化なりコミカライズする場合は、原作の設定を変えたり、登場人物にもかなり変更が加わってる場合が多いのはいたしかたないとして、
この漫画化本では、水谷くんのお姉さんの存在がすっかりカットされ、コペル君の友人たちの描写も、どうも中途半端に思えてしまいます。
いわゆる粉ミルクの秘密、つまり生産関係論がマルクスに結びつくとは、幼い自分には想像もできませんでしたが、やはり今漫画を読んだ若い人たちには、是非原作も手に取ってほしいです。





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