共産党を排除した山口二郎 - 「政治改革」とは何だったのか

c0315619_17100184.jpg11月17日の朝日新聞オピニオン面に「ロシア革命100年」と題した不破哲三のインタビューが載った。その中でこんなことを言っている。「80年に一部の野党が『共産党を除く』という原則を唐突に打ち立てました。(略)共産党排除という異様な政治体制が34年続きました。それ以前はマスコミでも、ひとつの政党として自然体で見られてきました」。この事実認識は具体的にどういう中身を指しているのだろうか。もし、「34年続きました」という指摘が現在も進行中であるという意味なら、「80年」は83年ということになり、「80年」ではなく「80年代」とするのが正確だったという説明になる。もし言葉どおりに「34年続きました」の起点が1980年であるなら、その共産党排除の政治体制は2014年で終了したという捉え方になる。2015年夏に安保法制の政治戦があり、それを契機に「野党共闘」の政治が始まる経過があるので、不破哲三はその文脈で時間軸を整理しているのかもしれない。80年に共産党を排除した「一部の野党」とはどの政党を指すのだろうか。社会党だろうか。確かなことは、この時期に自民党政権に対抗する野党の共闘態勢のあり方が変わり、社共の革新統一戦線が崩壊し、社公民路線にリプレイスされたということである。不破哲三はその事実を言っているように聞こえる。



c0315619_17101216.jpg日本社会党が熾烈な党内の路線闘争の末に、社共革新から社公民路線に切り換えたのがこの時期で、78年に京都府知事選、79年に東京都知事選と大阪府知事選があった。70年代後半はそうした政治的転換期で、革新勢力の分断解体が進み、共産党の孤立化が始まる時期である。社公民路線を牽引した動きとして挙げないといけないのは、東海大総長の松前重義が座長となった「新しい日本を考える会」であり、また、79年に松下幸之助が設立した松下政経塾(開校は80年)も、この時期の政治の流れを象徴する一事として見逃せない。その前、70年代前半の共産党はまさに破竹の勢いで、大都市が次々と革新自治体になり、民主連合政府も手の届くところにあるという空気感が漂っていた。活躍する文化人は革新系ばかりだった。松本清張が仲介した75年の創共協定はその到達点の一つである。が、70年代後半に入って局面が変わり、反共攻撃のカウンターが勢いを強め、共産党と革新勢力が潮が引くように後退してゆく。最初の一撃は76年の立花隆の文藝春秋論文だった。決定的だったのは78年の京都府知事選だった。80年代は一本道で、山岸章が剛腕をふるう「労働界の右翼的再編」が酷烈に遂行されてゆき、その下地が十分に整った後、すなわち80年代後半に山口二郎らによる「政治改革」の扇動が始まる展開になる。

c0315619_17102562.jpgその山口二郎が、2004年の日本政治学会で「戦後政治における左翼の役割と限界」と題した報告を行っていて、次のような主張をしている。紹介しよう。「戦後日本には社会党という革新政党があり、その存在によって政策に関する左右対立がある程度演じられた。しかし、1990年代における政党再編成の過程で社会党は解体し、一定の存在感を持つ左派政党は消滅した。現在の社会民主党は、護憲を掲げるシングル・イシュー政党であり、むしろ日本人に社会民主主義に対する誤解を生み出す元凶でしかない。また、西欧の政党政治における左右の対立との比較という観点から、政権の担い手としての現実的可能性を持たない共産党は、本報告における議論の対象からははずれることも、了解していただきたい」。共産党は無視していい論外の存在であり、語る価値のない政党だとして斬り捨てている。この山口二郎の基調報告での発言は、それを会場で聞いた田口富久治にも少なからずショッキングだったようで、2005年刊の『丸山眞男とマルクスのはざまで』の末尾で引用している(P.267)。2004年といえば、小選挙区制導入から10年ほど経った時期で、民主党が上り調子であり、山口二郎が我が世の春を謳歌していた頃だ。この時期、共産党は完全に排除されていて、民放のテレビ番組に出演した幹部たちが無条件に袋叩きに遭い、視聴者の前でテレビリンチを受けていた。

c0315619_17103879.jpg共産党がテレビリンチを受けても正当化される環境を作ったのが「政治改革」で、それを扇動したのが山口二郎に他ならない。労働界で山岸章が果たした役割をアカデミーで担ったのが山口二郎で、共産党や社民党の無意味を左から唱え、左翼を説得して民主党へ支持を誘導していた。「政治改革」の体制、すなわち小選挙区二大政党制のレジームでは、共産党は存在を認められないのであり、意義を否定され、政治の世界で生きる場を与えられていないのだ。山口二郎を旗振り人にして、左方面(岩波書店・朝日新聞)の言論が口を揃えてそう言うものだから、テレビは出演した共産党幹部に容赦する必要はなく、無遠慮に罵倒して侮辱しまくるだけでよかった。90年代後半から2000年代前半、田原総一朗、ビートたけし、福岡正行、舛添要一らが「公平中立」が原則のテレビでやっていた言論行為は、共産党に対する不当な迫害と差別そのものだったと言っていい。その傾向は今でも続いていて、共産党はデフォルトで異端に置かれ、国民の常識から逸脱した勢力だという演出でテレビ番組が進行している。このところの憲法9条論議でもそうで、自衛隊を憲法で認める立場が国民の標準で常識であるようなプロパガンダがお笑い芸人を使って撒かれ、その出汁に「異端の共産党」がマイナスシンボルとして使われている。そういう「政治常識」を四半世紀間刷り込んできた出発点は、1980年代末からの「政治改革」であった。

c0315619_17105097.jpgマスコミの政治論議でよく耳にするのは、安保・外交では対立することなく内政で自民党と違う政策の野党が必要、という意見である。希望の党や維新の正当性を言い挙げるときの論法だが、マスコミの言論空間ではこの意見と立場こそが中立だという操作がされ、ネットでも(しばき隊系の左翼を含めて)この主張を肯定する者が多い。安保・外交で自民党と対立しないという意味は、日米安保条約の普遍性を認め、護憲を否定する改憲派という意味に他ならない。世論調査で日米安保や自衛隊を積極的に容認する割合が圧倒的に多いため、言論の感覚として日米安保反対派や護憲派が異端のような扱いになってしまっている。が、その空気に靡く左翼たちは、沖縄で駐留米兵が人殺ししたり、辺野古の基地問題が報道の焦点になるときは、反射的に一瞬の間だけ日米安保反対派になる。日米安保が日本の主権を侵害していること、日米安保こそが日本を米国の属国の状態にし、日本人の不幸の根源であること。その基本的事実を直視せず、何やら使い分けのような自己欺瞞の態度を貫いている。「9条壊すな」と言いながら、これまで護憲派を口汚く罵ってきた山口二郎に拍手を送っている。日米安保反対派や護憲派を叩いて愚弄してきたのは右翼だけではないのだ。この20年間、山口二郎がどれほど護憲派への軽蔑を言い、社会党(社民党)の9条護守の政策姿勢を憎悪してきたことか、山口二郎の書いたものをサーベイして検証してみたい。

日本の左翼は今でも「政治改革」の欺瞞と自己欺瞞の上にあり、マインドコントロールから解放されていない。東京新聞の佐藤圭が「新9条」のキャンペーンをする倒錯も、そのイデオロギー的根源は「政治改革」にあり、山口二郎の四半世紀間の洗脳の効果によるものだ。

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by yoniumuhibi | 2017-11-20 23:30 | Comments(4)
Commented by 宮澤喜一や河野洋平の頃は本当に良かった at 2017-11-20 21:26 x
ここまで来たら、暴力を行わない、行わせないことが改憲の道から踏みとどまる唯一の選択肢
Commented by 目黒駅は品川区 at 2017-11-21 14:09 x
1983年っていうのは、あの浅田彰の『構造と力』が出て、デビット・ボウイが今時こんなダサいロックやってたんじゃ駄目だ。これからはやっぱブラックミュージックだぜと『レッツダンス』出した年でしょう。日本の思想的には、連合赤軍事件からちょうど一巡して、マルクス主義&新左翼批判本がだいたい出そろって、次のステージのポストモダンに移行するちょうど境目。ともかく、山口さんとかあの辺の意識高い系の文化人は、その辺かじって、共産党はダサい、左翼は臭いと言ってないと、どんどん仕事干されるって状況があって、みんな一斉転向したんですよ。終戦後、天皇陛下万歳といってた文化人が戦後民主主義万歳に変わったようにね。
Commented at 2017-11-21 21:25 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by 愛知 at 2017-11-21 22:33 x
記事で引用された山口二郎の「鵺」小論文、全文読ませて頂きました。この小論文が発表されたのは2004年10月2日。森永卓郎の『年収300万円時代を生き抜く経済学』が上梓されたのが2003年2月25日。現実はどちらに哀しい軍配をあげたのか。
2017年9月17日の産経が、ちびちりがま破壊行為にたいする山口二郎のコメントとして「沖縄へのデマとヘイトがこのような犯罪に養分を与えているのです」という山口二郎のコメントを掲載。日米安保を平然とヘイトクライムだと収斂させようと企む山口二郎は・・・やっぱり「鵺」という言葉しか思い浮かびません。いつもながら正鵠を射た貴下ブログに感謝いたします。今まで見えていなかったことが、手に取るように見えてまいります。


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