ロシア革命から100年 - 資本主義が続くかぎり社会主義も生き続ける

c0315619_17173669.jpg丸山真男は今から60年前、論文『「スターリン批判」における政治の論理』の中でこう言っている。「フランス革命についても、歴史学的な解釈こそ今日でっも盛んに行われているが、そうした学問的論争が直接に政治的意義を帯びた時代はとっくに過ぎ去った。フランス革命とそれにつづく干渉戦争の過程で冒された数多くの愚行や残虐をどんなに力をこめて弾劾する人々も、人権宣言の諸原則が今日文明世界の公理として通用していることを承認する(略)。ところが、ロシア革命とその諸々の連鎖反応については、残念ながら今日の世界はまだその与えた心理的ショックから回復するだけの時間的距離をもっていないようである。それは革命後四〇年というような自然的時間についていうのではない。(略)むしろ問題はロシア革命が投げかけた挑戦に対して、今日の世界が - ソヴェート同盟を中心とする社会主義世界を含めて - いまだに十分な決着を与えていないこと、従ってそこに含まれた諸々の争点が今日なお生々しい現実性を帯びてわれわれの全存在を揺るがしていることから来ている。(略)ラスキのいうロシア革命の『莫大な成果』と『莫大な代償』はいまだにひとびとの心の中に適当な平衡点を見出しえず、利害と立場と局面の衝撃とに応じて、あるいはプラス面が心理的に自乗され、あるいはマイナス面が大映しにされる」。(『現代政治の思想と行動』 旧版 P.306-307)



c0315619_17200791.jpg上はロシア革命から40年後の時期に書かれた記述で、そこから60年の長い時間が経っているけれど、この指摘は未だにリアルであり、同感させられる認識だ。ロシア革命は未だ過去の問題になっていない。ソ連が崩壊してすでに26年が経つけれど、21世紀に生きる現代人においても、この価値観をめぐる問題は生々しい争点として生きていて、フランス革命のように安定した - 脱イデオロギー化した - 地平に到達・着地していない。ネットを見れば、大量の反共右翼が朝から晩まで張り付いて社会主義・共産主義を貶す呪詛の言葉を吐き続けている。反共思想の散布と徹底に余念がなく、大規模で網羅的な歴史修正の営みと洗脳工作が続けられている。マスコミでも同じで、櫻井よしこがレギュラーとしてプライムニュースに登場して説教を続けている。日本人として日常生活を送るということは、毎日のように反共主義の説法を耳にタコにしながら寝起きするということだ。世界中で、これほど猛毒の反共主義に漬け込まれ、それを常識的感性として当然視している国民というのも珍しいのではあるまいか。長い間、ソ連共産党の支配を受けて隷属と屈従に耐えてきた旧東欧の人々ならいざ知らず、ずっと自由世界に生きてきた日本人がどうしてそこまでと不思議な気分になる。

c0315619_17202104.jpgなぜロシア革命は過去のものにならないのだろうか。答えは簡単で、それが社会主義革命だからである。社会主義の思想は古くならない。昨年、米国大統領選ではサンダースが出現して旋風を起こしたが、彼が掲げた言葉の中に「社会主義」と「革命」の二つがあったことは記憶に新しい。鮮烈な出来事であり、レオ・ヒューバマン以来のアメリカ社会主義が脈々と生きている事実を知らされた瞬間だった。なぜ社会主義の思想は古くならないのか。それは、われわれの現実が資本主義だからであり、絶えず発生し拡大する資本主義の矛盾の中に生きているからだ。社会主義とは、資本主義に抵抗したり挑戦したり、あるいは修正したり改造したり転覆しようする思想と運動のことで、資本主義が生き続けるかぎり表裏一体の関係で社会主義は生き続ける。人類が資本主義の生き方を続けるかぎり、人はその矛盾に直面し、不満と苦痛と懊悩を背負い込まされるのであり、それを批判し克服しようとする意識が必ず芽生え、救済と新しい社会変革を求める思惟と構想に発展するのである。それは止められない。社会主義とは資本主義のアンチテーゼであり、資本主義の矛盾を否定した理想として、イデアとして資本主義の実在と常に同居するもので、そうした想念や模索は社会主義としか呼びようがない。だから結論としては、資本主義が地上に存在し続けるかぎり社会主義は不滅なのだ。

c0315619_17333281.jpgこの命題については、一つのプリミティブな真理として多くの人に認めてもらえるし、コロンブスの卵の社会主義論として肯いてもらえるだろう。そこから次の命題が導かれる。これも基本的な問題だが、理念と実態とは違うということであり、社会主義には理念と実態の二つがあるということである。言葉は同じだが、二つは別のもので、理想の王国、地上の楽園をめざした営みのはずが地獄を結果させてしまい、殺戮と流血の惨禍を招いてしまったということは人間の歴史の中で屡々ある。キリスト教の血で血を洗う歴史もそうだろう。理想が高ければ高いほど、社会形成の実験におけるイデオロギーの純度と濃度が高いほど、そうした悲惨な結末に陥りやすい。まさかマルクスも、スターリンのソ連の現実を見て、これが自分のめざした革命なり共産主義だとは思わなかったに違いないが、マルクスの燃えるような理想主義と人間主義と科学主義は、スターリンのグロテスクな恐怖独裁と暴力支配と欺瞞的マインドコントロールにいとも簡単に転化して20世紀の歴史を作った。イデオロギーには権力の契機が重なり、権力には暴力が重なり、政治は大衆を動かすものだから、スターリン的な逆転と倒錯は人間の政治にはつきもので、古今東西それは変わらず、今の日本にも同じ生理現象が看取される。しばき隊がそうだ。現実態としての社会主義の研究は積み重ねられてきたけれど、理念と現実とは異なるという初歩の知恵が定着しないのは残念なことだ。

c0315619_17342657.jpg共産主義不可能論というのは、アレントのマルクス批判を読んでも納得できるし、その問題については、欧州近代ロマン主義に生きた若いマルクスの情熱が、人間の普遍性と万能性にコミットし、不可能な理想を可能だと確信させて思想体系(近代の宗教)を打ち立てたと私は解釈している。また、ヘーゲルの国家を党に置き換えてその万能性と無謬性を政治思想の論理に組み込んだのがマルクスの誤りだったとするエンデの批判も急所を衝いている。説得的だ。だが、実験が失敗に終わり、マルクスの思想に問題があったからと言って、社会主義の理念や思考が地上から消えることはない。そして、そこに思考材料と理論環境を与えるのは常にマルクスだ。マルクスは、最初の革命は最も資本主義が発達した英国で起きるだろうと予言した。だが、現実にはそうはならず、20世紀の社会主義革命は資本主義が未発達の後進国で起こり、後進国が先進国に生産力的に追いつき追い越すモデルとして、いわば開発独裁として現実化し、レーニン・スターリン的な社会形成と党運営がバリエーションとして実践されることになる。レーニン的な革命が社会主義革命の唯一の形態となった。今、その革命に価値と意味を見出すことは、現実政治の問題としては全くできない。しかし、最初の革命が英国で起きるとして恐慌論を論じたマルクスの予言は、今の米国経済と金融市場を考えたとき、やはり説得力をもって響く感覚を禁じ得ない。資本主義はすっかりケインズを離れてマルクスの当時に戻った。

c0315619_17345625.jpg今の資本主義は、エンゲルスが「イギリスにおける労働者階級の状態」を書いた頃の古典的で野蛮な姿に戻っている。そんな中で、今の日本を見て感じることは、驚くほど資本主義批判の意識が一般に低いことである。米国よりもずっと低く、欧州や韓国とは比べものにならない。世界中で最もトランプを歓迎しているのが日本なのは世界の奇観だろうが、世界的にも特筆されるべき現在の日本の異常な右傾化には理由があり、資本主義への批判意識が全くないことと明らかに繋がっている。教育がされてないのだ。70年代までの日本のアカデミーは、世界のどの国よりもマルクスを読み、マルクスを研究し、マルクスを学生に教える国だったのに、今では最もマルクスから疎遠な国になった。マルクスを嫌悪し、マルクスを侮蔑する国になった。だから、日本の若者たちは今の現実を資本主義のメカニズムとして捉えることができない。格差と貧困を資本主義の矛盾として了解できない。資本主義という言葉を知らず、資本主義という言葉を使えない。言葉を使えないから批判などできるはずがないのだ。現世の合理的改造(ウェーバー)をめざすなら、眼前の現実を資本主義として、資本主義の体制と構造として批判的に認識、把握、理解するしかなく、マルクスが提供した諸概念を基礎から学び直すしかない。日本のアカデミーは脱構築を否定してマルクスに即くべきだ。学生にマルクスを教えよ。20世紀の人々の社会主義の試行錯誤を正しく内在的に伝えよ。知識と思考能力を身につけさせよ。せめて資本主義についての一般認識と言語感覚が米国の市民と同レベルになるまで。


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by yoniumuhibi | 2017-11-10 23:30 | Comments(5)
Commented at 2017-11-10 21:25 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by 長坂 at 2017-11-11 00:09 x
見事なブログ、何度も読み返しました。素晴らしいです。これを読めて本当に幸せ!
Commented by 七平 at 2017-11-11 02:31 x
専門的な研究や読書をした事はありませんが、私は共産主義は人間が競争的な動物であるという事実を無視し、人間が動物的な欲を超越できるとの仮定の上に築かれた机上の論であると考えています。もし、遠い未来に人間が聖人に近づき純粋な共産主義社会、国家が実現するとすればその構成要因、国民一人一人が、物欲、金欲を捨てて、周りの人たちと比較して相対的により豊かになろうとの意識、欲、競争心を捨てる必要があると思います。そのような国民意識が定着するまでには途方もない教育と時間がかかりますし、不可能かもしれません。仕方なく、理想論者がTop-Down で共産主義を押し付けてしまうと、旧ソ連や北朝鮮のような独裁体制に移行し、世代が変わると独裁体制が作った既得権層が既得権にしがみついて社会を硬直化させ荒廃につながって行きます。 

資本主義が普遍的に優越したシステムだとは思いませんが、人間が競争的な動物である以上、現実にマッチしていると考えます。トランプや安倍晋三が代表する、醜い資本主義が社会格差を広げ、弱者を突き落とし殺伐とした社会を作っていきますが、反面、情報革命のお陰で透明になりつつある世界では、資本主義の欠点もより幅広く暴露、討議されていくと思います。少なくとも ”1円一票” ではなく、”一人一票” ですので徐々に修正され、北欧諸国で実現している社会主義的な方向に向かうと、希望も含め、考えています。 

現日本での最大の問題は、報道の自由が阻害され国民に流される情報が政府に寄ってマスコミを通じ、隠蔽、偏向されているところにあると思います。日本のマスコミと司法府は政府の思い通りに操作されています。 もし日本人の多くが香港、シンガポール人並みに英語を使いこなせたら、政府に騙される事は随分減ると思います。人質事件の真相にしても、北朝鮮からのミサイルが飛んだ高度、危険性にしても、国民は政府に騙され踊らされる事は無かったでしょう。


Commented by NY金魚 at 2017-11-11 12:16 x
 宮崎駿の次の新作になる、吉野源三郎『君たちはどう生きるか』を読みなおして、岩波版の丸山真男の『回想』に感激していたところです。盧溝橋事件、日中戦争のはじまりとともに出版されたその児童文学書が、すでに少年コペル君に教える『おじさん』の年ごろになっていた丸山先生を奮起させました。
 丸山真男:コペル君が自分で考えた「人間分子の関係、網目の法則」をおじさんに報告する。これはまさしく「資本論入門」ではないか。そして、なんと今年2017年は、資本論が書かれて150年、ロシア革命100年記念の年だそうです。
昨年、それまでのオキュパイの仲間たちと、はじめてサンダースのラリーに参加したとき、これはどこかで現在進行形のロシア革命ではないかと興奮させました。
 世界中がカネの亡者に徹している現代について、いまの宮崎駿は「あらゆるものが過去になったんですよ。自分たちの時代が本当に終わっていくんだなっていう感じがするね」と、諦観の言葉しか語っていません。しかし3-4年のあとになる新作で、大きな革命への旋回を狙っている『日本のサンダース』のような気がしてきました。
 われわれの夢、いまの資本主義地獄を大きく変革できる発想は、ソ連が崩壊して四半世紀のあとも、その1世紀前のロシア革命のイメージを繋いでいくことでしかないと確信しています。
Commented by takahashi at 2017-11-13 16:01 x
いつも拝見していますが、今回は特に驚き感激もしたので、コメントを申し述べることにしました。
「社会主義とは、資本主義に抵抗したり挑戦したり、あるいは修正したり改造したり転覆しようする思想と運動のことで、資本主義が生き続けるかぎり表裏一体の関係で社会主義は生き続ける。」
この思想は、もちろん丸山真男を踏まえてのことかとは思いますが、世に倦む氏オリジナルのテーゼでしょうか。ものをしらぬ身とは言え、今まで見聞きしたこともありませんでした。話は全く別の文脈ですが、H・ベルクソンという哲学者は、観念論と唯物論とをどちらも批判して心身二元論の立場を選ぶのですが、その二元論は時間論としても展開されており、現在と過去の同時性というテーゼを持っています。現在が古くなって過去になるのでない。現在(身体・物質)と過去(精神・観念)とは同時に存在している。それが新しい(非デカルト的な)心身二元論なのだ、ということです。
政治の話を哲学でお茶を濁すつもりはありませんが、資本主義と社会主義とを時間的な前後関係(進化発展)や排他的に捉えているかぎり見出だすことのできない、社会主義の必要性を御ブログ記事で直接に読んで、衝撃を受けました。ありがとうございました。


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