立憲民主党を宏池会に喩える言説の盲点 - 「政治改革」の検証と総括を

c0315619_11340882.jpg衆院選の結果が出た後、立憲民主党を宏池会の表象に擬えて積極的に意味づけ言説が流行している。29日のTBSの番組で田中秀征が言っていたが、24日のプライムニュースで山口二郎もこの説を唱えて立憲民主党の意義を強調していた。山口二郎によれば、現在の自民党と立憲民主党の二つの対峙は、嘗ての自民党の清和会と宏池会・経世会の二つの間の対立として構図化できるもので、嘗ては派閥間対立であった保守派とリベラル派の対立が、外に出て政党間対立となったものだと了解すればよいとと言う。この比喩は床屋政談的な俗論の体裁をとっているが、図式として単純で分かりやすく、立憲民主党を支持する者は飛びついてしまいがちな説法である。山口二郎はこうした言説を操って、再び二大政党制を正当化する世論を再生しようと工作を試みている。昨年の田中角栄のブームとノスタルジーもそうだが、極右の安倍一強時代が続く中で、マイルドな保守であった宏池会・経世会への評価が高まる傾向が著しい。けれども、山口二郎の指摘には盲点と錯覚があることにお気づきだろうか。重要な問題が捨象されている。それは、70年代の日本には自民党の外側に社共勢力が対抗していた実態だ。自民党の二大派閥だけで政治をやっていたわけではない。



c0315619_11342149.jpg宏池会・経世会が相対的にリベラルで、外交安保が米国一辺倒ではなく、社会保障政策に熱心だったのはなぜなのか。その左側に革新勢力(社会主義勢力)が睨みを利かせていたからであり、保守の自民党は常に選挙で革新勢力と競争を強いられたからだ。今日のネオリベ的視点からは「バラ撒き」と酷評され中傷される田中角栄の社会保障整備は、野党であった革新側の政策主張を取り込んだ結果であり、そうした分配の充実によって自民党は国民の支持を手放すことなく長期政権を維持できたのである。石橋湛山以来の、宇都宮徳馬や鯨岡兵輔などに代表される左派的方向性は自民党の中に内在した潮流だったとはいえ、外側に大きく社会党と共産党の勢力があり、国会論戦で厳しい監視と批判を受けていて、場合によっては選挙で政権交代する可能性もあった点を看過してはいけない。その現実が自民党の視線を常に国民の方向に向けさせ、憲法をリスペクトする配慮と自重に繋がっていたことは否定できない。迂闊なことはできず、社会政策の公約は国民の暮らしを向上させ弱者に手厚くする方向になった。自民党の外側に社会党・共産党の岩盤が存在し、自民党の脅威となっていた事実を再認識する必要がある。山口二郎の言説は、清和会と宏池会の二つだけがあり、二つの派閥の政権交代だけで政治が巧く運んでいたような認識へとミスリードさせる。

c0315619_11343328.jpg端的に言えば、70年代の日本の政治で民主主義がよく機能していたのは、社会党・共産党の野党が自民党をよく監視し拘束していたからで、政府与党が立案する政策や法制度の方向性を、国民の求める地平にアラインさせ得ていたからである。その政治を体制的に保障する選挙制度(中選挙区制)があったからに他ならない。選挙が終わって、マスコミやネットでは小選挙区制批判の論議が花盛りとなっている。安倍晋三に選挙で完敗したリベラルの側で、小選挙区制を見直すべきだという声が支配的となった。にもかかわらず、その制度の導入を扇動した元凶である山口二郎に対しては、直接に名指しした批判は行われておらず、左翼は相変わらず山口二郎を「野党共闘」の指導者のように持ち上げたままだ。読者も知るとおり、当ブログは山口二郎の「政治改革」への批判をテーマの一つとして一貫させていて、開設から13年間ずっとその主張を続けている。岩波と朝日が「政治改革」の策動に与し、左側を切り崩す侫悪な調略をしなければ、小選挙区制がこの国に導入されることはなかった。左側の切り崩し工作の先頭で旗を振ったのが山口二郎である。われわれ市民は一度も小選挙区制を導入してくれと頼んだ覚えはないし、それを請願してデモをした事実はない。その動きは、マスコミとアカデミーによって左右から仕掛けられ、反対派は異端化され孤立した。

c0315619_11344682.jpgようやく否定的認識が定着したが、ここまで来るのに25年もかかった。四半世紀の時間は取り返しがつかない。今の日本の若い世代は、民主主義政治というものの経験がない。生まれたときから民主主義の政治から疎外されていて、これが当然だという感覚を持ってしまっている。中選挙区制の頃、政治は地べたに生きる一人一人の手の届く距離感にあった。死票は少なく、投票率はずっと高く、落選運動は容易だった。マスコミは選挙戦を動かす主導権を握っておらず、今のように選挙に口喧しく介入することなく中立で控えていた。選挙は地域の現場で戦われており、関心は地域社会の生産と生活の利害と密着していた。右翼らしい右翼は表の政治世界に生息せず、マイルドな保守と革新との間で火花が散る論戦が行われていて、憲法改正が選挙の争点になるなど想像もできないことだった。中産階級の経済的自力があり、戦後教育の達成によるところの知的水準を備えた国民の主体性があり、今よりはるかに健全な民主主義の中で一票が投じられていた。小選挙区制になって以降、突然、掲示板に自民党と民主党(民進党)の二人のポスターが貼られ、どちらかに入れろと上から強制される。イヤなら案山子の共産党の死票で我慢しろとなる。比例票だけが生きた票となり、参政権は半分の価値に落とされた。マスコミだけが主役で浮かれて騒いでいる。

c0315619_11350120.jpg今回、「野党共闘」戦略が破綻して共産党が大敗したことで、共産党イデオローグの中野晃一が、まるで八つ当たりするように小選挙区制への恨みつらみを言っている。見苦しい愚痴だ。共産党が勢力後退した要因を小選挙区制という制度の所為にして叩きつつ、一方で、市民連合のお仲間で「政治改革」の主唱者である山口二郎に対しては一言も文句を言おうとしない。もしも本当に小選挙区制を変えようとするのなら、25年前の「政治改革」そのものに対して検証と批判を加えなければならないはずだ。今頃、選挙制度に対して共産党が泣き言を言って何になるのだろう。小選挙区制を中選挙区制に戻すためには、中選挙区制に戻そうとする勢力が小選挙区制下で圧勝し、国民の民意を得て国会に新法案を提出する必要があろう。今のような永田町の状態で、現在の選挙制度を変革できるはずがないのではないか。われわれが考えなくてはならないのは、どうすれば自民党に選挙で勝つことができるのかである。国民は政治を変えたがっているし、安倍晋三の一強支配に満足していない。そのことは、7月の都議選を見てもよく分かる。都議選は51%の投票率だった。今回の総選挙は53%。参院選の投票率は56%だった。民進党だの共産党だの、「野党共闘」だの、自民党系の誰かが新党を作っての政界再編だの、そのような形の自民党への挑戦では、どれほどマスコミが盛り上げても投票率は56%にしかならぬ。

c0315619_11351315.jpg2009年の衆院選の投票率は69%だった。本当に有権者が参加して政治を変える選挙というのは、それくらいの投票率になるものだ。有権者は1億人いる。今、投票しているのは5600万人で、4400万人が棄権して寝てしまっている。8年前の選挙では一票を投じながら、今は投票所に足を運ばなくなった有権者が1300万人もいる。どこに投票しても政治が変わる可能性がなく、期待ができず、マスコミが囃すだけの権力ゲームのショーだから、この1300万人は選挙に意欲がわかないのだ。昨年の参院選は各地で「野党共闘」が実現したが、例えば三重選挙区を見ると、投票率は59%で他と変わらない。「野党共闘」が共産党主導の野合であり、下駄票欲しさに民進党が共産党にすり寄るポーズをしているだけの打算の政治(=権力ゲーム)にすぎないという真実を有権者は察知していて、「野党共闘」のメッセージが有権者の心に届いてない真相が窺われる。永田町の既成政党による合従連衡とか、見飽きた顔による政界再編の動きでは、とても投票率を65%以上に持って行くことはできず、自民党を倒すムーブメントを作ることはできない。救世主となる新しいリーダーの出現と、国民の心に届く力強い言葉と、リーダーの下に纏まる清新で有能な軍団の姿だけが、本格的な期待の渦を作り、選挙から離れていた有権者を投票所に呼び戻すことができるのだろう。それは、永田町の外からのリベラル新党の姿でなくてはならない。

実際にはリベラルを支持する国民は多くいる。潜在的にはとても多い。だが、米国のサンダースのようにリベラルを可視化する勢力がない。既成野党や既存政治家ではだめなのだ。それは、党利党略や数合わせや野心家の権力ゲームにしかならない。有権者はその動機を見抜いてシラけて寝てしまう。新しい器でチャレンジをしないといけない。



c0315619_11352892.jpg

[PR]
by yoniumuhibi | 2017-10-30 23:30 | Comments(3)
Commented by Runner at 2017-10-31 00:14 x
おそらく、山口二郎らは二大政党による政権交代のある国では小選挙区制が導入されてるのを見て、「小選挙区制を導入すれば政権交代の起きる二大政党制になる」と勘違いしたのでしょう。
しかし、正確には「既に二大政党が確立してる国で小選挙区制を導入したら政権交代が起きやすい」に過ぎないということですよ。
日本のように、元々、一党支配の国で小選挙区制を導入したら、益々、一党支配が強くなったという恥ずかしい結末になりました。

しかし、こういう間違いは山口二郎に限らず、また、この件に限らず、たとえば、その典型が消費税の導入で、北欧の福祉国家では消費税を導入しているからといって「消費税を導入すれば福祉国家になる」というのも勘違いだったわけです。
こちらは実際には「福祉が充実している国では国民が将来の不安を感じないからよく消費する。そんな国では消費税が機能する」というのが正解で、日本のように政府の社会保障政策を信じておらず将来に備えて貯蓄する習慣のある国で消費税を導入したら消費不況になってGDPも下がり税収も落ち込み財政難にもなったということでしょう。

どうしてこうも日本の政治学者はダメなのか?と彼らに聞いてみたいところですが、たぶん、日本の学風にも関係があるのでしょう。
Commented by Skipper at 2017-10-31 09:59 x
おはようございます
自民の派閥政治には社会党や共産党が寄与したというのはその通りだと思います
しかしながら、国対政治について言及が無いのもまた、いささか乱暴であろうと思います

55年体制下では、明らかにそれが行われていました
そして問題は果たしてそれが今、機能するかという事です

というのも、いま世界はアメリカの剥き出しの欲望に曝されています
冷戦中の日本は西側の優等生を演じることが役目のひとつでありました
アジアを侵略、アメリカにケンカを売った国が、(これは嘘なのですが)西側としてアメリカの庇護のもと豊かな社会を築いている
これを世界に喧伝する必要をアメリカは感じていた
だから55年体制が機能していたのじゃないかと
ところが冷戦が替わり、バブルに乗じて必要のない恨みもかった

とすると今現在アメリカに必要なのは小泉や竹中平蔵という事になります
小選挙区制は小泉純一郎を誕生させやすいのは確かです

ところがご指摘の通り、小選挙区制にあれほど激しい怒りをぶつける癖に誰も本気で変えようとはせんのです
このことは考察する必要があるかと
Commented by 私は黙らない at 2017-11-01 05:07 x
「共産党はなぜ後退したのか」と絡めてのコメントです。
今、問題なのは、日本に労働者の声を代弁する政党がないことだと思います。「リベラル」という概念は、保守に対峙する概念であって、より自由な心のありようを追求するものではないかと思います。そういう意味において、労働者の声を代弁する=リベラルと言ってよいか疑問です。左=リベラルではないのではないかと思います。
民主主義が機能するために、共産党や社会党といった健全な左の存在が必須だったとのご見解、本当にその通りだと思います。共産党の存在意義は、それに尽きると思います。左から、睨みを利かせる。
根本的な疑問ですが、日本共産党は、今でも共産主義国家の建設を党是としているのでしょうか。不勉強ですみません。私は、昔からどうして、共産党は党名を変えないのだろうと不思議な気がしてなりません。志位さんのなされていることは、もはや共産主義者なのかと思えるからです。しかしながら国会の答弁を聞いていても、労働者の代弁者として、共産党はポテンシャルがあるのではないかと思います。ブログ主さんが以前から指摘されているしばき隊の件、暴力装置とは手を切り、党名を変更して、生まれ変わったらどうかと思います。暴論ですみません。
アメリカも二大政党がいずれもエリートのための政治集団となり、ミドルクラスが痩せほそり、上にのぼれなければ貧困層に落ちるだけという状況です。バーニーが党がらみの不正で候補になれなかったのは、この国にとって大変な損失でした。日本にもバーニーのような異端児が現れないものかと思います。


カウンターとメール

最新のコメント

小林よしのりの方が正しい..
by 長坂 at 12:05
北朝鮮問題における日米韓..
by 愛知 at 02:07
ICANの平和賞受賞、大..
by 私は黙らない at 05:22
いつも読んでいますが、こ..
by 會澤 at 00:32
<皇籍離脱して自由な民間..
by ロシナンテ at 23:43
「Flint_Lock」..
by ロシナンテ at 22:27
エキサイトブログで禁止さ..
by 七平 at 02:43
やはり日本人の『いったん..
by キヌケン at 04:24
私の叔父は中国で戦死、父..
by 長坂 at 01:59
はじめまして。毎日読ませ..
by memory at 21:23

Twitter

以前の記事

2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月

記事ランキング