「絶対的権力は絶対的に腐敗する」 - 「一国の政治は国民を映し出す鏡」

c0315619_13470783.jpg2週間前の5月29日に、アクトン卿の「絶対的権力は絶対的に腐敗する」という言葉を思い出してツイッターに書き込んだ。例のレイプ事件の被害者が顔を出して告発に出たニュースを知り、会見の言葉と表情を見たとき、不意にこの言葉が頭に思い浮かんだ。事件を揉み消したのは、直接には当時警視庁刑事部長だった中村格であり、中村格に指示を出したのは内調トップの北村滋と官房長官の菅義偉である。今、どうしてこの言葉が咄嗟に思い浮かんだのか考えている。カメラの前に登場した被害者女性の渾身の勇気が、そして権力に対する不屈の意思が、何か閃光がひらめくような感覚で受け止められ、精神の純白さと力強さに圧倒された。そして、その対極にあるところの、加害者権力側の腐って汚臭を放つ真っ黒なものがコントラストとして意識され、思考と記憶の回路から何かがインスパイアされて、観想と表現がこの政治学の古典の言葉に行き着いた。真っ黒なものがどれほど底なしに真っ黒か、腐ったものがどれほど救いようもなく腐り果てているかは、その反対にある、純白で清冽なものを対置することによって初めて覚知することができる。ここまで絶対的に腐敗しているのだということを、あらためて痛感させられ、徹底的に確信させられ、アクトン卿の言葉が循環して神経が興奮する状態が続いた。



c0315619_13471844.jpgそれから3日後の6月1日、自民党の中曽根弘文が派閥の会合で、このアクトン卿の言葉を引用、現政権に対して軽く鞘当てする趣旨の挨拶を行ったという記事が朝日に出た。まさか、中曽根弘文が私のツイッターを見ているなどということはあり得ない。誰しも考えるところは同じなのだろう。中曽根弘文は前川喜平の縁戚 - 中曽根弘文の長男の妻が前川喜平の妹 - であり、援護射撃の意味で一言垂れたようだが、朝日が書いたことでTWの世界でこの言葉が広まって話題になった。おや、と思ったのは、中曽根弘文が、ジョン・アクトンと言わずアクトン卿と言っていたことである。例えば、この言葉をGoogleでそのまま検索をかけると、アクトン卿ではなくジョン・アクトンという名前で参照情報が出る。現在、この警句を中学や高校の社会科で教えている教師が、大学の政治学で教えている教官が、どちらの名前で紹介しているかは興味深いところだが、若い世代ならジョン・アクトンの方ではないかと想像される。アクトン卿の言葉だとして案内している場合は、その教養は、おそらく丸山真男の『現代政治の思想と行動』に由来するものだろう。未来社の旧版のP.444の「政治権力の諸問題」の論文の最後の段落に結語として書かれている。せっかくなので引用しよう。

c0315619_13473102.jpg「『あらゆる権力は腐敗の傾向をもつ。絶対的権力は絶対的に腐敗する』とは有名はアクトン卿の言葉である。(略)アクトン卿の言葉にはリベラリズムの歴史的要請にとどまらない真理がふくまれている。権力の実態を見きわめるにはいつの世にも、裸の王様を裸と認識する澄んだ眼と静かな勇気を必要とする。そうしてそれは「政治的なるもの」からの逃走によっても、また逆にそれへの即自的な密着によっても生まれないのである」(未来社旧版 P.444-445)。講義でこの一説が説明されたとき、どうしてアクトン卿だけが卿が付いて呼ばれるのか不思議に思った学生の一人だったが、大学の講義や丸山真男の教科書に接する前に常識の範疇として知っていたこの格言の主の名前を初めて知り、卿が付く特別な名前だったため印象に残って、そのまま覚えて知識の引き出しに格納するところとなった。ところで、アクトン卿のこの言葉と並んで、政治学の古典的な格言として同じ引き出しに入っているもう一つの言葉がある。それは、ウェーバーの「一国の政治は、所詮、その国の民度以上に出るものではない」という言葉だ。この金言も、丸山真男の教科書の中で紹介されていた記憶があるが、全585ページ中のどこだったかを探り当てることができない。実は、ウェーバーのこの言葉には類似する元ネタがある。

c0315619_13474526.jpgそれは、サミュエル・スマイルズが『自助論』の中で述べた「一国の政治は国民を映し出す鏡でしかない」という言葉である。同じ意味だ。最近、この言葉について考えることが多い。一昨日(6月11日)のサンデーモーニングの「風をよむ」で、安倍内閣の支持率がどうして高いかという問題を特集していた。「風をよむ」の問題提起はいつもは的を射た分かりやすいものが多いが、今回は荻上チキを起用したことが失敗して、意味不明で中身のない混乱した議論になっていた。一応の結論として番組側が出していた仮説は、(1)若者がアベノミクスと安定政権を評価していること、(2)他に代わるものがなく野党に期待が持てないから、で、この二点をポイントとして整理して出演者がコメントを並べる進行になっていた。ほとんど雑談に近く、ピントが外れた老人の無駄話で、本質的な問題に注意が向けられてない。肝心な問題は何かというと、国民の政治意識の右傾化と国民の劣化である。右傾化と劣化。安倍晋三の支持率の高さの秘密は何か、高支持率を媒介している要因は何かを考察するとき、キーワードは右傾化と劣化だろうし、この二つを捨象した議論はナンセンスだと言わざるを得ない。右傾化については、もうくどくど言う必要はないと思うが、日本の政治家の中で極右中の極右が安倍晋三である。それを国民の50%が支持している。

c0315619_15133980.jpg右傾化も劣化も、私から見れば同じメダルの裏と表であり、知識がないから、認識と思考をする基礎的能力がないから、マンガしか読まずテレビしか見てないから、右傾化してしまう。最近の若者は、新聞どころかテレビの報道すら見ず、スマホでちょろちょろとニュースを流し見して、自分の関心のある情報だけチェックしているのだと言う。狭い空間で生息している。ネットで時事を追いかけるとどういう情報環境になるかというと、TWの場合は検索語のタイムラインで、ヤフーニュースの場合はヤフコメで、膨大な右翼の金魚のフンが集積滞留して視界を埋める事態になる。だから、マスコミを遮断して情報収集をネットに依拠した若者は、夥しい右翼のプロパガンダとアジテーションのフローに頭を漬け込む結果にしかならない。右傾化は劣化と重なり合い、そして隣り合ったところの人間の知性の問題だ。安倍政治は日本の国民を映し出した鏡であり、国民の民度を反映したものである。その客観的現実について、サンデーモーニングのスタッフはどこまで意識しているのだろう。あるいは、反安倍を唱えてネットと左系マスコミと国会前で政治運動を扇動している著名人たちは、どこまで劣化と右傾化について自分の問題として真剣に捉えているのだろう。自分自身が劣化と右傾化の例外ではなく、日本の政治を劣化させ右傾化させてきた責任の一部を負っているという、そういう自覚がどこまであるのだろう。

安倍晋三と右翼をバカにして罵倒するだけでは済まない問題なのだ。


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by yoniumuhibi | 2017-06-13 23:30 | Comments(1)
Commented by 七平 at 2017-06-15 03:07 x
富と権力は遅かれ早かれ人間を必ず腐敗させる点に付いては全く異論はありませんが、”一国の政治は国民を映し出す鏡” と言い切ってしまうには、一般日本人には少し残酷だと思います。なぜならば、日本人の多くは時事の出来事がマスコミにより隠蔽、湾曲、強いては誤報によって洗脳されている事すら認知していないからです。日本人の甘さ、曖昧さは確かに、鏡に映ってしまうのですが、日本に居る私の親戚を見渡しても、高校までの学友、社会に出てから交流のあった日本人を思い起こしても、”嘘を平気で言う” 様な人々は100人中一人か二人でしょう。ただ、嘘 や政治腐敗に対する許容度は極めて高いと言わざるを得ません。 世の中はこういうもの、政治家は汚い者との認識が昔から定着しており、その枠内で思考がなされているのではないでしょうか? 

言い換えれば、純粋で崇高な考えを掲げたり、理想や夢を人生の中で追及する姿勢が多くの日本人のマインドから摘み取られているか、昔から無いのだと考えます。現実との妥協を親から社会から叩き込まれ、脱線を恐れ、行儀よく線路上の人生を歩んでしまう。政府の虚偽悪行を重々知りながら、多くの真面目な人達までが、政治家の汚い尻拭いをしその悪臭が心のなかで一生付きまとっても、現職を守り、天下り先を優先させてしまうのだと思います。

万が一、現政権が長続きするような事になれば、”嘘がまかり通る社会” が確立され、その余波として、既にその兆候が表れている、偽装会計、偽装研究が巷に増えると思います。日本はアジアの2流国家に転落して行くと思います。



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