やる気のない野党とマスコミ - 泡沫と消えた「会期延長」と「審議拒否」

c0315619_16021750.jpg先月の中頃、共謀罪法案をめぐって今国会の会期延長が取り沙汰されていた。この当時、自民党は衆院の通過日程を5月23日とし、24日を参院審議入りとして、これを過ぎた場合は会期内に成立させるのが難しくなると仄めかしていた。朝日の5月18日の記事にそう書いている。この政界観測が世間の共通認識となり、実際の参院審議入りが29日だったため、ツイッターの反安倍の世界では会期延長を既定路線のように言い、都議選と重なるから与党に不利な環境になるという楽観論で溢れていた。それを見ながら、私は、本当に会期延長があるのだろうかと懐疑的で、6月18日の会期末までに全てが仕上がって幕になるのではないかと悲観的な見方に傾いていた。その推測に特に明確な根拠はなかったのだが、大きな政治の流れとして、民進党が都議選を機に共産党と手を切る、あるいは民進党そのものが崩壊する図が見通されていて、その骨太の方向性を基軸にして予想を立てると、野田執行部が共謀罪を都議選と絡める地平に持ち込むとは思えず、共産党と組んで最後まで徹底抗戦する意思があるとも思えなかった。野田佳彦は「野党共闘」からの離陸を腹に溜めていて、小池新党で現出する新局面に活路を見出そうとしているに違いないと。



c0315619_16031184.jpgそう想定すると、参院の共謀罪審議で本格的な抵抗はせず、マスコミの前で<断固反対>のフリをしながら実際は早期幕引きを許すのではないかと、そういう動きが直観された。しばき隊が、5月29日に審議入りした民進党を猛烈に攻撃し始め、山口二郎までが口を揃えて「審議拒否せよ」と大合唱したのは、まさか衆院通過から5日後(土日を除いて3日後)の参院審議入りを野田執行部が応じるとは思わず、日程調整の攻防で野党がもっと突っ張り、そこに加計学園の疑惑追及が重なって、6月に入っても審議入りの目処がつかない波乱の展開になると、そう予測を誤ったからだろう。野田執行部の料亭国対の裏切りと豹変に狼狽したからだ。おそらく共産党は、5月25日から26日の時点で、参院審議入りに応じずに粘ろうと、民進党に裏で打診していたはずだ。国会の審議と採決には必ず出席するのが共産党の原則で、表立って野党に審議拒否を提案することはない。が、蹴られた。5月31日に日比谷で「共謀罪法案の廃案を求める市民の集い」があり、集会に出席した者が、民進党の議員2人に全面審議拒否を訴えたときの反応をTWで証言している。応答は冷ややかで、「以前は審議拒否は効果あったが今はどうか」とか、「共産の同調も必要」とあり、審議拒否が作戦として破綻していた実情が窺える。

c0315619_16050122.jpg5月30日に参院法務委で本格審議となった現場を取材した後藤謙次が、その夜の報ステで、野党の対応が意外に熱がなく予想外の状況になっていたとコメントしていた。このコメントが、会期延長がないことを国民に示唆していて、この時点で、裏の国対取引で何が起きていたかをあらかた察することができる。6月1日の報ステでは、6月13日に採決決定という日程まで後藤謙次が堂々と告知していた。今週(6/5-)に入ると、後藤謙次が既成事実化した日程をなぞるように、民進党が法務委の委員長解任決議案を出し、白旗降参の姿勢を示し、残りの会期を消化日程にして国会閉幕の儀式 - 法相問責決議案、内閣不信任決議案 - をそそくさと段取りする脱力の進行が固まっている。審議全面拒否を訴えていた山口二郎は、6月2日に民進党幹部に説教され、審議拒否が奏功しないことを納得して要求を引っ込めた。この民進党幹部というのは、福山哲郎か、共産党とのパイプ役を務めている安住淳だろう。この山口二郎のツイートは、ツイッター上に布陣して「戦闘」しているしばき隊員に対して「撃ち方やめ」の合図となった。この問題で民進党だけを責めても仕方がない。今回は2年前の安保法制のときと違って、マスコミ(特にテレビ)が全く批判報道をしなかった。共謀罪の中身を国民に正しく説明することをしなかった。

c0315619_16054371.jpg共謀罪の法律論をテレビで議論するのを見たことがない。まともに解説をすれば、フリップやパネルに整理して専門家が試みても20分はかかるだろう。構成要件とか謙抑性とかの概念を説明しないといけないし、刑法と基本的人権の基礎理論の講義が必要になるし、フランス人権宣言の歴史に行き着くことになる。そこまで議論されて、初めて共謀罪は人の知識として一般的なものになるはずだ。今回、その機会がなかった。それから、治安維持法についての啓発も必要で、それがどういう歴史だったのか正しくテレビが特集して伝える必要がある。前に、古舘伊知郎がワイマール憲法の歴史を現地取材して紹介し、緊急事態条項の改憲策動に警鐘を鳴らした放送があったが、歴史を教えるあのような特集報道が必要だった。それもなかった。2015年の安保法制の政治戦の後に起きた「蛮社の獄」が効いていて、テレビのジャーナリズムが骨抜きになっている。テレビが共謀罪を正しく教えず、「共謀罪の構成要件を改めて『テロ等準備罪』を新設する法案の」と、枕詞のように並べるだけだから、共謀罪に対する批判世論は国民の間で高まらなかった。枕詞のフレーズを何十回も垂れ流しながら、桑子真帆や富川悠太は本当にその意味を理解してニュース原稿を読んでいたのだろうか。

c0315619_16065310.jpg一方、共産党議員の宮本岳志が6月2日のFBで審議拒否しない理由を綴っている。正直な言い訳であり、この政局についての解説になっている。参院本会議入り前なら審議拒否も可能だったが、応じた以上は中途でのボイコットは理がないという正論だ。共産党の見解を表明したもので、共産党の表向きの立場はこのとおりだ。宮本岳志にだめを押され、木下ちがやらしばき隊の「審議拒否」の扇動は一気に潰える顛末となった。ほんの3週間前は「会期延長必至」だと騒いでいたのが、今では気勢を上げる言葉を失ってしまっている。5月31日の日比谷集会の壇上で野党議員が挨拶していた、「共謀罪は必ず阻止できます。市民の力で廃案に追い込みましょう」の言葉が空しく響く。よく考えると、参院で共謀罪が審議入りして以降、蓮舫や野田佳彦がテレビのニュースに出て安倍批判の怪気炎を上げている場面を見ない。NHKは7日の記事で、「与野党の駆け引き一層激しく」と書いているが、その実感はまるでない。肝心の加計学園の問題の方も、野党が本気で追及しているようには私には見えない。テレビで民進党の「加計学園疑惑調査チーム」の絵が出るけれど、チームの責任者は誰なのだ。少し前までは玉木雄一郎が出張っていた。最近は今井雅人と宮崎岳史と桜井充が前に出ている。

c0315619_16074704.jpg国会中継の質疑に合わせて出番を変えているように見える。国民の目から見れば、それは議員の人気取りの配置であり、ビジビリティを動機としたものに映る。きっとそれが正解だろう。「加計学園疑惑調査チーム」は、文科省の下っ端役人を呼んで「何も知らない」と言わせ、追及のアリバイ芝居をしてテレビに撮らせているけれど、「総理のご意向」と言った内閣府審議官の藤原豊を呼んできて、前川喜平とその場で直に対決させるという図を作らない。「総理は自分の口から言えないから私が言う」と前川喜平を恫喝した、首相補佐官の和泉洋人(国家戦略特区担当の元国交官僚)を召喚しない。この二人の官僚について、事件発覚以降、マスコミは直撃取材しておらず、自宅前でマイクを突きつけられる映像が出ない。前川喜平の証人喚問を要求する正攻法が悪いとは言わないが、搦め手からいくらでも攻略する方法はあり、加計問題の政局で注目の焦点を作って国民の批判を高めることはできる。だが、マスコミも野党もそれをやらず、「前川喜平の証人喚問」をバカの一つ覚えのように連呼するばかりだった。森友問題のときは派手なキャラクターで立ち回る籠池泰典に世間の興味が集まったが、加計問題では事件の主役であるはずの加計孝太郎が一度もマスコミに登場しない。マスコミが取材を自粛あるいは怠慢している。

記者が岡山に飛ぼうとせず、今治で無駄足を踏んで東京に帰っている。安倍内閣の支持率がどうのと言う前に、審議拒否の国会戦術がどうのと言う前に、マスコミと野党がやるべきことをやっていない。やれることをやっていない。やる気がないからだ。

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by yoniumuhibi | 2017-06-07 23:30 | Comments(5)
Commented by 私は黙らない at 2017-06-08 12:31 x
野党が永田町の住人であることに安住し、人事権を官邸に握られた官僚やマスメディアまでもが「官邸の最高レベルのご意向を忖度」する現状では、政治浄化は絶望的だ。こうした時に政治浄化の契機となりうるシステムがないことが問題だと思う。匿名性と身の安全を保障できる内部告発サイト(名称はKihei.org?)があったらと真剣に思う。前川さんをヒーロー扱いするわけではないが、腐敗した政権に与えたインパクトは大きいと思う。社会的制裁が怖くて告発できない第二、第三の前川さんがいるはずだ。
Commented at 2017-06-09 09:00 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by 長坂 at 2017-06-09 12:53 x
選挙で選ばれてもいない官僚による「官僚主導」はおかしい。「政治主導」だって大見得を切ったくせに、なんの事はないシンゾーによる政治の私物化だった。縁故主義がぁと言ったところで、親族で権力回している世襲の大ボンクラには「それが何か?」だ。政治家としての矜持もないこの大ボンクラが長の国家戦略特区が公平で公正で透明性確保、国民の知る権利に応える制度になるわけがない!結局刎頸(糞鶏)の友加計とパソナとオリックスとローソンの為の制度だった。
さすがに昨日の委員会ではブチ切れ野党議員続出、官房長官会見ではかなり粘った記者も出て来てやっと再調査とか言ってるが、藤原審議官を覚醒させるのか、それとも記憶喪失のままで時間稼ぎするのか。余計なお世話だが、官僚の中にはクリスチャンもいるだろう、殺傷権をちらつかせ嘘を強要という究極のパワハラは許されるのか。
確かに野党も問題だけど、全ての原因は巨悪、民主主義の敵菅とシンゾーそれをただ指をくわえて見ているだけの公明党。
Commented by 愛知 at 2017-06-10 02:33 x
忖度、忖度といまだ繰り返すネット上の識者、乱暴者は、昨夜のコミー前連邦捜査局長官の証言で「忠誠の強要」という語が使用されていてもギャップを感じないのでしょうか。宗主国新大統領「コミー、君はFBIに残りたいのかね」の恫喝は、ネット上の乱暴者が配下の部下に「君は言論界に残りたいのかね」と言っているようで、まるで二重に見えます。上の方がご紹介、昨日発売の『文藝春秋』で知った前川前文科次官の実名ブログ「奇兵隊、前へ」での一文―――クビと引き換えに義務教育が守られるのであれば本望(2015-11-8)―――これ、乱暴で陰険な人たちにもっと拡がればと思います。東京新聞、望月衣塑子の官房長官への理路整然の質問が印象的でした。こうした記者が増えることを願います。何時も乍らに正鵠を射た政治の分析に心より御礼申し上げます。
Commented by 七平 at 2017-06-11 12:10 x
Tweetでご紹介のあったCaptain SKA のビデオ見せていただきました。保守革新は別にして、英国での表現の自由は、はっきり守られていますね。リズム感もあってなかなかの傑作です。 おっしゃる通り日本で安倍晋三版を作り、加えて米国でTrump版を作れば真実を歌い上げるグローバルヒット曲になると思います。 日本の場合、番組の司会者が台本に無い質問をしたり、 I am not ABE と口にしただけで退職に追いやられる情報統制国家ですから、無理でしょう。そんなビデオを作る勇気のあるテレビ局もニュースキャスターも残っていないでしょう。しかし、本サイトも含めWeb には、真相を伝えようとするサイトが数サイトあります。数は少ないのですが、政権に対して ”嘘をつくな” と明言する官僚も現れています。 知識層から一般への情報伝達には時間と努力が必要ですが、着実に効果は出てくると確信しています。

大局的には世界は透明になりつつあり、いくら現政権や日本会議とやらが日本を化石化しようとしても、又、彼らが井戸の中の蛙を装っても、グローバルな時代の流れには勝てないはずです。 お隣の韓国での大統領弾劾、英国での保守派後退、時間の問題で弾劾か辞任を迫られるTrump。 Trump の処理に関してはWatergate の時の様に、特別審査官が任命されました。 彼は証拠を積み上げて 王手 まで、漕ぎ着けますので、ウナギの蒲焼き風にゆっくり時間をかけて焼く事になろうかと思います。 その間、グローバルリーダーシップは米国不在になってしまいます。ロシアは大喜びでしょう。さて、日本のナマズと取り巻きがどのように料理されるか見守り続けます。現状維持、続行は不可能だと思います。  


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