憲法9条を左から壊す裏切り者たち - 安倍晋三案と同じ中身の「新9条」

c0315619_17291339.jpg前回の記事で、野党各党の憲法9条の基本政策について整理を試みた。それを見ると、現在は「野党共闘」を組んで反安倍で連携している四野党、いわゆる「立憲野党」も、9条については立場が同じではなく、9条改正に反対しているのは共産党と社民党の二党だけという事実が了解される。有明の護憲集会で幹部が手を握り合う絵を演出した四野党は、9条改正に反対で一致結束しているわけではない。安倍晋三の今回の改憲戦略は、その齟齬と不一致を衝いて周到に打ち出してきたものである。そしてまた、民進党自由党の憲法についての基本路線に内在する形で、巧妙に方向性を合わせてきた機略でもあり、言わば「最大公約数」を狙った作戦である。最も合意を取りやすい改憲政策の選択手法だ。さらに、自衛隊を9条に明記する改憲案は、この半世紀間、この国の政治でずっと論議されてきた歴史的な争点と課題でもあり、その意味で、正面から保守政党の宿題を果たそうとする骨太の挑戦と言える。他の改憲内容ならば、例えば、高等教育の無償化などは、憲法条文に加えなくても法律で実現できるけれど、自衛権と自衛隊についてはそうはいかない。自衛隊と憲法9条(2項の武力放棄)の矛盾は、原理的で信条的な問題であり、折衷や妥協が簡単にできない問題だ。私は、改憲が具体提起されるときは、必ずこの問題が問われるだろうと確信してきた。



c0315619_17292675.jpg安倍晋三の憲法記念日の奇襲によって、政局は一気に改憲論議が主役に浮上し、国会論戦とマスコミ報道が改憲問題で埋まる状況になった。後半国会の主導権を安倍晋三が握る形勢になり、国民の関心を改憲問題に方向づけることに成功していて、その結果、主役であるはずの共謀罪が脇役に回った。今後の注目は、この安倍晋三の改憲策がマスコミの世論調査で国民にどう評価されるかだろう。そして、公示まで1か月半となった都議選の政治 - 小池新党を起爆剤とする政界再編 - にどういう影響を与えるかだろう。今回の稿では、左の政治世界での9条改正論についてあらためて確認をしたい。2年前の2015年の夏から秋にかけて、なぜか突然に、同時多発的に、左翼の側から9条改正論が澎湃として沸き起こる出来事があった。発端となったのは、SEALDsと高橋源一郎である。河出書房新社から9月30日に発売された『民主主義ってなんだ?』の中で、SEALDsと高橋源一郎が9条を改正して自衛隊を明文で認めるべきだと言っている。P.56に、奥田愛基が「自衛隊の存在を認めるためには、成文憲法なんだから条文を変えなきゃいけないっていう立場もあるけど」と水を向け、牛田悦正が「だったら変えればいいじゃんって思う。だから僕は9条を変えた方がいいと思ってる」と断言する場面が登場する。

c0315619_17293977.jpg続けて、高橋源一郎が「僕も9条は変えた方がいいと思っている」と応じ、3人の結論として読者に提示される論旨になっている。出版されてすぐ、この箇所を見つけた者が驚いて証拠写真をFBに上げ、ネットで物議を醸す顛末になった。SEALDsは解散したが、彼らがこの認識を変えたという情報には接していない。明文改憲の9条改正が堅持されたままだと考えられ、したがって安倍晋三の主張と全く同じだ。この本が出版された9月30日の前日、9月29日に、しばき隊の野間易通が「やっぱりこれまで反戦平和勢力はあまりにも9条にフォーカスしすぎたという部分はあると思う」というツイートを発している。安保法が参院本会議で可決して成立したのが9月19日のことで、ここからSEALDsの左翼論壇での大売り出しに拍車がかかる展開となり、中野晃一が陣頭指揮をとる市民連合と「野党共闘」が立ち上がって行く推移となる。野間易通はもともと改憲派で、安倍晋三と同じ中身の9条改定が持論であり、2013年1月のツイートで、「憲法9条2項は改正または削除すべし」と明言している。その少し前、9月15日のマガジン9条で、想田和弘が「憲法9条の死と再生」という記事を掲載、「死文化した9条」を棄てて「新しい9条を創る」という「新9条」を扇動した。中身は安倍晋三の9条改正論と同じで、自衛隊明記論である。

c0315619_17295160.jpg順番に並べると、想田和弘が9月15日、野間易通が9月29日、SEALDsと高橋源一郎が9月30日。安保法制の政治戦の終幕を時機に捉えて、それまで「憲法壊すな、9条守れ」と言っていた左の陣営から、不意に9条改正論が勢いよく連射された。そこから1か月も経たない10月14日、今度は東京新聞から「平和のための新9条論」と題した企画が組まれ、小林節、伊勢崎賢治、今井一の主張が並び、大々的に「新9条」をキャンペーンする特集が発信された。中身はやはり今回の安倍晋三と同じ、憲法に自衛隊を正式に位置づけよという提言だ。記事のクレジットに佐藤圭の名前があり、佐藤圭が編集の中心にいたことが分かる。①河出書房新社のSEALDs本、②マガジン9条(鈴木耕)、③東京新聞(佐藤圭)、わずか1か月の間に、これらが「新9条」の怒濤のエバンジェリズムを打ち、SEALDs運動で昂奮状態にあった左翼の人々を洗脳工作した。果たして、この一連の動きは偶然の発生だったのだろうか。私はそうは思わない。左翼全体をしばき隊のイデオロギーと運動で編成替えしようとする邪悪な野望があり、「新9条」を新しい結集軸として機能させる戦略が考案され、しばき隊学者としばき隊ジャーナリストが腹合わせして計画的に実行に及んだプロジェクトだったと推測する。この面妖で侫悪な策動に、果たして代々木の幹部は絡んでいなかったのだろうかと疑う。

c0315619_17300510.jpgこれまでのところ、元SEALDsもしばき隊も、鈴木耕も、佐藤圭も、「新9条」を宣伝扇動した2年前の行動を反省しておらず、誤りを認めて撤回するに至っていない。現在でもなお、「新9条」は彼らの持論のままだ。彼らは、9条を改定して自衛隊を位置づける明文改憲をせよと言いながら、自分たちを真の護憲派などと狡猾に嘯き、左翼業界の中で自己正当化を続けている。繰り返すが、中身は安倍晋三の9条改正論と同じであって、発議され国民投票にかけられたとき、彼らがこの改憲案に反対する理由は何もない。だからこそ、安倍晋三は護憲派の急所であるこの一点に狙いを定めて勝負に出たのである。ここで、また私の脳裏に甦ってくるのは、10年前に辺見庸が発したところの、果たして社民党と共産党は最後まで憲法9条を守るのだろうかという、予言的な懐疑と洞察の重い呟きだ。3年前、共産党としばき隊はずぶずぶの関係だった。現在、もう「ずぶずぶの関係」という表現は当を得ず違和感を感じるほど、両者はシームレスでコンパティブルな一心同体の関係になっている。政治主体として一つであり、しばき隊が左翼の管制高地を占領した。弱小の社民党に至っては、今ではしばき隊の下請け政党のごときに成り果てていて、しばき隊が沖縄に進出して勢力拡大する世話係を努めるパシリ役になっている。だから、本来は土井たか子のように「頑固に9条堅持」と言わなくてはいけないのに、福島瑞穂はSEALDsとしばき隊の「新9条」を批判しない。

c0315619_17301996.jpg福島瑞穂の口から「新9条」掣肘を聞いたことがないし、共産党幹部の口から「新9条」糾弾を聞いたこともない。左翼世界は、9条堅持の護憲派と9条改正の改憲派の二つに分かれていて、二つが論争もせずに互いに黙認して併存している。さて、9条をどうして変えてはいけないのか、なぜ自衛隊を明文で合憲化してはいけないのか、憲法論の立論と説得については、これまで述べてきたところをまた書くけれど、私が強く言いたいのは、左が左から切り崩されたとき、不可能だった右の政策が実現するという真実である。魔法がかかったように永久凍土が溶解する。これまで何度もそれを見てきた。25年前の「政治改革」がそうだった。従来は左が強固に反対を貫いていたから、どれほど右が押しても小選挙区制は実現しなかった。ある日、山口二郎が左から「政治改革」の旗を振り、朝日と岩波がそれを推進し、左が決壊して小選挙区制が出現した。そこから日本の政治がとめどなく劣化して行った。10年前、5%だった消費税を上げる策動のときも同様。長く続く景気低迷と格差進行の中で、消費税をさらに増税するなどあり得なかった。だが、山口二郎と神野直彦と宮本太郎が「北欧福祉国家」を言い出し、朝日と岩波が猛烈にそのプロパガンダをシャワーし、左を切り崩して「薄く広く」が錦の御旗になってしまった。洗脳工作が成功し、不可能だった政府の政策が可能になった。それらの悪事と痛恨を忘れてはいけない。憲法9条の問題は、思想信条が問われる問題である。一人一人の生き方が問われている。

テクニカルな法理の問題ではない。政策の選択の問題にはとどまらない。一人の庶民の日本人として、戦後の平和と民主主義に連なる者として、純粋に譲ってはいけないものは譲ってはならず、絶対に守らなくてはいけないものは守らなくてはいけないのだ。

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by yoniumuhibi | 2017-05-10 23:30 | Comments(5)
Commented by NY金魚 at 2017-05-11 00:27 x
『戦争をしない』という魂からの信念は、論理から生まれたのではない。
『戦争をしない』などという世界が、いまのところこの地球星にまったく存在していないのだから、9条はどの国にとっても現実などではない。
私たちの夢、理念にすぎない。
が、私たち日本国民は誇りを持ってそのすばらしい夢、理念を憲法にしつづけている。
論理で自衛隊が違憲かを論じはじめたのは、自民政府であって、これに体よく巻き込まれてしまった左からの新憲法論者は、まったくかれらの尻馬に乗っていることにも気づいていない。
ふた言目には「いったいいまの自衛隊が合憲なのか、証明してみろ」と偏差値論理を振りかざすが、それはどだい無理だ。この偏差値社会で、証明は絶対らしいが、現に戦争に行っている自衛隊を軍隊ではない、などと言いくるめることはできない。
だからなんだ!
だからこのすばらしい理念憲法を、どちらかの偏差値寄りに曲げてしまってもいいとでもいうのか?
魂を現実に売るのか?
みんなそれぞれ、クライアンツに、カイシャに魂を売っていらっしゃるのかもしれないが、それでも反戦の魂まで売ることはないじゃないか。それも、よりによってアベに魂を売ることになるんだぜ!
左からの(仲間うちからの)改憲論者は「自衛隊という違憲の存在をあれこれ言い訳をつけて合憲だとしてしまった『解釈改憲』の発想と先例は『護憲派』がやった」とおっしゃるが、この議論こそまったくアベの狙っているクラインのド壷のなかですよ。
Commented by 愛知 at 2017-05-11 01:52 x
私の祖父は敗戦後、GHQに接収され、その後の市民運動で沖縄へと追いやられた旧日本軍の基地建設に協力したとしてBC級戦犯に。フランキー堺主演『私は貝になりたい』は素晴らしいドラマでしたが、私の田舎では村の名士から、石もて追われる身に転落というのが現実。今もオープンな集会ではタブーのまま。口にすれば睨みつける代々木だか反代々木だかの方々、お身内含めて非戦、反戦で獄死されたのかしら(そういう方もおられると思いますが)。不破さんも戦争法の国会審議中、ラヂオで「軍国少年だった」と吐露されておられました。貴下ご指摘の殉金刹那極右政権の骨太の改憲論、連中の72年来の夢、党利党略殉金のため、中日新聞あたりに切り崩されたくありません。どこかで星浩のような他人事の素振りは止めて頂きたい。私の如き鼓腹撃壌の身からすれば、国会審議で政権が追い詰められているなどとは到底、感じられず。一切のタブーを排して声を上げるべき。いつも乍ら正鵠を射た記事のアップに感謝します。
Commented by 長坂 at 2017-05-11 15:01 x
あの人達が左の代表だとしたらもの凄く心外ですし、シンゾーの元での改憲は反対って言うのも。じゃ岸田や進次郎ならいいのかと。池澤夏樹や高橋源一郎の朝日が連日憲法70年の社説で頑張っているので、その路線は絶対変えないで欲しいと。(日韓合意は守れ、守れとうるさいですが)
憲法に関しては私は「1*9*3*7」イクミナ派、侵略・植民地支配の反省が原点。ここは何があっても譲れない。自衛隊に肩身の狭い思いをさせないためって⁉⁇ 何それ?あれよあれよと庁から省へ、ジブチに基地は作ります、米艦防護もやります、防衛費は過去最大5.1兆円です!これ以上もっと肩身を広げさせたいサヨクはだからパヨクなのよ。
Commented by 七平 at 2017-05-12 06:07 x
日米両国で大嘘つきの大統領と首相が君臨しているわけですが、民主主義の成熟度と国民の反応は明らかに異なっています。第一に、米国では三権分立が正常に作動しています。従って、遅かれ早かれトランプの悪行、低能は暴かれるでしょう。 残念ながら、日本の三権分立は名ばかりだと思います。 人質事件や森友学園事件に絡んで、立法府での討論から司法府による行政府に対する独立捜査、起訴に引き継がれないところに問題があります。

第二に、Fox を除いてのマスコミ(大手新聞社、大手TVチャネル:ABC, NBC, CBS, CNN)が全くトランプ政権を恐れる事なく、事実関係を読者に伝えている事です。社説欄には行政府の珍態と出鱈目を批判する記事が続いています。”言論、報道の自由” は米国にとって聖域です。記者やニュースキャスターだけではなく、言論、報道の自由を行使する層は厚く、読者、視聴者からの投稿数(NYT記事に寄っては2000以上)、投稿内容から察してトランプは笑い者に評され、袋叩きにあっています。トランプは任期を全うできないと考えています。既に、空中分解進行中と言う状態だと思います。 同様の評価、風刺、批判が日本の総理大臣にもされるべきと考えています。”嘘”がなければ、何も恐れる事はないはずです。

改憲に関しては国民投票が必要ですので、一人一人考え、各個意見の形成がなされる事を期待します。ただ、今時、教育勅語を奨励するような政権が国民を改憲(9条放棄)に誘導するような環境下では、国民は政治家の下心を見抜く必要があると思います。教育勅語の9割は当たり前の道徳で、当たり前過ぎて記するに至らず、残りの一割、”天皇の為、国の為に有事の折は命をささげましょう”、等、戦時中の精神論に酔い潰れた政治家、軍人が唱えた ”一億玉砕” 宣伝の第一歩だと考えます。そんな連中に限って最前線には出ず、後ろで旗振り役をし戦争を煽り生き延びたのだ思います。

最近の日本からのニュースを総括すると、時代錯誤、逆行のパターンが目立ちます。 東京でオリンピックをしても、大阪で万博をしても、高度成長を遂げた1960-1980年が日本に再現される根拠は見当たりません。教科書の無い新しい時代に入っており、DRAM人間育成を放棄した、抜本的な教育改革が日本を復興させる第一歩だと考えます。

Commented at 2017-05-12 23:29 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。


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