王毅はDCに飛べ - 中国は9条的外交力で危機打開の主導権を握り直せ

c0315619_16300161.jpg16日のサンデーモーニングの「風をよむ」で、米朝危機の問題が特集された。このコーナーでは、銀座3丁目の松屋前歩道で「街の声」を拾って紹介する。画面に登場するのは、いつも同じような格好をした70代から80代の高齢者で、東京で年金暮らしする関口宏と同じ世代の者たちだ。番組を毎週見ている全国の視聴者のボリュームゾーンでもある。経済的にも、政治的にも、今の日本社会を支えている人たちと言っていい。自らも消費しつつ子や孫を金銭的に扶助する実力を持ち、政治に高い関心と知識を持って投票所にしっかり足を運んでいる人たち。実際に現場を歩くと分かるが、番組が特に意識して高齢者を選んでマイクを向けているのではなく、歩いている日本人の平均的サンプルがあの属性で、もっと若い年代の家族連れとか、4人以上のグループで歩いている場合は、ほとんどが海外からの観光客であり、さらにその8割が中国人である。15年ぶりに再来した米朝開戦危機について尋ねられ、彼らは「成り行きを見守るしかない」とあきらめ顔で答えていた。この映像の言葉は、関口宏の心境をそのまま代弁して表現したものだ。北朝鮮に対する諦念と断念。それが一般の国民の感想として流された。テレビの前の多くの視聴者も同感だったと思われる。



c0315619_16310000.jpg銀座で拾われた「街の声」に反映されていたのは、もうどうにもならないという無力感と虚脱感だった。米朝に話し合って欲しい、戦争は避けて欲しいと思いつつ、それがよく期待できず、誰かの主体的な営為でその方向が実現するとは思えず、自らの力でもどうしようもなく、どちらかを批判して解決策が導かれるというわけでもなく、八方塞がりで、ただ状況を見守るしかないという疲労感が滲んでいた。北朝鮮について、左右の立場を越えて日本人が感じているのは、「もう疲れた」という感覚だろう。今、この局面で、米朝が対話に向かって友好な関係を築くだろうとか、韓国と北朝鮮が外交努力で平和的な統一への道を歩むだろうとか、そうした楽観的な展望を持っている日本人はきわめて希少なはずだ。対話をすべきだ、衝突は避けるべきだという、問題解決についての当為の意識と視角を媒介するところの、平和主義の希望と確信と情熱を、北朝鮮についてもなお粘り強く及ばせている日本人は、かなり減ってしまっているように感じられる。核とミサイルで挑発を繰り返す北朝鮮の瀬戸際外交に、倦んで疲れて諦めの境地になった日本人の姿がある。2002年の核危機と拉致問題の騒動から15年も経った。15年という時間は人の一生の中では長い。

c0315619_16340251.jpg北朝鮮の瀬戸際外交は、もはや内在的な意味を認められる対象ではなくなった。外交としての合理性を認められる余地がない狂気の暴走だ。日本人の中の北朝鮮に対する倦怠感は、もう付き合いきれない、どうでもいいよという最終段階まで来ていて、北朝鮮という国が正しい方向に再生されることを期待も祈念もしなくなってしまっている。崩壊と終焉のステップとカタルシスだけが唯一の展望になっている。マスコミ報道は表立ってそうした不穏な発言はしないが、それしか問題解決はないし、自然にそうなるしかないじゃないかというのが、現在の日本人の正直な気分だろう。朝鮮民主主義人民共和国という国家が消えてなくなることだけが、唯一の願望であり、日本人の憂鬱のタネが解消される決着だと、破滅の最期を静かに見守るしかないのだと、「街の声」はそう語っているように聞こえた。日本の市民がその心理と態度にならざるを得ない事実について、私は否定的な見方をすることはできない。その思考と結論は、戦争を認めることであり、憲法9条の思想ではないからだめですよとは言いにくい。ただ、まだ言えることがあり、提案として形になる議論があると思うので、後ほど指摘を試みたい。その前に、どうしても不可解なのは韓国の市民の反応だ。

c0315619_16345072.jpg今回の米朝危機に対して、韓国のマスコミと世論が、われわれの感覚からは信じられないほど緊張せず、平穏なまま、普段どおりの日常が続いているのはどうしてだろう。米朝が開戦すればソウルは火の海になる。韓国の人々は、どうやら今回の事態が戦争にはならないことを見抜いているかの如くである。普通に考えて、米朝緊迫の刻々の情報は日本よりも韓国のアンテナに多くキャッチされ、情報処理の精度や判断力も日本より韓国の方が高い点は間違いないだろう。ということは、日本の方が異常に騒ぎすぎていて、右翼化されたマスコミ報道やネット言論に影響され、無用に振り回されているだけなのだろうか。そうとも考えられる。正解はどちらなのだろう。異常なのは韓国市民の正常性バイアスと不感症なのか、それとも右翼の扇動に洗脳されて脅える日本人の過敏症なのだろうか。私は混乱したまま、両国の世論の対照について正確な像が掴めない。少なくとも、15年前は韓国の政府と市民が猛然と反戦に動いた。そうする以外に戦争を止められず、ソウルが火の海になること、北に住む同胞が空爆で殺戮されることを阻止できないと考えたからだ。その努力が実を結んで、ブッシュとボルトンの戦争政策は挫折を余儀なくされた。中国主導の六カ国協議を米国は受け入れざるを得なかった。

c0315619_16350976.jpg具体的に、憲法9条の精神に即して、この危機を回避するにはどうすればよいか。どういう可能性があるだろうか。思いついた観点を述べよう。まだやるべきことがあると思う。やるべき者が、やれるはずの者が、やれることを十分にやっていない。私の不満は中国政府に向けられる。王毅は、自制と平和的解決の意義を説き、話し合いで解決するよう当事者に呼びかけている。それは正論に違いないけれど、そういう一般論ではなくて、具体的にこれでどうだという提案条件を並べないといけない。北朝鮮が核ミサイルを放棄するロードマップを描き、米国も北朝鮮も受け入れられる1年計画とか3年計画を立案しないといけない。プランを示し、中国はこういう責任を負うと米国にコミットしないといけない。何月何日にここで(シンガポールでも、バンコクでも)米朝協議を開催しようと提起しなくてはいけない。北朝鮮問題で米国に対して具体策のアジェンダを繰り出し、米国と交渉し、米国と合意を詰めて行くことだ。提案の中身を国際社会に公表して、おお、それはいいね、中国なかなかやるじゃないかと支持を集めることだ。中国が米国と正面からディールを始めれば、必ず韓国が気になって首を突っ込んでくる。オレも混ぜてくれと言い、2国間交渉は3カ国協議になる。当然、ロシアも入ってくる。4カ国協議になる。そうなると、オレの問題なのに勝手に決めるなと北朝鮮も無視できなくなる。

c0315619_16353298.jpg主導権を握ることが大事なのだ。今、主導権は米国が握っている。米国が軍事力を行使して北朝鮮と中国に揺さぶりをかけ、北朝鮮の核ミサイル問題を「解決」に導いている。軍事力はすなわち政治力に他ならない。中国がそれに対抗して政治の主導権を握り直すためには、9条的な外交力を最大限に発揮するしかない。それは提案力であり、国際社会への説得力である。例えば、1年以内に北朝鮮国内から核開発施設が消えなかった場合は、石油禁輸のみならず、金融と貿易の一切を停止して通商関係を遮断するとか、そういう強い決意を米国と国際社会に表明することだ。その上で、中国はこうする、米国はこうする、北朝鮮はこうするという、時間軸と責務内容と検証方法を明記した三者の工程表を示すのだ。そうすれば、国際社会は中国の姿勢と主張を高く評価するだろう。その方法と成果によって、問題解決の主導権を米国から取り戻すことができる。主役は中国だと国際社会から存在感を公認される。米国の危険な砲艦外交の政治にストップをかけられる。中国は、北朝鮮を説得するのではなく、米国を説得しなくてはいけない。米国との間で交渉(公開討論)を詰めないといけない。私のアイディアは以上。この論点が重要だと思うのは、日本の左翼の一部に奇妙な思い違いがあるからだ。思い違いとは、いま大事なのは共謀罪反対の声を上げることで北朝鮮問題を喋々することではないという発想である。

c0315619_16354854.jpgこの左翼の意見は、一見して正しいように見えるが、現実に米国が北朝鮮に軍事的圧力をかけ続け、そのため日本のマスコミはどうしても米朝危機の報道で洪水にするし、日本国内の空気は否応にも戦争への恐怖が高まって関心が釘づけになる。安倍晋三や右翼が思惑する方向へと世論が操縦される。その流れを阻むためには、9条的な政策論で具体的にどんな国際政治の可能性があるか、米国のフリーハンドを止める有効な図があるか、その中身をイマジネーションして構想を立てる必要があるのだ。空気の流れを議論による抵抗で押し返さないといけない。この危機に直面して、9条的な問題解決の可能性がリアルであることを、われわれ9条主義者は立論して論証しないといけない。脱力感の底に沈むのが実情だが、なお理性の名において、諦めてはいけないし、目を背けてはいけないと思う。本当なら、韓国と日本と中国の市民が連帯して、韓日中の首都で巨大な反戦デモが起こるとか、そういう画期的な絵が出現すればいいに違いない。だが、そのウルトラCは期待できない。韓国の市民が眠りこけている。日本の市民は力なく諦めている。期待できるのは、中国が本格的な外交能力を発揮して切り返しすることだけだ。王毅は提案を持ってDCに飛べ。「平和的解決」は抽象論で言うのではなく、決意は具体的提案で示さないといけない。



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by yoniumuhibi | 2017-04-17 23:30 | Comments(1)
Commented by 齋藤正治 at 2017-04-19 08:01 x
ブログ管理人殿のアイデアは 確かに正論かと思います。でも中国への働きかけ、トリガーはどうすれば? 例えば民間等の日中友好組織のうち強力なルートがありそれが つかえないのか?
私的には トランプの一連の動きは、支持率もちこたえの苦肉の策で、衝突には至らないと楽観します。
中国が、金王国の体制を傀儡政権に置き換える戦略を立て、実施する事を米 ロも地下で認める。この筋がいちばん安全に思えますが、やはりブログ氏のアイデアに戻りますが。


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