独裁者たちが主役となる世界政治 - 金正恩の肥満カリスマと「成功法則」

c0315619_18174828.jpgトランプのシリア攻撃について、米国での反応が記事(9日)になっている。あのナンシー・ペロシが、「この攻撃はアサド政権の化学兵器使用に対する順当な対応だ」と評価、ヒラリー・クリントンも、「もっと早くこの種の軍事行動をとるべきだった」と表明、民主党議員が支持を表明している。シリアに対する国際法違反の侵略戦争を歓迎している。支持率下降で窮地にあったトランプ政権は、一転して今回のシリア空爆と対ロシア政策転換で息を吹き返した。その米国内の状況の好転を見て、調子に乗ってアフガンのイスラム国地下施設にMOABを投下した。36人が死亡している。民間人の被害はないと発表されているが、きのこ雲が上がった直下の地下アジトに戦闘員の家族はいなかったのだろうか。あるいは、想像力を戦場と兵営という実相に及ばせて、そこに、イスラム国に拉致・拘束されコンフォート・ウーマンにされていた人の命はなかったのだろうか。どこかの貧しい村から連れ去られ、誰からもその所在を気に止められないまま、野蛮な新型爆弾の生贄になった、不幸な無名の人の命はなかったのだろうか。それにしても、井上達夫ではないが、米国やEUの健忘症は何だろうか。イラク戦争時の「大量破壊兵器」がウソだったことについての、この10年間の反省や悔悟は何だったのだろう。



c0315619_18181048.jpg4年前の2013年、シリアで今回と同様の謎の化学兵器テロが起きたとき、オバマの求めに応じて動いたキャメロンに抗して、英国議会が徹夜の討論の末に参戦同意案を否決したのは、それがシリア政府軍の仕業だと断定できる証拠がなかったからだった。二度と同じ過ちを繰り返したくなかったからだった。わずか4年前のことなのに、そのときの理性と正常な判断力が吹き飛んでしまっている。世界の風景はすっかり変わってしまった。世界政治の仕様が変わったことに気づく。どう変わったかと言うと、独裁者たちが活躍する世界に変わったということだ。独裁者がマスコミや世論で否定されず、逆に「価値」を持って注目される時代になった日本だけでなく世界政治の現場で、独裁者が勝手なことを言い、無法で強引なことをやり、それがまかり通り、それが当たり前の光景になっている。独裁者が世界政治の主役になり、法を踏みにじる彼らのリーダーシップで事態が動き、局面が作られて世界政治が引っ張られている。独裁者が世界を動かす時代になった。そして、世界の国々が非立憲的な軍事独裁政権の性格を強めている。アメリカのトランプ、日本の安倍晋三、北朝鮮の金正恩、ロシアのプーチン、中国の習近平、トルコのエルドアン、フィリピンのドゥテルテ。タイも。

c0315619_18182792.jpg中国を例にとると、今年の全人代の報道で気になった点として、李克強による政府基調報告の中で、習近平を何度も「核心」と呼び上げて威光を強調する場面があった。明らかに習近平に党と国家の権力が集中し、周囲が習近平に阿って称揚している様子が窺い知れる。胡錦濤時代は、国家と政府、外交と内政でバランスよく温家宝と役割を分け、指導部を合理的でエレガントな図に印象づけ、外(西側)から見ての中国指導部の安定感を醸し出していた。文革時代の毛沢東の個人崇拝は、現代中国史の汚点であり、誰もが思い出したくない悪夢であって、アレルギー反応的に拒絶される対象だったはずなのに、経済大国となった中国共産党の中で再び個人崇拝の契機が復活している。最近は、マスコミの映像や記事に首相の李克強が登場しなくなった。胡錦濤時代の、太子党と共青団との権力闘争という問題は、日本の右翼マスコミや右翼論者においては面白半分に中国を揶揄して論うネタだったが、別の角度から見れば、二大政党制の独自型であったかもしれず、二手に分かれた政治勢力の間で自由活発に国家の政策論争をしていたのかもしれない。胡錦濤は外交も政治もエクセレントでメイクセンスだった。近代化しようとする中国を人格的に象徴していた。習近平は逆だ。

c0315619_18184254.jpg習近平はバッドセンスで復古反動で、毛沢東と同じく脱西欧近代的で、中国古代の皇帝モデルへの郷愁が政治の動機になっているように見える。清の乾隆帝のような一君万民のスタイルが理想で、小さな諸外国の外相を三跪九叩頭礼させたい欲望が疼いているように思えて仕方がない。中国指導部のイメージは変わり、ルーズで愚鈍で明敏さのない、知性や進歩性を感じさせないものになった。そんな習近平だから悪党のトランプに手玉に取られるのだ。習近平は、大国の独裁者と独裁者の阿吽の呼吸のみたいな関係性を、トランプとの初会談の外交で期待し想定したのだろう。見事に米国側に見透かされて逆手に取られてしまった。中国皇帝のスタイルといえば、北朝鮮の金正恩がまさにその表象をプレゼンテーションしている。13日に平壌で外国取材陣の前に姿をあらわした金正恩は、いちだんと太って腹をポッコリ突き出している。あの異様な肥満体型は、偶然ではなく、不摂生な食生活だけが原因でもなく、意図的に、政治的な演出のためにやっている。俳優が役作りのために太ったり痩せたりするように、金正恩は胃と肝臓を無闇に肥大させている。それが中国皇帝の肖像画の正姿だからであり、伝統的な価値観(美意識)があるからで、(明滅亡後に小中華となった)朝鮮の王はカリスマの範型に則る必要があるからだ。

c0315619_18191313.jpg例えば、中国が最も隆盛だった唐王朝の名君である、貞観の治の太宗と開元の治の玄宗の肖像画を見てみよう。二人ともでっぷり太り、ガウンの腹部が大きく膨張して重量感のある肥満の体型で描かれている。肥満は豊穣を意味し、王朝と帝国の潤沢と繁栄を意味するものだ。皇帝が痩身では具合が悪いのであり、王朝に食糧と物資が満ち溢れているごとく、皇帝の身体はカロリー過剰で豊満でなくてはいけない。皇帝の肥満は経世済民の成功の暗喩であり、肥満は徳治のカリスマ証明なのだ。その北朝鮮が、15年ぶりに米国との間で戦争の危機に直面している。先行きの見通しについて、私は他の論者よりも不安で悲観的な分析をしている。15年前は、飢餓の中で「核戦争」の瀬戸際外交を演じていた。そのときの二国の独裁者はブッシュと金正日だった。米国を相手に戦争を始めたらどうなるか。金正日も金正恩も理性を欠いた狂気の独裁者だが、比較すれば、まだ金正日の方が慎重な決定ができる環境を持っていたと思われる。当時の北朝鮮において、核はあくまで外交カードであり、交渉のために使う手段だった。だから、中国が差し伸べた六カ国協議に乗り、軽水炉の冷却塔爆破などをやっている。当時は独裁者の傍に側近がいて、中国が扶助する外交路線の方を選ぶという道を残していた。硬軟を使い分けていた。

c0315619_18193345.jpg金正恩の方は、中国と自分の間に入って献策する側近をことごとく粛清してしまっており、耳の痛い提案は入らなくなっている。何もかも判断するのは自分一人だ。自己の思考回路に都合のいい情報しか耳に入れない。現在33歳のこの男は、15年前の米朝危機のとき18歳だった。18歳であの経験をした独裁者の認識においては、最後まで核とミサイルで喧嘩して突っ張った父親の勝利という判断なのだろう。核とミサイルだけが国家を外敵から守り、自身の生命と地位を守り、王朝を永続させる戦略だと盲信しているだろう。15年前の危機以降の歳月は、この男の観念では北朝鮮の成功体験であり、唯一の正しい路線が結果として証明された過程なのである。実際には、ソウルを火力で人質にとっていること、中国が国際社会で矢面に立って崩壊から守っていること、この二つが北朝鮮が国家存立できている基礎なのだが、このカルトの王の脳内ではそうではなく、核・ミサイルの開発を断固として貫徹したこと、米国を挑発し続けたことが正解だったという結論と総括になる。錯誤が真理に化けてしまう。中国の要求に対しても妥協せず拒否することが肝心で、中国は必ず腰折れするから、孤立こそが中国を巧く操縦するコツだと確信しているのに違いない。この男の前半生の体験は、破滅の選択を「成功法則」として錯覚してもおかしくないものだった。

現実政治の決定や進行が、独裁者の無法なリーダーシップで遂行されるようになるのと並行して、その政治の内実も変容し、戦後世界の基本であった平和主義の常識が衰え、軍事主義・戦争主義の手法が前面に押し出る状況になっている。力で問題を解決する空気が支配的になってきた。



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by yoniumuhibi | 2017-04-15 23:30 | Comments(3)
Commented by 長坂 at 2017-04-16 00:05 x
スノーデンのTWによると、MOAB一発1600万ドル。3億1400万ドルのプログラム。破壊されたISの地下ネットワークは元々CIAが資金援助して作らせたムジャヒディントンネルだそうだ。うまい具合にIS兵士36人だけが死亡して、他に犠牲者がいないなんて信じられない。そもそもこんな爆弾をアフガンに落としていいの⁉ マクマスターが6月までに、5万人規模の Boot on the ground、地上軍をシリアに派遣すべきと。( 幼子にもサリンが使われたのに、何故か米軍には使われないと確信している。)
ラストベルトのミドルクラスがぁーは僅か数ヶ月で終了。IS掃討を理由にイラク、シリア、アフガン侵略が待てないネオコンのいつものアメリカに戻った。5月に大統領選のイランはどうなるんだろう。
Commented by 愛知 at 2017-04-16 06:12 x
プーチンは「あの戦争(アフガン)は正しかった、さもなくばアメリカが居座った」と言っています。今や「意識の軍国主義化」が起きています。ある種の新しい愛国主義です。「私たちには偉大なロシアが必要だ、犠牲もためらわない」と。そして、見出そうとする活路は一つ、お決まりの軍事侵略です。今、民主主義が後退せざるをえない時代に、私たちは生きている、とさえ言えます。 (中略)私は、30年以上ソビエトについて書いてきました。私たちは、百年間どう生きてきたのか。1990年代、我々はロマンチストでした。ペレストロイカ路線は、すぐ自由がおとずれると思っていました。みんな広場に出て、自由、自由と叫びました。でも、その意味は誰も知りませんでした。自由について話し、夢見ましたが、自由な人間はいませんでした。収容所の中に居た人間は、かえって、釈放されても、翌日からすぐ自由になることはできないのです。そして、プーチンがでてきて、あのロシア的な決まり文句を唱え始めました。「我々は偉大なロシア、そして誇りと地位を取り戻し、立ち上がろう」。人々の86%が、プーチンを支持。(中略)私が思っているのは、現在の世界のナショナリズム、偏狭な保守主義の台頭は、小さき人々が、とても脅えてしまっていることと、結びついている、ということです。そして、この小さき人々は、トランプやプーチンのように、全ての問いに、すばやく答えてくれる人を求めるのです。 これが、私たちが今いる現実です。 ―――長くなりましたが、ロシア批判ではなく、スベトラーナ・アレクシエービッチ~こころの時代~「“小さき人々”の声を求めて」 の文字起こしから。まだ視聴は2桁でしたが、Dailymotionに動画がアップされていました。
Commented by おにぎり at 2017-04-17 10:22 x
一部の半島専門家は年初から、米軍の動きが慌ただしくなっていることを指摘していました。
日経の鈴置記者で、多分世界で一番半島について詳しく、米国アジア専門家・高官ともつながりがあります。
「早読み 深読み 朝鮮半島」
鈴置 高史日本経済新聞社編集委員
(リンクを張れないので検索してみてください)
サイト記事をまとめたものを年二冊の割合で本にしているので、読んでみるとよいです。
リンク先は日経ですが、登録するとスパムが贈られるので、ヤフーなどでアドレスを取って登録するとよいです。

北の直接の核の脅威は、米国本土を狙える能力を得ると
欧州も含む、北朝鮮を中心とした北半球の大半がすっぽりと入る事になります。
これが深刻なんですが、もう一つ脅威があって
北朝鮮は兵器売却もビジネスでやっていて、ミサイル技術や必要な素材を作って中東に売ってるようです。
マレーシアはアセアンの北朝鮮ビジネスの中核になっていて
ここの北朝鮮人(大使館関係者が主導)がマレーシアに欧米や日本から精密部品を輸入して
こちらで組み立てて中東などへの兵器売却を行ってるそうで
(ミサイル完成品をではなく、ミサイルの中枢部の欧米が輸出制限している高精度・精密部品)
北朝鮮本国を通さない、兵器売買ビジネスを行ってる。
本国は本国で基本的な能力向上を進めていて、それには日本の北朝鮮系企業の資金
在日学者の技術提供(が判明して、日本への入国禁止を食らっている)
北朝鮮系企業による、アセアンの拠点への精密部品輸出がある。
だから危機としては、米国と北朝鮮だけの話ではなくて
欧州あたりもこのままだと射程に入りますし、ミサイル拡散の話も絡む問題でもある。

いじめる心算はないですが、かなり異常な発想なので理解できないのはしょうがなくても
もっと危機レベルが小さい段階で、軍事的対応をかけてでも処理してしまうべきだった。
ソウルの被害がと言っても、あんな場所の都市を首都にするのが間違いで
冷たい言い方をすると、本来内戦で終わるべき話を南北で処理できず
日米中ロも巻き込まれて引き摺り回されてる話です。


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