米国によるシリア攻撃の動機と構図 - 化学兵器テロの真犯人は誰なのか

c0315619_14324302.jpg米国によるシリア攻撃について、必要十分なコメントは7日夜に報ステに生出演した井上達夫がすべて語った。簡潔で明快な正論の主張であり、付け加える論点は何もない。法的正当性の観点から鑑みて、これは明確な国際法違反の侵略戦争だ。国連安保理の決議もない。有志連合という形式さえも整えなかった。井上達夫が言ったとおり、4日に起きた化学兵器使用事件については、その犯人がアサド政権であるという確証はない。そして、今回の構図は、米国がイラク戦争を始めたときの「大量破壊兵器」の口実と全く同じではないか。あのとき、米英はサダム・フセインが「大量破壊兵器」を隠し持っていると言い張り、情報機関が捏造した「証拠」を国際社会に見せ、世界中のマスコミと人々を騙して虚構を信じこませた。井上達夫は、健忘症ではないかと言ったが、私も同感である。特に欧米のマスコミ報道を鵜呑みにして、アサド政権を犯人だと決めつけている日本の左翼(しばき隊)には猛省を促したい。イラク戦争によってどれだけの犠牲者が出たことか。サダム・フセインは冷酷で残忍な独裁者であり、恐怖政治で国内の人々を弾圧し殺害していたが、だからと言って、米国によるあの侵略戦争を正当化することは絶対にできない。フセインを打倒し排除できたからよかったという結論にはならない。



c0315619_14331039.jpg NHKのニュースでも報道されたが、国連安保理では、理事会メンバーであるスウェーデンとウルグアイが米国のシリア攻撃を不当だと批判している。化学兵器使用の犯人がアサド政権であると確信できる証拠があったなら、スウェーデンが米国を批判することはなかっただろう。確証はないのである。せめて、日本の左翼はスウェーデンと同じ慎重な立場に立つことはできないのか。思い出す必要があるので指摘したいが、2013年にアサド政権が反政府派の市民に対して化学兵器を使ったとする事件についても、真相は未だに藪の中であり、アサド政権が本当に犯行したという確証はない。米国とEUはアサド政権の仕業だと一方的に断定し、これを既成事実化しているけれど、当時はその報道や主張に対して、謀略とプロパガンダの可能性を疑う者が国内にも少なからずいた。思い出さないといけないのは、オバマがその事件を口実に、「一線を越えた」としてアサド政権への軍事攻撃に動いたことと、それに同調しようとしたキャメロンに対して、英国議会が断固拒否し、徹夜の討論の末の多数決で参戦を否決した事実だ。保守党議員の一部までが反対に回ったのは、イラク戦争の際の苦い失敗の経験があり、「大量破壊兵器」のウソを信じこんでしまった悔悟と反省からだった。

c0315619_14332889.jpg英国の議会制民主主義の偉大な勝利の瞬間でもあった。今回、トランプはオバマと同じ「一線を越えた」という台詞を言っている。健忘症にならず、思い出さないといけないのは、2003年のイラク戦争開戦時の「大量破壊兵器」の口実と共に、今から4年前のシリア情勢をめぐる緊張とその顛末だ。ロンドンでは、「Hands off」のプラカードを掲げた市民の抗議デモが起きた。このとき、私は、市民を狙った化学兵器のテロがCIAによる工作ではないかと疑う記事を書いている。米国がシリア内戦に介入してアサド政権を潰す大義名分を得るための、巧妙に仕組まれた謀略の可能性を指摘した。今回の、4日の化学兵器事件と7日未明のトマホーク攻撃を見て、2013年のときと構図が瓜二つであることを確信する。日本国内では、また西側世界では、アサド政権が頻繁に化学兵器を使用し、反政府軍側の民衆を殺戮しているという情報が流れ、プロパガンダが横溢し、その言説が留保なくまかり通っている。だが、具体的にその戦争犯罪が証明された事例はない。政府軍が病院を空爆しているのは明白だが、市民を化学兵器で攻撃したと断定できる証拠は一つもない。そもそも、サリン弾を市民に投下することは大変なことで、そのような作戦を敢行する動機や理由はアサド政権側にはない。

c0315619_14334351.jpgアサド政権がそれを行えば、国際社会から轟然と非難が上がって不利になるのは明らかだろう。要衝のアレッポを陥落させ、内戦の勝利に道筋をつけたアサド政権が、無辜の市民をサリンで大量殺戮する必要はどこにもない。シリア内戦を第二次大戦に擬えれば、アレッポはスターリングラードである。この都市の攻防が戦争の行方を決める意味を持ち、内戦は峠を越えて終盤に向かっていた。反政府軍側が反撃に転じる可能性は消え、アサド政権にすれば熟した柿が落ちるのを待つ状態に他ならず、ロシア軍のシリアからの撤退も始まっていた。4日のサリンテロの虐殺事件は、7日の米軍の攻撃によって焦点が逸らされ、検証されないままアサド政権側の行為として既成事実化されてしまった感がある。動機という観点からサリンテロの真犯人を推理するならば、アサド政権は動機を持っていない。アサド政権と敵対して崖っぷちに立っている反政府軍側が動機を持っている。事件がアサド政権の仕業だと断定され、その報道を世界中の人々が信じこめば、アサド政権を憎悪する国際世論が高まり、米国や英仏が軍事介入する方向に賛成する声が高まる。今回の構図が4年前と同じなのは偶然だろうか。トランプは、たった2日でトマホーク攻撃を決行した。サリンテロの証拠を確認するでもなく、国際世論の醸成を待つでもなく。

c0315619_14340046.jpg目加田頼子がコメントしていたように、2日という時間はあまりにも短すぎる。ここで4年前を思い出し、動機という点に着目して全体の鳥瞰を試みれば、真犯人の像は自ずと別の地平に輪郭をあらわすだろう。犯人がアサド政権でないとすれば、このような化学兵器を使った大規模なテロ作戦を、証拠を残さずオペレーションできる軍事組織というのは、世界中でたった一つしかない。また、誰が真犯人かを特定し、最も緻密かつ正確な説明でわれわれを得心させられるのは、おそらくエドワード・スノーデンだろう。私の推理を言えば、4日のサリンテロと7日未明のトマホーク発射という時間の短さこそに意味があり、最初に7日未明というミサイル攻撃の計画があり、それに合わせて2日前のサリンテロが準備され決行されたと真相を推察するのが合理的だと思われる。二つを起こした主体は同じで、事件は繋がっている。7日未明という時刻は、米中首脳会談の晩餐会の最中で、誰でも分かるとおり、シリア攻撃は中国に対する当てつけの意味を含んでいた。北朝鮮への石油禁輸を決断せよというメッセージの発信であり、そのサプライズを効果的に演出すべく、首脳会談中のタイミングで軍事行動を命じている。7日未明のミサイル発射ありきであり、逆算して、軍事攻撃を正当化する根拠とするサリンテロを4日の日程で設定したのだ。

c0315619_14343067.jpgこの二つの事件は、トランプ政権が支持率を回復させるために起こしたものである。真の動機と目的はそこにある。と同時に、この事件はトランプ政権内部の権力闘争が反映されたものだ。情報によると、バノンは最後までシリア攻撃に反対していて、そのためNSCメンバーから排除されたと観測されている。参謀のバノンはトランプを大統領にした最大の功労者だが、同時に、ロシア・コネクション(ロシア疑惑)の中枢にいる黒幕の人物でもある。バノンを切ることによって対ロシア政策の方針転換を決定づけ、その変化を内外にデモンストレーションするべくシリア攻撃に踏み切ったと分析することができる。おそらく、ロシアに関係する疑惑の全てを失脚したバノンに押しつけ、責任を被せて始末する思惑だろう。DCに人脈のないバノンには反撃する術がない。要するにこれはクーデターであり、事実上、トランプ政権はマティスとペンスの政権に移行したも同然と見てよい。新興のオルタナ右翼が切り捨てられ、正統たるDC右翼(ネオコン・軍産複合体)がヘゲモニーを掌握して政権の安定度は増す事態となった。安保外交を仕切る主役はマティスとなり、マティスの軍事政権が誕生したと言えるかもしれない。私は、イドリブ県での化学兵器テロがアサドの犯行だとは認識しない。動機の点も重要な要素だが、アサドがそれを決行するときはプーチンの承認が要る。

c0315619_14400482.jpg仮にアサドが化学兵器テロを行い、言い逃れできない形で証明された場合、被害の大きさや残虐さからして、プーチンが国際社会で決定的な苦境に立たされてしまう。孤立化して四面楚歌のロシアがさらに深刻な窮地に陥る。プーチンに頼って生き延びるしかないアサドが、プーチンを政治的に追い詰める愚行を犯すはずがない。よしんば、プーチンがアサドから化学兵器使用の打診を受けたと仮定して、プーチンがそれを許可するはずがないのだ。私はそう理解する。プーチンは、ロシア防衛のためなら核兵器のボタンを躊躇なく押せる男で、ウェーバーの言う、悪魔と手を握ることのできる冷徹な指導者だが、中東の無辜の人々を化学兵器で大量殺戮して開き直る狂気は持ち合わせていない。とまれ、4日のサリンテロ事件には犯人がいる。悪魔の飽食の作戦を指示した権力者がいる。許すべからざる人類の敵で、極刑に処すべき犯罪者だ。論理的な考察を詰めて犯人を絞り込めば、AとB、二つの集合系が被疑者として浮上する。Aはアサド・プーチンの2人。Bはマティス・ポンペオ・トランプの3人。AかBか、どちらかが真犯人であることは間違いない。この推論と仮説に誰も異論はないだろう。皆さんは、どちらが真犯人だとお考えだろうか。理性のない狂気の、中東イスラムの子どもを残酷に殺害して心に痛みを覚えない、悪魔のパラノイア人格の持ち主はどちらだろうか。



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by yoniumuhibi | 2017-04-10 23:30 | Comments(7)
Commented at 2017-04-10 18:41 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by 長坂 at 2017-04-11 03:52 x
内藤さんのtw結構読むのですが、シリアに関してどうしてああなのかと、いつも不思議です。
5日にホワイトハウスでヨルダンの国王と会談。その後の共同記者会見でシリアに対し行動を起こすと朝日にあります。なんでこのタイミングで国王がいるのかと。「戦闘車両を積んだアメリカの貨物船がヨルダンのアカバ港に向け出航。7日には陸揚げされ北上しシリアへ」と何人かの方がtw。
化学兵器の使用がトンキン湾事件という事か。安保理や議会の承認も待てない、国際法を犯してまでも一刻も早く子供達を救いたい。どの口が言ってんのか。アメリカンスナイパーは子供も殺してたね。誤爆と言いながらモスクも病院も学校も。イラクじゃ経済制裁で50万の乳幼児が死んだんですけど。トランプ支持のオリバー・ストーンがなんて言うかとtwチェックしてるのですが更新されていない様で。
Commented at 2017-04-11 09:40 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by 七平 at 2017-04-11 11:40 x
一旦、軍需産業が発達してしまうと、軍産複合体は麻薬患者が麻薬を欲するように、戦争をどこかで起こすか、続行せねば営利企業として禁断症状に陥ります。 莫大な軍産複合体を維持するには常時、戦争が不可欠と言っても過言ではないと考えます。 銃弾もミサイルも消費されないと生産ラインはストップしてしまいます。 軍需産業も大半は株式会社であり、株主の利益を上げる為、又、重役の懐を高給とStock Option で温める為に何ら一般企業と変わることなく儲ける事を至上命令として経営されています。

今朝のNYTの記事によると、先週、木曜日に発射されたミサイル59発に対する費用は約$60Million  一方、米国の戦争参入のニュースを受け、翌日の金曜日には米国の軍需産業の総括的株の市場価値は$5Billion 近く高まったとの事です。 ”戦争は儲かるビジネス。”との著者のコメントがなされています。 

シリア戦争で、一番大儲けをしているのは明らかに、米国とロシアの軍産複合体です。米国はアサド大統領を辞めさせる訳ではないと言い、米国から空爆の事前通知を受けていたロシアは、生温い反応しか見せていません。実際、標的となった空港には殆ど被害が見られない状態です。 結局、米露双方シリアでの戦争が続く事を望んでいる様に見受けられます。

誰がサリンを使ったのかは判りませんが、オウム真理教信者が作れた程度の神経ガスですので、作る事自体はそれほど難しくないのでしょう。 中東に平和が到来し、アラブ諸国内での対立が無くなると困る国や組織が絡んでいるのではないでしょうか。
Commented by NY金魚 at 2017-04-11 16:51 x
実にラディカルな推論に心を撃たれました。
実は当方も、あの醜悪な雰囲気のトランプ就任式の翌日から書きはじめた、アンチ・トランプのブログ記事をやっと今夜投稿したところです。途中幾度かアップするチャンスはあったのですが、その都度トランプへの嫌悪感が先立ち、そうこうしているうちにシリア攻撃にまで発展し、あわててアップしたわけです。あんな大統領と言えども、その100日間を追えばそこに歴史のようなものが生まれ、つい最近のシリア軍施設へのミサイル攻撃に至る細かい道筋が、自分では見えてきたような気になっています。
「シリア戦争」の項では、ずいぶん終りの方になりますが、世に倦むさまのこの記事とツイートを多少引用させていただきました。上のコメントの長坂様と同じく、内藤正典のツイートはよく読んでいます。最初に紹介していただいたのは世に倦む様ではなかったでしょうか。トランプのモスラム・バンなどに関して批判されています。かれのシリアの人民を思う人道主義的な立場は評価します。アサドは毒ガス以外でも数万人のシリア市民を殺したという記憶がかれのなかで鮮明なのかもしれませんね。
◆金魚ブログの方、http://nyckingyo2.exblog.jp/24080962/ 
少しづつでも最後まで読んでいただけると幸せです。
Thank You So Much.

Commented by tenten at 2017-04-11 20:34 x
「内戦に勝利目前のアサド政権が、どうして住民にサリン爆弾を落とさないといけないんだ。」それは内藤正典氏がよく知っていると思います。内藤氏はトルコ研究を専門にする前はシリアでフィールドワークを中心にアラブ世界を研究していたのでシリアをよく知ってます。内戦前のシリアはイスラム世界には珍しく世俗的で平和な国のようでしたが、それはかりそめの姿でアサド批判は御法度の言論統制された国だったそうで、それは内藤氏以外のシリアを知る複数のジャーナリストの言葉からほぼ正しいと推察されます。アサド「王朝」の人民弾圧には人民に対する潜在的な恐怖があります。それはアサド一家はアラウィー派というイスラムでも(一応シーア派とされるが)ごく少数派であるのに国民の大半がスンナ派で彼らは決してアサド一派を自分たちの真の代表ではない、と思っており、アサド自身もそれをよく知っているからです。アサド政権の人民に対する陰湿で残虐な行為は知る人ぞ知る、です。
Commented by tenten at 2017-04-11 20:55 x
【続き】内藤氏は、シリアで研究中たまたまフィールドワークが政権側の気に入らなかったらしく国外退去を命ぜられ、その後トルコ研究に転じたそうです。イスラエルが、イスラム世界の一員であるシリアのアサド政権を、もちろん敵対視しながらも「イスラム世界でも少数派」であるアサド一派に対して、政治的な興味を抱いているだろうことは、内藤氏の説明を聞いて納得のいくところです。「アラウィー派」は、一応シーア派に分類されながらそれとは似ても似つかぬ宗派のようで、中東研究家の高橋和夫氏(専門はイラン)に言わせれば「スンナ派・シーア派がセリーグ・パリーグとするなら、アラウィー派はクリケット、くらい違う」そうです。


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