共謀罪法案に反対する - 11年前との彼我、報道の軽さと国民の右傾化

c0315619_14334427.jpg共謀罪の政治戦が本格的に始まった。6日、共謀罪法案が衆院で審議入りし、今日(7日)の朝日は、2面、4面、12面(社説)、31面に関連記事を載せている。過去3回廃案になった共謀罪だが、最も激しい攻防が演じられたのは、11年前の2006年の4月から6月にかけてであり、やはり通常国会の後半戦の時期だった。ブログを始めて3年目の頃で、共謀罪の政治を追跡して4本ほど記事を上げている。それを読み直し、当時の経緯がどうだったかを思い返している。保阪展人も回顧を書いているが、明らかに世論は反対論が多かった。テレビで詳しく報道されるほどに反対世論が盛り上がり、その危険性が国民の間によく浸透し、国会で自民党が無理に押し通すことができない状況になって行った。あのときは、民主党が修正案を出し、与党からも修正の動きが出て、最後に民主党案を丸呑みするかという寸前で自民党と政府との足並みが乱れて流産の結果に終わった。保阪展人も書いているように、当時の与党は共謀罪法案に逡巡の気配があり、今のような強硬姿勢一点張りではなかった。2006年の通常国会は、小泉劇場で自民党が圧勝した1年後であり、数の上では自公は圧倒的だった。そして、このときに共謀罪を強引に押し通そうとしたのは、政権No.2で官房長官だった安倍晋三である。



c0315619_14335927.jpg当時のブログ記事にも書いているが、振り返って、明らかに公明党は腰が引けていて潜在的な抵抗勢力だった。安倍晋三が強引に成立に持って行こうとする動きに対して、世論を意識して躊躇する部分が自民党の派閥や公明党の中にあり、審議の流れの中で流産となった。空気が今とは違っていたことは、どうしても証言したいし確認しておきたい。報ステのコメンテーターは加藤千洋だった。当時の世論と専門家の見解の基準線は日弁連の反対論であり、その中身であるところの、行為ではなく意思が犯罪の構成要件にされ処罰の対象にされるという問題に焦点が当たっていた。近代刑法の原理と犯罪の概念を根本的に転換し、基本的人権を危うくする共謀罪の新設に対して、肯定的に評論するマスコミ論者はほとんどいなかったと記憶する。そこから考えて、今の国会や世論の現実が私には信じられない。当時、テレビでは福島瑞穂が論陣を張っていた。福島瑞穂の共謀罪の説明はとても分かりやすく、腑に落ちるものだった。最近のテレビを見ていて、キャスターたちが問題の中身を理解していない不具合を強く感じる。例えば、鈴木菜穗子や桑子真帆や富川悠太や小川彩佳は、共謀罪の法的構造と意味についてどこまで把握しているのだろうか。自分の言葉で共謀罪を説明できるのだろうか。共謀罪を論じるには幼稚すぎる者に見える。

c0315619_14341172.jpg共謀罪を説明するためには、構成要件という言葉が説明されないといけない。予備罪という言葉も説明されないといけない。犯罪と捜査と刑罰についての一般論が基礎から概説されないといけない。テレビを見て説明を聞いた視聴者が、翌日から「構成要件」や「予備罪」を自分の言葉で日常会話できないといけない。共謀罪というのは、決して簡単な問題ではないのだ。その必要な説明を、最も明解にできるエクセレンスの持ち主が福島瑞穂だった。今でもそうだろう。共産党議員の中には、これを立て板に水で講義できる者はいない。本当は、福島瑞穂がテレビに出て共謀罪を解説しないといけないのである。もし、共謀罪を国会で通すのなら、行為ではなく意思で人が取り締まられる社会に移行するのなら、せめて、共謀罪というものが何か、その法的事実がマスコミで正しく報道され、国民が知識を持って承認した上で、覚悟をもって踏み出して欲しいと私は思う。共謀罪について知識を持っていない、鈴木菜穗子や桑子真帆の話が軽く流れ、政府が言っている(国民を騙すための)空疎な説明書きが読まれただけで、この法案が通ってしまうのは、私には耐えられないことだ。11年前は、今とは同じではなかった。共謀罪の法律論に多くの者が関心を持っていて、「目配せしただけで逮捕」という反対派からの警句が人を説得していた。

c0315619_14342599.jpg11年前は、今のように反対デモが頻繁に行われるという情景はなかった。テレビで「共謀罪」が話題になる程度も、前回より今回の方が多いのではないかと思われる。だが、共謀罪についての正確な解説の提供がなく、共謀罪を知る上での法的基礎の概論がない。報道が劣化している。報道を届ける主体、報道を聞く主体、両方が劣化している。それと、以前にも述べたが、共謀罪を説明するときに、治安維持法の猛威に触れるマスコミ報道が少ない。思想を取り締まる法律だという言及がない。テレビを見ていると、共謀罪が内心の自由を侵害する恐れのある法制度だという指摘を、反対派の意見の紹介としてキャスターがしている場面がある。思想信条の自由や表現の自由の侵害になるという懸念が出ているということは、ニュースの音声の中で軽く触れられる。私は、鈴木菜穗子や桑子真帆の話 - 原稿朗読 - を聞きながら、この子たちは本当に「内心の自由」の意味が分かっているのだろうかと訝る。今は、キャスターを撮るカメラの位置にカンペがあり、キャスターはそれを自分の言葉のように、目線を変えずに読み上げている。「内心の自由」とは何で、それを法で取り締まるとはどういうことか、どういう歴史があったのか、彼女たちは思考と想像ができているのだろうか。内心の自由を奪われた者の苦痛や悲劇が認識できているのだろうか。

c0315619_14345153.jpg11年前のマスコミ報道では、共謀罪が治安維持法の復活だということは、ほとんどの番組出演者にとって共通認識のものだった。思想信条の自由、言論表現の自由を統制する狙いを秘めた治安立法だということは、政治的立場の左右を超えて共通理解のものだった。だから、櫻井よしこが反対の論陣を張っていたのである。言論する個人にとっては、これは容易ならざるものだからだ。今、ネットで世論の状況を調べると、例えばツイッターの検索で「共謀罪」を入れて反応を窺うと、圧倒的と言っていいほど賛成論を吠える右翼の声が洪水のごとくTLを埋める。これで早く左翼の活動家を捕まえろと煽っている。怒濤の勢いで右翼が溢れるTLを見ると、共謀罪に賛成世論が多いというマスコミ報道も頷けてしまう。11年前とは景色が変わってしまった。10年の時間は大きいと思う。ニュース番組のキャスターの言葉は、その時世の時事をハンドリングする標準コードであり、テンポラリーな座標軸だから、若い視聴者は共謀罪に対して、鈴木菜穗子や桑子真帆や富川悠太と同じ感性や態度でいいと了解してしまう。われわれのような一段深い危機感や焦燥感を持たない。そして確かに、考えてみれば、鈴木菜穗子や桑子真帆や富川悠太が共謀罪を扱う姿勢は、私とTLに溢れる安倍晋三信者の右翼の中間の立場ではあるのだ。「中立公平」を期しているのだ。

c0315619_14350406.jpg右傾化がいちだんと進んでいる。こういう本音を言うと、また左翼方面から叩かれて、しばき隊に口実を与えてしまうのだが、正直に言って、安倍晋三に4年間で4回も選挙で負け続け、安倍晋三の圧勝を4度も許しているのに、共謀罪だけは阻止できると考えるのは甘すぎると言わざるを得ない。国民投票のある憲法改正ならいざ知らず。11年前だって、共謀罪の阻止はギリギリだったのであり、棚からぼた餅の幸運で廃案に追い込むこめたのだった。無論、こう書いたからといって、共謀罪阻止を諦めたとか、白旗で降参などというつもりは毛頭ない。だが、選挙で安倍晋三に勝つ努力もせず、ただ既存野党の党利党略と数合わせに依存したまま、何度も何度も低投票率の選挙を繰り返し、その都度手痛い敗北を喫しながら、安倍政治を止めるとか、与党が連発する強行採決法案を止めるとか、そんなことが簡単にできるわけがないではないか。ムシがよすぎる。安倍晋三が選挙で勝つたびに、国民全体の右傾化は進む。国民の政治意識が安倍晋三に近づく。安倍晋三と同じ政治人格が増える。右翼が増殖する。選挙で負け、選挙と選挙の間の政治戦 - 秘密保護法、集団的自衛権閣議決定、安保法制 - で負け、安倍晋三の独裁体制が強化される。ツイッターでしばき隊のRTの頭数になっても、しばき隊の国会前デモの頭数に加わっても、止められないものは止められない。

安倍政治を止めるためには、選挙をどうにかしないといけないということ、選挙で勝つためにはラディカルな知恵と工夫が要るということが、どうして反安倍の有権者の中でコンセンサスにならないのだろうか。



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by yoniumuhibi | 2017-04-07 23:30 | Comments(1)
Commented by 愛知 at 2017-04-10 03:21 x
今次満洲国ノ新興ニ当リ帝国ハ其ノ独立ヲ尊重シ健全ナル発達ヲ促スヲ以テ東亜ノ禍根ヲ除キ世界ノ平和ヲ保ツノ基ナリト為ス然ルニ不幸ニシテ連盟ノ所見之ト背馳スルモノアリ□朕乃チ政府ヲシテ慎重審議遂ニ連盟ヲ離脱スルノ措置ヲ採ラシムルニ至レリ―――1941年7月の第3次近衛内閣時に文部省教学局より刊行された『臣民の道』ですが、そのタイトルで神戸大学の電子書籍で検索可能です。当時の朝日新聞などの記事も併せてアップされていました。貴下記事とずれて恐縮乍ら、根っこは同じかと。未来のための公共は、内閣府お墨付きの公共未来塾のパクリでしょうか。鼓腹撃壌の身乍ら、市民の血が流れない一助にでもなればと。


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