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「平等に貧しくなろう」の無策と退嬰 - なぜ介護ロボットを開発しないのか

「平等に貧しくなろう」の無策と退嬰 - なぜ介護ロボットを開発しないのか_c0315619_15353403.jpg上野千鶴子の「移民政策は無理」「平等に貧しくなろう」の発言について、前者には賛成だが、後者には反対だと私の立場を述べた。前の記事では、日本を移民社会に改造することを理想化し、米国型の多民族混合社会の夢へと狂奔するしばき隊と左翼を厳しく批判したが、今回は、後段の「平等に貧しくなろう」の問題について論じよう。上野千鶴子は中日新聞の談話でこう言っている。「大量の移民の受け入れなど不可能です。(略)移民は日本にとってツケが大き過ぎる。(略)だとしたら、日本は人口減少と衰退を引き受けるべきです。平和に衰退していく社会のモデルになればいい。一億人維持とか、国内総生産(GDP)六百兆円とかの妄想は捨てて、現実に向き合う」。日本を大量移民社会にするのは無理だから、人口減少と衰退を引き受けるべきだという結論と提言を置いている。この主張には私は全く同意できない。論理に飛躍がある。経済学の視点と思考がない。移民を受け入れて人口規模を維持しないと経済成長はできないという認識は、あまりに素人の発想にすぎ、社会を研究する学者として軽薄すぎる。反安倍の左翼側がこんな無策を言っているから、アベノミクスを唱える方に説得力が出て、国民の支持が安倍晋三に傾く方向に導いてしまうのだ。



「平等に貧しくなろう」の無策と退嬰 - なぜ介護ロボットを開発しないのか_c0315619_15363273.jpgこの上野千鶴子の主張に対して、良識ある若いリベラルから反論が上がり、その批判が正鵠を射ていたので私は安堵させられた。例えば、小池みきはこう怒っている。「私はずっと上野千鶴子氏が言うような生活、つまり『外食せずに家で鍋をつついて、100円レンタルのDVDを見て、ユニクロを着』る生活を送ってきて、それなりに幸せでもあったけど、だからこそ絶対、次世代に対して『生まれた時からこのレベルの生活でも大丈夫だよ』とは言えないよ」「私が、図書館の本と、ネットと、納豆ご飯とユニクロで幸せに生きられた要因は明確。子どものときに、上野氏と同世代のバブル経験してる親に、文化資本をこれでもかってくらい詰め込まれたからだっつーの。みんなで平等に貧しくなっていくサイクルの中では、『本当の豊かさ』の継承なんて途切れるわ」。おかだまゆこはこう切り捨てている。「上野千鶴子先生だけではなく、内田先生とか志位さんとかその他諸々、資本主義の恩恵をたっぷり受けて肥え太った有名どころの金持ちな老人がこぞって毎度毎度『豊かさを捨てよう!キャンペーン』はってるのって不愉快極まりないんですけど」。この二人の意見は、私の日頃の不満の弁と同じである。小熊英二と長谷部恭男・杉田敦に対して発した批判と同じ中身だ。

「平等に貧しくなろう」の無策と退嬰 - なぜ介護ロボットを開発しないのか_c0315619_15370117.jpg最近の左翼系の学者は、経済学の方法と視角でものを考えるということをしなくなった。左翼の議論からマクロ経済の観点が消えた。まず、日本経済の衰退とか低迷の問題は、高齢化と人口減少だけが唯一の原因なのだろうか。ここで思い起こさなくてはいけないのは、右翼がしばしば提示するところの、各国のこの20年間のGDPの推移のグラフである。この20年間で、米国は2.3倍。英国は2.4倍。フランスは1.8倍。韓国は3.6倍の規模になっている。日本は横這いで伸びていない。もし、日本も普通に毎年2%の成長を続けていれば、各国並みに2倍の規模になり、GDPは1000兆円に達している。GDPが1000兆円あれば、国家予算の歳入も税収だけで100兆円を計上するところとなり、今のように社会保障の財源不足でヒイヒイ言っていることはないだろう。介護殺人とか、漂流老人とか、子どもの貧困とか、そういう絶望と地獄の淵で悩んでいることはなかっただろう。20年間、間違った経済政策を推進し、誤った投薬と手術を続けたため、日本経済は本来の活力を失い、臓器不全となって寝たきりの重病患者になってしまったのだけれど、そうした分析と理解が今の左のアカデミーにはまるでない。全てを自然現象と受け止め、不可抗力の天災として認めてしまっている。

「平等に貧しくなろう」の無策と退嬰 - なぜ介護ロボットを開発しないのか_c0315619_15374829.jpgGDP1000兆円と言わず、せめて700兆円でもあれば、日本の高齢化と人口減少の問題は、今とは全く違う表象になっていて、今のような衰退滅亡の悲観的宿命論で観念されることはなかっただろう。高齢化しながら、労働人口を減少させながら、どうやって国民一人当たりのGDPを伸ばすか、教育で生産性を上げるか、国際競争に勝つ製品付加価値をつけるか、ストックをどう活用するか、海底資源をどう掘るかというような、前向きな諸方策が論じられたに違いない。若年労働力が足りないから移民をとか、介護のために移民をとか、そのような安易な政策論は発想しなかっただろう。そのことは、しかし、今でもそうなのだ。GDPが700兆円にならず、500兆円のままで低迷しているのは、マクロ経済的な理由と原因があるからである。理由と原因とは、毎年24兆円ずつ増え、377兆円も溜まったテリブルな内部留保である。60兆円のタックスヘイブン税逃れ資金である。24兆円というのは、税収の約半分の規模だ。共産党や左の論者たちは、それでも弱々しく、経済が伸びないのは国内の個人消費が冷え込んだままだからで、賃金が抑えられているからだと一般論を言う。そのとおりだ。内部留保を資本セクターから労働セクターに戻せば、個人消費が伸びて日本経済は活力を取り戻し、税収が上がって社会保障の財源ができる。

「平等に貧しくなろう」の無策と退嬰 - なぜ介護ロボットを開発しないのか_c0315619_15381993.jpg左翼の論者は、一方の口で、経済が低迷しているのは個人消費が伸びないからで、その元凶は低賃金 - 非正規という労働法制改悪を含む - だと言いながら、片方の口で、もう日本経済は少子化で伸びないから、移民を受け入れて介護を担ってもらうしかないなどと矛盾した論を唱えている。移民を入れたらさらに低賃金になり、格差と貧困が深刻になるのに、多文化共生社会万歳と言って大量移民社会の到来に目を輝かせている。少子化の進行を、多文化共生社会の理想へ向かう条件として歓迎している。歯止めをかけようとしない。実際には、日本の少子化は、低賃金と非正規が大きく影響していて、結婚できない、家族を持てない、人生設計を描けない若者の現実が、子どもが増えない第一の要因であるのに、そのことに真面目に目を向けて対策しようとしない。「カチッと契約」労働で、夫婦2人で非正規で食べて行ければいいやなどと、岩波・東大系が無責任なことを言っている。出産しなくてはいけない生体、育児に専念しなくてはいけない主体に、無理に仕事をさせている。社会の再生産を途絶する政策を進めている。1人の世帯主が4人家族の生活を賄うインカムがあれば、夫婦で2人の子どもを育てられ、社会の単純再生産は可能である。森永卓郎が「年収300万円」の本を出す前は、その所得水準が当然で、2人の子どもは借金なしで大学に進学できる仕組みだった。

「平等に貧しくなろう」の無策と退嬰 - なぜ介護ロボットを開発しないのか_c0315619_15394412.jpg少し脱線するが、毎年2000万人ずつ人口が増えているインドでは、商店や街路を見て目に入るインド人は8割が男である。働いている者、歩いている者、携帯電話をかけている者、座っている者、街中に恐ろしいほど人は溢れているが、その8割は男で、女は2割しかいない。自動車、リキシャ、バイク、運転しているのは全員が男で、ハンドルを握っている女は1人も見なかった。外で活動しているのは男。ジェンダー(女性の人権)の観点からすれば、とんでもない野蛮きわまる差別の国だが、インドはそれで経済を回し、インド人はそれで家庭を営んでいて、人口をどんどん増やして怒濤の経済成長を遂げている。そして、政府による教育は男女平等にやっている。10年経ったら、街の光景の男女比が8対2から6対4になるのか。私はそうはならないだろうと直感する。谷口真由美が面白いことを言っていて、女に対して、仕事もせえ、介護もせえ、子どもも産んで育てろ、社会で輝いて活躍せえ、あれもせえこれもせえと何から何まで役割を押しつけられたら、女は身が保たないよと言い、関口宏が苦笑していた。実にそのとおりで、インドは日本と違って女に何から何まで押しつけていない。女性が20代後半で第一子を産んで母親となり、家族の将来設計に沿って安定的に生きられる社会でないと、共同体を再生産することはできないのだ。共同体は死滅する。

「平等に貧しくなろう」の無策と退嬰 - なぜ介護ロボットを開発しないのか_c0315619_15400448.jpgわれわれは、共同体を再生産不能に陥れる、ヒトとして間違った生き方を選び、誤った社会設計を正当化するイデオロギーを身につけてしまったのではないか。男だらけのデリーの街を眺めながら、そういう想念を抱いた。ジェンダー主義 - 家父長制否定革命の脱構築 - の思想は、果たして100年後も世界で生き続けているだろうか。最後に、インドの次に中国の現実を取り上げて、この問題についての私の論点提示にしたい。これから急激な人口減に直面する中国は、規模が大きすぎて、介護を移民で埋めるなどとてもできないと、ツイッターで誰かが言っていた。きわめて重要なポイントだ。そして、中国は何かで介護を埋める覚悟でいて、解決策を真剣に模索している。具体的に何かと言うと、介護ロボットのハードの開発と普及である。1月のNHK-BSのドキュメンタリー番組で紹介していて、何とも面白い内容だった。創新グループというベンチャーファンドがあり、そこの女性マーケティングマネージャーが優秀で、25年前の島耕作そのものの姿で活躍していた。中国をロボット最先端の国にしようと野望を持つIT企業の若い技術者の社長がいて、彼女が一生懸命にその会社を応援する話だったが、実によかった。英語ができて、ITのスキルもあり、ビジネスセンスがよく、とにかく働き者で、朝から晩まで担当する企業を回り、深夜にオフィスに帰ってきて会議の資料をパワーポイントで作成していた。

彼女が頑張るのは国のため社会のためで、中国は人口が多すぎ、大量の大学生が卒業しても職に就けない苛酷な状況にあるから、何とか自分が頑張って、新しい産業を興し、中国の最先端産業が世界の市場で生きていけるように育成し、これからの若い中国人に雇用機会を与えたいのだと、そう希望と抱負を語っていた。テレビの前で、私は感動して拍手してしまった。素晴らしい。海外の(英国や米国の)AI系・ロボット系のファンドやベンチャーを深圳に呼び込み、中国発の世界のエクセレントカンパニーを作るのだと奮闘していた。本当は、それは日本がやっていなければいけないことで、15年前にそういう日本の優秀なビジネスマンがいて、NHKが撮らなくてはいけなかった話ではないか。どうして日本は、介護労働を移民で埋めようなどという貧しい発想しかできないのか。策がなく、アイディアがなく、後ろ向きなのか。大胆なイノベーションの挑戦で革命を起こし、国を再浮上させようとしないのか。常識を打破するブレイクスルーをしないのか。上野千鶴子みたいな、内田樹みたいな、経済と産業と企業を知らない、くっちゃべり貴族の脱構築屋の社会学者の粗雑な放言が、この国の政策論として議論になってしまうのか。悔しくてたまらない。


「平等に貧しくなろう」の無策と退嬰 - なぜ介護ロボットを開発しないのか_c0315619_15403650.jpg

by yoniumuhibi | 2017-02-21 23:30 | Comments(4)
Commented by 七平 at 2017-02-23 05:19 x
日本経済の衰退とか低迷の問題は、高齢化と人口減少だけが唯一の原因なのだろうか?。との問題をブログ主様が提起されています。私は、それらは確かに一要因ですが、以外にもっと大きな原因があると思います。私が最も危惧している、2点コメントさせていただきます。

まず、戦後から奇跡の復興を成し遂げた日本経済体制自体、Unsustainable (持続継続不可)であったと考えます。確かに、官民一体で猛烈社員が戦士のごとく、商品を開発し作り、輸出を伸ばし、外貨を稼いで日本を豊かにしたのです。しかし、家族そろって夕食も共にできない様な体制は、Unsustainable です。加えて、為替による足かせを嵌められ、1ドル360円から113円のレートに変動した現在では、日本でしかできない物でないと国際市場で競争力を失って行きます。家電産業に観られる栄枯盛衰は明らかです。他の輸出産業にも広がると思います。 Globalization に伴い、技術や情報の移転は早く、日本国内で絶えず奇抜な先端技術を生み出し、商品化を続けねば競争から振り落とされます 

第二点は、上記の ”日本国内で絶えず、先端技術、経営アイデアを生み出せるのか?” の問題になるのですが、答えは難しいと言わざるを得ません。日本の教育、教育制度が時代遅れであるからです。英語教育も含め、日本の教育システムの欠陥に関して書き始めると、延々と描き続ける事になりますので深入りしませんが、暗記力と反芻力を度重なる試験で測りDRAM型の人間を選び、企業や官庁のリーダーにしたところで、教科書の無い世界に突入している昨今、解決策は望めないと思います。DRAM型の人間は真似事しかできないからです。


Commented by カミブクロ at 2017-02-23 21:20 x
労働組合について調べていたら偶然このブログを発見しました。私は管理人様と意見は違うけど、あなたの意見は面白い!
Commented by 七平   at 2017-02-25 01:50 x
自浄という単語が日本語にあるのですが、歪んだIdeology と既得権にしがみつく無能者に寄るお上体制が一旦できてしまうと、落ちるところまで落ちてしまうか、外圧でも無い限り”自浄”はできない、日本はそんなお国柄だと思います。

人質事件に関しては、外紙が突っ込んだ捜査と真相暴露をしませんでしたが、安倍晋三率いる右傾化に関しては厳しい目が注がれています。塚本幼稚園の件、園児の父兄をInterview をした内容も含め、今朝の NYT で 要点を抑えて報道されています。”生の声” を報道しない編集尽くめの日本のマスコミ記事より、信憑性があるようです。  URL を挿入すると投稿妨害に会いますので、New York Times に Log in して ”Kindergarten in Japan"  の キーワードCopy-Paste して検索すれば記事が読めるはずです。 

先回の投稿で軽く日本の教育問題に触れましたが、上記の記事にあるように幼稚園児に教育勅語を暗記させるなど、時代錯誤と逆行、狂気の沙汰だと考えます。教育勅語暗記や隣人の偏見を強要するような環境下で子供たちに自由な創造性がはぐくまれる訳がありません。宇宙に地球のような衛星が発見されるご時世に、日本会議とやらに属する連中は日本を醜い化石にしたいのでしょうか? 

ブログ主さんにお願いですが、日本の教育問題に関しての記事をご一筆ください。日本の将来に係わる事です。
Commented by ROM者です。 at 2017-02-25 16:33 x
要はかつてのアメリカのT型フォードや東芝の白熱電球の様な大量普及の様な事を今こそ、この日本で介護ロボットの分野で率先して行なっていかなければならない、という事ですよね?

なんで、特に今の野党・左派陣営にはこういう先を見据えた展望がことごとく欠けているのか?
人口減少傾向への安易な追認や移民導入への場当たり的な策ばかりなのか?
のというのは確かに痛感致します。


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