ナイラ証言を想起させるアレッポのバナ・アベド - 戦争とプロパガンダ

c0315619_17114590.jpgアレッポの悲劇を伝える7歳の少女バナ・アベドが、マスコミやネットで頻繁に登場して話題になっている。昨夜(20日)のNHK-NW9でも映像が紹介されていた。一見して、自然に家族が撮ったという感じではなく、プロの人間が周到に演出し編集した作品のような印象を受けた。ネットで検索して調べると、やはりと言うべきか、少女の実像について疑念を抱かせる情報が出ている。アレッポから彼女を避難させようとしたシリア政府寄りの活動家が、本人に接触した経緯を示した上で、英国の情報機関と繋がったプロパガンダの道具だと確信したと、そう証言している。無論、この活動家は、政府側の人間であり、この記事もロシアの通信社であるスプートニク発のものだから、その点は注意して総合的な判断をしないといけないのだが、バナとTwでコンタクトしたとき、「母親」であるはずの返信者がアラビア語での交信を嫌がり、もっぱら英語でのやりとりを求めてきたことを明かしている。バナのTwも英語での発信で、だからこそ全世界から同情を集め得たのだが、アレッポで普通に暮らすシリア国民なら、日常使う言葉はアラビア語であるはずだ。テレビに登場する映像でのバナの表情を見るかぎり、カメラを向けているのが肉親(母親)とはとても思えず、プロパガンダの制作物の被写体(子役女優)になりきっている。



c0315619_17115854.jpgここで想起するのは、26年前の湾岸戦争のときの「ナイラ証言」である。ナイラという15歳の少女が米議会の委員会で証言し、多くの残虐なイラク兵がクウェートの病院に乱入し、保育器に入っている新生児を片っ端から床に放り出して殺したと「目撃談」を語った。この証言は衝撃を呼び、米国の世論を大きく動かし、それまで参戦に消極的だった米国を湾岸戦争に突入させる契機となる。だが、実際には、この証言は嘘八百で、ナイラなる少女は一度もクウェートに行ったことがなく、その正体は米国内でずっと育ったところの、クウェート駐米大使の娘だった。イラク兵の蛮行の話は全くの虚偽であり、世論操作のために米国の広告会社が仕立てた作り話だった。それが明らかになるのは、湾岸戦争終結から1年後のことであり、米国の記者の調査によって発覚し暴露されるところとなる。26年前のことだが、有名な事件なので誰でも知っていることだ。また、湾岸戦争において、原油まみれになった水鳥の映像がテレビで流され、イラクによる仕業だと説明されたが、それが真っ赤なウソで、実は米軍が原油施設を爆破して故意に流出させたもので、イラク非難の国際世論を惹起するものだったことも常識である。さらに、あのイラク戦争の開戦の口実となった「大量破壊兵器」がウソだったこともわれわれは知っている。

c0315619_17123418.jpg中東で英米が戦争にからんで策動し、国際世論を味方につけようとするときは、必ず、このようなプロパガンダが情報機関によって流される。それは、サイードが『戦争とプロパガンダ』で告発したである。シリア政府側による調査と検証では、バナ・アベドのアカウントは英国で登録された可能性が高く、「ホワイト・ヘルメット」というヌスラ戦線と繋がったNGO組織と深く関わっている疑いが濃厚だ。問題の「ホワイト・ヘルメット」は、日本のマスコミ報道では語られないが、アレッポ情勢においてはきわめて重要なアクターである。表面上は、反政府軍支配地域で活動する人道救助のボランティア団体であるけれど、結成を主導したのはNATOの諜報部門に勤務経験のある英国人であり、欧米諸国から資金を得てアサド政権打倒のために暗躍している工作機関としての裏の顔を持っている。今、属国政府の下で官邸の言うままを垂れ流しているマスコミはともかく、サイードを熟読しているはずの日本の左翼が、どうしてバナ・アベドの映像やTwのメッセージに対してプロパガンダではないかという疑念を持たないのか。私にはまったく理解できない。すでに12月7日の時点で、ニューヨークタイムズですら、バナ・アベドとそのTwの信憑性を疑う記事を配信している。ニューヨークタイムズがバナ・アベドを眉唾だと見ているのに、日本の左翼や朝日新聞がそれを丸ごと信じこむのはなぜだろう。

c0315619_17124756.jpg不思議なのは、2年前のウクライナ内戦のときは、日本の左翼は、スプートニク社の報道をさかんに援用し、ウクライナのネオナチ極右勢力であるスボヴォダの内実を衝き、欧米が支持する反ロ勢力の主張を鵜呑みにすることはなかった。ヤツェニュクがマケインと癒着している事実を批判し、ウクライナの反ロ政権を操っているのが米国のヌーランドであることを暴露していた。こうしたカウンターの言論によって、ウクライナの「反ロ市民革命」の評価は相対化され、米国やマスコミの思惑どおりの世論が形成されることは避けられたのである。一方に偏らないバランスのとれた認識を持つことができた。「市民革命」あるいは「民主革命」あるいは「大国ロシアの横暴に対する抵抗運動」として世界に喧伝されているウクライナの絵が、実は米国が裏で糸を引く狡猾な「カラー革命」の策動であり、その狙いがプーチン潰しとロシア連邦解体にあることが次第に了解されるネット言論となり、そのことで、マスコミの偏向や一面性を補うネットの意義が認められる結果に導いていた。ところが、今回も同じようにスプートニクは独自のアレッポ報道をしているのに、それに目を向ける日本の左翼がいない。これはいったいどういうことだろう。シリア内戦においては、ロシアとアサド政権はとにかく最初から悪玉のレッテルが押しつけられ、欧米が支援する反政府軍が善玉という構図に確定されている。

右から左まで、ファッショ的にその認識で一致していて、異論を唱える者が誰もいない。
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by yoniumuhibi | 2016-12-21 23:30 | Comments(2)
Commented by 長坂 at 2016-12-21 21:08 x
リメンバーボスニア、リメンバーコソボ。広告代理店ルーダー・フィンによる「民族浄化」のプロパガンダがNATOの軍事介入を正当化、激しい空爆を繰り返し、停戦後いつの間にか南コソボに巨大米軍基地「ボンドスティール」誕生。アメリカが関わっているものは先ずは疑ってかからないと。
5年前に書かれた国枝昌樹の「シリア アサド政権の40年史」を読んでいますが、世界はいとも簡単にアルジャジーラの情報を鵜呑みにし、とにかくアサドが憎くてしょうがないらしい。仮にアサドを退陣に追い込んだとしても、じゃその後はより民主的な政権になる?宗教対立はなくなる?親イスラエル?ンなわけないじゃん!シリアにはロシアから数百人の軍事要員がいるしシリア人と結婚している者も多いと。国際社会はたまにはロシアのいう事も聞けば?
因みにチュニジアの焼身自殺をした青年をひぱったいたとされる婦人警官は、そんな事はしていないそうです。
Commented by 七平 at 2016-12-22 02:24 x

中東で何万人もの人命を救うには時遅しですが、少なくとも外国でのPropagandaが、外国人のJournalstにより暴かれ、一般もそれらがでっち上げの世論誘導のNewsであった事を認めるに至っています。 真実が浮上した事自体、次は騙されない免疫を与えますので、せめてもの慰めかと思います。

記事の中に ”プロの人間が周到に演出し編集した作品” との記述があり、後藤健二の ”この先は私の責任ビデオ” を思い出さずにはいられませんでした。NHK制作、情報統制特務機関編集、安倍晋三お墨付きで映画のロードショウの様に全日本、トルコ経由で全世界に放映されたわけですが、 よく考えると前述のPropagandaより悪質なPropagandaだと思います。子供を使う変わりに、日本人二人の命を世論誘導と選挙の為に、犠牲、生贄にしたというのが事件の本質です。情けない事はあれだけの状況証拠と分析を本サイトが2年前に提供したにも関わらず、秘密保護法を恐れてでしょうか、野党もJournalistも真実を暴露しない事です。

シリア戦争は終結に向かっていますが、英米日の軍産複合体は、必ず次の戦争を企てていると思います。日本にとって大切な事は、ばら蒔かれるであろう餌を喰わない事です。無知な安倍晋三が如何に毒饅頭を食い漁っても、旗振りをしても、国民の民意を主張し、はっきりと戦争に対し ”NO" を突きつけるべきです。

東アジアの将来は、思想的にも精神的にも戦争を好む英米追随型であってはいけないと思います。比喩的なメッセージになりますが、リオOlympic でのメダル数をみる時、中国、韓国、日本を合わせると 米国を上回った事に気づいた人は何人いるでしょうか?



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