「共同経済活動」の欺瞞 - 真相を言わず安倍礼賛のみのマスコミ

c0315619_17533884.jpg長門で行われていた日ロ首脳会談は、北方領土での「共同経済活動」が焦点になっていた。この問題で日本政府は、「特別な制度下の共同経済活動」を合意目標にして、この線でのステートメント化を狙ったようだが、ロシア側が折れず、結局、「専門家レベルでの協議開始」という先送りの方向になったようだ。朝日の今日(16日)の1面記事には、「ロシアのウシャコフ大統領補佐官は(略)『活動はロシアの法律の下で行われる。もちろん島はロシアに属している』と語った」と書いていて、NHK国際部の報道でも、「ウシャコフ補佐官は『島々での共同経済活動はロシアの法律の下で行われることになる』と述べた」と書いていて、ロシア側は北方四島での主権について妥協していない。昨夜(15日)までのテレビ報道では、主権を曖昧にした法律適用で「共同経済活動」が可能になるような言い方をして、安倍晋三の側の楽観論をそのまま撒いていたが、これが一蹴された格好だ。簡単に言えば、今回は何も成果がなく、派手な演出が空振りに終わった失敗外交というに尽きる。四島での共同経済活動、すなわち、水産加工とか観光開発とかの日ロ合弁事業は、マスコミが言うように、ロシア側が日本に強く求めたものではなく、逆で、日本側に強い動機のあるものだった。




c0315619_17535406.jpg日本のマスコミはその真相を何も言わない。四島での日ロ共同事業は、日本側がハングリーに求めている外交アジェンダなのだ。その理由は、中国資本である。週刊ポストが詳しく記事にして書いているので、それを引用しよう。「転換期は2010年11月だった。この時、ロシアのメドベージェフ大統領(当時)が旧ソ連時代も含めて、ロシアの国家指導者として初めて国後を視察。大騒ぎする日本政府やマスコミを尻目に訪問前後から、ロシアは北方4島へ海外資本を呼び込む動きを本格化させた。各国に向かって『投資を歓迎する』と表明し始めたのだ」。「続く2011年3月には、北方4島を管轄するロシア・サハリン州政府の代表団が中国・北京を訪問した。一行は北方4島周辺のクルーズ観光やナマコの養殖施設の建設など、20項目近い投資案件をプレゼンして、サハリンや南クリル諸島(国後、色丹、択捉)の大規模な開発と投資を呼びかけた」。「2012年には、国後にある2つの水産加工工場に中国資本が漁業や養殖のため5000万ドル(約50億円)を投資した。うち一つの工場は、中国の漁船が水揚げした魚介類を缶詰にして、バルト三国やドイツ、ポーランドや中国、北朝鮮などに輸出する。輸出高1億4300万ドル(約143億円。2014年)は全ロシアの水産企業中4位という高売上を誇る。」

c0315619_17540663.jpg要するに、焦っているのは日本政府の方であり、このまま指をくわえて見ていたら、四島での魅力的な合弁事業はすべて中国資本に取られてしまう。だから、何とかして割り込んで、中国資本の進出を阻止しないといけないのだけれど、主権と法律適用の問題があって、双方が譲れず、そこを突破できなかったということだ。今日(16日)の朝日2面に解説記事があり、この主権(法律適用)を棚上げした「特区」的な共同経済開発のプランは、1998年のエリツィンによる小渕恵三への提案が発端だとある。なるほど。外務省と経産省はそこに還り、「新しいアプローチ」と名前をつけて突破口を開こうとしたわけだ。が、20年の歳月はロシアを経済復興させて自信を回復させ、中国が経済大国となって極東でプレゼンスを増し、エリツィンの時代の日ロの立場関係がすっかり通用しなくなった。資本ならば中国が持っている。市場も中国の方が日本よりはるかに大きい。品質のよい国後島のナマコは中国市場で大人気で、国後島に富をもたらしている。いわゆる共同経済活動の条件において、ロシアが日本に譲歩する必要はないのだ。日本のマスコミはその事実を報道せず、ロシアがひたすら日本の経済協力を求めているように歪曲している。状況が変わっていることを説明しない。

c0315619_17542184.jpgモスクワ市民がプーチン訪日に関心がないのは、日本から欲しいものが何もないからだ。今年、日ロの領土交渉の問題は大きな政治テーマだった。だが、それは、安倍晋三の外交宣伝としてのみマスコミにハンドリングされ、安倍晋三を持ち上げる材料としてだけマスコミ論者に喋々された。ロシアとの関係で、昔と較べて日本の地位と立場が弱くなっていることや、四島返還の国家目標が遠のいているということを正確に国民に伝える議論はなかった。危機感のある報道や問題提起がなかった。今の日本の若い世代の者は、北方領土の問題に関心がなくなってしまっている。そこが日本の領土であること、不法占拠されていること、平和条約を結んで四島返還がなければ日本の戦後は終わらないこと、そのことについての意識が弱い。若い世代にとっての日本の領土問題は、尖閣であり、竹島であり、反中嫌韓のナショナリズムの感情だけしかないだろう。北方四島の方がずっと大きく、面積が広く、排他的経済水域が巨大であり、重大な国益なのに、今の国民は関心を向けず、ひたすら尖閣防衛の軍事に税金と労力を注ぎ込んでいる。そのことが不思議でならない。尖閣は不法占拠ですらないのに。尖閣に対するほどに北方領土にエネルギーを向けていたら、今頃は二島は無条件で返っていたことだろう。

c0315619_17543342.jpg壁に貼った世界地図を見ながら、北方領土の面積の大きさというものをいつも思う。先進国の中で、これだけ広い隣国との間での紛争領土を持つ国が他にあるろうか。所属の未定な白い色で塗られた土地が、これだけ広く残っている国が他にあるだろうか。そしてそれが、第二次大戦の結果生じたもので、その解決が未だに行われてないという国が、いったい世界のどこにあるだろうと、北方領土の不思議と不条理を思う。その北方領土問題に、日本人はあまり関心を持っていない。国益の侵害あるいは不全として深刻な意識を感じていない。われわれは司馬遼太郎を熱中して読んだ世代なので、ロシアといえば、日露関係といえば、『菜の花の沖』であり、『坂の上の雲』である。近代日本にとって、この国は重要な関係史を持った国であり、ロシア・ソヴェトとの緊張関係の中で日本は近現代史を紡いできた。近代日本の歴史はロシア抜きには語れない。それだけ関係の深いロシアだが、日本人の中でそうした意識は薄れて行っていて、あまり大きな意味を持たない国になっている。司馬遼太郎が残したものが、嘗ては日本人の平均的で必須の知識と教養だったけれど、次第にそうでなくなってきていて、司馬遼太郎と同じ気分や価値観でものを考える人が少なくなった。そのことが残念に思われる。そしてまた、そのことは、日本人全体が北方に関心がなくなっている証左のようにも見える。

私は、JR北海道の線路が次々と廃止されたり、TPPや異常気象で北海道の農業が潰されることについて、非常に気になるし、もっと国の資源や国民の配慮が重点的に北海道に向けられるべきだと考えている。例えば、旭川から北の道北はどうなるのだろうと、経営の採算の論理が政策全般に強く影を落とすほどに気になってしまう。だから、サハリンとの間に海底トンネルを通して、稚内が終端の地として取り残されるのではなく、隣国との交流の中継点になって通商の繁栄がもたらされるような、そういう絵にならないものかと考えてしまう。もう少し、そういう論を起こす人が現れてくれないだろうかと願っている。北方をフロンティアと考え、ロシアとの関係に可能性を考える者が、次第にこの国から減っている。


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by yoniumuhibi | 2016-12-16 23:30 | Comments(1)
Commented by 長坂 at 2016-12-17 14:50 x
5月のソチの雰囲気で、「二人で問題解決しようね」と勝手に盛り上がった約一名。世界情勢が刻一刻と変わっていく忙しい最中の12月に温泉一泊旅行に誘う。犬の見合い相手を断られた時点で気づくべき。次期国務長官は親友のエクソンCEO、アサド安泰でロシア空軍基地はセーフと追風プーチン。日本の領土なのにビザを取って渡航とは何事ぞと言っている間に、中国朝鮮韓国に先を越され、焦りまくりの日本の足元見られちゃった。「ウラジーミル」と呼び掛けたところで、日米安保突っ込まれて撃沈。風前の灯火のロシアンスクール、寿司や温泉がないと外交できないのか?


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