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2016年を振り返る - 天皇陛下の生前退位

2016年を振り返る - 天皇陛下の生前退位_c0315619_15453165.jpg今年の10大ニュースの私案を並べてみた。1.天皇陛下の生前退位 2.相模原障害者施設で19人の大量虐殺 3.大口病院で約50人の連続殺人 4.トランプ現象とサンダース旋風 5.カストロ逝去 6.山城博治の逮捕 7.参院選で安倍晋三圧勝 8.英国のEU離脱 9.熊本地震 10.『君の名は。』大ヒット。私の中では、やはり、天皇陛下の生前退位が最も大きな事件になる。この事件の衝撃は大きかった。その中身については、夏にブログに書いたとおりで、特に付記することはない。その後、政府の有識者会議の動きがあり、安倍晋三が懸命に抵抗の画策を行い、極右の論者を動員して天皇陛下に反撃する一幕があった。それについて、御厨貴やマスコミが何かくらだらないことを言い、安倍晋三に媚びへつらってこの問題の矮小化に努めていた。不愉快なので一つ一つを追いかけていないし、有識者会議は論評する価値のないものだと思われる。大日本帝国時代の皇室典範とそのイデオロギーを絶対視する極右が、今の天皇陛下の人格を貶め、天皇陛下を侮辱している。政府が憲法第1条をバイオレートし、日本国の国家の権威を傷つけている。安倍晋三と天皇陛下は国家観と天皇観が異なる。安倍晋三ら極右は、日本国憲法を認めず、大日本帝国の原状に国家を復そうとしていて、そこで天皇陛下と真っ向から対立している。



2016年を振り返る - 天皇陛下の生前退位_c0315619_15455173.jpgこれが問題の本質なのだけれど、安倍晋三の子分であるマスコミは真相を説明せず、「有識者会議は両論併記に努めた」などとわけの分からないことを言っている。そこには、天皇の政治への不介入という原則があるから、天皇陛下の立場を守るため、余計に問題を隠蔽して曖昧にしなくてはならないという動機がはたらき、天皇陛下と安倍晋三との間の緊張と暗闘という事実に関心が向けられないようにしてしまった。残念なのは、皇室典範の絶対性を言い挙げて天皇陛下を誹謗する極右の言い分だけがテレビで流れ、極右を批判する声も、この問題を政治思想史的に整理する有意味なコメントも、何もマスコミ報道から流れて来なかったことだ。この問題について、日本政治思想史の大御所である子安宣邦が何を言うか注目し期待したけれど、結局、何も発言せずに逃亡した。原武史や半藤一利は、一報が出て、お言葉が放送された7月から8月はマスコミに出たが、その後は議論に参加していない。国民世論の圧倒的多数は、天皇陛下の希望どおりの生前退位を支持しているけれど、果たして、特例法で落ち着くことになるのかどうか予断を許さない。本来、この問題は野党が安倍晋三を攻め、マスコミが政局にするべき問題だった。

2016年を振り返る - 天皇陛下の生前退位_c0315619_15461274.jpg正面から問題を立て、天皇陛下の意向を無視して天皇の権威を傷つけている安倍晋三を厳しく批判すれば、国民はその声を支持して結集し、反安倍の有力な潮流が生成されたことだろう。昨年の安保法制と同じほどの、安倍批判の巨大なうねりが起こったはずだ。それほど両陛下は国民から愛されている。そして頼られている。頼るべき指導者を失った国民が、両陛下に支えと救いを求めている。今年の被災地への訪問の映像では、テレビでそのことを証拠づける情景が映っていた。天皇陛下に対して、この人だけは自分の気持ちが分かってくれる人だと信じ、思いのたけを聞いてもらおうとする被災者の映像があった。ある意味で、それが善いことなのか悪いことなのかよく分からないが、テレビで頻回に登場する天皇陛下の避難所訪問と被災者との対話の絵に馴染みすぎて、国民一人一人が天皇陛下を芸能タレントのように思っているようにも見える。それはそれでやむを得ないことでもあるだろう。ともかく、救いのないこの国で、弱者は天皇陛下を救世主のように思い、心の支えにしていることは確かだ。その天皇を蔑ろにしている安倍晋三に対して、誰かが勇気を出して批判の口火を切れば、世論の猛火が轟然と燃え上がったことは想像に難くない。

2016年を振り返る - 天皇陛下の生前退位_c0315619_15462603.jpg内閣支持率は下がり、政局になり、政権は致命傷を負う瀬戸際に立たされたことだろう。この問題を争点にした安倍批判は、保守層から支持を受けやすく、自民党の党内から造反を起こすことが容易だ。潜在的に可燃性のきわめて強い政治争点だった。残念なことに勇気を出す者がおらず、本当なら国民的議論にして侃々諤々しなくてはいけないものを、何もせず、政局に持ち込むこともできなかった。また、天皇陛下自身が、この問題の政治化を忌避し、静穏な解決の流れに着地することを求めたに違いないから、安倍晋三が露骨に天皇陛下に嫌がらせをしても、天皇陛下の側はそれに応酬することをしなかった。今、顧みて、天皇陛下の側にいて、生前退位の奇襲を電光石火で成功させた者は、保阪正康と所功の二人だということが察知できる。この二人が、最初に生前退位を解説する専門家としてNHKに登場した。保守・右翼の二人が周到に準備して生前退位をエバンジェリズムしたから、作戦はここまでの成功を得、世論で90%近くが生前退位に賛成という状況を作り得た。もし、リベラルの原武史や岩井克己が動いていれば、官邸側に事前に探知されて潰されていたか、初動の段階で右からのカウンターを受けて、世論の支持はこれほど高くはならなかっただろう。

2016年を振り返る - 天皇陛下の生前退位_c0315619_15464260.jpg生前退位をめぐる動きの中でもう一つ残念だったのは、皇后陛下が「生前退位」という言葉にネガティブな反応を示し、それを契機としてマスコミが生前退位をいう用語を使うのを控えるようになったことだ。私の推測だが、皇后陛下は、やはり今でも生前退位について消極的な態度であるのかもしれない。その理由は、生前退位の決断と実行が、形式的に憲法の規定を踏み超えているからである。憲法2条には、皇位の継承は皇室典範に定めるところによると書かれている。皇室典範には、天皇が終身制であることが明記されている。皇室典範を改正すればいいだけの話だが、それを政府と国会が行う前に、天皇が自ら生前退位の意思を述べて国民に直接に同意を求めることは、立憲主義に背く行為であり、象徴天皇制の法体系と法的安定性を崩すことだと皇后陛下は懸念し、今でも慎重論の立場なのだろう。皇后陛下は戦後民主主義の人であり、護憲の信条の人である。皇后陛下の誕生日は10月20日で、有識者会議での安倍晋三の巻き返しが佳境に入った時期だった。ここで、だめ押しを入れて、天皇陛下の背中を強く後押しし、国民の退位支持世論を盛り上げる言葉(アジテーション)を皇后陛下が放ってくれたら、マスコミは堰を切ったように反安倍の論陣を張ったことだろう。

2016年を振り返る - 天皇陛下の生前退位_c0315619_15465517.jpgこの問題をめぐって、左翼系の論者はほとんど出番がなかった。脱構築系の論者からすれば、現在の天皇人気・皇室人気が気にくわなくてたまらない気分だろうし、生前退位の政治についても、見たくない、関心を向けたくない問題であるに違いない。子安宣邦がこの問題で論評しないのも、きっとそういう意識からだろうと推察する。この政治に民主主義の可能性を見出すとか、安倍晋三の独裁を転覆させる契機を検出して戦略を立てるとか、そういう発想は脱構築アカデミーの者たちにはないのだろう。彼らはひたすら、隣国の民衆の巨大デモを見てうらやましがり、日本は民主主義が遅れていると言って嘆いている。朴退陣の巨大デモがあったから、朴槿恵の支持率が5%に下がったのではない。順番は逆で、支持率が5%だったから、あれだけの退陣要求デモに膨れあがったのだ。生前退位の問題は、策を講じて巧く事を運べば安倍晋三の支持率を10%にできる争点だった。退陣に繋げられるきわどいイシューだった。われわれは、「天皇の政治利用」というマジックワードに怯んではいけなかった。天皇そのものが政治的な存在 - 国家の象徴、国民統合の象徴 - で、天皇や天皇制を最も熱心に扱う学問は政治学なのだから。天皇陛下が勇気を出して則を超える跳躍をしたのだから、われわれもその革命に続くべきだった。

「天皇の非政治性」の原則には矛盾した合意があるのであり、形式的な禁忌と自粛の論で事を収めて思考停止するのではなく、成り行きを黙って見ているのではなく、国家百年の計となる政治学の本質的な議論をして、安倍晋三の有識者会議を粉砕する論者に登場して欲しかった。日本の場合、時代の転換期にさしかかって国の運命が大きく変わるときは、必ず天皇制のあり方が問題になる。天皇制について若者が激論する。幕末維新のときもそうだったし、終戦の「8・15革命」のときもそうだった。皇室はどうあるべきか、忌憚なく大いに論争して、理念と構想を現実政治に持ち込んで権力闘争すればよいのだ。

2016年を振り返る - 天皇陛下の生前退位_c0315619_15471638.jpg

by yoniumuhibi | 2016-12-12 23:30 | Comments(5)
Commented by 愛知 at 2016-12-13 01:27 x
堰を切ったような今回のご教授、御ブログに巡り逢ってから最短時間で読了。すべての語がキラキラと煌めいて。「形式的な禁忌と自粛の論で事を収めて思考停止するのではなく、成り行きを黙って見ているのではなく」目頭が熱くなる思いです。過半が復員兵教諭であった小学生時代、教室で生意気に天皇論を同級生と闘わせていた頃まで回想。過去ご紹介いただいた『あたらしい憲法のはなし』『昭和天皇の終戦史』まで走馬灯のように頭を過りました。なぜ革命に手を貸すことができないのか、なぜ勇気を理解できないのか、なぜ本気で中国との戦争を止めないのか、なぜ自衛官が白木の棺で還ることを本気で止めないのか。「アベはやめろ」そういったスピーチが、多くの人の心に届かず、結果、死屍累々の惨劇をもたらすことに、なぜ気付かないのか。
Commented by 七平 at 2016-12-13 02:31 x
現天皇が御希望されている生前退位に対する国民支持率が8割9割に達しているにも拘わらず安倍政権によって生前退位が阻止されている現実は、日本での民主主義が如何に出鱈目であるかを世界にご披露しています。日本という国では国民の民意が国政に反映されないだけではなく、傲慢な政府は83歳のご老人の自由、基本的人権さえ平気に踏みにじっています。情けない事ですが、国民は政府の傲慢を黙認しています。現天王が一日も早く、望まれている退位、Retireを実現され、彼が今まで一生得られなかった ”自由” を余生にて経験していただきたいと願うばかりです。

民意の国政反映に関しては、お隣の韓国の動き、朴大統領の弾劾、に強い関心がもたれています。東アジアにおける民主主義の発展という見地からは記念すべき事件です。 昔、米国でNixon 大統領が国民の民意により追い出された、Watergate 事件を連想させます。 Impeachmentを通してより多くの、事実真実が暴露される事を期待しています。

私の推測するところですが、日本のマスコミは米国のマスコミより本件を報道していないのではと思います。 民意が政権を圧倒して弾劾に至った韓国での状況は、安倍政権にとって恐るべき事件であるはずです。韓国の場合、汚職と恐喝的な犯罪ですが、日本の人質事件は業務上致死、もしくは業務上過失致死が問われるより悪質な事件です。 丁度2年前の話になりますが、例の人質事件の真相究明が本ブログ記事( 2015-01 -29 23:40 )でなされた時、私は 現在、韓国で起こっている同様の事が日本でも起こるだろうと予想し、静観しました。しかし、安倍政権の率いる情報統制特務機関は巧に秘密保護法を悪用して、証拠、真実を国民から奪い去りました。 

儒教文化圏では、”お上と羊” の国家になりがちですが、韓国の様子を観て、羊の様な国民が目を覚まし民意を主張し始める事を期待しています。

Commented at 2016-12-13 23:28 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2016-12-20 01:32 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by oiso at 2016-12-21 16:38 x
生前退位を巡る明仁天皇と安倍政権のイデオローグたちとの対立は、天皇制を支持する国民多数派の情緒に訴えることで、一時的には日本の右傾化を弱めるのかもしれない。しかし、この事件によって天皇はリベラリストだとばかりに、左派連中が一斉に天皇ファンになってしまうとすれば、その害悪は甚大である。制度としての天皇制と、個人と基本的人権の尊重を掲げる現憲法の基本理念との緊張関係は何ら解消されていないではないか。


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