共和党と民主党の自由貿易の考え方の違い - TPPの復活はない

c0315619_16592370.jpg11月22日の朝日の2面に、ペルーとチリがRCEPに加入するという記事が出ている。この情報は、夜のテレビ報道では取り上げられた記憶がなく、新聞を購読する価値を再認識させられた。ペルーはAPEC首脳会議の議長国の立場だが、大統領のクチンスキーが注目の記者会見でその方針を明らかにし、会議閉幕の記念写真では前列中央で習近平と並んで撮影、ペルーの中国への接近を世界にアピールしている。さらに、ペルーに続いてチリがRCEP加入の意向を示していることを中国外務省が明らかにした。周知のとおり、RCEPは東アジア地域の包括的経済連携のことで、パートナーとなる諸国は日中韓3カ国とASEAN10カ国と豪州とNZとインドである。南米の国々は構想の中に含まれていない。だが、TPPが潰れたため、TPPに加盟していたペルーとチリが、TPP代替のプラットフォームとしてRCEP入りへと舵を切った。RCEPを推進する主軸は中国だから、RCEPに入ろうとする諸国は中国と接触して意向を伝えることになる。もし、ペルーとチリがRCEPに入れば、TPPはリバースをかけられた形でRCEPに切り替えられ、主役だった米国が外れて中国が主役になるという、恐ろしく劇的な物語が現実になることになる。



c0315619_16593940.jpg今年のAPECはTPP葬送の儀式の場だった。TPPを打ち上げたオバマが去り、APEC閉幕の翌日にトランプが正式にTPP離脱を表明、自由貿易の国際的な枠組み作りの潮流が変わったことを人々に印象づけるAPECとなった。朝日の紙面解説では、RCEPについて「中国が積極的に推進」と書いている。この説明は現在では間違いではないが、もともとの原点を辿れば、RCEPは中国が一国で提唱し主導したものではなかった。外務省の資料にあるように、中国が2005年に提唱した「東アジア自由貿易圏構想」に対して日本が2007年に「東アジア包括的経済連携構想」で応じ、2011年に日中2国が共同提案する形でRCEPがスタートしている。TPPは米国が完全に独裁者として仕切る協定だったが、RCEPはそうではなく、中国と日本が共同で仕組みを設計していて、範囲は東アジアとオセアニアに限定されていた。TPPは、この動きを警戒し懸念した米国が、言わば横槍を入れて強引に潰す形で、日本に指図して構築したものである。2009年に米国がP4協定(シンガポール・ブルネイ・NZ・チリ)に割り込んできたのが発端で、日本を動かし、2010年のAPECでデビューさせた。菅直人に「バスに乗り遅れるな」と騒動させ、有無を言わせず押し切る流れを作った。

c0315619_16595620.jpg今から6年前のことだ。日本国内でTPPの攻防があったのは、2010年から12年までで、すぐにTPPを絶対視し神聖化する状況が固まり、TPPを前提にした国内法制度へと着々と変えられている。TPP反対論者は声も上げられなくなった。そうなったときに、TPPが一瞬で破綻し消滅することになったのだから、歴史は何とも皮肉なものだと思わざるを得ない。この問題は今後どうなるだろうか。日本の政府や財界やマスコミや、そして左派の論者を含めた多くが、TPPの復活を待望し、トランプがTPPと類似の米国主導の経済協定を新しく作り直すことを期待している。中国主導のRCEPが一人歩きすることを米国は許さないだろうと分析し、米国の巻き返しが始まるだろうという観測を示している。これは、日本(安倍政権)の立場に立った見解であり、中国と対抗して中国を封じ込める国際戦略を支持する立場からの見方だ。日本のエスタブリッシュメント(左右問わず)がそうした思考に傾く一つの根拠は、共和党は民主党より自由貿易へのコミットが強いという認識があるからだろう。そうした政策観をベースに、彼らはトランプの今後に楽観的になっている。私の予想は少し違う。米国の共和党と民主党の自由貿易の考え方の違いについて、日本の論者たちは注意力が欠けている。

c0315619_17000958.jpg民主党と共和党では自由貿易の考え方が違うのだ。どう違うかというと、民主党の場合は、世界標準のルールを作ろうとする。普遍的なルールを米国主導で作り、それを属国に押しつけ、世界の諸国が合意した協定にして、全体で合意した秩序と法規だから守れという手法にする。共和党の場合は、文字や言葉のルール作りには執着しない。理念に拘らない。米国にとって自由で障害のない貿易が自由貿易であり、米国が快適ならばそれでいいのである。ルールはそのときどきの米国の恣意と満足なのだ。最初に米国の利害と意思があり、それを貫徹するのが米国の自由主義の実現であり、相手のことは気にしないし、関心を向けない。利害の調整や妥協みたいな面倒なことに米国が首を突っ込むのは苦手なのである。相手に対して、これでいいか、いいよなと、米国の立場と主張でアバウトに押し切るのが共和党の作法であり、属国がちまちまと細かい条件を言ってくれば、じゃあ大目に見てやろうかと、ルーズに相手の要求を受け入れるのが共和党の自由貿易の伝統的な方式なのだ。相手が先鋭に抵抗してくれば粉砕する。イラク戦争のように腕力で叩き潰す。中華帝国の朝貢貿易のような超越的な、余裕と傲慢の体系が共和党の自由貿易主義の根底にあり、それは、オバマのような世界標準ルールを策定する態度とは違う。

c0315619_17002373.jpgブッシュが京都議定書から脱退したやり方が、共和党の自由主義の発想であり、米国を拘束するものからの自由が共和党の自由主義だ。民主党の方は、米国の「自由と民主主義」の理念をあまねく世界に秩序化し体制化するという形をとる。それを阻害する要因を未然に除去する路線を踏む。TPPは明らかに中国包囲網の戦略であり、21世紀の世界経済において中国の覇権を阻止するための秩序形成だった。TPPが崩れ、TPPに入っていたペルーとチリがRCEPに入ろうとしている。RCEPは一国が独裁的にルールを決めて弱小国に押しつける枠組みではないから、ペルーやチリにとってはRCEPの方が具合がよく歓迎だろう。今後、あの昨年のAIIBのように、RCEPに怒濤の流れが起きるかもしれない。そもそも、APECという枠組み自体、地図的に見て何やら奇怪なもので、TPPが出て来て初めて正体が理解できた代物だった。米国は、アジアが、特にそこに大国である中国や日本が入って主導する形で、独自に枠組みを作ることを許容しないのだ。APECを主導したのは、民主党のビル・クリントンである。APECはTPPのための下敷きだった。露骨に米国を中心とした枠組みであり、米国によるアジア太平洋地域支配の道具である。

c0315619_17004862.jpg誰も不審感を表明しないのが異常なのだけれど、日本や韓国やASEAN諸国が、遠く離れた地球の裏側の南米の国々と何らか経済連携の協定を結ぶときに、どうして太平洋に面した小さな国々だけがメンバーに選ばれ、地域大国であるブラジルが除外されてしまうのか。G20メンバーであるブラジルとアルゼンチンが入らないのか。「環太平洋経済圏」などと、あまりにふざけた、日本や韓国や中国をバカにした、米国の得手勝手な構想と図式ではないか。そういうところから、本来的にAPECとTPPには矛盾と無理があった。そもそも、米国内でTPPに反対世論がこれまで起きなかったことが不思議で、TPPとは関税ゼロであり、TPPとは事実上の日米FTAなのだから、日本の工業製品が関税ゼロで米国内に流入することを意味する。日本の製造業はすでに瀕死状態であり、最早、米国にとって脅威でも何でもないが、米国の中高年層の中には嘗ての日本の製造業神話が刷り込まれていて、関税ゼロなどと言われれば冗談だろうと反発する暴論だろう。日本の農業関係者がTPPを初めて聞いたとき、信じがたい概念に戦慄を覚えたのと同じである。米国の田舎に住む蒙な人々は、日本人は狡知で商才に長けていて、米国人は素朴で欺されやすく、日本人は公正な取引の体裁を整えつつ巧みに実利を貪り、米国の産業を衰退に陥れていくというイメージがある。根拠のない被害者意識だが、トランプは選挙戦でそのイメージを上手に利用した。

TPPの下敷きであるAPECには中国も入っている。したがって、当然ながら、TPP協定が発効された暁には、そこに中国を組み込む図が想定されている。ということは、中国製品が関税ゼロで米国市場に入ってくることを意味するではないか。米国の労働者一般が、そんな論外な経済政策を認められないのは当然のことだ。結論として、トランプは、民主党政権が進めてきたところの、米国主導の世界標準化戦略には乗らない。ルール(規制)で影響力を行使して世界を支配する方法は選ばない。標準化によって米国の利益を実現するのではなく、二国間関係で米国の自由(恣意的権益)を掴み取るのであり、規制を否定するのだ。規制緩和だ。その自由の実現のために軍事力を使う。法(ルール)で言うことを聞かせるのではなく、軍事(暴力)で言うことを聞かせる。

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by yoniumuhibi | 2016-11-25 23:30 | Comments(3)
Commented at 2016-11-26 00:16 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by NY金魚 at 2016-11-26 08:54 x
◆ 新日米不平等条約:トランプがTPP離脱を表明したので、日本のTPP反対派はこぞって喜んでおられるようですね。米国内でもバーニー・サンダース以下、TPP反対派はとりあえず胸をほっと撫で下ろしています。
が、お説のように共和党の自由貿易に対するの考え方が、理念を重んじる民主党と根本的にちがい、それにトランプの性格を加味すれば、何が飛び出してもおかしくない。「ン?自由貿易?オレは勝手にやるぜ、勝手について来い!」みたいに聞えて、これではほとんど「自由にイジメていい貿易」ですね。
僕たちがアンチ・トランプデモで叫んだ翌日、トランプタワーに戻られた次期大統領に、日本の首相が率先して会いにいらっしゃったようですが、ケントーちがいのはしゃぎようでダイジョーブかなーと思いました。これからもひどい対米隷属路線をつづけて行かれるご様子で、痛み入ります。
◆ 当方、トランプショックに痛手をいまだに引きずっていて、TBさせていただいたブログも、イマイチ元気がありません。後半バーニー・サンダースがトランプの対抗軸として盛り上がってきて、またまたバーニー讃歌になりそうです。トランプの治世中、唯一の夢はバーニーを中心に草の根がどれだけ盛り上がるかです。

Commented at 2016-11-27 19:02 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。


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