「ディールの政治」のミスリード - 極右トランプ政権の猛毒のイデオロギー

c0315619_15433318.jpgトランプが大統領になってどのような政治と外交をするか。11月8日の当選から2週間、マスコミに登場した論者たちはほぼ例外なく、「ディールを重視する」と分析と予測を述べてきた。姜尚中(13日)もそう言ったし、中島岳志(18日)もそう言った。「ディール」がキーワードだった。ディールとは取引きという意味である。つまり、持論となる信念や理想などなく、そうした思想信条を政策過程に反映させず、単にそのときそのとき自国の利益獲得が最大になる結果を目指し、従来の関係に拘束されることなく、誰とでも自由に手を結んでWinWinの取引きをするというイメージである。イデオロギー・フリーの政治像、それがトランプの政治の本質的特徴だという言説が繰り返し流され、現在の一般的な通念となっている。こうした言説を論者たちが撒く根拠となっているのは、ロシアのプーチンに対するトランプの賞賛の言葉であり、選挙期間中、オバマよりも優れた指導者だとする評価をテレビで公言してきた。その言葉にプーチンが反応してトランプを持ち上げ、米ロ関係の修復に期待するという経緯があったため、トランプはディールの政治家だとする見方が広まって行った。北朝鮮の金正恩との会談に意欲を示したという件も同列である。



c0315619_15441795.jpgこうした、トランプをイデオロギー・フリーで「ディールの政治家」だとする判断と指摘は、果たして正鵠を射ていると言えるだろうか。私は、この見方は完全に間違っていると確信するし、トランプの釣り(フェイク)に騙された誤った認識だと考える。トランプがこうした発言を乱発したのには目的があり、それは、オバマ政権とクリントン外交を全面的に否定することを強調したかったからに他ならない。オバマ政権とクリントン外交の従来の手法を転覆することを挑発的に宣言し、米マスコミと世間にショックを与え、オバマ政権の惰性と不毛に倦み疲れている白人有権者の支持を引き寄せるべく、シンボリックなイメージを打ち上げた政治だ。そして同時に、独裁者の政治を積極的に評価することで、自分はDCのロビイストやシンクタンクには耳を傾けない、マスコミとは協調や妥協をしない、有権者とダイレクトに結びついた、すなわちボナパルティズムの強権的指導者だということをアピールしようとしたのである。欺瞞的なエスタブリッシュメントの正論や常識とは無縁な、強烈な自国第一主義の、アメリカ利己主義の政治を実行するぞというイメージを訴求するため、その格好の材料としてプーチンや金正恩を引き合いに出したのだ。


c0315619_15450461.jpgしたがって、選挙戦中にプーチンや金正恩を持ち上げたことは、大統領になってからロシアや北朝鮮との外交で関係改善を図ることを意味しない。平和外交をするという理念や政策を訴えたくて、こうした言動に出たのではない。オバマとクリントンを否定するため、米国エスタブリッシュメントの無能と欺瞞を叩こうとして、対極のイメージを作って宣伝する思惑から、国際社会の意向を無視して自国利益第一の政治をしている独裁者を持ち出したのである。だから、トランプがプーチンを評価したのは、ロシアと協力関係を組むという外交上の方針転換を示す発言ではない。指導者像の問題だ。プーチンの方がそれを逆手に取って上手に利用し、米ロの関係改善という世界政治の空気の上の前提を作っただけである。空気にすぎない。空気にすぎず、中身のないものを、姜尚中や中島岳志は実在のものだと錯覚し、「ディールの政治」などという幻想を言説にしているのである。トランプにイデオロギーがなく、無色透明で、ビジネスマンとしての利益と利害の動機しかないという議論は、トランプが選挙で有権者に巧妙に見せかけた虚構のイメージであって、民主党支持者の白人労働者層から票を奪い取るための周到な戦略だった。

c0315619_15455035.jpgトランプが実際にはどれほど猛毒のイデオロギーの持ち主かは、次期政権の閣僚人事で次第に明らかになりつつある。昨日(20日)の朝日の1面記事では、安全保障担当の補佐官にマイケル・フリン、司法長官にジェフ・セッションズ、CIA長官にマイク・ポンペオの3人が内定と報道された。日本のマスコミが絶賛しているフリンは、強烈な反イスラム主義者であり、イスラム教を「癌」だと公言し、イスラムへの敵意を扇動している男として名高い。オバマ政権によるイスラム過激派テロ対策を手ぬるいと批判し、2年前に国防情報局(DIA)長官を解任された。札付きの右翼だ。この週末、フリンの正体について告発する記事が上がっているが、米国のリベラルは頭を抱え、米国内のムスリムは戦々恐々だろう。間違いなく、米国内でムスリムが弾圧と迫害を受ける。司法長官に指名されたセッションは、移民排斥の強硬論者で、不法移民の市民権取得に反対し、合法的な移民の制限を主張しているタカ派だ。CIA長官になるポンペオは、テロ容疑者への「水責め」の拷問を擁護していたことで名高い。ティーパーティの賛同者であり、全米ライフル協会の終身会員でもある。共和党の中でも極右中の極右。よくもこれだけというほど、トランプは米国政界の異端極右を閣僚に入れた。ブッシュ時代よりも黒々とした極右政権が誕生する。

c0315619_15463424.jpgそして何より、この極右の閣僚が並ぶ政権をヘッドとして差配するのは、パラノイアのオルト・ライトのバノンである。どんなホワイトハウスになるのか、想像しただけでも恐ろしい。まさに、ヒトラー政権と同じものが21世紀の米国に誕生した図だ。トランプ政権は猛毒のイデオロギーの政権であり、バノンやフリンやセッションズやポンペオが目標とし理想とする米国と世界を作り出すファシズム政権に他ならない。そういう現実を目の前に、それを「ディールの政治」と性格づけ、純粋な利益志向で今後の米国政治がドライブされるように言う日本の論者が、どれほど認識不足で事実誤認であることか。私は恐ろしい将来を予感する。トランプは、オバマがブッシュ政権の外交をひっくり返したように、片っ端からオバマ政権の外交成果をひっくり返して行くだろう。パリ協定の「脱退」は序の口に過ぎない。今日(21日)の朝日の国際面は、トランプ大統領の誕生で動揺が広がっているイランの状況を取材報告している。イランが心配だ。トランプは、オバマ政権がイランと結んだ核合意を破棄すると公約し、ポンペオも「合意を押し戻す」と予告している。つまり、オバマ政権の外交成果であるイランとの関係正常化を白紙化する構えであり、再びイランと一触即発の状態に持ち込む算段だ。

c0315619_15472685.jpgトランプが言う「Make America Great Again」の意味は、オバマ政権の8年間でやってきた国際協調外交を、弱腰だからとして揚棄し、国際社会と一切妥協せず、米国の論理と要求を押しつけて相手を屈服させる路線(一国中心主義)に戻すという意味に他ならない。その際、特にフォーカスされるのは、イスラムの中東とヒスパニックの中南米だろう。パレスチナ(ハマス)も残酷な標的に据えられる。そして、誰も言わないが、キューバとの国交正常化がリセットされる可能性が高い。歴史的な国交回復から1年半、両国の大使館が開設され、関係改善は進んでいるけれど、米国による経済制裁は解除されていない。トランプが接戦のフロリダでクリントンに勝利したのは、フロリダのキューバ移民が民主党政権の融和策に反発した点が大きかった。トランプは、対キューバ外交を逆戻りの方向に向かわせるに違いない。また、ベネズエラに対しても介入を露骨化させ、現政権の転覆を射程に入れる行動を躊躇しないだろう。トランプ政権は、イスラム教徒の中でも特に反米色が強く、より原理主義的な傾向の強いシーア派と、全面的な戦争に入るのではと私は危惧する。シリア問題では、ロシアと妥協して取引するという見方があるが、それは見せかけのフェイクだろう。イラン、アサド政権、ヒズボラの三者は悪魔視されるのではないか。フリンが安全保障の補佐官に就くということは、反米的なイスラムを地上から抹殺するという意味だ。

南シナ海問題では、例の、共和党系のシンクタンクであるアメリカン・エンタープライズ研究所日本部長のマイケル・オースリンが構想した、戦慄の対中軍事方針が具体化されるだろう。「ディールの政治」など、無意味で的外れな幻想に他ならない。


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by yoniumuhibi | 2016-11-21 23:30 | Comments(2)
Commented at 2016-11-21 20:54 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by おにぎり at 2016-12-01 12:56 x
オバマ外交に関しての総括ですけど、オバマの方策が世界秩序を昏迷に導いた批判は無視してはいけないと思います。
今現在の対テロ戦争、中露の暴走は、オバマの武力を用いない路線や判断力を見くびられたことで
世界秩序の重したる米国のプレゼンスが弱体化して、各勢力が蠢動する余地を与えてしまった。
(+国連の機能低下も指摘されるべきで、以前と比べて事務総長の名を聞く機会がはっきりと減った気がする)
だからハッタリでも「米国は世界の警察官をやめる」なんて事は言うべきではなかった。
個人的にはオバマは嫌いでないし、立派な人物だと思うし、色々と苦労があったとは思う。
だけどもし、人格も人柄もよく、内政を完璧にこなして経済もよくしたとしても
世界秩序を破壊してしまったらどうにもならない訳です。
攻勢に本腰を入れたら、中東内のISはかなり追い込まれて組織としてかなり弱体化したといいます。
(もともと急速に拡大したのは理念の支持からではなく、政府保有の原油施設を手に入れて、潤沢な資金を得て兵器や兵士を集めたからで、原油売却ルートの破壊で資金力が低下して維持できなくなったようで、欧米軍はそれを重点的に先ず破壊したそうです)
同様に中露の暴走も、米国が従来通りのプレゼンスを維持すると公言して強気に出た場合、ある程度収まる可能性が高い。
ロシアは状況判断できるでしょうし、中国も大人しくなるでしょう。
100年マラソンを考えているとしても。
「覇権国家」であることは、単に武力で抑えつけてるだけではなく
古代ローマがそうだったように、傘下の国に平和をもたらす事が義務です。
世界中の国と戦っても、一国で勝てると評される軍事力を持つのが米国なのですから
(たとえば、米軍の艦隊一つで中国軍全戦力は半壊すると言われ、それが10もあります)
オバマはそれを忘れるべきではなかった。
厳しい言い方ですが、政治家の評価は掲げた理想ではなく、もたらした結果で見られるべきです。


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