極右政権を前に自信喪失の米国マスコミ - 耄碌したウォーラスティン

c0315619_17151276.jpg選挙で新しい大統領が決まり、勝利演説がされた当夜とその翌日に、全米の大都市で新大統領を拒否するデモが爆発した。その一部は暴徒化し、星条旗を燃やすという事態も出現している。このような光景はこれまで見たことがない。本当にこれが米国で起きていることなのか信じられない。まるで、中南米のどこかの政情不安の国のニュースを見ているような気分にさせられる。米国において星条旗は国民統合の神聖な象徴であり、すべての国民が国家の下に結束するシンボルに他ならない。ここ数十年、外から見て、米国の威信を根底から突き崩すような、かかる不穏な場面に遭遇したことは一度もなかった。ベトナム戦争の頃はあったかもしれないが、イラク戦争のときは記憶がない。民主主義のお手本の国とされ、世界の模範となるべき米国で、民主主義が未発達な国で起きるような現実が発生している。このことは、世界の人々に米国に対する認識をあらためさせ、米国を盲目的に信仰する態度から離れさせる契機となるだろう。グローバル資本主義が世界を覆って行ったこの25年間、世界は小さくなりながら、超大国米国が絶対的に君臨支配する一極集中の世界に変わって行った。米国主義のイデオロギーが世界の人々を縛りつけて行った。今、それが変わろうとしている。



c0315619_17152408.jpgトランプ大統領を誕生させたことは、米国の恥であり、米国の権威失墜そのものだ。今後、米国の国内では、リベラルやマイノリティの市民を中心に反トランプの抗議行動が盛り上がるだろうが、その一方、マスコミとアカデミーは深刻な自信喪失に直面して懊悩することだろう。米国のマスコミとアカデミーは、米国の知性の代表であり、世界の人々のものの見方考え方に影響を与え、経済や政治の動向について認識と評価の基準を与え、現代世界の言論をリードしてきた存在だ。彼らは米国のエスタブリッシュメントであると同時に、世界のエスタブリッシュメントでもあった。今回の選挙はエリートである彼らに一撃を与えるもので、エスタブリッシュメントへの否定が民意として示されたものだ。その代表として憎悪されたのがマスコミだった。選挙戦の終盤、トランプの女性蔑視やハラスメント問題が浮上したとき、米国のマスコミはここぞとばかり醜聞報道を横溢させ、とどめを刺したという気分になっていた。日本の植民地マスコミもその報道に追随し、これで選挙の行方は決まったと断言した。だが、不思議なことに、女性問題でマスコミがトランプを叩いた後、トランプの支持率は急回復してクリントンを再び猛追、ラストスパートのエンジンを全開させるに至る。

c0315619_17153541.jpg選挙戦でのトランプ陣営とトランプ支持層の敵はマスコミだった。マスコミとアカデミー、すなわち良識の言論を司って責任を負う者たちが標的となり、マスコミが正論をもってトランプを叩けば反動が生起し、マスコミへの憎悪がトランプの支持率を生成するという運動が繰り返された。マスコミとトランプとの長い壮絶なゲームの果てに劇的な決着がつく展開になった。マスコミで仕事する者たちで、知的に誠実でリベラルな者ほど、今回の政治の悪夢に打ちのめされているだろう。合理的な整理ができず、不条理な感覚を覚えて自信喪失に陥っていることだろう。アカデミーではファシズム論が流行るのではないか。オーウェルの『1984年』が読み直されるだろう。それは、4年前に日本で起きたことだ。そして、トランプ批判の論陣を張って政権打倒をめざすリベラル系と、トランプに阿って妥協する保守系と、マスコミは二つに分かれるだろう。日本では、前者はなく後者のみで一色になった。今は米国のマスコミは反トランプで一つだが、今後、トランプに歩み寄り、極右のイデオロギーのお先棒を担ぐ社が出現すると思われる。米国の場合、日本以上に紙媒体の新聞社の経営危機があり、自信喪失はその懸念とも関わっていて、SNSの大衆世論(反エスタブリッシュメントの感情)に敏感にならざるを得ない。

c0315619_17154896.jpg次期政権で首席戦略官となる極右のスティーブ・バノンが、米国のマスコミの論調を操縦する主担になると思われる。もう一人の右腕の首席補佐官となるプリーバスは、菅義偉のような役どころとなるだろう。公約した不法移民への対処は、政権の期間中を通じて国内で最大の争点となり、オバマ政権における医療保険制度改革のように最後まで揉め、国論を二分して紛糾する問題となるだろう。トランプはCBCの番組に出演して、不法移民の強制送還の貫徹を言い、300万人の問題のある滞在者を追放、投獄すると表明した。それに対して、LA、NY、シアトル、SF、シカゴなどの大都市が、強制送還を前提とした不法移民の勾留はしないと宣言、移民を保護する姿勢を明確にしている。トランプの路線に真っ向から対決する方針を示した。これらの大都市は、ブルーステートの中でも最もリベラル色の濃い中核の地で、トランプの政策など狂気の妄言としか思えない人々が住む場所だ。だが、田舎へ行けば、この移民排除政策に賛同する国民が多くいる。これはトランプを大統領に押し上げたキーの政策であり、したがって、選挙中はこう言っていたけど大統領になったから転換するというわけにはいかない。不法移民問題は格差の問題と絡んでいて、不法移民がスルーで流入するから最低賃金が押し下げられるという経済の構造と矛盾がある。

c0315619_17160178.jpg報道によれば、予想に反して意外にトランプにヒスパニック票が入っていて、その理由は、すでに米国内で定職と定収を得て地位を持ったヒスパニックが、これ以上のヒスパニック流入に抵抗を感じているからだと言う。リソースを注入して必勝態勢で臨んだ接戦のフロリダをクリントンが落としたのは、ヒスパニック票が思惑どおりに伸びなかったからだと説明されていた。ヒスパニック増加の問題は格差の問題と直結し、また、社会保障負担の重圧感とも直結している。トランプの不法移民排除を支持しているのは、ラストベルトの白人労働者だけではないのだ。トランプを支持する低所得層は、リベラルな大都市の移民保護行政に反発する。政権(バノン)はSNSで反対キャンペーンを扇動し、白人保守層を反ヒスパニック・反リベラル・反ポリコレ・反エスタブリッシュメントの運動へと駆り立てるだろう。現時点で、トランプウォールや不法移民排除について、米国世論の賛否がどのような比率かの情報は見ていない。しかし、この問題を焦点にすれば、2年後の中間選挙も勝てるという目算がトランプ側にあるのだろう。この世論工作を煽れば煽るほど、嘗てはリベラルだった中西部の白人労働者層が保守化し、格差の矛盾を人種の憎悪へと意識の上で変換してトランプ支持者になってしまう。

c0315619_17161455.jpg今回の選挙では、中西部ラストベルトの没落白人労働者層が物語の主役になった。彼らの論理と動機が内在的に説明されることで、トランプの勝利が納得的に了解された。だが、米国にはいろいろな人々がいて、政治の時々の局面で主役になって顔を出す。例えば、宗教右翼という不気味な存在がある。今回は出番はなかったが、彼らがトランプ票を積み上げている一部であることは間違いない。反オバマケアで表面に出てブームを起こしたティーパーティもそうだ。トランプ政権には、あのネオコンのボルトンが要職に起用されると言われている。米国の政治の風景は、すっかりブッシュ政権の暗黒の時代に回帰し、当時よりもさらに毒々しく黒々とした極右タカ派色を強めることが確実だ。11月11日の朝日のオピニオン面にウォーラスティンが登場し、現在の米国政治をこう解説している。「米国では現在、四つの大きな政治集団があります。共和党主流派が属する中道右派と、ヒラリー・クリントン氏に代表される中道左派の双方は、今回の選挙で弱体化した。あとは、より極端に右に行った排外的な集団と、バーニー・サンダース氏に代表される左派のポピュリストの集団があります。右にしても左にしても、先鋭的な集団は内側からの批判を恐れ、どんどん極端になっていく可能性があります」(15面)。

c0315619_17162990.jpgトランプ政権は、この四つの集団の中の極右に位置する。政策はバノンが設計して実行する。ブッシュ政権のチェイニーとバールを足して二で割ったような存在だ。日本のマスコミは、首席戦略官のバノンと首席補佐官のブリーパスは同格で、黄門の両脇の助さん格さんだと報じ、二人でバランスを取っているという見方を示しているが、それは認識が甘いだろう。バノンの方が上だ。年齢を見れば理解できる。バノンは62歳、プリーバスは44歳。70歳のトランプからすれば、プリーバスは小僧であり、議会共和党との調整に使うパシリにすぎない。ジュリアーニ(72)にせよ、ギングリッチ(73)にせよ、ボルトン(67)にせよ、トランプがスタッフとして重用するのは高齢の連中だ。年が近い極右タカ派こそが、トランプが最も信頼できる人間なのだろう。見たところ、トランプに理性的な助言を与え、リベラルの方向に少しでもバランスさせる契機を与えるのは、家族の中で最も信頼され一目置かれている長女のイヴァンカしかいない。イヴァンカの言うことなら聞くだろうが、他の言うことは聞かず、マスコミやアカデミーの警告は一切無視するだろう。ウォーラスティンは、今回の大統領選の結果が世界にインパクトを与えることは何もないと楽観論を述べている。懸念を一蹴している。この発言には驚かされた。

私と全く見解が違う。私は戦争を予想している。普通に考えて、トランプは他のどの党の予備選からの候補者よりも戦争に近い男だ。戦争してはいけないという、政治家が持っている平和主義の理念と倫理を欠落させている指導者だ。ウォーラスティンは、米国の国内は左右に分裂して軋むけれど、外交防衛の方面で悪い事態が起きるとは考えておらず、外国に影響を与えることはないと結論づけた。この分析と診断は、社会科学者が下したものとしてはあまりに杜撰で、不注意で、緊張感がなく、高齢で耄碌したに違いないとしか言いようがない。極右政権の米国がファシズム化し、戦争を起こすという予測がどうしてできないのだろう。


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by yoniumuhibi | 2016-11-16 23:30 | Comments(4)
Commented by pico at 2016-11-16 22:28 x
illegal migrantsと言っているのにメディアはillegal immigrantsと書き換え、それを不法入国者ではなく不法移民と訳す。その捻じ曲げこそが嫌われている。もちろん不法入国者による経済的な問題もあるだろう。しかし「まるで犯罪者のような扱いだ」とシレッと語る6回も強制送還を食らったメキシコ人を前にして「ようこそおいでくださいました」と心から返せる米国国籍保有者や合法移民はどれくらいいるのだろうか。これは経済問題以前に法治、法の下の平等、安全保障の問題だからだ。今「トランプだから」反発している人たちも本心では不法入国者はお断りだろう。15年前にはニューヨークでも福建人を強制送還しまくっていたが、今ではブルックリンに非中国人を排除する形で巨大な中華街が出現している。おそらく「トランプだから」反発している人たちも自己欺瞞に耐えられなくなっていくだろう。脱落しなかったものはどんどん先鋭化していくだろうが、マイノリティになっていくはずだ。「安倍は戦争狂」と囃し立てられても支持率を伸ばしていく日本と同じ状況が生まれるだろう。そしてサンダースのようにトランプが導くそのような社会基盤を利用して自分の政策を活かしていこうとする人たちは増えていくだろう。
Commented by 私は黙らない at 2016-11-17 07:36 x
いつも、良心ある投稿、ありがとうございます。毎回、深くうなずきながら拝読させていただいています。
ただ、今回のアメリカ政治に関しては、私は少し異なる見解を持っております。思うことが重すぎ、理路整然と書けそうもないので、私の思っていること、まさにそのままかと思うブログを見つけましたので、貼っておきます。岐阜大の寺島先生のブログです。貴ブログも寺島先生のリンクにありましたので、ご存知かもしれません。
tacktaka.blog.fc2.com/
こちらのヒラリークリントンに関する記述です。
アメリカ国軍のトップが、シリア上空の飛行禁止区域設定した場合の核戦争の可能性について議会で証言し、ロシア側は、戦略的忍耐の限界に言及、プーチンは在アメリカロシア人に対し、核戦争になった場合にそなえ帰国を促す。クリントンは、女学生にまで、徴兵への登録を呼びかける。こうしたことは、すべてオバマ、ケリー、クリントン政権下で行われてきたことです。こうしたことはマスメディアでは大きく報道されることはなかった。私は娘の将来を思うと、どんなに怖かったことか。この夏、娘は高校進学と同時に、半ば強制的にドラフトへの登録がされた。
あと一点、サンノゼ市での反トランプデモについてツイートされていましたが、予備選の間、トランプはサンノゼで集会を開いています。その際、集会に集まった人たちに、反トランプの一部が襲い掛かる騒ぎがありました。この時、警備にあたっていたサンノゼ警察は、黙って見ていただけで、止めに入ることはありませんでした。サンノゼのローカル紙もこれを報じることは一切ありませんでしたが、ツイートで拡散し、人々の知るところになりました。ちなみに、サンノゼ市長はラティーノです。これが、もし、クリントンの集会にトランプ支持者が襲い掛かったのであれば、大変な騒ぎになり、ローカル氏、テレビ局もこぞって報道し、大スキャンダルになっていたでしょう。マイノリティ問題を考えさせる出来事でした。

Commented by おにぎり at 2016-11-18 13:25 x
僕自身もヒラリーだと思っていたので、驚いた口なんですが
マスコミが分析を読み誤った点は責任問題や分析手法まで指摘されてますが、しょうがない部分があるとは思います。
選挙結果は制度による物で、それに応じた対策が奏功したと言え
票数で見ると誤差と言えるレベルで、ヒラリーートランプの構図でも紙一重で勝負は水物みたいな結果ですからね。
ただやはり、今回一番の「敗者」は主役の二人ではなく、マスコミだったというのは首肯できます。
BSの報道番組では「当初は色物としてトランプを扱っていたが、途中からこのままだとマズイとなってトランプ攻撃に切り替わった」「結果としてヒラリーを推したマスコミは負けたが、商売としてはこの上ない注目を集めて、米国マスコミはホクホク顔だ」なんて話が出てました。
日本でもそういう点が突っ込まれますけど、欧州でも難民問題発生の前から
難民移民が強姦事件のような酷い事件を起こしても、全く報道がされない事がネットでは指摘されてたそうです。
民意と乖離した独善的な報道や、権威・体制化したマスコミ=エスタブリッシュメント層への反発が根強く
それをトランプはひっくり返したって事ですよね。
個人的にトランプを特に推したりはしなかったですが、有名バンドがトランプに曲を使うなと要求なんてどうでもいい話を米国→日本のマスコミが報道していて、露骨すぎないかとは思いましたね。

長期的にみて、マスコミの権威も崩れ去る過程なのでしょうが、米国もそんなことやってるのかという失望感はありました。
ここで謙虚に自省できるかは分水嶺でしょうが、たぶんダメなんでしょうね。
Commented by 長坂 at 2016-11-19 11:42 x
後はヒムラーとリッベントロップ待ちのトランプ・アドミニストレーションに真っ先にすがりに行く。「早くイランを空爆したい」と座右の銘が強制送還(オバマもガンガンやってはいたが)しかいないサードライヒに最初に貢物を持って行った。今回はっきりわかった事は日米同盟は強固でも堅固でもないどころか見捨てられる恐怖。押しかけシンゾーは押し付けケンポーよりみっともない。


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