分断と憎悪のアメリカ - 格差は解消されず、トランプは戦争へと暴走する

c0315619_17034512.jpgトランプの当選が決まった後、9日、全米各地で反トランプのデモが発生し、一部で過激な若者が暴徒化する騒ぎが起きていた。ネット上にはポートランドで群衆が星条旗を燃やしている動画も上がっている。これまで、米国でこのような事件が起きたことはなかった。二つの政党の候補が長い選挙戦を争って、投票結果が出て、一方が敗北を受け入れた後は、新しい大統領を全国民の指導者として仰いで結束するというのが米国の政治の姿だった。作法だった。日本のネットでは、反トランプのデモを揶揄し批判する右翼と、反トランプのデモを支持し賞賛する左翼と、二つがTwで挑発と応酬を繰り返しているが、私はただ、これまで見たこともない光景の出現に驚かされ、従来の米国の秩序が崩壊したことを確信させられる。日本のマスコミは、米国の分断の深さという表現で報道しているけれど、その言葉では釣り合わない重さと具合の悪さを感じる。米国の歴史が始まって以来、こんな異常なことがあっただろうか。だが、その異常さというのは、中身としては、当選した新しい大統領の人物と素養の不全であり、反トランプのデモをしている若者や国外追放されるかもしれないヒスパニック系などからすれば、この選挙結果こそが米国の異常であり、信じられない悪夢の進行なのだろう。



c0315619_17043185.jpg一方、トランプに一票を入れ、トランプを勝利に導いたラストベルトの白人没落労働者層からすれば、DCやNYから見捨てられてきた自分たちがサイレント・マジョリティであり、今回ようやく主役となって合衆国の政治を動かしたのだという自負とカタルシスの感覚でニュースを見ているに違いない。地方の工場でブルーカラーとして働いてきた没落白人中高年層の視線からすれば、NYやLAやオークランドの街頭で派手なデモを演じている若者たちは、エスタブリッシュメントの予備軍であり、デモの絵を作ればマスコミが撮ってくれて主張をテレビで流してくれるリベラル貴族なのだ。昨夜(11月10日)、報ステの映像では、デトロイトに住む40歳のフォードのエンジニアという男が登場し、2005年から給料が上がっていないと嘆いていた。この男はサンダース支持で、その後、組合からクリントンに投票するよう指示されたが、それを拒否してトランプに一票入れたのだと言う。プライムニュースに出ていた西部邁の話では、その間、米国では医療費が3倍、教育費が4倍になっていて、格差拡大の禍に苦しむ米国の一般市民の窮迫が窺える。11月3日にNHK-BSで放送された米大統領選の特集では、大学の授業料が年間550万円で、とても借金をすることができないので大学をやめた女の子が困窮を訴えていた。

c0315619_17051605.jpg同じ昨夜(10日)の報ステでは、ニューヨークの中で例外的にトランプの支持率が高い島があり、そこに住む家族が庭にトランプ支持の看板を出していたところ、誰かに火を点けられて燃やされた事件の紹介があった。家族の話では、すぐにトランプが電話で見舞いをしてくれたのだと言う。そのとき、こう言っていたのが印象に残った。問題なのは人種や性別や宗教ではない。移民やマイノリティが分断の原因ではない。この国の分断の真の原因は格差なのだと。私もこの言葉に賛同する。本来、米国は移民社会で、多様性を重んじる社会であり、移民やマイノリティの増加が社会の分断に直結するのではなく、むしろ多様性の深化が繁栄へと繋がる社会だった。だが、そうした前提が土台から崩れ、マイノリティの増加が自身の危機や没落を意味し、新参者の他者への寛容さを失うほど、米国社会の格差と貧困が広がり、多数を占める白人層の生活の余裕が奪われている。中産階級の安定的な生き方ができなくなったため、新規参入するストレンジャーを協力協働と相互発展のパートナーとして積極的に受容できなくなり、自己防衛的で他者排斥的にならざるを得なくなってしまっている。私は、この家族の言葉が正しいと思う。格差こそが社会の分断を生んでいる元凶なのであり、ここにサンダース的な方法でメスを入れないかぎり何も解決も改善もないのだ。

c0315619_17054760.jpgいくら上からポリティカルコレクトネスの説教をしても、分断解消の効果は低く、米国白人層のマイノリティに対する反感を小さくする契機にはならない。富を平等に分配し、人が中産階級として生きられる経済社会になってこそ、ポリティカルコレクトネスはタテマエ化した疎外態の言説から元に戻り、人々の確固たる信念や常識に収まるのだろう。正論が正論として機能する。存在が意識を規定するというマルクスの命題と照らし合わせて、報ステで登場したこの家族の指摘は本質を射抜いている。無論、トランプは米国の格差を解消したりはしない。オバマ政権の8年間以上に、格差を激しく開かせる政策にシフトするだろう。早速、次の財務長官にJPモルガンのCEOを就けるという情報も出ており、さらにティーパーティを想起させる減税策を始めるという報道もある。オバマケアの撤廃も公言している。経済政策は従来型の共和党路線だ。トランプが没落労働者層の所得増加のために分配策を採るなど到底思えないし、投票したラストベルトの白人労働者もそんな楽観的な将来は予想してないだろう。彼らが選んだのは、誤解を恐れず敢えて言うなら、格差の矛盾が臨界点に達した米国社会の破壊である。デスペレート革命を選択している。そもそも、トランプが社会の分断を治癒したり克服したりできるはずがないではないか。そんな平和的で紳士的なキャラクターではない。

c0315619_17064766.jpgトランプの政策と言動は、国内の対立と憎悪をさらに煽るだけのものになるだろう。トランプは決して国民の多くから信頼されず、尊敬を受けず、マスコミからも嫌われ、リベラルから叩かれ続ける大統領になるだろう。欧州など外国からの評判も悪いだろう。そして、支持率調達のためにポピュリズムを操作し、大統領選時と同じように支持者にマスコミとエスタブリッシュメントを叩かせ、マジョリティたる没落白人層に気分的快感を与えてボナパルティズムを創出すると思われる。そうすることで、独裁的な政権の維持を図るだろうし、それが功を奏さなくなったときは、国外に標的とする敵を作って叩き、戦争を始め、国内を愛国者の熱狂で一つにするだろう。ブッシュのイラク戦時争の手法で統合を試みるだろう。戦争をする以外に、トランプの人格と資質で4年間の政権を維持できるとは思えない。普通、1月に大統領に就任して半年ほどは、猶予期間として米国のマスコミと国民は新大統領への批判は手控えるものだ。だが、今回のトランプは、当選の翌日から全米の都市で抗議デモが起きた。保守的な土地柄のテキサスでも起きている。トランプの勝利演説は、聞いていて感動を覚えないもので、8年前のオバマのそれとは雲泥だった。ステージ上のトランプの家族たちが、心から夫や父を尊敬し、祝福しているようにも見えなかった。

米国は昔の米国ではなくなった。レーガンの頃の共和党は存在し得ず、あの頃の共和党の環境条件がなくなっている。アメリカ合衆国は大きく姿を変えざるを得ない。


c0315619_17073852.jpg

[PR]
by yoniumuhibi | 2016-11-11 23:30 | Comments(4)
Commented by 長坂 at 2016-11-11 20:57 x
国民が再び "Unite" するには、新たな戦争かテロがない限り無理。それ位修復不可能な亀裂、分断だと言うアメリカ人の声が朝日に。民主党だろうと共和党だろうと国是が戦争の国、いずれ又戦争をするとは思っていたが、国務長官候補にイラク戦争の戦犯、冷血のネオコン、ジョン・ボルトンの名が!まさかこんな奴らが戻って来るとは。ロシアとの関係改善で、シリアの内戦が落ち着く方向に向かうのではないかとちょっと期待したが、ネオコン再登場じゃ結局又イスラエルの代弁者。ヒラリーと同じってことか。任命されない事を祈るのみ。
Commented by ametyan at 2016-11-12 19:31 x
「ボウリング・フォー・コロンバイン」などの映画監督マイケル・ムーアが4ヶ月前にトランプが大統領になることを予想していました。
(参照)マイケル・ムーアは正しかった。4ヶ月前に指摘していた、「トランプが勝つ5つの理由」http://bylines.news.yahoo.co.jp/saruwatariyuki/20161110-00064275/
ブログ主が説明する(そしてここ数日マスコミが盛んに流している)ラストベルトのプアホワイトの力が彼を大統領に押し上げた、をムーアも第一に挙げています。それは大きな要因であるとは思いますが、私はそれはきれいすぎる分析だと思います。トランプ当選直後から、ムスリム、同性愛者などが襲撃されています。カギ十字とともにトランプの名前、そして「○ガー(黒人蔑称)よ、これからはトランプが大統領だ」の落書きも多発。私はムーアの予想の第二項目の「白人男性のあがき」に注目します。彼は「白人至上主義」の「白人男性」のアイコンです。彼は地獄の釜のフタを開けました。
Commented by ローレライ at 2016-11-13 04:44 x
『ソロスのデモ募集ビラが晒されています

開始>
トランプ反対デモに参加しよう。

1週間で1500ドル稼げます!』http://blog.ap.teacup.com/jiritu/6486.html?ap_protect=xeqb0micmvc☆
Commented by 長坂 at 2016-11-13 15:26 x
反トランプ派がしばき隊化してきてますね。トランプを支持したと言って、ニューバランスに対するネガキャン、スニーカーを燃やしての抗議。数年前に読んだニューバランス社の記事によると、アメリカ人を雇いアメリカで靴を製造する絶滅危惧種的な会社。他社の靴より高めだが社員は皆誇りを持っている、みたいな内容だった。もちろんTPPに反対。
気持ちはわかるが、問答無用で暴力は残念ながら何も解決しないんだわ。


カウンターとメール

最新のコメント

特定秘密保護法、安保法案..
by 私は黙らない at 04:05
安倍総理の顔が、元気のな..
by はちみつ at 22:18
蓮舫戸籍問題、民進のネト..
by 長坂 at 13:16
>>実はその行動には、唯..
by ポー at 16:20
北欧旅行もあるでしょうが..
by ポー at 16:25
安倍の腐臭を放つ政治に、..
by ともえ at 23:46
フェイクニュースといえば..
by 一読者 at 19:35
公明党山口代表が、憲法改..
by ネット受信料を払うの? at 00:01
元エリート官僚による..
by 七平 at 09:10
19時のニュースで九州豪..
by アン at 00:26

Twitter

以前の記事

2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月

記事ランキング