フェイドアウトのディボース - 「駆けつけ警護」の修羅場を前の周到な破綻

c0315619_17542673.jpg「野党共闘」の破綻がどうやら現実のものになった。民進党の代表選に立候補した3人が口を揃えて共産党との連携について消極的な発言をしていて、そのことが繰り返しマスコミで大きく報道されている。「野党共闘」について3人の立場が共通しているのは、「理念や政策の一致が前提となる」という点であり、この意味を裏返せば、参院選と都知事選での共産党との選挙協力は理念・政策の一致を前提としていない野合だったという総括と反省になる。選挙が終われば、民進党がこうした主張を始めるのは自明の理だった。岡田克也が公約のとおりに改憲3分の2を阻止する結果を得ていれば、代表続投となっていただろうが、勝敗ラインを割って責任問題が浮上する以上、引責辞任せざるを得ず、そうなったときは「野党共闘」の継続が見直され、民進党のネイティブな政策路線への回帰が始まるのは当然の成り行きだった。客観的に見れば、この1年間の民進党(民主党)が本来の軌道から離れて左に寄っていたのであり、例外的な取り舵いっぱいの冒険的旋回をしていたと言える。左に寄って売り出した山尾志桜里が、ちゃっかり前原誠司の推薦人になって登壇した絵からも、そのことが確認できるだろう。



c0315619_17544748.jpgテレビでは民進党代表選が報道のネタになって注目を集めているが、その議論の場に長妻昭や辻元清美の顔が出てこない。民進党の右回帰と「野党共闘」リセットに批判的であるはずの党内最左派の阿部知子が、なぜか、民進党におけるネオリベ右翼の若僧の典型的なイメージを提供している玉木雄一郎の推薦人に名を連ねるという摩訶不思議があり、こうした奇妙な事実からも、民進党が元の平常運転に戻った状況がよく印象づけられる。ここで注意して観察する必要があるのは、ネットの中では、しばき隊を中心に民進党に対するヒステリックな罵倒の雨霰があり、蓮舫事務所に対するFAX攻勢の圧力と扇動が続きながら、肝心の「野党共闘」の3党が異様なほどの静観と沈黙に徹していることだ。代表選での路線論争の不本意な展開に介入しようとせず、民進党の躊躇ない右回帰に外野から牽制の声を上げようとしない。特に、民進と共産を繋ぐ接着剤の役割を果たす社民と生活から、「野党共闘」を保全する動きがなく、右回帰と「野党共闘」破綻を流れのまま淡々と眺めている。まるで、それが折り込み済みの予定事項であったかのように見過ごしていて、「野党共闘」に対する執着が全くないことが看て取れる。彼らに焦燥感がない。この点が重要なのだ。

c0315619_17553403.jpgそしてそれは、この1年間の「野党共闘」の欺瞞を示す証左なのだ。そもそも、この「野党共闘」の基盤は、昨年9月に成立した安保法制を廃止するという合意にあり、反安保を一致点にして、他の政策の違いは脇に置いて共闘を組んだはずだった。「野党共闘」の大義はそのように説明されていて、われわれの通念として「野党共闘」はそのような積極的な意味づけで理解されている。1年前、世論全体の3分の2が安保法制に反対であり、「野党共闘」はそうした世論によって支持される政治の流れだった。だが、何度も言ってきたことだが、この「野党共闘」の説明と表象には操作があり、安保法制についての方針が四党の間で矛盾なく一致していたわけではない。安倍自民党が成立させた安保関連法の廃止という点では同じでも、廃止した後の安保法制をどうするかという具体論で根本的に違っていた。共産党の場合は、安保法以前、すなわち2015年以前の原状にするという対処であり、基本的に、安保法廃止というスローガンはこの意味で国民に了解されていたと言えるだろう。安保法を戦争法と呼んで否定する立場としては当然そうなる。だが、民進党(民主党)はそうではなく、廃止した後、安倍自民党の安保法と大差ない中身の新たな安保法(対案)の制定をめざしていた。

c0315619_17555882.jpg安保法の政治経過を注視してきた者には周知のことだが、民主党と維新は、2月18日に対案となる3法案を国会に共同提出している。その翌日、2月19日に共産、社民、生活と一緒に安保法を廃止する2法案を提出した。具体的には、集団的自衛権の行使を憲法違反として認めず、自衛隊の海外派遣にはその都度、期限付きの特措法を制定するという内容である。この廃止法案が「野党共闘」を基礎づけるもので、「野党共闘」の根拠となり核心となっているものだ。だから、「野党共闘」を喧伝する者は、この2月19日の廃止法案の政治のみに焦点を当てて強調するのであり、逆に、前日2月18日に民主と維新が提出した対案には一切目を向けず、その事実に触れようとしない。対案の内実がどのようなものか、2月22日の朝日新聞の記事がネットに残っていてありがたい。対案には、「周辺事態法改正案」と「国連平和維持活動(PKO)協力法改正案」、「領域警備法案」の3つの法案があり、この中で特に重要なのは自衛隊PKOの「駆けつけ警護」を認めている点だ。この問題は、今秋、南スーダンへの自衛隊派遣で大きな争点となるだろう。賛否の世論調査も注目される。民進党は一言も言わないが、代表選で共産党と距離を置き始めた理由には、この「駆けつけ警護」の問題が間違いなく関係している。

c0315619_17562381.jpg昨年5月末に安保法案が国会で審議入りした直後、衆院委員会での集中審議の討論をテレビで見ていたら、細野豪志が登場してゾッとするようなことを言っていたので驚いた記憶がある。この政府の法案には欠陥があり、このまま自衛隊員がPKOの駆けつけ警護で現地の任務に出たら、民間人の女性や子どもを射殺する事態になり、刑法上の責任回避の枠組みがなく殺人罪に問われてしまうから、自衛隊員を法的に保護する仕組みの整備が必要だと言っていた。野党の政調会長だから、そして国民的に反対世論が高まっている中でのNHKの生中継の場だから、きっと法案反対の論陣を張って安倍晋三に挑む点数稼ぎを演じるものと思っていたら、豈図らんや、政府の法案だと安心して自衛隊員が現地で民間人を殺害できないから、それができるよう万全な法的措置をせよと要求する質疑を展開していた。テレビの前で唖然としてしまった。ネットで調べると、細野豪志は「駆けつけ警護」を以前から後押ししている第一人者の政治家で、国会質疑の機会を利用して自衛隊PKO任務に「駆けつけ警護」を解禁しろと何度も政府に迫っている。この方面では自民党以上にタカ派の議員だったのだ。そしてそれは民主党(民進党)の安保政策の重要な項目でもあった。だから、その集中審議で議題にしたのである。

c0315619_17564029.jpgこの恐ろしい細野豪志の質疑内容は、おそらく今度の秋国会でも再現されるのではないだろうか。民進党は、自衛隊の南スーダンでの「駆けつけ警護」始動に際して、現地民間人の誤射殺傷の法的免責措置の整備を再提起するのではないかと予想される。そうなったときは、「駆けつけ警護」そのものに反対する共産党と真っ向から対立する構図になり、反安保・反安倍で共闘という状況ではなくなることになる。そうした近い将来の政策的衝突を見越して、準備の政治として、フェイドアウト的に共産党との縁切りに出たのが、今回の代表選の争点論議であるように思われる。こうやって一段階目として間合いを取るステップとフェーズを踏んでいれば、バッファーとなり、二段階目に「駆けつけ警護」の国会での本格論戦となったとき、それほど激しく生々しい修羅場 - 「野党共闘」の破綻 - を国民に見せなくて済むことになる。おそらく共産党はそのことを心得ているから、代表選での民進党の「共産離れ」に対して口煩く噛みつこうとしないのだ。未練がましく責めて暴れることをせず、大人の事務的態度で臨んでいるのであり、想定内の破局の進行なのだろう。すなわち、お互いに距離感を計りながらフェイドアウトのディボースの政治をやっている。結婚は離婚を前提とした結婚だった。愛はなく、打算だけがあった結婚だった。

打算とは選挙である。打算とは党利党略である。野合である。愛とは安保法案についての政策一致である。愛がないのに愛があるように二党は国民の前で振る舞い、左翼リベラルを巧みに騙して誘導し、左翼リベラルは自己欺瞞的に二党の愛の存在を信じ、その演出に酔い、祝福し、応援して心地よく1年間を過ごしてきた。いずれは破綻する虚構の愛を、真実に偽装する欺瞞のエンゲージリングがSEALDsだった。二党の「愛」をシンボライズする、純金と偽ったニセモノのリングである。「駆けつけ警護」の政策スタンスがこれほど水と油で正反対なのに、安保法制で政策が一致したなどとは到底言えず、偽りの政策一致を根拠に選挙で共闘しても、国民の支持が離れて選挙に負ける結果になるだけだ。「野党共闘」は野合だった。野合ゆえに必然的に破綻を始めた。

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by yoniumuhibi | 2016-09-07 23:30 | Comments(1)
Commented by 愛知 at 2016-09-13 01:19 x
「総理、これは外交問題にもなり得るんですよ。そこで例えば子供を殺してしまった、女性を殺してしまった、そのときに、日本としては法的にこう対応しますよというのを現地でしっかり説明をされなければ、幾らいいことをやろうとしたって、反日感情が高まる可能性がありますよ。」―――貴下ご指摘のゾッとする細野発言を国会議事録(昨年6/1)から。議事録を読めば他にも。同日「重要な任務を担うことになればなるほど、自衛隊が途中からいなくなるのは、これは本当にまずいわけですよ。国際関係にも深刻な影響を及ぼす可能性があります。」同年7月10日「今、自衛隊には、私は実はこれを調べるまで知らなかったんですが、貸費制という制度が、大臣、ありますね。これは、在学中の一年間、月五万四千円を支給されて、理科系の大学や大学院に行って、その後、自衛隊に入るという制度ですね。これは何人今もらっているのかということを調べましたら、実はわずか十六人。月五万四千円で一年間ですから、極めて限られていますね。こういう、人口が急激に減ってくるということを考えると、進んで自衛隊に入って我が国のために頑張ろう、こういう人が出てくることを私も望みたいですよ、望みたいけれども、現実はなかなか厳しい。そのときに、こういう奨学金のようなものを拡大していく。行く行くは、例えばアメリカのように、実動部隊に入った後、学校に行けますよというようなことについても検討しなければならないような状況が、自衛隊の活動が拡大すればするほどあるんじゃないかということについては、私は現実的にあり得ると思うんですよ。」読み返せば驚く発言はいくらでも。「殉金」のエンゲージリングよりも国会議事録の方がずっと重いと思います。


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