生前退位のウィニングストラテジー - 年内結論、来年法制化、再来年退位

c0315619_1515366.jpg天皇陛下の「お気持ち表明」のあと、マスコミ各社から世論調査の結果が発表されている。日経の数字では、生前退位を認めるべきが89%、認めるべきでないが4%となった。また、恒久的に生前退位を認めるべく制度化すべきだが76%、今の天皇に限って認めるべきだが18%とななっている。さらに、女性・女系天皇や女性宮家を検討すべきが58%、天皇の「お気持ち表明」について憲法上問題があるとは思わないが83%という結果が示されていて、質問の設計と回答とも、この問題についての日経のリベラル性が反映された報道内容となっている。一方、読売の世論調査を見てみると、93%が「お気持ち表明」を「良かった」と評価し、法制度の「改正を急ぐべきだ」が60%となっている。読売は日経と逆で、皇室典範の改正に反対な安倍政権の意向を滲ませた論調の記事になっているが、世論調査の回答が編集部の意向を裏切っていることがよく分かる。いずれにせよ、8日のビデオメッセージの後、国民世論は圧倒的に生前退位を支持する方向に出て、生前退位実現の制度改定は必至の情勢となった。予想どおりの反響と進行であり、天皇陛下の決断と挑戦は見事に成功した。



c0315619_152779.jpg11日の毎日の記事を見ると、「現在の陛下に限る特例として退位できる特別法の制定を軸に検討を始めた」とある。あくまで皇室典範の改正を避け、特別法の立法措置で姑息に逃げようとしている。この対応は、恒久的な制度変更、すなわち皇室典範の改正を求める国民の世論にそぐわないものだが、ビデオメッセージの前、麻生太郎らが公然と摂政制度を活用せいと言っていた姿勢からは大きく後退した。言わば、皇室典範改正と摂政制度活用の中間に位置する、政治的には妥協の線となる措置だ。7月13日にNHKで一報が出たときも、典範改正か特別法制定か二つの方法があると報道していた。その後、麻生太郎らが巻き返しに出たわけだが、8日の「お気持ち表明」の中で摂政制度活用が否定され、右翼側が目論んでいたこの案は完全に退けられた形になっている。安倍晋三らの本音は、世論がどう言おうが、断固として生前退位を認めるつもりはなく、まして皇室典範改正など論外で、有識者会議を設置するだのしないだの、特別法は現行法制との調整が厄介だの、憲法改正の必要があるだのと言いながら、のらりくらり逃げ、棚ざらしにして放置したまま、天皇陛下が死ぬまで何もせずに時間稼ぎする魂胆なのに違いない。

c0315619_1521760.jpg原爆症患者や水俣病患者への補償や元従軍慰安婦への対応と同じで、その薄汚い腹が透けて見える。だが、今度は10年前のように握りつぶしたままで安倍晋三が勝つということはないだろう。法制度改正に対して私が楽観的なのには理由がある。前回とは条件が違う。それは、皇族が一致結束していることだ。皇室典範を改正して、天皇が生前退位できるようになることは、皇太子一家にもメリットがあるし、秋篠宮一家にもメリットがある。その方がずっと合理的で万事巧く収まる。天皇陛下が「お気持ち表明」で言っていたところの、殯の儀式を始めとする儀礼の負担とその回避は、皇太子にも秋篠宮にも説得的に聞こえたものだろう。生前退位を実現させる制度改定は、巨大なカリスマを持つ天皇陛下でなくては訴えられないもので、国民の9割の支持を調達できるものではない。息子夫婦たちにとっても、タイミングは今しかないのだ。10年前は皇室の中が割れていた。両陛下の意向と、東宮家の内情と、秋篠宮家の思惑の三者がバラバラで、相互不信と対立感情が露骨だったため、天皇陛下が意を決して動いた女性・女系天皇容認の典範改正は失敗した。安倍晋三ら右翼に巻き返され、結局、悠仁内親王の誕生で沙汰止みに終わった。

c0315619_1535515.jpg今回は三組の夫婦と家族の意向が一致している。割れてない。それが前回と異なる前提的要素で、この制度改定のウイニングストラテジーを導出する条件だ。早速、12日に東宮太夫から、皇太子が今回の件を「重く受け止めている」とする発表が出た。援護射撃だ。皇太子は天皇陛下ほどのカリスマは持ってないが、今回は実現に向けて全力で動くだろうし、安倍政権や政府官僚の発言に較べれば国民への影響力ははるかに大きい。今回の件は皇太子にとって直接自らの人生に関わる問題で、口を閉じたまま政府の対応を辛抱強く見守るというわけにはいかないだろう。皇太子は純粋で真面目な人だ。そして、両陛下以上に皇族の人権について積極的な思考の持ち主であり、両親以上に自由で民主主義的な象徴天皇制のイメージやアイディアを持っているように見受けられる。特に、皇族の言論の自由の問題については、これまで雅子妃についての醜聞でさんざん苦労させられた経緯があり、マスコミの不当な人権侵害に対して自由に抗弁できずに沈黙を強いられた苦痛の堆積がある。その不条理への抵抗から、両陛下よりも一歩前に出たところの、皇族の言論と表現の自由をめざし、皇族の人生の選択の自由を確保すべくプログレッシブな挙措に出るに違いない。
 
c0315619_1541257.jpg皇室典範に残る大日本帝国の遺制や因習から解放をめざすだろう。皇太子の誕生日は半年後の2月23日。当然、この日には生前退位についての本格的なコメントが出るだろう。そこまでの間に、10月20日に皇后陛下の誕生日があり、11月30日に秋篠宮の誕生日がある。そして、12月23日に天皇誕生日がある。今秋、政府側が生前退位を棚ざらしにしたり、法制化を先延ばしする策動に出た場合は、10月20日の皇后陛下の誕生日のお言葉に注目が集まり、そこから間髪を置かず、秋篠宮、天皇、皇太子と、連続して皇族の誕生日のお言葉表明があり、生前退位の法制化を促すコメントが出て、マスコミが政府の尻を叩くという政治の図が現出するだろう。何と言っても天皇陛下は82歳の高齢であり、時間がない。8月8日の「お気持ち表明」の中では、具体的に2年後に平成30年(2018年)を迎えるという一節があり、この時期が退位の目処として想定されていることが分かる。2020年は東京五輪の開催年であり、この開会式を新しく即位した天皇の臨席で挙行してもらいたいという意図が示唆されていると理解してよい。2018年を退位のタイミングとすれば、今年中に生前退位の結論を出し、来年2017年中に国会で法案を成立させる必要がある。常識で考えて、12月23日の天皇誕生日の前に政府の結論が未決ということはあり得ない。

c0315619_1542575.jpg失礼な話だ。もし、12月23日の前に結論が出ず引き延ばしになっていれば、天皇陛下は政府に無視された形になり、格好がつかないし、そういう事態になる前に、10月20日の時点で皇后陛下から催促のお言葉表明があり、マスコミが拾って問題にし、皇室を蔑ろにする安倍政権に対して非難の集中砲火を放つだろう。当たっているかどうかは不明だが、この生前退位の政治についてキーマンとなっているのは、どうやら右翼学者の所功のようだ。靖国神社のイデオローグであり、右翼論壇の重鎮である所功が、安倍晋三や麻生太郎の意に反して生前退位の推進に回り、法制化を急ぐべきという立場でマスコミ解説を仕切っている。最近は、典範改正から特別立法の方へ旋回し、腰が砕けたようだが、それでも、所功が生前退位の論陣を張っている以上、政権右翼が棚ざらしと先延ばしを貫徹するのは難しい。ただし、皇室典範改正と特別立法は同じではなく、皇室典範を変えないまま特別立法で一代だけ例外的に生前退位を認めるという応急措置はあまりにアクロバティックで、法律上の無理と逸脱が甚だしく、法的安定性を欠いた立法体系になってしまう。不具合な前例となり、将来に禍根を残すだろう。そもそも、特別立法という対応そのものが、天皇陛下が何かわがままを言っているように映る。

生前退位を認めるという原則に皇室制度を切り換えて、皇室典範の諸条規を改定もしくは追加するというやり方が正しい。仮に、今回、特別立法で妙なその場凌ぎをやったとしても、必ず皇太子が即位後に皇室典範の改変を要求するようになり、人にやさしい象徴天皇制の理念の実現に動くだろう。特別立法は不格好で無意味だ。


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by yoniumuhibi | 2016-08-16 23:30 | Comments(2)
Commented by 民主主義としての象徴天皇制 at 2016-08-18 00:01 x
特別立法で、今回限り=現天皇に限って「生前退位」を認めるというやり方をするということは、安倍晋三をはじめとする右翼が、本当は天皇に敬意を抱いていないことの証左である。天皇を利用することしか考えていない。天皇は、発言・行動できない方が、実は好都合なのだろう。摂政はあくまで摂政だから軽く扱っても許される。

現天皇の「お気持ち」を「歳をとって仕事が辛いからやめさせてくれ」とわがままを言っているととらえているからこそ、「今回だけ特別に許す」のだろう。特別立法について、ブログ主さんの指摘の通りだ。
ただし、右翼の中にも、天皇に敬意を払う者たちがいる。だから意見が割れる。

ひとりの人間でもある天皇に、天皇家に生まれたことを根拠として、「日本国民統合の象徴」という役目を背負わせて、人生を選択させない。
そのうえで、さらに「生前退位をも許さない」となると、あまりにも「非人道的」だ。
ひとりの「人間」を、そのように扱う国家が、民主主義国家だと言えるだろうか。
せめて「生前退位」を認めるべきだ。

世論調査でこれほどの国民が「認めるべきだ」としているのに、それを認めない政府など、民主主義国家と言えるだろうか。
Commented by 七平 at 2016-08-18 22:35 x
現天皇の生前退位を御希望される声明より、日本の国内で大変な討議がなされているようですが、正直なところ呆れ返っております。

第一に、天皇であれ一般庶民であれ82歳のご老人がRetirement を希望される時、国としてその希望を否定する、又、実行を遅らせる等、奴隷制度に匹敵する発想だと考えます。 特に、憲法9条を無視、捻じ曲げ解釈して法案を国会で強行突破させ、自衛隊の海外出兵を可能にした連中が生前退位には憲法改正が必要等と、まるで護憲派であるかの様な発言をするに至っては憤りを感じます。 日本は本当に21世紀の先進国なのでしょうか?

第二に、既存の日本国憲法内に”職業選択の自由”が保証されているはずです。これは基本的人権の一つです。 天皇が国の象徴として長年その職務を遂行され続けていますが、或る日、疲れた辞めたいとの考えを持たれた時、それを法的な理由で否定したり、遅らせたりする事自体、 職業選択の自由の原則に抵触します。なぜならば、 職業選択の自由は必然的に、職業変換の自由を保証し、 変換する際には必ず”辞める” 退職のAction が伴います。従って、生前退位は現行の憲法で保証されています。 安倍政権と取り巻きの間接的な声明は天皇を人間扱いしないと言うことに他なりません。

生前退位に関する条例がないので駄目等、DRAMの塊 (CPU欠落)人間が口にする事です。日本の大学の法学部では暗記物以外、一体何を教えているのでしょうか?記憶力と反芻能力しか育てない日本の教育の弱点が司法の面でも浮き彫りにされていると考えます。


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