動機としての障害者抹殺と安楽死政策 - ナチスの優生思想との類似性

c0315619_16513854.jpg昨日(7/27)の朝日の朝刊1面に載っていた障害者団体の声明が、代表の映像とともに夜の報道番組で放送された。報ステは全文を丁寧に紹介、局の意思がこの障害者団体のメッセージと同じであることを視聴者に伝えた。ようやく、わずかながら、マスコミ報道が正常な倫理観を取り戻し、事件に対する正しい対応と反撃が一つ出たようで安堵を覚える。宮中の両陛下も同じだろう。だが、マスコミ報道には不満がある。政府の対応はとても納得できない。抵抗できない重度の障害者が、動物が屠殺されるように、片っ端からナイフで首を着られ胸を突かれ、命を奪われて行ったという事実が、どれだけ酷(むご)く恐ろしいことか。起きた現実に対して、この国の反応はあまりにも小さく無神経すぎる。テレビの報道時間が短すぎる。ワイドショーのネタ扱いだ。リオ五輪や米国大統領選と並ぶ話題の一つの扱いが続いていて、起きた現実の大きさと報道の小ささの不釣り合いに愕然とさせられる。規模において戦後最大の凶悪事件で、しかも重度障害者が標的にされて犠牲になる痛ましい惨劇で、悪魔の所業が世界を震撼させているのに、テレビのニュースとワイドショーは同じルーズな日常が続いていて、毎度の進行の中に事件報道が小さく組み込まれて処理されている。



c0315619_16443743.jpg本来なら、国民が喪に服してよいのではないか。フランスでは昨年11月のパリのテロの後、さらに今月のニースの事件の後も、国を挙げて3日間の喪に服し、公的機関では半旗が掲げられた。せめて、テレビ報道は通常の編成と進行をやめ、スポーツやエンターテインメントを減らし、スタジオに出演する者は黒のドレスコードで神妙に謹んで仕事するべきだ。「さあ、それではスポ-ツのコーナーです」などと快活に振ったり、キャスターがギャハハと口を開けて笑うのは控えるべきだろう。きっと、英国やフランスやドイツの市民は、今、日本人はどれほど悲嘆と暗涙の底で呻いていて、沈痛な空気が全体を支配していることだろうと想像しているに違いない。このような救いのない惨劇が起き、政府も国民もいたたまれない気分で塞いでいるだろうと同情を寄せているはずだ。欧州の市民が、今、日本で放送されている昼のワイドショーや夜のニュースを見たら、彼らは意外に感じて目を丸くするだろう。プーチンやローマ法王から弔文が届いているのに、首相の安倍晋三がカメラの前で犠牲者を追悼する言葉を言わないのは不自然だと訝しんでいるのではないか。本来、都知事選の論争と関心はこの事件一色に染まってよいのに、神奈川県の事件は東京都とは無関係と言わんばかりだ。

c0315619_16444818.jpgもっと社会が衝撃を受けて当然ではないのか。社会の衝撃の大きさをマスコミ報道が反映して然るべきではないのか。それがなく、衝撃も混乱も放心もなく、何事もなかったかのように、ほんの少し蚊に刺された程度だと言わんばかりの平穏な状況が続いているのはどういうわけだろう。ニュース番組は、「それでは次」と簡単に流さずに、他の福祉施設の幹部の見方や厚労省の職員の声を紹介したらどうか。厚労大臣の塩崎恭久も、国公委員長の河野太郎も、この事件を受けてカメラの前に立っていない。「関係省庁とも連携し、再発防止の検討を早急に行っていきたい」などと、官僚の作文にもならないお茶濁しの一言で済ませている。欧州の人々がこの閣僚の対応を聞いたら、日本は中国以下だと呆れるのではないか。障害者を支援してきた市民団体の声も、一つではなく二つ以上聞きたい。それから、海外の市民の街頭インタビューも聞きたい。神奈川県警や津久井署の会見も聞きたい。さらに、欠かせないのは福祉施設で働く労働者の意見で、これを契機に待遇改善の方向へ行政が進むよう、マスコミは世論を喚起するべきではないのか。これらの取材結果を編集して詰め込み、国民の関心に応える事件報道に注力すれば、ニュース番組は他の話題に時間を割くことはできなくなるだろう。

c0315619_16445989.jpg植松聖の犯行の動機について、政治思想の有無や介在が問題になっている。現在のところマスコミは、事件の報道に際して政治的契機を問題にしようとせず、この事件にテロの属性を認めない立場に徹している。テロの範疇から今回の事件を除外し、事件にテロの表象を与える事態を避けている。これは政府と政権の意向に沿った方針だろう。テロの辞書の意味は、政治的な目的を達成するために暴力を行使することである。現在の一般認識では、事件は個人の単独犯によるもので、政治的な組織の関与や背景はなく、一見して、何らかのイデオロギーが影響して犯行を媒介したと疑うのは難しい。だが、それでは政治とは一切無関係の大量殺人事件かというと、決してそうとは言えず、事件と政治とを関係づける証拠は幾つかある。第一に、衆院議長の大島理森に犯行の計画書たる手紙を提出している事実は重要だ。この手紙は、一つの政策的な主張を掲げていて、それは、障害者を安楽死させるべきという提案である。障害者を施設で保護することは社会の無駄であり、害悪であり、本人と家族にとって不幸だから、こうした社会保障の政策や制度は捨て、国家として障害者を安楽死させる選択をするべきだと言っている。言うまでもなく、これは1930年代のナチスの優生思想とT4作戦と同類のものだ。

c0315619_16451033.jpg犯行は「手紙」に書いた計画をそのとおり実行していて、犯行後に「手紙」が公開されることも予定に入っている。つまり、国家に献策した政策プログラムを自ら実行し、成果をアピールしており、この政策思想 - 狂気そのものだが - への社会的共鳴の発生を期待している。検察に送致される車両の中で笑っていたのも、作戦が成功して注目を浴び、狙いどおりの影響を及ぼすことができたと満足しているからだ。第二に、それと関連して、わずか50分の間に45人を死傷させたという「作戦」の効率に注目する必要がある。本人が作戦と呼んでいるように、この大量殺人は機械的に実行されていて、手段的方法的な実践である点が特徴だ。本人の主観ではミッションの遂行であり、刑法の想定する殺人というより軍事行動に近いイメージなのだろう。ということは、かかる機械的な行動を媒介させた目的の存在がある。目的は、障害者を安楽死させる政策を確立すべしという主義主張を広めることだ。従来の社会保障制度、その基礎をなす人権の概念と思想を廃棄、転換して、ナチスばりの障害者絶滅政策を日本で打ち立てるべしという発想である。おそらく公判でも本人はその持論を展開するはずで、自己の正義と理想を言い、確信犯として振る舞うに違いない。そうなると、動機にはやはり特異な政策思想が影を落としていると認められる。それは政治思想と置き直してよい。

現時点で、事件を報道するマスコミ、なかんづくテレビのニュース番組は、ナチスの優生思想について一言も触れず、ナチスのT4作戦と植松聖の手紙内容との類似性を論じない。もし日本のマスコミがこんな隠蔽処理をしていることを知ったら、欧州の市民は不気味に感じるだろうし、日本のマスコミとマスコミを操縦している政権を不審の目で見るに違いない。予想を言えば、唯一、右翼政権に抵抗している関口宏の週末の番組が、「風をよむ」なる特集パートでナチスのモノクロ映像を紹介、ナチスの優生思想とT4作戦の歴史を説明する図があるかもしれない。


c0315619_1645254.jpg

[PR]
by yoniumuhibi | 2016-07-28 23:30 | Comments(5)
Commented by 長坂 at 2016-07-28 21:12 x
「ナチスの手口を学べ」と言う麻生やネオナチと仲良く写真、「ヒトラー選挙戦略」本を推薦する高市。「障害者に人格はあるのかね」の石原。敏感に反応しきちんと報道するのは海外メディア。政治家であり続けられるのが信じられないし、トランプなんかよりずっと悪質。なのに日本のメディアは全く問題にしなかった。植松のようなモンスターは私たちが培養してきたようなものだ。
私の従姉妹はダウン症でもう何十年も施設に入っている。もしこういう事件で従姉妹が被害にあったら、叔母も氏名公表を控えて欲しいと言うのだろうかと考えてしまった。秋葉原の事件は普通に実名報道だった。もちろんそっとして置いて欲しいと言う事だが、障害者に対する根強い偏見、無理解、好奇の目、家族は二重三重に辛い。犯人の心の闇は日本社会の闇。
無差別殺人やテロがあった時、アメリカ人はこぞって近くの病院に献血に行っていた。「あなたと共にいます」の意思表示。素敵!
Commented by 愛知 at 2016-07-30 02:37 x
相模原事件は、テレビが作ったフィクション―――こんなネットでの投稿を目にして驚愕。不勉強な身でも緒方竹虎を思い出して。こういう自称リベラルたちは、731細菌戦部隊もいなかったというネトウヨと同じ。いまだSEALsのスピーチが素晴らしいと絶賛しつつ、相模原事件など実在しないのだと。天皇制について徹底的に批判し乍ら、信じ難い妄想論に。

後藤健二(殺害された方)を徹底追及されておられた貴下が、確かツイートで「湯川遥菜も同じ命なのに」といった意味のことを仰っていたこと今も忘れません。相模原事件がショックで、ダウン症のお子さんをお持ちの親御さん(友だち)、お一人は吐血され、お一人は心臓の病変で病院に運ばれ。最弱者に寄り添うことができなければ、本当に戦争だと思います。王選さんの訴えを踏み躙ったこのクニの司法判断、甘利を不起訴相当にしたこのクニの司法判断。再度、王選さんの陳述書です。ある意味では、現在に生きるすべての人は、現代戦争に生き残ったものです。幸運に生き残った人間としては、現代戦争から生命とその尊厳を守ることは生まれつきの運命的役目ではないでしょうか。そして、不幸に戦争によって被害を遭わされた人々を助けることは、生命とその尊厳を守ることに当たります。
Commented by NY金魚 at 2016-08-01 00:13 x
「悪魔」という言葉さえもが勿体なく感じる人非人の所業が、弱き者をいたわりつづけてきたはずの日本の風土で起こったことを、心から悲しく思います。根深い差別、人間軽視の狂気が、国家の政治意識と新自由主義の狂気から、さらに浸透している様を読みとれます。
◆ しかし、日本には「悪魔」とはまったく逆の、心やさしい「天使」もたくさんいらっしゃいます。養護学校で働く山元加津子さんのドキュメンタリー「¼の奇跡」では、¼の劣性遺伝子が村を救ったという話からはじまります。ひとりひとりがみんな大切なものを持って生まれてきた。(養護学校には)すごい力を持った子どもたちがいっぱいいる。古代インカとコンタクトできるエスパーがいる。どんな人も生きていることに意味がある。病気とか障害とかは本当に大切で、それぞれに意味がある。
かれらの可能性を封殺した今回の事件は、あるいは地球人類全員の将来を封殺したかもしれないのです。
それでも現代の日本人が、このような「天使の意識」を真剣に再考しはじめれば、世界はもう一度ポジティヴな方向に動くことでしょう。
1/4の奇跡予告編(10分)ver12.1 で検索してみてください。
Commented by 七平 at 2016-08-01 12:01 x

(2の2)
GPIF が国民の積立年金を株式市場でギャンブルして、大損をしている中、日銀までも直接ギャンブルを始めるようです。国の中央銀行が株式市場に大規模に介入するとの宣言ですが、他国で同様なオペをした例を知りません。 GPIF の累積損を日銀のOperation で隠そうとしているのかもしれません。 いずれにしても、年金や中央銀行の資産が賭博の世界で賭けられるのは好ましくありません。

アベノミクスは行き詰まっており、政府、日銀の狙いは経済活性よりも株価を人為的に維持し、実情暴露を延期させようとしていると見受けられます。いずれ、Day of Reckoning が到来すると思います。

七平

Commented by 案山子 at 2016-08-03 00:32 x
今回の事件で恐ろしいと思うのは犯人の手法はもちろんですが
政府が明確に怒りのメッセージを出していない点です。

湯川、後藤事変では武器が売りやすくなるという理由からか
カメラに自分を撮らせアピールしていたのに、
今回は選挙も近くにないというアピールの必要性のなさからか
テレビに撮られる事が大好きな安部がいつもの無駄に力強い声明を出さなかった。

これは刃物は使わないけど法律=兵糧攻めで同じ事をしますよと、
暗にメッセージされているようで非常に不気味に感じます。

それに連なるように都知事選では自助、自己責任論の小池百合子が当選しましたが
今の国民性では骨太の方針やらを笑顔で受け入れそうな気がします。

野党がここまで嫌われ者でなければ
「今回の事件は自民の思想を忖度しての犯行ではないのか」
とでも追い立ててせめて社会保障は削らない旨の言質位は
取って欲しいですがここまで反感を買っている現状では酷ですし
自衛隊は人殺し発言のようにオウンゴールを決めかねないので期待も出来ません。

世に倦むさんの以前の口癖の他力、今だと海外メディアにこの異常な事態を報道してもらうしかないですかね。

小池百合子の当選の仕方と歓迎のされ方を見るといよいよ終わりがくる感じはします。


カウンターとメール

最新のコメント

左派が、前原をほめるなど..
by 前原より小池 at 21:21
続き: ◆ 視点をアメリ..
by NY金魚 at 12:35
数カ月前の当ブログに「慰..
by NY金魚 at 04:11
細野氏の三島後援会の会長..
by 一読者 at 19:15
優れた日本型システム ..
by 優秀な日本型システム at 16:12
本当に仰る通りだと思いま..
by liberalist at 00:12
そうでした。「民主」と言..
by 長坂 at 23:45
私たちの世代(60代)に..
by ametyan at 11:04
稲田が辞任しましたね。晋..
by ロシナンテ at 13:19
TWされている通りだと思..
by 長坂 at 11:47

Twitter

以前の記事

2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月

記事ランキング