参院選で改憲勢力が3分の2を制す - リスクとなった「憲法改正」の争点化

c0315619_14364232.jpg参院選の結果が出た。マスコミが事前に予想したとおり、改憲勢力で3分の2の議席が確保された。朝日の1面には安倍晋三が満面の笑みでボードの前に立つ写真が載っている。この不快な絵を4度見た。2012年衆院選、2013年参院選、2014年衆院選、そして今回。結局、安倍晋三は国政選挙に4連勝した。これまで、国政選挙で4連勝した首相を見たことがない。5年間で4度の選挙を行った小泉純一郎ですら、結果は2勝1敗1分だ。安倍晋三は常勝将軍であり、4年間で一度も負けたことがない。内閣支持率も安定したままで、政権基盤はさらに盤石となり、党内や国会内に不安要素は全くない。マスコミも子分だけ。任期はあと2年だが、2年の間に衆院選を打ってそこで勝てば、任期を再延長して、7年半続いた佐藤政権(1964.-1972)を追い抜くことも十分考えられる。安倍晋三の独裁体制が固まる選挙結果となった。この選挙結果を受けて、残業代ゼロ法案が成立するだろうし、年金や医療費がカットされるだろうし、自衛隊PKO派遣に駆けつけ警護が適用されるだろう。自公で改選過半数を取ったことで、昨年より国論を二分した安保法は国民の民意によって容認された結末となった。そして、安倍晋三が選挙戦序盤で予告(ニコ動)したとおり、臨時国会で憲法調査会を動かし始め、改憲論議が立ち上がることになるだろう。



c0315619_14365319.jpg今回の参院選の大きな争点は憲法改正の是非だった。生まれてこのかた、改憲がこれほど正面きって選挙の争点に据えられ、テレビ討論で侃々諤々された場面を見たことがない。これまで、憲法改正は選挙では禁断の扱いにされ、マスコミによって正式に争点設定されたことは一度もなかった。なぜかと言うと、それが争点となったら国民が危機感を感じて自民党に不利になるため、自民党側が決してそれを争点に持ち出さなかった事情からであり、またマスコミの方も、それを争点にして自民党が選挙に勝った場合は、民意は改憲を支持したという結論になってしまうため、改憲が政治的正統性を持つ既成事実を恐れて配慮したからだった。国民の方も、平素はいつも口角泡を飛ばして9条改正の是非を討論しているくせに、いざ選挙となったら臆病になり、選挙結果で憲法改正の黒白が決まることを躊躇する姿勢に傾く。今回もそうで、マスコミの世論調査では、憲法改正を選挙の争点と考えて投票に臨む有権者は圧倒的に少ない割合になっていた。つまり、自民党の側も、国民の側も、いつもと同じように、このクリティカルな問題を選挙で問うことを回避しようとした。ところが、今回、通例の禁を破ってマスコミがこれを争点とする報道態勢にシフトし、形としては改憲が是とされる結果が出たのだ。

c0315619_143738.jpgマスコミが憲法改正を選挙の争点として設定するに際しては、岸井成格ら、昨年から反安保・反安倍の論陣を張ってきたマスコミ論者の役割が大きく、朝日を含めて、安倍政権に批判的なマスコミがこれを積極的に争点化した事実がある。その動機は、この選挙に安倍晋三が勝った場合、選挙では狡猾に隠しながら選挙後に必ず改憲を持ち出し、改憲の方向へ政局を進めるだろうという見通しがあって、そうした安倍晋三の邪悪な騙し戦略を暴露・粉砕するためのものだった。2013年参院選後の秘密保護法と集団的自衛権の解釈改憲、2014年衆院選後の安保法と、二度にわたってアベノミクスを争点にして票を取った後で、豹変して安保・憲法の反動政策を推し進めた安倍晋三に対して、権力を監視するマスコミとして立ちはだかるべく、今回はそれは許さないよと世論に訴える姿勢に出たのである。正論だし、動機も間違っていない。ただ、これで選挙に負けたらどうなるかという想定を岸井成格は考えただろうか。選挙結果で出た民意は正当な意思として確定される。3分の2を安倍晋三に取らせるのは危険だと訴えるのはよいが、3分の2が事実として投票結果に出れば、護憲は選挙で否定されたと意味づけされる。そのリスクがあるために、従来、マスコミは憲法問題を選挙の争点にすることに慎重だった。

c0315619_14371687.jpg2000年代、国民の世論は改憲一般に賛成が多数だった。だが、2010年代に入り、特に安倍晋三の政権となり、改憲と戦争の危機が現実のものとなって、両陛下がお言葉の機会で護憲に踏み出すようになり、この3、4年、世論に変化が起きて護憲派が改憲派を上回る状況に至った。さらに、安保法と戦後70年が重なった昨年、戦争の悲惨さをマスコミがよく教育報道し、戦後民主主義 - 60年安保に象徴される平和と民主主義の思想と運動 - の意義が再発見され、現行憲法に対する国民の評価と支持がいちだんと高まる環境になっていた。今度の選挙結果と、それを媒介した選挙期間中の憲法論議は、この成果に水を差すものであり、押されていた改憲派に巻き返しの転機を与えたものだ。テレビ討論を見ていると、改憲派は水を得た魚のように元気を取り戻し、民進と共産の間に楔を打ち、藤野保史の「人殺し予算」の失言を責め立てていた。共産党は、選挙戦を通じて改憲派の説得力となる口実を与える自滅を犯した。選挙戦後半でのテレビでの憲法改正の論議は、自衛隊を憲法で認めるか認めないか、どちらなのかという選択と方向に収斂してしまっていた。マスコミ、なかんづくテレビを仕切っているのは官邸だから、番組の進行は当然そうなる。昨年の護憲ルネサンスがウソのように、テレビの空気は改憲が優勢となった。

c0315619_14372611.jpg民進党は、改憲論議のディベートを自民党の憲法法案の方に逸らす作戦に出、その異常を批判して、言わば論点のスリカエで逃げたが、9条2項をめぐって共産党との間に断絶がある点が歴然となり、論争は改憲派が有利に押す図となった。こうした陥穽について、岸井成格や山口二郎はどこまで自覚的だったのか。ディベートを始めれば、この共産と民進の相違という急所を改憲派に衝かれて突き回されること、9条2項の堅持という決定的に重要な論点が、テレビ討論では、共産・社民のみが支持という少数派に追い込まれ、視聴者の認識で相対化されてしまうという懸念を、彼らはどこまで真剣に考えただろう。言うまでもなく、改憲論の本丸は9条にあり、9条2項を削除して自衛隊を国防軍と位置づける点にある。それを実現する世論工作の要諦は、武力放棄を規定した9条2項を現実離れした空想への妄執だと嘲り、お花畑のファンタジーだと卑しめて矮小化する言説で国民を洗脳するところにある。その本質的観点から考えれば、今回の参院選は改憲派にとって上々の首尾となったことは疑えない。世論は改憲へと揺り戻され、昨年、戦後70年のテレビ特集によって価値が見直されていた平和憲法への国民の確信が、またしても揺らぐ事態に逆戻りしてしまった。共産と社民だけが立場主張する護憲論は、国民多数が納得して支持する正論にはなり得ないのだ。

c0315619_14373883.jpg改憲勢力が3分の2を占領した国会の情勢を受けて、マスコミは改憲論を盛り上げて行くだろう。政局の焦点は憲法改正になる。それは、安倍晋三の思惑どおりの展開に導かれることに他ならない。選挙のテレビ討論では、早く民進党は国会の憲法調査会に具体的な提案を出せという結論に着地してしまっていた。つまり、最初から改憲ありきの方向に流れ、改憲が前提され、問題はその具体的中身だという議論だ。NHKもその基調で報道を固め、憲法を変えてはいけないという主張が主流になる瞬間はなかった。実際のところ、民進党の中は改憲派だらけで、この議員は確実に護憲だという者を探すのが難しい。せいぜい「安倍内閣の下での改憲には反対」を繰り返すしかなく、それを言うと、マスコミから、それじゃ民進党政権になったらどう改憲するのかと突っ込まれ、立ち往生を強いられる。自衛隊をこのまま違憲としたままでいいのか、憲法9条を変えた方が立憲主義に合致するのではないかという反撃を食らう。憲法論議は選挙後も続く。選挙中の討論をベースに再スタートとなる。民進と共産との憲法論の差異はますます明瞭になり、二党の基本政策の不一致が露わになるだろう。選挙戦での憲法論議を聞いて最も危機感を感じたのは、公明党が露骨に改憲派の立場で論陣を張っていたことである。それも、党内ではハト派とされる幹事長の井上義久がそれを強調していた。

これまで、公明党は憲法改正についてはきわめて慎重で、それを論争のテーマにすることを控え、論戦で口を開くことを渋っていた。改憲派としての立場を揚言しなかった。態度を曖昧にして逃げていた。今回は様変わりで、改憲派として堂々と覚悟を決めた感があり、私は戦慄を覚えてしまった。本来、結党の原点からしても、公明党は民進党よりもずっと護憲寄りの政党で、選挙のときに憲法が焦点から外されていたゆえに、自民党との基本政策の違いが目立つことがなかった。その弱点を苦心してカムフラージュしていた。公明党が自ら積極的に改憲論を言い出したことは恐ろしい。岸井成格と山口二郎は、迂闊にも寝た子を起こしてしまう失敗を犯したのではないか。


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by yoniumuhibi | 2016-07-11 23:30 | Comments(1)
Commented by カラカラ at 2016-07-11 21:19 x
主様の解説につき、ごもっともです。ただし、自衛隊が憲法上曖昧な形、本質的に立憲主義ではなく、憲法解釈論で生まれた安保法案に任せるリスクを抱え続けます。
主様や天皇皇后陛下や平和を祈念する大半の国民、自衛隊の方々の深い想いを理念である前文に刻み自衛隊のあり方を徹底して規定した憲法案、自衛隊法改正案を与党に先んじて打ち出して、負のスパイラルの後手から出する道が最善策と思われます。
局面打開へ向いた旗頭を含めて人材結集を根回すのは如何でしょうか。 自民党の悪いイメージながらも護憲の本質を守ると言い続けている野中、古賀氏と若いリーダーの旗頭のスクラムなど。起死回生したく。


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