細谷雄一のEU主義のバイアス - 再投票は英国の分断を深めるだけ

c0315619_14363497.jpg今週もずっと、英国のEU離脱が大きなニュースとなって続いている。昨夜(6/27)、報ステのスタジオに慶応大の細谷雄一が出演してコメント、再度の国民投票の可能性について解説していた。細谷雄一だけでなく日本のマスコミに登場してこの問題を論評する人間は、例外なく英国のEU残留を支持する立場で、EU統合の方向性を無前提に翼賛する者ばかりだ。国民投票でEU離脱が多数になった現実について、その理由や意味を内在的合理的に解き明かそうとする姿勢がない。初めからEUを絶対化し、EUに残留する英国が正しく、離脱は悪で誤った愚行であるという決めつけをしている。この問題を客観的に分析判断しようとする意識がなく、一刻も早く離脱を撤回すべしという視角で論じていて、英国をEU残留に引き戻したいという自己の願望を投影した認識と予測で議論を埋めている。細谷雄一によれば、今、離脱に投票した国民は後悔に苛まれていて、ポピュリズムを煽って離脱を誘導した政治家たちは反省の中にあり、英国は国民投票の失敗をやり直そうという流れになっているのだと言う。そしてそれは、英国議会の3分の2で再投票を決めれば法的に可能であり、そうなれば残留派が勝つだろうと見通しを述べていた。



c0315619_14362028.jpgこの情勢分析は当を得たものと言えるだろうか。私はそうは思わない。中野晃一同様、あまりにEUを正統視するEU主義のバイアスに引き摺られた見解だ。仮にもう一度国民投票が行われても、今度は投票率が72%から80%に上がって、やはり僅差で離脱派が制する結果になるだろう。もしも残留派が勝った場合は、今度は離脱派が巻き返して再々投票の動きを起こし、総選挙で離脱派を3分の2にして再々投票を導く事態に運ぶだろう。再投票で残留派が勝ったとしても、現在以上に英国の亀裂と動揺は深刻なものになる。スコットランドと北アイルランドは独立の気運を高め、UKからの離脱の条件を固めていく。UK崩壊の現実性は増す。EU問題でYes/Noの国民投票をやればやるほど、英国は分断の危機を増大させるのであり、EUを争点にした国民投票は国益を害するリスクなのだ。だから、普通に考えて再投票など選択しようがない。常識で考えても再投票などあり得ないのに、専門家の細谷雄一は英国をEUに残留させたい一心で、そしてEU保全を祈念するEU主義のイデオロギー的動機から、英国議会は再投票に動くだろうなどという推論を述べている。これは主観の投影であり、社会科学的に誤った態度であり、政治の認識も判断も間違っている。

c0315619_14365165.jpg英国の責任ある政治家がやらないといけないことは、国内の分断の契機を増幅させないことであり、徒に内部の対立を煽って混乱させないことだ。イングランドとスコットランドとの反目を加熱させてはならず、英国内の移民と元からの住民との不信感を刺激してはいけない。国民投票で起きた衝撃と痛みを鎮め、英国としてのマイルドな一体性と健全性を取り戻すべく、上に立つ者や力のある者は世論を牽引しなくてはいけない。今、英国の中で一番やってはいけないことは、投票結果を闇雲に責めたり貶めることであり、国民投票や総選挙という新たな分断の政治的機会を誘発することである。だが、議員はエリート階層が多く、マスコミも同じであり、最近の米国政治論でキー概念となったエスタブリッシュメントであり、EU主義を信奉し、自由主義市場経済に帰依する者たちだから、EUを否定した底辺の離脱派弱者の苦悩や憂鬱を思いやることができない。単純なポリティカル・コレクトネスの言説を振り回し、EU主義の大義への回帰を国民を説得し、国論を強引に方向づけようとする。英国民の多数は離脱派であり、感情的にも政策的もEU離脱を要求しているのだけれど、社会を動かしている高学歴のエリートは残留派で、彼らの思考と利害からは残留以外の結論はないのだ。

c0315619_1437318.jpg中野晃一や細谷雄一と同じで、エリート層の視線からは、EU離脱を求める大衆は無知で蒙昧な存在で、国益を考えないエゴイスティックでヒステリックな愚衆でしかないのだ。だが、社会科学的な真実を謙虚に見きわめれば、今、深層のところで起きている地殻変動はまさに<革命>と呼ぶべきものだと私は直観する。米国のトランプ現象も、英国の国民投票の結果も、エリート層にとって意外で邪悪で不愉快な動向は、まさしく新自由主義の否定を意味するムーブメントであり、新自由主義の経済社会を推進してきたエスタブリッシュメントに対する拒絶と抵抗の意思表明以外の何ものでもない。否定された者が、自己を否定したものを否定している。嘗て、夢と希望を持って普通の暮らしていた中産階級が、没落させられ、不安と絶望の日々を送っていて、気がつけば、そこには以前は視界になかったアフリカ系やインド系や東欧系がいて、ヒスパニックとムスリムと中国人が大量にいるのである。中野晃一や細谷雄一の友人たちは、そうした人種と民族のバラエティが価値ある多様性に映り、「地球は一家、人類は兄弟」のヒューマニズムとコスモポリタニズムの象徴のように映るのかもしれないが、それとは反対の不具合として感じる者の方が多く、その現実が新自由主義の社会的実相なのである。

c0315619_14371794.jpg目の前に、インド系や東欧系やムスリムや中国人が多く犇めいていたとき、その景観の意味は見る者の主観によって異なり、立場や境遇によって異なるのだ。それを、豊かな多様性と普遍的な理想主義の存在証明だと一義的に決めつけることはできない。一義的な決めつけはイデオロギーの刷り込みである。報ステのニュースでは、関西から英国に進出した製薬会社が紹介され、現地で移民を雇用している様子が映像で流されていた。移民労働者は欠勤もなく真面目によく働くのだと言う。英国がEUから離脱したら、アイルランドかドイツに工場を移転すると言っていた。おそらくアイルランドが候補になるだろう。日本企業が英国に事業拠点を置くのは、税制や商取引の制度の利点もあるのかもしれないが、それ以上に言語が英語だから便利なためである。フランス語やドイツ語では面倒で、それを操れる日本人幹部の人材がいない。英国がEUから離脱すれば他へ移すと簡単に言うが、彼らにとってそれは大変なことで、口で言うほど簡単なオペレーション・チェンジではない。日本のマスコミが、こうして日本企業に「英国のEU離脱反対」を言わせたり、「他へ移るぞ」と脅させたりしているのは、国際世論に影響を与えるためであり、言わば、日英のエスタブリッシュメントが協力共同して、離脱は誤りだったと英国の離脱派を説教するためだ。

c0315619_14373310.jpgその製薬会社が、仮に英国を捨ててアイルランドに行ったとして、果たして同じ品質の移民労働力を調達でき、短期に同じ生産を軌道に乗せられるかどうかは分からない。大陸のドイツの場合は、英国と異なって解雇規制が厳しいはずで、英国と同じ環境で事業をできる保証はないだろう。そもそも、経営条件を求めて英国から他国へ拠点を移すということは、現地で雇った(移民の)労働者の首を切るということだ。撮影されていた従業員の表情には、はるばる東京からこの問題でテレビが来た事情を意識し、取材の意味を察して不安の色が滲んでいた。彼らには家庭があり、学校に通う子どもがいる。報ステの映像を見ながら、日本人経営者もここまで薄情になり、筋金入りの冷酷な新自由主義者になったのかと悲しかった。隔世の感がする。嘗て、80年代、日本企業の家族的経営は世界から称賛され、レイオフに禁欲的ということで進出先の米国の労働者と地域社会から歓迎されたものだ。今では、労働者の首を切ることが当たり前のこととされ、この会社の経営者の無慈悲な言葉が素通りされてマスコミの正論になっている。が、われわれが看取し留意しなくてはいけないのは、カメラの前で不安に怯える労働者たちであり、同じように、この問題の底流には、移民労働者に職を奪われ、見かけ上の英国経済の成長から取り残され疎外されて呻いている英国人がいるという事実だ。

本来、この製薬メーカーがやるべきだったのは、日本の工場で生産し、欧州に製品を輸出して稼ぐことだっただろう。英国で移民労働力を使うのではなく、優秀な日本人を日本で雇って、日本で製造した薬品を欧州市場で販売することだったはずだ。企業は誰のもので、企業活動はそもそも何のためにあり、何を実現するためにあるのか。人間社会と資本主義はどのような関係で共存するべきなのか。今、そのことが根源から問われている。リーマンショックのときもそうだったが、英国のEU離脱の歴史的事件は、その本質の問題をわれわれに問いかけている。


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by yoniumuhibi | 2016-06-28 23:30 | Comments(5)
Commented at 2016-06-28 21:07 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2016-06-28 22:01 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by at 2016-06-28 22:10 x
底辺層じゃなくて庶民層が統合を嫌っている。病院で何時間も待たされ、学校は移民の子供で溢れかえり予算が増えるわけでもなくサービスは低下、子ども手当を際限なく海外に持ち出す。そんな状況が庶民の目前に展開されている。

日本で考えれば、病院に行けば年寄りで溢れかえり、政府はさらに海外から老人を受け入れるといっているのを、たまに病院を訪れた中学生が長い時間待たされながら見聞きしている状況だ。いい加減にしてくれと思うだろう。
Commented by 私は黙らない at 2016-06-29 03:04 x
おっしゃるとおりです。
私が最近、気になっている記事がこれです。

自民特命委「単純労働者」の受け入れ容認へ

今までも、研修という名目で単純労働に従事する外国人労働者はいたと思いますが、これをリーガライズしようという動きです。
単純労働に門戸を開くというのは、移民政策の大転換を意味します。おそらく、人手不足が深刻な建設現場、介護の現場をも視野に入れた政策ではないかと思います。
人手が足りない、だったら安くて良く働く外国人を使おうというのは、とても安易な方法ですが、一度これを始めると、まるで麻薬のようにやめることができなくなります。
なぜなら、社会全体がもやは移民の労働力抜きでは立ちいかなくなるからです。そして、いずれそれが社会の軋みを生み、大きな代償を払わされることになります。
それがまさにイギリスやアメリカで起きていることではないでしょうか。
移民問題でゆれるアメリカでさえ、単純労働の合法的な受け入れはしていないのです。アメリカの移民政策は、国力増強に役立つ者の受け入れ、すなわちカネがある者(投資家)、学歴の高い者(就労ビザ)、優れた技能をもつ者(スポーツ選手、芸術家、等)が基本です。ただ、これだと安い労働力を渇望する産業界の要望に応えられないので、ボーダーコントロールをわざと無策のまま放置しているのです。(単純労働に従事する移民が、不法のまま放置されていることも大問題なのですが。)
人間の欲にまかせた行き過ぎた資本主義は、とても残酷なものだと思います。一見美しい理念が、実はこういった利益の搾取構造をカモフラージュするものであることを看破しなくてはいけません。ギリシャ債務危機で、人々はEUのうさん臭い一面に気付いたはずだと思います。

日本は一体、どこへ向かって進むつもりですか?労働界は、このトレンドにどういった態度をとるおつもりですか?

Commented by とら猫イーチ at 2016-06-29 12:23 x
 日本では、EU礼賛にバイアスのある意見が多数ですので、貴ブログは異色です。 でも、卓見と信じます。

 元々、英国では、EU懐疑派が多くて、経済的にも、ドイツ一国偏重が目立つECBへの
批判も強く、ユーロ導入を否定した論理に従えば、早晩、EU離脱を選択するのが理に適う筈です。 
 
 その点では、ロジャー・ブートル(Roger Bootle)の「欧州解体」(The Trouble with Europe: Why the EU isn't Working, How it Can be Reformed, What Could Take its Place )は、先見の明がありましたが、この国のEU賛歌合唱の前では、無視されました。 
 
 それが証拠に、離脱を選んだのは、何も下層階級・労働者層のみでは無く、地域的には、富裕層・指導層の住まう地域でも離脱選択が見られます。

 原理的には、民族と国柄を否定するエリート支配強化で「ドイツ帝国」を盟主に仰ぎ、国・地方を無視するEUの独裁的支配は、何れ破綻するのは、間違いが無いことでしょう。

 EUの大陸法的な権力的法制に依る圧制にも、英国民は辟易としていたことでしょう。
ドイツ由来のグリーン礼賛エネルギー政策一辺倒の馬鹿らしさ、杓子定規のEU行政機構の官僚万能の反民主主義的施策の蔓延は言うに及ばず、です。

英国内のスコットランドや北アイルランド等の分離運動では、特に英国が混乱することは無いでしょう。 そもそも、英国南部・イングランドは、それらとは相違した国ですので、分離したければ分離すればそれで良い、となります。 

これから、英国は、英連邦諸国との連携を強めることでしょう。 EUの解体が観えて来た今、これら諸国は、何よりも経済的伸長が著しい諸国が揃っていますので。 


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