憲法記念日の憲法論議 - 危惧される民進党と護憲派の欺瞞と自己欺瞞

c0315619_14283732.jpg5月3日の憲法記念日の夜に、プライムニュースで4党(自・公・民・共)の論客による憲法論議が行われていた。民進党からは辻元清美が出席し、明解な口調で9条護憲の論陣を張っていた。辻元清美の護憲論の中身は社民党時代のものと全く同じで、社民党の代表が席に座って自民党の下村博文と論戦しているようだった。結局、4党のうち、9条を改定しようという主張は下村博文だけで、共産党はもちろんのこと、公明党の国重徹まで、9条は1項だけでなく2項も変えないと明言、護憲vs改憲の構図は3対1となっていた。勝負ありというか、テレビを見ながら何やら隔世の感がする。まるで1980年代に戻ったようだ。要所をズバズバ衝いてくる辻元清美のディベート術は見事で、下村博文は完全に論破され、反町理も助け船を出せない惨状だった。今年の憲法記念日のテレビ論戦やマスコミ報道では、護憲派が改憲派を圧倒する絵が現出したように感じられる。特に意味が大きかったのは、同じ5月3日に報ステが放送した幣原喜重郎の特集だっただろう。辻元清美が豪快に喝破したように、今、押しつけ憲法論は意味を持たない言説となり、改憲理由として説得力のない陳腐な議論となった。



c0315619_14285069.jpg今回、安倍晋三の側は、緊急事態条項を切り口にして改憲支持の世論を高め、そこを改憲の突破口にしようと試みたが、その目論見も効を奏さなかった感が強い。このことは事前に予想されたことだった。緊急事態条項の話は、とってつけた改憲の口実であり、急拵えの粗雑な改憲戦略であり、お試し改憲の第2弾であり、そのことを見抜かれて国民の間に支持は広がらないだろうと観測していたが、やはりそのとおりの結果になった。これで、96条の発議要件からの改憲の企てに続いて、安倍晋三は二度目の改憲戦略の破綻と失敗となる。緊急事態条項からの改憲は、いくら何でも無理がありすぎて話にならない。安倍晋三の頭の悪さが透けて見える。今回はほとんど議論とか論争のレベルにも至らなかった。前回の改憲要件(3分の2以上のハードルの引き下げ)のときと状況が違うのは、援軍の橋下徹が消えてしまっていないことだ。前回の改憲論が多少とも盛り上がったのは、安倍晋三だけでなく橋下徹が政局に絡んだからだった。お試し改憲の策動というのは必ず失敗する。前からずっと書いているように、ここ数年、護憲の世論に勢いがあるのは、何より、両陛下が護憲の姿勢を前面に出したことによる。

c0315619_1429431.jpg安倍晋三の戦争政策によって戦争の危機が高まっていて、国民がそれを不安に感じているというベースもあるけれど、それ以上に、両陛下が護憲のスタンスを鮮明にし、戦後民主主義の思想的シンボルのような姿で立ち現れているため、現憲法を守ろうとする者たちに支柱ができ、改憲の流れに流されず踏み止まる良識の力ができている。4年前まではこうではなかった。改憲の世論の比率ばかりが一方的に高まっていた。その理由は、護憲派が革新勢力(社共)と一つにパッケージにされ、政治的に敗北した時代遅れの表象を被され、力のない、国民から見離された左翼異端と決めつけられる報道操作がされてきたからである。ビートたけしのTVタックルとか、田原総一朗のサンデープロジェクトとか、民放の政治討論番組で憲法をテーマとしたディベートが行われるときは、必ず共産党の誰かと福島瑞穂が席に座らされ、中立を装った論者たちから袋叩きの集中攻撃を受け、有効な反論の時間を与えられることなく、9条護憲=左翼異端の図式が塗り固められる台本進行になっていた。そうしたテレビでの「教育」が10年以上積み重なって、護憲派は数を減らしていたのである。両陛下が護憲の前面に立つようになり、護憲は左翼でも異端でもなくなり、両陛下と同じ立場になって政治的に復権した。

c0315619_14291588.jpgしかし、辻元清美の話を聞きながら、どうにも不安を覚えるのは、こうした民進党の左急旋回がいつまで続くかということだ。赤旗の9年前(2007年)の記事を見ると、岡田克也の2004年の訪米時の発言が載っている。このときは党代表だった。DCでの講演で、「憲法を改正し国連安保理決議のもとに、日本の海外における武力行使を可能にする」と言っている。また、前原誠司は党代表に就任した2005年に、「(憲法)九条一項はいいが、二項は削除し自衛権を明記する」と明言している。岡田克也も前原誠司も、改憲派から護憲派に変わったわけではない。あくまで、「安倍政権の下での憲法改正には反対」にすぎず、現在の「護憲論」は一時的で政局的なものである。しばき隊が大好きな枝野幸男は、2013年9月に党憲法総合調査会長として発表した憲法9条の改正案において、集団的自衛権を明文化して容認する方針を打ち出している。「我が国の安全を守るために行動している他国の部隊」への武力攻撃に対し「必要最小限の範囲内での行使を容認する」としていて、安倍晋三の集団的自衛権や安保法制の法的論理と何も変わるところがない。この「必要最小限」の論法は、昨年の安保法制の国会質疑やマスコミ報道で何度も聞かされたものだ。フルスペックではないという自公の主張と同じではないか。

c0315619_142936100.jpg辻元清美的な左寄りの護憲論が、果たして民進党の中でいつまでオーソライズされた状態で続くのか。普通に考えれば、少し状況が変われば民進党が態度豹変して元の改憲論に戻るのは目に見えている。本当に恐ろしい事態は、左翼リベラルの中で本格的な改憲論が台頭していることだ。鈴木耕、佐藤圭、想田和弘、伊勢崎賢治らが主導する「新9条論」である。これは、昨年までにはなかった動きだった。なぜか、安保法が成立した後に東京新聞やマガジン9条で火の手が上がり、左翼リベラルを洗脳する動きとなった。この「新9条」論は、基本的に前原誠司の9条改憲論と同じであり、自衛権を認め、自衛隊を正式な軍隊として位置づけようとする改憲論である。90年代、その当時政界で最もタカ派だった小沢一郎が「普通の国」論として唱えた改憲論で、舛添要一や大嶽秀夫がテレビで盛んにエバンジェリズムしていたのを思い出す。あの頃、極右タカ派の位置にあった勢力の改憲論だったものが、中身としてそのまま、左翼リベラルのど真ん中で論壇商売している連中の憲法論になっている。このことに私は驚愕させられる。そしてそれは、想田和弘たちだけでなく、高橋源一郎も同じことを言い、SEALDsとしばき隊も同じなのだ。SEALDsとしばき隊は改憲派なのであり、その中身は前原誠司と同じなのである。そのことを知ってか知らずか、護憲派は護憲集会にSEALDsを呼び、岡田克也を呼んで悦に入っている。

もし、安倍晋三と管義偉が、自民党は「新9条」を支持しますと言い、この線で国民的合意を作りましょうと言い出したらどうするのか。「野党共闘」の戦術オリエンテッドな作為によって左翼リベラルが隠蔽している自己欺瞞は、いずれ深刻なリターンとなって護憲派を襲うことだろう。


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by yoniumuhibi | 2016-05-09 23:30 | Comments(1)
Commented by りるれ at 2016-05-09 22:34 x
何年か前に皇后美智子さまが「五日市憲法草案」について触れていたのを新聞で読みました。市民が草の根で作り上げたその草案は、人権の尊重、平等権ほか先進的な内容が盛り込まれ、なかでも基本的人権の尊重を幾重にも護ろうとする周到さが際立っていたとか。
130年も前の民間の日本人が、今の日本国憲法に近いものを考えていたことに驚いたものです。


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