「報道の自由度ランキング」 - プロレタリア化と市民的主体性の劣化

c0315619_17282484.jpg昨夜(4/20)の報ステで、「報道の自由度ランキング」で、日本が大きく下がって72位となった話題が取り上げられた。その問題に併せて、国連特別報告者として訪日したデービッド・ケイが、日本の報道の独立性が脅威にさらされていると警告した事実も紹介された。このニュースを富川悠太が伝えた後、後藤謙次が、「われわれメディアも深刻に受け止めて、改革をしなきゃいけませんね」とコメントをして纏めた。そのテレビの映像を見ながら、噴飯で茶番で滑稽だと感じ、不愉快な気分になったのは私だけだろうか。この報ステの報道が、古館伊知郎によってなされたものなら、われわれは興味と共感を感じて、テレビの進行を見ながら頷くことができただろう。「報道の自由度ランキング」にしても、国連特別報告者の指摘にしても、そうした問題の中心にあるのが、安倍晋三によるテレビ報道への圧力であり、政権に批判的なキャスターを降板させた事件である。そして、まさに後藤謙次こそが、古館伊知郎が降板させられた後にコメンテーターに座った安倍晋三の子分ではないか。安倍晋三と仲よく会食し、安倍晋三の意向と思惑に従って世論を操縦するために番組に送りこまれた工作員ではないか。



c0315619_1728382.jpgネットの中では、「報道の自由度ランキング」の問題を左翼リベラルが精力的に取り上げ、安倍晋三叩きのTwを連打し、それを回覧板のようにRTしてルーティン的な批判言論の山を築いていた。それを見ながら、私は別のことを考えていた。それは、例えば、国谷裕子の降板に際して、どうして多くの国民から強い批判が上がらず、続投要求の声が怒濤のごとくNHKに浴びせられなかったかということだ。大昔の話で恐縮だが、1965年に大河ドラマで『太閤記』が放送されたとき、信長役の高橋幸治の演技があまりに見事なため、6月の放送回の本能寺の変で簡単に死なせるのが惜しく、空前の「助命嘆願」が視聴者国民から大量に寄せられ、それに動かされたNHKが1回ほど台本を変更して日程を遅らせたという事件があった。それに類する出来事は幾つかあり、他にも、民放(日テレ)の『太陽にほえろ』で、新米刑事役の萩原健一だか松田優作が殉職するにおいて、やはり「助命嘆願」が局に殺到したというエピソードがあった。今回、NHKに国谷裕子の「助命嘆願」は寄せられたのだろうか。もしも、それが洪水のように押し寄せ、切れ目なく続き、渋谷のNHK本社に運び届けられる郵便物の大半がそればかりという状況になっていれば、NHKの経営委員会を動かす図もあっただろう。

c0315619_17284978.jpgやはり、国民の中で反発と怒りの度が小さく、安倍晋三がなすがままにするのをそのまま素通りさせている感じがする。反発と怒りが小さいというよりも、どのように抵抗しても、抗っても抗っても、抗いが身を結ぶことがなく、今回の3局一斉のキャスター降板も、昨夏の安保法制の政治戦の敗北の始末だから、しかたがないと認めるしかないのが実情なのだろう。「国境なき記者団」による「報道の自由度ランキング」については、その意味を疑問視する声がリベラルの側からもあり、一概に鵜呑みにすることはできないが、このランキングの順位の低下を見て私が思ったことは、一人当たりのGDPの順位の低下と似た落ち方を示しているということだった。そこに意味があるのではないか。つまり、このランキングは、純粋に「報道の自由度」の比較評価が示されているというよりも、むしろ、世界の中での日本人の民度というか、民力というか、市民的な力のレベルが問われている問題に違いないのだ。市民に力がなくなり、国家権力を監視したり、国家権力と対峙したり、国家権力に好き勝手させず、自分たちの意思や要求を突きつける力が次第に落ちているのである。市民の生活と精神の力が弱まった。

c0315619_172904.jpg物質的な財力の衰えの反映であり、そこから来る自信の喪失であり、理性と知性と想像力の衰退の問題であるように思われる。もっと直截的な言葉を言えば、市民の没落とプロレタリア化の産物なのだ。マスコミは国家権力を監視するものであるとか、第四の権力であるということはよく言われる。それでは、第四の権力であるマスコミを監視するのは誰なのか。言うまでもなく国民である。今、国民がマスコミをチェックできてない。インターネットという立派な道具はあるけれど、それを使いこなしてマスコミをチェックするということができていない。それは、ITの技術スキルがないからではない。市民の知的レベルの問題だ。言論機関であるインターネットの、日本の最大の掲示板は2chである。そこでは、毎日毎日、政治の「言論」が書き込まれているが、その中身はフジテレビや産経新聞以上に、その数百倍も右翼的で、見るもおぞましい主張が書き込まれている。熊本の被災地で政府の支援に苦情を漏らしたお年寄りの発言の報道に対して、「うるせえ、さっさと死ね、バアア」とか、「支援してもらっているのに文句を言うな」とか、そんな暴言が当たり前のように書き込まれ、それへの反論も出ず、そうした書き込みを消せという声も2ch事務局には上がらない。社会的に放置されている。ずっと昔からこうだ。

c0315619_1729127.jpgこれは、デビッド・ケイが言うような「日本ではネットの言論の自由がよく保障されている」姿と言えるだろうか。一方で、左翼リベラルのTwを見ると、震災問題に絡めての安倍晋三叩きばかりであり、選挙狙いでの左側から震災の政治利用のような書き込みばかりが溢れている。これらの言論は、自由な政府批判ではあるけれど、政治的立場からの動機が露骨すぎて、つまり下心が見透かされるもので、国民的な共感が広がらず、国民世論として盛り上がらない。公論にならない。赤旗新聞の正論記事のようなものである。党派性の強すぎるTwの主張やそのRT数の誇示というのは、結局のところ、党派の内側で盛り上がるものにしかならない。したがって、そうした左翼リベラルのプロパガンダの山は、よくマスコミを監視する機能を持ち得ない。効力を発揮できない。マスコミはそれに拘束されず、相変わらず安倍晋三にべったりの報道を続けている。そして、右翼でも左翼でもないマジョリティの国民は、ただネット言論の無力を知り、政治を変えられない真実を悟って蹲るのである。格差社会の進行により、市民の物質的基礎が失われ、経済的な溜めと同時に精神的な溜めや粘りが失われ、思考の持続力が殺がれ、日本の市民は、プロレタリア化と同時に、右翼になったり、左翼になったり、諦めて沈黙するサイレントマジョリティになってしまった。

テレビはお笑い番組ばかりやっている。それが視聴率を取れるから、視聴者のニーズだから、商売でやっている放送業者は世間のニーズに応えるのが当然だという論理で、下劣で低俗なお笑いタレントの出演で埋めている。ワイドショーはお笑い番組と変わらず、ニュース番組はワイドショーと同じになり、NHKのニュースまでワイドショーの仕様と水準になった。国民は、本当にマスコミに国家権力を監視することを期待しているのだろうか。インターネットを見ていると、そのことが疑わしくなる。そもそも、権力を監視できる能力を持った人間が、その期待を託せる人間が、今の日本のマスコミ関係者に一人でもいるのだろうか。さらに、今の左翼リベラルの言論世界は、本当に言論の自由がよく保障されていると言えるのだろうか。


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by yoniumuhibi | 2016-04-21 23:30 | Comments(4)
Commented at 2016-04-21 18:58 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by 私は黙らない at 2016-04-22 03:20 x
報道の自由度と、民度の低下との相関性への指摘、大変説得力があると思います。そのとおりだと思います。
報道機関に権力監視を求めるのであれば、その正しい報道のあり方を支えるのは、私たち一般市民が各々どれだけ自覚と主体性をもち、論理的に権力に対峙するかということじゃないかと思います。何というか、罵詈雑言ではなく、正しい議論をすべきだし、それができなくなった日本人の劣化が問題ではないでしょうか。
先日、報道ステーションの小川アナウンサーがポロリと言った一言が耳にとまりました。パナマ文書についてです。それは1%が合法的に節税(実質脱税ですよ)できるシステムへの疑問の言葉でした。彼女が言ったことは、99%の人間が当然感じている疑問だし、小川さんはあれを自分の感想として言ったのか、あるいは原稿を読んだだけなのか。
もし、あれが彼女の素直な感想であれば、報道ステーションのメインは富川アナより小川さんの方がよかったのではないかと個人的に思ってます。
Commented by 長坂 at 2016-04-22 14:17 x
3・11の時に、日本の自称ジャーナリスト達は東電の勝俣会長と中国で飲めや歌えやでしたよね。その後の記者会見じゃ、東電様々敬語で質問。もし仮に日本で報道の自由が100%保証されても、あの人達権力批判なんてしませんよ。「鳴かない炭鉱のカナリア」メシ友の後藤が「72位って数字、実感があまりない」って、そりゃそうだろう。
デモをやっても無意味、選挙やっても負け、何をやっても無駄と言う閉塞感。貧してますます鈍だし。結局何も変わらないなら手っ取り早い格差解消「希望は戦争」になってしまうのか。
Commented by 七平 at 2016-04-23 02:04 x
現政権がありとあらゆる手を使って国内のマスコミを脅し、丸め込んで国民に誤報を刷り込む事に成功しても、世界の目を欺く事はそう簡単に出来ません。 情報の自由化は、スノーデンやパナマペーパーのリークも含め、グローバルに進んでおり、現政権だけでは無く日本の国民も世の中が透明になってきている事を自覚すべきです。 安倍晋三の言動を考えても、"頭かくして尻隠さず”、彼自身 "金魚鉢の金魚” である事に気がついて居ないようです。 国連や米国議会で、原稿丸読みの演説をしてみたところで、日本の視聴者向け宣伝効果はあっても、彼に対するグローバルな評価は良くありません。例えば、靖国参拝を米国の反対を押し切って断行したり、出版社McGrow Hillに対する教科書内容の批判を日本国会でする等、いくら米国の飼い犬を装っても、飼い主の事はまったく理解できていないようです。西を向いても東を向いても、信用されない人物が日本の現首相であることを遺憾に思います。 日本で今だに首相で居られるのは、右翼でも左翼でも無い国民が日本の経済を民主主義より優先させているからだと思います。 アベノミクスの虚構が崩れ、真似ゴミクスであった事に気がつくのはそれ程先の事では無いと考えます。

以前、ある友人に "言論の自由” と "経済” どちらが重要だと思われますか? との質問をしたところ、その方は後者を選ばれました。別に安倍晋三が好きでは無いが(日本経済を考えると)他はモット悪く見える、との事でした。  日本人が Economic Animal と呼ばれる所以を感じた次第です。


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