NEWS23の福島原発事故特集 - 記憶風化装置としてのマスコミ報道

c0315619_18354522.jpg震災から5年。昨夜(3/10)、NEWS23で福島原発事故を振り返る特集があった。2008年の時点で、東電内部において、15.7メートルの津波が施設を襲った場合の試算がされていた事実が紹介されたが、他には特に目新しい報道はなかった。この2008年の東電の内部資料の発見を言うのであれば、併せて、2006年3月に共産党の吉井英勝が国会質問に立ち、大津波の直撃で非常用電源が破壊され、炉心の冷却機能が奪われ、水素爆発が起きる危険性を指摘した事実こそを再確認しないといけない。吉井英勝の国会質問は事故後に思い出されて注目を浴びたが、あらためて神業と呼ぶべきものであり、科学技術者としての吉井英勝の知性と慧眼に脱帽させられる。事故1年前に出された広瀬隆の「原子炉時限爆弾」の予言と並んで、高く評価され、この国の歴史に刻まれるべき科学者の快挙だろう。この当時、原発の事故想定などに関心を持つ者は少なく、そして共産党の国会での持ち時間は少なかった。本来なら、こうした地味な問題ではなく、時事問題での見せ場作りに活用される機会だ。それらの条件を重ね合わせて考えると、吉井英勝のこの質問がどれほど意義深いものかを思わされる。



c0315619_18355865.jpg京大工卒の俊秀。NEWS23の報道では、2008年に保安院が地震・津波の原発への影響と対策の検討を始め、それに事業者として関わる形で東電がシミュレーションを行ったと説明されていたが、当然、2年前の吉井英勝の指摘が前提にある。二つの間に因果関係がないはずがない。TBSは、そのことを知りながら編集でカットした。NEWS23の報道を見ながら、原発事故の風化というものを強く思わされた。それでも、こうして年に一度、視聴率目当てでTBSとテレ朝が放送する番組を見ることで、何とか5年前を思い出し、福島原発事故について考える機会を与えられる。風化は自分自身の中にもある。NEWS23の番組に感じた違和感を他に幾つか言おう。一つは、最初に出てきた「メルトダウン」と「炉心溶融」の禁句の問題である。3月12日の会見で、保安院広報の中村幸一郎が「炉心溶融」を発言したにもかかわらず、それが否定され、以後、メルトダウンの事実がマスコミ報道で握り潰された経緯が出ていた。武藤栄の会見のとき、隣から「これとこれは言うな」という指示が入り、「メルトダウン」と「炉心溶融」が禁止語にされた事実が証拠映像的に示された。問題はその指示を誰が出したかだ。当たり前の話だが、管直人と枝野幸男である。

c0315619_1836129.jpg菅直人は、マスコミから外に出る事故情報を一元管理しようとして、すべての情報を自分を通して出そうとしていて、「メルトダウン」の情報についても強引に封じ込めたのだ。中村幸一郎はすぐに更迭され、ウソ吐き男の文系の西山英彦が広報になった。「パニックを恐れて」というのが本人の動機と理由だろうが、そのため、正確な事故情報が国民に伝わらず、政府と東電によってウソばかりがマスコミから撒き散らされた。覚えているのは、御用学者の専門家がNNW9と報ステに生出演して、メルトダウンは起きてないと断言していたことだ。大越健介が、政府広報官になりきって、何度も何度も「メルトダウンはしていません」と念を押していた。日本でTwitterが爆発的に普及したのは、まさにあの瞬間からである。今になって、東日本全体が壊滅する危機だったなどと菅直人が指導者面して言い、それを回避すべく必死だったなどと鉄面皮で自己正当化を言うのは、あまりにも見苦しく卑劣な所業だ。真実を隠し、ウソを言い、格納容器の損傷はないと言い、原子炉の安全性は確保されていると言い、放射能は漏れていないと言い、ただちに健康に影響はないと言い、情報統制して国民を欺いたまま管理下に置き続けたのは菅直人と枝野幸男だ。

c0315619_18362811.jpgその犠牲者となったのが、高線量の津島地区に避難させられて被爆した浪江町住民である。今回のNEWS23では、見事なまでにSPEEDIの問題が消されていた。完全にオミットされていた。この国で、SPEEDIという語はもうマスコミの表に出ないかもしれないという危機感を覚えさせられた。SPEEDIは、事故発生以来ずっとマニュアルモードに入り、刻々のシミュレーション結果がプリンタ出力され、官邸を通じて関係機関に情報提供されていた。関係機関とは、霞ヶ関官庁と福島県庁と米国大使館と在日米軍司令部と自衛隊である。そのことを、私は、報ステの2011年末の特集報道を元に詳しく書き、2013年参院選の東京選挙区の戦いで論陣を張った際に再提起し、真相分析を動かぬ証拠を添えて説明してきた。SPEEDIを運用管理していたのは渡辺格と鈴木寛で、情報を統括(全体への隠匿と一部への伝達)していた責任者は枝野幸男である。事故前年、2010年10月20日、管直人と枝野幸男のコンビは、浜岡原発で事故が起きたという想定で官邸で原子力総合防災訓練を実施していて、そのときの報道映像には、SPEEDIが出力した放射能拡散地図が危機管理センターの机の上に広げられていた。福一の事故はそれから半年後である。菅直人と枝野幸男がSPEEDIを忘れているはずがない。

c0315619_18363930.jpgもう一つ、福一所長の吉田昌郎への異常な個人崇拝の問題がある。現場で勇敢に指揮したとか、果断に海水注入を実行したとか、吉田昌郎のおかげで日本が救われたという神話が作られてまかり通り、それをマスコミが増幅させている。前にブログで書いたが、福一の事故が刑事事件となった場合は、刑事責任を問われる第一の人物は吉田昌郎だ。この男こそが、津波による全電源喪失の危険性を国会で指摘されながら、それを放置して業務上過失致傷の事故を起こした現場責任者だ。事故が刑事事件となって正しく司直の捜査を受けたときは、逮捕第一号となって取り調べを受ける重要容疑者が吉田昌郎だった。ところが、マスコミと国民は逆にこの男を救国の英雄として祭り上げ、神様のように礼賛崇拝することに終始している。先の戦争と昭和天皇と同じ思想的構図が、ここでもパターンとして繰り返されてしまっている。国民の被害に最も責任のある者を無責任化し、犯罪者を美化の限りを尽くして神格化する欺瞞と倒錯の日本の思想。吉田昌郎は、事故5日目の3月15日未明、2号機が爆発して放射能拡散することを恐れ、現場からの全員待避を独断で決定、自身もその場から遁走しようとしていた。慌てた管直人が「それは許さん」と東電本社に乗り込み、テレビ会議室で怒鳴ったのはこのときのことだ。

c0315619_18365258.jpg吉田昌郎は、自分と自分の部下と、大好きな自衛隊のことしか考えてない男で、国民全体のことについてはどこまでも無責任な男だった。昨日のNEWS23の報道では、官邸の管直人が余計な介入をして現場を混乱させたという論調になっていた。マスコミのすべての認識がその結論になっていて、管直人が吉田昌郎による事故対策の実務を邪魔したという批判が国民の常識として固まっている。この見方は、当時、特に産経新聞を中心にプロパガンダされていたもので、安倍晋三と産経が菅直人叩きの世論工作で撒いていた言説が一般に浸透したものである。メルトダウンの真相を隠し、情報を独占して統制しようとしていた管直人は評判が悪く、世論は産経の主張に乗って管直人を叩き、吉田昌郎を応援するという態勢に出来上がっていた。この時期のネット言論は、野党の位置となっていた右翼の勢いがきわめて強かった。だが、3月15日に吉田昌郎が現場から離れたら、福一の事故収束は誰がやるのだ。その後、国会、政府、民間と、三つの事故調査委員会が立ち上がって報告書を上げたが、吉田昌郎は真実を語っておらず、国民の前に出て説明責任を果たさなかった。だから、未だに事故の真相が分からず、こうして事故から何年という時機に、「実はこうだった」とスクープを商売するマスコミ報道が出るのである。

c0315619_1837358.jpgマスコミとネットの言論では、正確な情報を教えろと執拗に催促していた管直人が憎まれ、官邸を無視したまま独断で現場を指揮していた吉田昌郎が褒められる図式となっている。だが、本当にその決めつけでよいのか。このとき福一の現場責任者が預かっていた命は、福一で作業する東電社員だけではないのだ。部下が助かればよいわけではないのだ。東日本に住む4000万人の国民の命が懸かっていたのであり、その命を守る責任を吉田昌郎は負っていた。であるなら、吉田昌郎は、現場の状況を逐一正しく政府に報告し、国民全体に向けて説明し、状況判断と問題解決の知恵のために情報提供に万全を尽くすことは当然ではないか。一人のサラリーマンの権限と責任で済む問題ではないのだ。吉田昌郎が放った「ディスターブ」の言葉は問題が残る。「ディスターブ」と切り捨てられた対象は、東電幹部と官邸だけでなく、国民も含まれていたことになるからだ。吉田昌郎の功罪について、特に負の側面について、われわれは正確な認識を得ていない。時が経つほどに、真実とは全く逆の事実認識が言論空間を覆い、おかしな議論が定着し、それが動かせなくなっている。2013年7月に吉田昌郎が死に、マスコミの空気が絶賛一色に染まったとき、私はこう書いた。「本当は、国会に出て証言をしなければいけなかった」。

「国会で証人喚問に応じ、そこで後藤政志や田中三彦や広瀬隆の質問と追及を受け、それに答弁し、矛盾を衝かれる形で、事故の真相が明らかにされるべきだった」。今でもそう思う。事故の真相が解明されないから、福一の事故は自然災害とされ、無責任なままで済まされている。そのことが、再稼働2基、規制委審査中22基という、そして再稼働賛成の世論が30%もあるという、反原発の私からすれば、あれから5年後の現実とは到底信じられない、絶望的な原状回帰の基礎になっている。


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by yoniumuhibi | 2016-03-11 23:30 | Comments(4)
Commented by 愛知 at 2016-03-11 23:43 x
確かなご教授に感謝いたします。今夜(3/11)のNEWS7拡大版は最悪でした。メルトダウンをさりげなく「想定外」と言い捨て。避難解除地域に戻った方が6%だと。早く戻れと急き立てる。戻っても、商売ができるのは東京電力様の補助金のおかげであると。ご丁寧に東京電力の安全性の説明まで大写しで。続いて東京の震災からDPRKのミサイルへと。誰のための「拡大版」でしょうか。あれでは帰還さない方は罪人扱いですね。昨夜の東電所長(故人)よいしょにも呆れましたが。多くのリベラルが涙流して称賛。「広島は、仕方なかった」と同じでしょう。大行陛下、万歳。故人東電所長、万歳。まもなく戦争法は施行されます。数多くの市民に祝福されて。なぜゆえ「鼓腹撃壌」(貴下命名)の腑に落ちることが、ネオリベさん、わかられないのでしょうか。報ステを見ていた細君の何気ない一言。「人間、武器を持った時点でお終い。」この話し相手も、間もなくいなくなりますが。
Commented by 七平 at 2016-03-13 12:23 x
(1の2)

日本のマスコミが現政権による脅迫や錯乱工作により、真実を伝えない又、誤報を拡散させる機関に落ち果ててしまった事は世界が認知するところです。2015年度の報道の自由、世界ランキングが61位である事は先回の投稿でお知らせした通りです。私自身、日本人として情け無い事ですが、日本発の奇妙なNewsが流れると、事件の真実を追究する為にWebでの検索を日本語から英語に切り替える習慣となっています。(注:Wikepedia も日本語・英語で内容が異なっています。)人質事件に関し、主様の記事を土台に、信憑性の極めて高い結論を出した時も、私に決め手となる確信を与えてくれた情報は英語の世界からでした。 ひとつは、後藤りんこが英語で読み上げたたお悔やみStatementであり、もうひとつはシリア人ガイドが外国人記者に応じた英語のInterviewからでした。 前者は、阿部政権が選挙のご都合に合わせ、後藤健二の捕虜となった日付を丁度一ヶ月ずらした事を明らかにしました。後者は後藤健二が "この先は自分の責任です、、、”ビデオ" を撮られた時に死の旅に嵌められた事に気づかなかった理由を説明してくれました。 

原発事故関連で、主様は吉田昌郎に対し業務上過失致傷を示唆されていますが、人質事件に関して、阿部晋三は業務上過失致死が適応されて当然だと思います。 なぜならば、首相の第一職務は国民の命と安全を守る事です。湯川遥菜や後藤健二がISISの捕虜となっている事を知りながら、阿部晋三は彼らを死に追いやるような 日本の中東中立路線からの離脱 を寄付と発言を持って実行しました。 秘密保護法の発動自体、両氏が日本国の工作員であった事を物語っています。

原発事故に関し、日本語Newsと英語Newsの内容がどれほど違うかを示す一例として下記リンクご覧ください。 Exciteによる投稿妨害を掻い潜る為、わざと http:// を 消しておきます。 付け足して検索してください。

cnnpressroom.blogs.cnn.com/2011/06/01/physicist-michio-kaku-we-came-close-to-losing-northern-japan/
Commented by 七平 at 2016-03-13 12:26 x

(2の2)

日本のマスコミが人質事件の追及をするだろうと期待して、長らく様子を見ました。 沈黙を守るマスコミがなぜ追求しないのか理由も解り、投稿を再開しています。
日本での報道、言論の自由を守る為に、少しでも貢献できればと考え地球の裏側から応援を続けます。
ひとつ気にかかる事は、当時、事件の追及に参加していた皆さんの投稿が見当たらない事です。 Dolphin さん、原さん、Lisa さん、Keikoさん、ロシナンテさん、その他の皆さん大丈夫ですか。 もし、現政権より直接、間接的にハラスメントを経験されたのであれば、その内容を投稿されるべきと考えます。 真実に勝る武器はありません。
Commented by 愛知 at 2016-03-14 01:26 x
そういう「常識」が常識としてインプリメントされるよう世論を固めるのがマスコミの仕事でもある―――貴下、2006年9月18日の記事から引用させて頂きました。何度も続けて恐縮です。3/13のNスペを見て、怒りに感けて貴下の記事を検索。結局、福1の2号炉大爆発(東日本喪失)は、カミカゼが止めたのだと。問題の根本に迫ることもなく。「瀬戸の花嫁」ならぬ「水俣のテンノー」を思い起こしました。Nスペを一緒に見ていた細君いわく、「あんなにいい俳優さんを使わなくても、圧力鍋の説明書で十分。シーベルトって、言うから、チンプンカンプン。温度の方がわかりやすいのに。」


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