トランプ現象への視座 - 低所得層が40%になった米国のデスペレート

c0315619_17325350.jpg米国の大統領選のニュースがテレビでずっと話題になっている。最初は、そのこと自体に抵抗感があり、関心を向けることができなかったが、最近はそうでなく、むしろ気楽な感じでテレビの報道に付き合うようになった。抵抗感というのは、要するに、植民地的な感覚と空気に対する拒絶と嫌忌のことで、宗主国の選挙に夢中になって、あれこれ蘊蓄を垂れて自慢したり、面白可笑しく演出して商売しているマスコミやネットの者たちに不愉快を覚えるということである。例えば、NHKがそうだし、小西克哉がそうだ。米国様の中で起きていることなら、どんな事象や流行でもありがたがって注目し、その意義を過大に過剰に見い出し、すぐに日本でも真似をしなきゃとする風潮は、特にこの15年ほど、年を追う毎に甚だしくなっている。米国絶対視のイデオロギーの蔓延。その言論と報道の傾向は、パラレルに、中国で起きていることならどんなことでも邪悪視し、頭から不当視してかかる論調とセットになっている。私はその思想性になじめず、それを正常な「価値観」だと肯定できず、世間と同調することを拒み、無理やり首を曲げて横を向くように、マスコミが誇大宣伝する「米国の事情や動向」から目を背けてきた。植民地の人間として前向きに生きるのが苦痛なのだ。



c0315619_1733821.jpg他の一般の感性からすれば、私の態度は反米異端かもしれないが、ブログの読者は、例えば、辺見庸はこの米大統領選の報道をどんな気分で見ているだろうかと想像しながら、私の天邪鬼の見方に付き合っていただきたい。結論として、トランプについての日本の報道やマスコミの評価と、私のそれとは同じではない。極端に過激な人種差別の暴言や、度の過ぎた反知性主義と言われる言動について、それを見たとき、とうとうこんなアル中患者のような狂人が政治の表面に出てきたのかと呆れたが、それは米国の没落と終焉というか、カタストロフを暗示し表徴している人物像の出現のようで、ある種の福音のように小気味よく、この男と一緒に滅亡してくれという気分で視線を送っていた。その「期待」は今も続いている。トランプの言葉はデスペレートだ。やけくそになっている米国人の鬱屈や憤懣を代弁している。当初、トランプに論外の評価づけをして、キワモノ扱いしていたNHK(鈴木奈穂子)や報ステ(古館伊知郎)は、トランプ旋風が衰えず、共和党の正式候補になる見通しが明らかになるに従い、論調を姑息に変えるカメレオン報道をやっている。米国も同じなのだろう。トランプは私と対極の思想の人間だが、トランプを支持している米国人たちには憎悪や敵意を感じることはない。

c0315619_17331951.jpg逆に、シンプル・イズ・ベストとか、オネストリーとか、フランクリーという英語の言葉を想起する。米国社会は、何事も率直に単純明快にというのが基本哲学で、分かりやさという価値と美質をとても大事にする。簡明さを要求する。プログラムのコードはステップ数が少ないほどよい。アルゴリズムの数式でシンプルに演算処理しないといけない。誰が見てもよく分かるのが一番なのだ。トランプの演説は、意味を真面目に考えれば、恐ろしく非常識な放言を乱発していて、到底、大統領職になる者が発言する政見や政策ではないのだが、テレビで編集され紹介される英語のフレーズが、センテンスが短くヒアリングしやすく、意味が単純で掴みやすいので、何度も繰り返し見て聞いているうちに耳に慣れてしまう。違和感を感じることが減り、逆に親近感を覚えてしまう。その暴論スピーチは、政治というよりもエンターテインメント(お笑い)であり、海の向こうの出来事だから無責任に構えられるという条件もあって、コメディアンの芸として楽しんでしまう姿勢になる。トランプと集会参加者の掛け合いを見ていると、自然に愉快で横隔膜が律動する。ヘイトという客観情報の論理的な意味づけよりも、ファニーという感覚的情動的な受け止めの方が先行してしまうコンテンツなのだ。

c0315619_17334446.jpg面白可笑しさは憎めなさに繋がる。毎日、親が子どもを虐待して殺したとか、老老介護で疲れた夫が妻を殺したとか、認知症で徘徊して電車にはねられたとか、心臓発作の男の車が暴走して人を轢き殺したとか、子どもの貧困が6人に1人とか、保育園が足りないから消費税を上げようとか、国内はそういう憂鬱なニュースばかりで、テレビの前にいるだけで神経衰弱になる。そうでなければ、傲慢な安倍晋三が強弁している絵か、金正恩が子分の前で威張っている絵を見ないといけない。どっちも反吐が出る。チャンネルを回せば、お笑い芸人が不興で下劣な身内ネタをやっている。そういうコンテンツが並ぶ現在の日本のテレビの中で、唯一と言っていいほど、気楽に進行を眺めて時間を潰せるのが、米国大統領選の絵なのである。8年前も盛り上がった大統領選があり、今回ほどではないが日本のマスコミがカメラを集中させた。気のせいかもしれないけれど、共和党のトランプの集会に詰めかけている米国市民が、共和党らしい身なりといでたちをしていない。記憶では、共和党の集会の参加者として撮られる者は、もっとラグジュアリーな格好をしていて、リッチな富裕層で、女性はブロンドやプラチナの髪で高価なドレスを身にまとって、(アカデミー賞の受賞式を思わせる)パーティに出席しているような雰囲気だった。

c0315619_17335513.jpg共和党を国民にアピールする機会だから、共和党らしく「アメリカンドリーム」の思想を演出して、お金持ちはいいことだというメッセージを訴求する、そういう絵作りと人間の集合だった気がする。資本主義がギラギラしていた。が、今回のトランプの場合は様相が違って、民主党の集会参加者と同じというか、中低所得層の人々が前面に陣取っている。民主党の場合は、そこに清貧とか簡素の語で修飾される積極的なイメージが付加されるのだけれど(低所得だが賢明で堅実)、共和党の場合は、それがなくストレートにプアーで素朴な米国人というだけの表象と認識になるものだ。共和党は変わったなあという感想は、単に候補や政策の支離滅裂や破天荒だけでなく、集会に集まる人々の姿が変わったことで一層強く印象づけられた。貧しくなっているのだ。2/25に放送されたNHKクローズアップ現代で、米国での意識調査の結果が紹介されたが、「自分はどの階層だと思うか」の問いに、2008年には「中間層」だと答えていた割合が53%だったのに、2014年には44%に減っていた。一方、2008年には「低所得層」と答えた割合が25%だったのに対して、2014年には40%にも増えていた。両者が拮抗している。きわめて興味深く、そして真実を射抜いた統計とグラフだ。おそらく日本で調査をしても、似たような結果になるだろう。

c0315619_1734599.jpg「低所得層」が激増している。この2008年からの7年間というのは、FRB(バーナンキ)がQExの金融緩和を推進し、リーマンショックで落ち込んだ景気を支え直し、米国経済が復活して活力を取り戻した時期だった。失業率は半分に減り、特に中国経済が減速して以降は、まさに一人勝ちの、世界経済を一人で背負う信頼の大黒柱となっていた。成長率も先進国の中では高い水準を維持し、各国がじゃぶじゃぶ放漫な緩和を続ける中で、一国だけ先頭を切って出口戦略(金利高・引き締め)に舵を切る堅調さを示していた。だが、そうした表のマクロ経済指標の好調さの裏で、格差は深刻に広がり、国民の多数の所得が低下して生活苦に喘ぐ状況になっていたのだ。40%が「低所得層」と自覚する事態は異常である。だが、その異常が、今回の大統領選の内側を伝える報道でよく分かるし、サンダースの「社会主義」が支持される理由もよく分かる。内在できる。私は、今回は、テレビの向こうの米国の市民に、これまでにないほど親近感を感じ、自分と同じ人々がいて息づいていることを明確に感じた。そして、サンダース支持にせよ、トランプ支持にせよ、DCとエスタブリッシュメントに対する不信と批判を直截に行動に表出させ、政治のムーブメントを作っていく米国民の率直さに感銘を受けた。そこには、日本のような奇妙な屈折や欺瞞がない。

c0315619_17341745.jpg2010年にティーパーティの運動が起きたとき、NHKが茶会支持の白人層を取材し、中間層から没落しようとする者が、自分の税金を貧困者を救済する社会保障に使うなと、エゴイズム剥き出しの論法で主張する姿を撮っていて、その絵に目眩を感じ、共和党支持の米国保守層に断絶と軽蔑を感じたままだった。そこから6年後の今回のトランプ支持者の絵には、ティーパーティに感じた冷たく苦いものとは違う肌合いを感じる。同じ人間だという感じがひしひしと伝わる。それはきっと、自分自身が、米国民の歩んだ軌道と同じように、「中間層」から「低所得層」へと所属の自己認識が変わったからだろう。同じように、政治に裏切られ、資本に傷つけられ、無価値化され、人間扱いされず、希望を持てず、そして、テロ(戦争)に怯え、破滅の不安を感じている身の上だからだろう。トランプの扇動が私を代弁しているわけではないが、トランプのDC批判・エスタブリッシュメント罵倒を聞いて、それを自らの代弁だと共鳴してカタルシスを覚え、喝采している米国の人々をテレビで見ていると、何か自分自身が代弁されているような錯覚に陥るから不思議だ。永田町不信や霞ヶ関不信やマスコミ不信は、全く同じものであり、それが我慢できない限界に来ているのは同じだから、イデオロギーや政策が異なっても、体制批判・権力批判の部分には反響するものがあるのである。

c0315619_17342827.jpg最後に、トランプの下品さや粗暴さの問題だが、これにはハッと気づかされる問題がある。トランプはかなり意識的にそれをやり、ヒールを強調することで反DCの波紋を広げて不満層の支持を得ている。日本人は自覚してないが、国会で答弁をしている安倍晋三や麻生太郎が、一体どれほど人を口汚く罵り、無神経に国民を愚弄し、政策の質問をしている議員に醜い言葉の暴力を加えていることだろう。市民社会の常識と理性を破壊していることだろう。幾度となく、それをやってきたことだろう。そのことが、何の咎めも受けず、制裁もされず、反省を強いられず、黙って見過ごされてしまっている。米国では、選挙に立った候補者がそれをやっている。日本では、政府の要職にある権力者がそれをやっている。働く女性やパート労働に対する侮辱や挑発もそうだ。マスコミに対する恫喝や脅迫もそうだ。日本では、政治の暴言が暴言ではなくなっている。関連して、それは永田町の権力者だけでなく、ネットの中の反体制派も同じ精神の不全が明白で、誹謗中傷、嫌がらせ、個人情報晒し、集団リンチ、組織的排除(Twアカのブロック)、等々の暴力が日常になっている。しばき隊の言葉は常に揶揄か罵倒か侮辱で、それ以外のTwの表現を見ることが稀だ。トランプのような言葉遣いが21世紀の政治のリアルなのかもしれない。安倍晋三としばき隊を見ていると、そのような諦観に導かれる。

以上、トランプ現象について、(1)米国のカタストロフとしての期待感と、(2)8年前とは一転したように見える共和党支持者の経済窮迫とそれへの内在の視線と、(3)政治における粗暴的態度の普遍化という3点を考えてみた。


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by yoniumuhibi | 2016-03-02 23:30 | Comments(2)
Commented by 私は黙らない at 2016-03-03 03:43 x
 トランプ旋風の背後にあるものを、よくぞ言ってくださいました。マスメディアの報道は、トランプの暴言をネタに反トランププロパガンダと化しており、それが何故民衆に指示されるのかという背景まで報道することはありません。トランプの暴言はまさに、不法移民や中国からの安い製品に仕事を奪われた失業中の白人ブルーカラーのおっさんが、安い酒片手にぶちまける不満そのものであり、それを真摯に受け止めてこなかった既存の政治への怒りでもあります。
 マスメディアのみならず、欧米諸国の政治家にとってもトランプ旋風はやっかいなこと、自分たちの既得権益を侵すかもしれないTheatであるのはまちがいないと思います。だから、暴言をあげつらい、何とか排除しようとする。
 でも、考えてみてください。今回の大統領選にバーニーと、トランプがいなかったら何と退屈なことか。ヒラリー、ルビオ、ブッシュ(早々に消えてくれてよかった)、一体誰に入れればいいんですか。この人たちの一体誰が、我々、庶民の為に働いてくれるのですか。どれも同じじゃないですか。
 残念ですが、民主党の候補はヒラリーになります。さて、バーニー支持者の票はすんなりヒラリーに行くだろうか。私はバーニー支持ですが、ヒラリーに入れるくらいならトランプに入れる。ヒラリーが大統領になったって、どうせ何も変わらない。
 バーニーとトランプ、左と右ですが、主張には不思議と似通うものがあることに、皆さん気づいているだろうか。国内産業の立て直し、中低所得者層への保護(減税、教育費無償化、薬価コントロール、等)、反TPP、海外への派兵への消極性。ヒラリーが大統領になっても、泥沼化したテロ戦争は続くけど、トランプになったら、どうだろう。ロシアと協調して何かよい方向に変化するだろうか。
 最近、昨年度の納税をした。納税額を見て、ため息が出た。こんな貧乏人から搾りとらずに金持ちからもっととってくれ。自分が収めた税金の何パーセントかが、軍事費に使われ、対テロの名目のもと、軍事産業にながれ、議員の懐に入るかと思うと、腹が立つ。軍事費にまわされる数パーセント分の納税を拒否したい気分だ。そのカネを、まともに食べられない子供への給食にでもまわしてやりたい。
Commented by NY金魚 at 2016-03-03 07:33 x
◆ スーパーチューズデイに、バーニー・サンダースが行なった地元ヴァーモントでの勝利宣言は、撤退はしないと明言しているものの、ほとんど撤退宣言のように遥かな言語に聞えてきました。Bernie: All of you know, this campaign is not just about elcting a president , it is about TRANSFORMING AMERICA…
◆ それでも、これからもつづくサンダースによる(あるいはそのまえに民主党に撤退させられたローレンス・レッシグによる)行きすぎた資本主義を是正する理性的な提案がなされたことは、今後のアメリカがトランスフォームする大きな道筋をつけたと思います。
かたや、まったく理知的でないコメディアンのトランプが残り、ウォール街と蜜月のクリントンと闘うことになると、まことに金権アメリカ政治の象徴で、笑顔どころかなみだが出てきます。トランプは言動は支離滅裂ですが、ご指摘の新しい共和党層が、低所得者の方向に大きく変化しつつあるのは事実です。民主党層の20%をトランプが切り崩しているというデータもあります。
◆ 人生の半分以上を過したことになるアメリカにいても、大統領選になると、いまだに移民の目から見た「宗主国の王様選び」みたいな感じになります。
◆ いままで唯一面白かったのは、世に倦むさんと応援しあった8年前のオバマ=ヒラリーのデッドヒート(2008年)。結局オバマは8年でほとんどなにもできなかったけど、大統領選の度に(バーニーなどの)必ず現資本主義を変える提案が出てくるところに、アメリカの凄みだけは感じています。
◆ くらべて、日本の政治には、いまの資本主義を少しづつでも動かしていくという気概など、ゼンゼンみえません。理念の完全欠如。


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