じゃぶじゃぶ流す水道比喩概念図のウソ - アベノミクス量的緩和のトリック

c0315619_17323840.jpg昨夜(2/16)の報ステで、銀行間金利がゼロになり、短期金融市場で資金の貸し借りが止まり、取引量が激減した状況を報道していた。借りたい金融機関はあるが、貸したい金融機関がない。貸しても金利が付かないからだ。無担保コール翌日物と呼ばれる1日間の融資の金利、これがマイナスになると、貸す方が借りる方に手数料を払わなくてはいけないという歪な形になる。今日(2/17)の朝日の2面記事に、「短期市場での運用は減らさざるを得ない」という生保関係者の発言が出ていた。普通預金口座に入れておくのだと言う。マスコミ報道では、住宅ローンが借りやすくなると言ってマイナス金利の美点を強調する説明が多いが、金融市場と金融機関に混乱を生じさせ、経営圧迫のリスクを生じさせている面が過小評価されているように思われてならない。ポイントは、やはり日本国債が安定した資産ではなくなった点だろう。国債を保有して満期まで運用すると損が出る。そのため、リスクの高い株などに回さなくてはいけない。株式市場に資金を流し込んで株価をつり上げるのがアベノミクスの手法だが、金融機関の収益の安定性というものを根こそぎ破壊してしまった感がある。金融機関の公的性格とか公的信頼性の基盤が失われてしまった。



c0315619_17325047.jpgその報ステのニュースの中で、日銀の当座預金残高の変化が紹介された場面があった。一瞬だけだったので、数字を正確に覚えられなかったが、量的緩和(第一の矢)の以前は47兆円だったのが、3年後の現在は253兆円に増えているという説明図が示されていた。253兆円という金額はロイターの記事で確認がとれる。47兆円という金額は、ネット上の統計資料から推定することができる。この数字にはあらためて驚かされた。日銀が市中への資金供給を2年間で2倍にすると発表し、マネタリーベースを138兆円から270兆円にすると内外に宣言したのは、黒田東彦が総裁に就任した2013年4月のことだった。その後、衆院選直前の2014年10月に追加緩和があり、毎年80兆円のペースで増やすという政策公約が加わり、現在のマネタリーベースは355兆円にまで膨らんでいる。ところが、何と、そのうち200兆円分はそのまま市中から日銀に還流して日銀当座預金に滞留していた。簡単に言えば、黒田バズーカで放出した資金のほとんど全てが、市中から市場に流れず、市中から日銀に戻っていた。黒田バズーカでの資金供給量の増分は217兆円。日銀の当座預金残高の増分が200兆円。ほとんどプラスマイナスゼロだ。

c0315619_173318.jpg呆気にとられる。つまり、われわれは3年間ずっと騙されていたのである。正確に言えば、騙されていたというより無知だったということだが、何に騙されたかというと、あの「異次元の金融緩和」を説明するテレビ報道のアニメーションだ。日銀が水道の蛇口をひねって資金が市中のプールに流れ、ジャブジャブ供給という言葉で何度も説明されたところの、アベノミクスの第一の矢である「金融緩和」の表象と観念を、疑うことなく信じてしまっていた。説明図には詐術があった。蛇口から配管を流れて市中のプールに溜まった資金が、もういちど水源である日銀に戻るパイプがあり、水道全体が還流システムとして出来上がっていたことである。比喩された資金の水流は、上流から下流へと一方向に流れるものではなかった。市中で貯水しきれずに溢れる水を、水源の方に戻す配管があり、市中は市中の蛇口をひねって調節し、水は要りませんよと日銀に水を戻していたのだ。その真相は、今回のマイナス金利の際にテレビ報道で紹介され、そんなの常識でしょとばかりサラッと流されたが、無知であったことの恥を忍んで抗弁すれば、どうして3年前に水道システムが還流系であることをマスコミは解説で付言しなかったのだと不審に思う。

c0315619_17375939.jpgあの3年前の「大胆な金融緩和」を説明する概念図のアニメを見ながら、水が溜まる一方の市中(銀行・保険・郵貯)はどうするんだろうと素朴に疑問に思ったものだ。一方的に押しつけられるように、日銀から日銀券を発行されて金庫に抱え込んだ市中は、それを市場にも流せず、何に使うのかと不思議に感じたが、その疑問がどこかで提起され、それは還流系だから日銀に戻って当座預金口座で金利を稼ぐんだよ、それがカラクリだよと、そう実相を暴露して一般市民を説得する議論は特になかった。テレビには何人も論客が登場し、アベノミクスの「金融緩和」の仕組みを解説したが、無理に供給しても市場に流れようがないとまではコメントしても、そのまま日銀にスルーで戻るんですとは誰も言わなかった。実際には何をしていたかというと、市中の金融機関が持っている国債を日銀が買い上げ、その分の金額を日銀の当座預金口座に積み増していたのである。政府(財務省)が国債を発行する、それを市中が買う、市中から日銀が買う、日銀の当座預金口座の残高が増える、それが繰り返されていたのが、アベノミクスの「大胆な金融緩和」とか「黒田バズーカ」と呼ばれていたものの正体だった。資金が循環していただけで、国債が発行されて日銀が回収していただけで、国債が日銀のマネタリーベースに置き換わっていただけだ。

c0315619_17334414.jpg還流システムといっても、マネーの出発点は政府で、終着点は日銀であり、日銀に国債が溜まるので、玉木雄一郎が国会質疑で追及していたように、長期金利が下がって国債の満期償還で差損が出れば、日銀は資本金で回収できないという経営危機の事態になる。いわゆる出口戦略というものが全く見えない中で、ひたすら国債を買い増しながら、さらに黒田東彦はマイナス金利幅を拡大させようとする構えを見せ、一体何を考えているのか全く分からない。長期金利が下がることで、国債の市場価値が上がり、金融商品としての収益魅力が増すというマネーゲームの法則性は妥当するけれど、それはあくまで短期的な投機売買の次元での話であり、日銀の銀行としてのバランスシートが毀損されれば、発行する円が(日本国債もろとも)信用を失って暴落することになる。経済活動を支える金融システムの健全性の問題として考えたとき、長期金利のマイナス、すなわち国債の資産不全化は深刻な問題で、それに配慮しない黒田東彦の姿勢は中央銀行総裁としてあまりに無責任すぎる。結局、マネタリーベースは3年間で2.5倍に膨らんでしまった。間もなく3倍になる。通貨供給量は2.5倍に増やしたが、目標とした2%インフレは実現していない。輸入物価は上がって国民生活を苦しめているが、アベノミクスの目的であるデフレ退治は逃げ水のように遠のいている。

c0315619_17344552.jpg次の局面でどうなるか。私は最悪の想定を描く思考性癖があり、そのために侮辱中毒の左翼方面から「陰謀論」と誹られるのだが、初歩的なセオリーに従って考えれば、ハイパーインフレが起きることになる。通貨供給量が2.5倍に増やされ、財とサービスの生産額(GDP)が増えてないのだから、一物一価の法則で単純に均衡するポイントは、アベノミクス前の2.5倍の物価水準だ。そのような進行を防ぐためには、理論的には、GDPを2.5倍に増やすしかないし、でなければ、日銀が蓄積した国債を償還して資産会計から償却し、新規の国債買入を止め、(市中の)日銀当座預金残高を減らし、マネタリーベースを圧縮するしかない。それは、中身的には、政府の新規国債発行を止める・減らすということで、歳出を現在の2分の1にする、あるいは税収を現在の2倍にするということである。無論、GDPを2.5倍にすることも、歳出を2分の1にすることも、机上の問題解決の図であり、現実には全く不可能なことだ。アベノミクスの失敗と破綻が明白となり、日本経済と日本銀行の信用が失墜した今、当局のオペミスを発端にヘッジファンドの仕手戦が呼び込まれ、円と日本国債が暴落する不安要素が増している。何と言っても、日本は政府債務が多すぎる。潜在成長率が低い。悪夢が現実になったとき、ハイパーインフレが起きる。2%の物価上昇ではなく、異次元の物価暴騰となる。

アベノミクスが地獄を招く政策だったことを、日本人は悶絶の中で知るだろう。以上の想定は、極端に悲観的かもしれないが、私自身としては、アベノミクスが始まった3年前から警告していることだ。出口戦略は全く見えていない。政府の国債も同じだが、出口戦略(後始末の具体論)がないまま楽観論で済まされるはずがない。借金は返済しなくてはならず、赤字は赤字だ。経済に手品は通用しない。


c0315619_1734564.jpg

[PR]
by yoniumuhibi | 2016-02-17 23:30 | Comments(5)
Commented by たけ at 2016-02-17 21:58 x
以前はまともな事を書いていた朝日新聞が2年ほど前から読売と同じようなつまらない記事になり昨年11月で購読をやめました。
大幅な部数減少は当然で購読習慣が無くなれば復活はありません。国民を欺いて政権寄りになった報いです。

NHKの21時のニュースは夕食時に流すように見ているのですが時々無意識に内容を刷り込まれてしまうので、貴ブログ様の記事を読んで冷静さを取り戻させて頂いています。ありがとうございます。


GPIFの株式運用によって国民の年金積立金という日本の富が海外に流失してしまいました。
今後もアメリカの投資銀行などが日本の富を収奪していくでしょう。

円と日本国債の暴落はアメリカの格付け機関による大幅格下げで庶民の目に触れるでしょうがその時までは全く気が付かないようにテレビ・新聞によって隠蔽工作されます。格下げの報道がされた時には海外市場で相場が動いてしまって日本人は逃げ出せません。
問題はそれが何年先なのか分からないこと。


金地金等の貴金属を購入して資産分散、保全を図るべきか真剣に考え始めました。
Commented by 七平 at 2016-02-19 00:16 x
私は阿部ノミクスを出発当時から真似ゴミクスと呼んで、その名に応じた位置づけで考えています。 ノーベル賞受賞した経済学者、Krugman の言う事を鵜呑みにして、国策を企てたわけですが Krugman自身、NYTに私の説は日本に当てはまらなかった旨の論説を発表して数ヶ月になります。薦めた本人が完全に梯子を外してしまいました。彼の説明が的を得ているとは思えませんが、米国で効果のあった処方箋が日本で効かなかった事は事実です。その原因は国民性にあると思います。要するに、”一般がお金を借りる事が出来る様にすると消費に走る”という前提が米国では正しくても日本ではあてはまらないからです。 国民に直接現金をばら撒くわけでもなく、政府が国債を買い上げ、金融機関の手持ち現金を増やす、そうすれば銀行が貸付やローンを増やすはず、そうすれば消費が進む、インフレ誘導できる、デフレから脱出できる。聞こえはよいのですが、実際には 風が吹けば桶屋が儲かる、落語の論理展開でしかありません。お金に対する潜在需要がないのに、供給サイドの蛇口をあけても逆流するのみです。真似ゴミクスの副産物で円安誘導、株価高騰となり延命効果はあったのすが、その副産物でさえも危うくなっているのが現況であると考えます。一国の中央銀行が本業を忘れて、(賭博場の)株価に踊らされていて、大丈夫でしょうか?過去、米国でも国民年金を株に投資する案は検討されましたが、リスクが高すぎると廃案になっています。
Commented by 七平 at 2016-02-22 03:18 x
(1の2)
言論の自由、報道の自由を犯す現政府の介入に関して一筆させていただきます。人質事件の報道とその処理を目の当たりにして、私の認識はずいぶん変わりました。詳細は本ブログ http://critic20.exblog.jp/23436476/ 投稿欄 "まとめ" で記されています。 しかし、 普段交信のある日本の友人、知人からは同様の実感と認識は伺えず、日本はそういう事が問題視されない 〝お上と羊の国” であろうと自分を納得させざるを得ませんでした。日本文化内に "嘘も方便" 又 "長いものに巻かれろ" 等の言い回しがあるくらい嘘に対する許容度が高く、言い換えれば真実に対する尊敬の念が低いと言わざるを得ません。 

民主主義を支えバランスを保つ為に編み出された、三権分立(司法、立法、行政)に加えマスコミ(新聞、テレビ等)が極めて重要な役割を果たすのは言うまでもありません。なぜならば、健全な民主主義が存在、継続するには、”Informed Citizen" (歴史や時事に精通した市民)が、基盤に存在している事が前提であり不可欠です。Informed Citizen が民主主義の究極的な砦 "一人一票” の権利を行使し、民衆の総意を国政に反映させる事こそが民主主義の真髄です。昨今の日本のマスコミは、Informed Citizenを育成するどころか、行政府のご都合に合わせて国民を洗脳するお手伝いをしていると考えます。
Commented by 七平 at 2016-02-22 03:26 x
(2の2)
本ブログサイトの他にも、日本のマスコミのあり方を問題視している人もいるはずと、 Youtube  で検索しました。 漸く信憑性のありそうなビデオが見つかりましたので、リンクを記しておきます (投稿妨害により削除)古賀茂明と言う方が、東京で外国人特派員クラブにて通訳を通し、日本のマスコミの実情に関し記者会見され、記者団の質問にも答えられています。 冷静、端的にお話しされ、ずいぶん参考になりました。日本のテレビ局等では、皆、事前打ち合わせ済みの台本通りに喋っている限り、高い報酬が得られ、 一歩台本から離れると、解約される。 そういう環境下にあると説明されています。 このような貴重なビデオもYoutubeには上がっても、NHKや ??テレビでは御法度番組、放映禁止になるのでしょう。 現政府が報道機関から報道の自由を奪うだけでなく、真実の隠蔽、誤報の拡散を強要し続けると、報道の自由を奪った連中もブーメラン現象で真実を伝える情報を失ってしまいます。 自画自賛とご都合解釈の分析が政府のお 気に入りの評論家によってなされ、それらがまるで真実のように報道され続けているのが、現在の日本の姿だと思います。現政府に惑わされないよう、英、米、仏、独、露 から放送されている英語版のニュースにも目を通される事をお勧めします。

この様な環境下、数値の歯切れが良すぎる 現行支持率50% や TPP交渉に当たった窓口大臣の辞任劇 も 情報統制・錯乱機関が仕込んだ捏造誤報、事前計画された芝居ではないかと疑ってしまいます。 裏づけを取ろうとする 新聞社 やJournalist が出てこないほど状況は悪化していると思われます。
Commented by 失敗の言い訳 at 2016-02-24 22:45 x
本田悦朗という男はポンコツ過ぎる。2月24日報道ステーション。私たちがこんな話で騙されると思っているとは、いくら何でも頭が悪すぎる。もう少しマシな理屈を考えられないものか。
「消費税増税も、中国経済の失速も、原油安も、すべてアベノミクスの外からの力だから、アベノミクスの失敗ではないのだ」と?!
そんな理屈が通るのなら、経済政策の失敗は、すべて「外からの力」によるものだと開き直ることができる。
政策というのは、日歩刻々と変化する国内外の様々な状況を踏まえ、先を見通して行うものである。
100歩ゆずって自然災害なら「外からの力」という理屈もあり得るが、それでも東海地震による原発事故などは責任の範囲だ。
思惑通りにならなかったからといって、言い訳があまりに低次元で、あきれる。
しかも、本ブログの解説のとおり「アベノミクス+マイナス金利=円高、株安」は自分たちの失敗であることは明白だ。


カウンターとメール

最新のコメント

もしラッキーで後20年、..
by 長坂 at 11:43
ブログの主旨に全面的に賛..
by NY金魚 at 02:34
日米両国で大嘘つきの大統..
by 七平 at 06:07
あの人達が左の代表だとし..
by 長坂 at 15:01
私の祖父は敗戦後、GHQ..
by 愛知 at 01:52
『戦争をしない』という魂..
by NY金魚 at 00:27
度々ですが、朝鮮戦争時、..
by ayako at 23:24
おにぎりさんのコメント、..
by ayako at 18:20
「南スーダンへの派遣自衛..
by 愛知 at 00:29
ブログ管理人殿のアイデア..
by 齋藤正治 at 08:01

Twitter

以前の記事

2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月

記事ランキング