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甘利明を弁護するマスコミ - 「法的責任は問えない」とする者に反論する

甘利明を弁護するマスコミ - 「法的責任は問えない」とする者に反論する_c0315619_17294893.jpg今日(2/1)の朝日の社会面(31面)に、一色武に記者が取材した記事が載っていて、新しい暴露情報が出ている。取材は昨日(1/31)行われていて、2014年11月に平塚で秘書に現金100万円(50万円x2)を渡し、そのうち50万円が政治資金収支報告書に記載されてない事実や、2015年に現金15万円を53回渡したメモの所在が証言されている。これらは週刊文春の報道にはなかったもので、きわめて重大な新事実だ。私はてっきり週刊ポストか週刊現代がこの問題を追跡し、秘書を直撃して特集記事を売るものと予想していたが、意外にも週刊文春とは犬猿の仲の朝日新聞が動き、一色武とのコンタクトに成功して取材した。ただ、不思議なことに、記事は31面に地味に配置されていて、1面トップに持ってきておらず、1面の中に31面にナビゲートする小見出しすらない。普通に考えて、これは駅売りの目玉になるスクープ記事で、1面トップに大きく掲載するのが当然だ。姿を見せない一色武に接触できた新聞社は過去になく、朝日が初であり、1面に派手な大見出しを打てば、人目を引いて駅売りの部数を捌けただろう。一色武が週刊文春以外のマスコミに口を開いたというだけで、看過できない一つの事件である。営業的な観点からも、朝日のこの軽い扱いは不可解だ。



甘利明を弁護するマスコミ - 「法的責任は問えない」とする者に反論する_c0315619_1730352.jpg背後に、何か政治的な思惑と意味があるように感じられ、朝日の経営中枢が安倍晋三に遠慮をしている気配が窺われる。今回の週刊文春のペンの作戦攻勢は実に鮮やかで、電光石火、わずか一週間の早業で大臣の首をもぎ取った。しかも政権の屋台骨の重要閣僚の首を一撃で落とした。久しぶりの政治醜聞ジャーナリズムの快挙であり、国民の一人として溜飲を下げ喝采を送る気分だが、面妖なことに、マスコミ報道は、週刊文春の殊勲を讃えて後を追いかけ競争しようとせず、逆に足を引っ張って意義を貶め、影響を小さく抑える言論ばかりで埋めている。事件が表に出て以降、テレビ解説に登場するのは常に岩井奉信で、その結論は「立件にはハードルが高い」「法的責任は問えない」のみである。盛り上がろうとする国民の関心に冷水をかけるコメントばかりが公共の電波で流され、捕り物はないから期待するなと説教されている。事件の全貌も明らかになってないのに、岩井奉信とマスコミ論者が火消しに動き、国民の関心を潰しにかかっている。国内のテレビ報道では最もリベラル寄りで、率直な政権批判で国民を代弁するTBSのサンデーモーニングが、岩井奉信にこの問題を解説させ、立件は困難だと言わせていた。マスコミの腰が引けていて、朝日の今回の編集にもその姿勢が色濃い。

甘利明を弁護するマスコミ - 「法的責任は問えない」とする者に反論する_c0315619_17301394.jpg本当に立件は困難なのか。郷原信郎だけは一人気を吐いて正論を述べていて、「絵に描いたようなあっせん利得」と断じ、「検察が捜査着手を躊躇する理由はない」と言っている。私は、前回、郷原信郎の議論を全部読まずに記事を書いたが、確認すると、事件があっせん利得・収賄罪の構成要件を充当させていることを説明する方法が、ほとんど同じ視角と論理だったので安心した。一番簡単で分かりやすい法律論は、あっせん利得処罰法の第1条を示して、条文に事件の当事者を当て嵌めて図式化することである。そして、処罰法の目的と趣旨を指摘することだ。それだけで、きわめて説得的な法律論となり、どのような反論も抗弁もできなくなる。岩井奉信のコメントは、常に「ハードルが高い」という結論だけで、どうして「ハードルが高い」のか具体的な理由がなく、法律論の論証がされていない。岩井奉信は法曹のプロではないため、法律論の説明を求めるのは無理なのかもしれないが、であれば、どうして法律家をテレビに出演させようとしないのだろう。法的責任は問えるとする郷原信郎を出し、問えないとする宗像紀夫を出し、対立する二つの見解を公平に紹介し、注目する視聴者の参考に供するのが放送法に則ったテレビ局の報道姿勢というものだろう。どうして、一方だけの意見しか出ないのか。異常だ。

甘利明を弁護するマスコミ - 「法的責任は問えない」とする者に反論する_c0315619_17302356.jpg少し昔であれば、日曜午前にテレ朝の政治討論番組があり、そこで、有責立件と推断する郷原信郎と山尾志桜里と、責任不問とする宗像紀夫と丸山和也と、二組四人がテーブルを挟んで向き合い、田原総一朗の仕切りの前で唾を飛ばし合って侃々諤々の論争を演じたはずだ。司会の狡猾な介入で常に議論は屈折させられ、反動の世論工作に誘導されてはいたけれど、それでも形式上は放送法のコードが遵守され、相反する二つの政治的立場が正しく設定されていた。そうした過去のテレビの政治報道を振り返ると、現状がいかに異常で、政府批判の言論が消えた、国民に自由にものを考えさせないシステム下にあるかが分かる。さて、今回の事件の法律論については、郷原信郎が理路整然とした解説を提供しているので、それで十分なのだが、立件のハードルが高いという主張への反論として、どうしても問題提起をしたい論点がある。それは、2007年、防衛庁疑獄事件(内田洋行事件)のとき、東京地検が守屋武昌夫妻を逮捕した際に示した法律論の事実だ。思い出して欲しい。あのとき、特捜部は二つの新しい解釈と論理を捜査に適用した。一つは、接待ゴルフは賄賂であるという認定である。もう一つは、「身分なき共犯」の法理でのおねだり妻の立件である。画期的だった。従来、この二つは司法の前例になく、贈収賄が見逃されていたのだ。

甘利明を弁護するマスコミ - 「法的責任は問えない」とする者に反論する_c0315619_1730346.jpg読者はどうか8年前の記憶を喚起されたい。このときの検察の捜査は、国民の期待に応え、民主主義政治と法の正義を担保する善いものだった。業者による官僚の接待ゴルフは、こうして犯罪となり、取締の対象となり、公務員の倫理規定で禁止される行為となった。それまで、金品の授受でなければ、接待ゴルフであれば、司直に贈収賄と認定されずセーフにされていた慣行が、内田洋行事件の捜査で初めて覆され、贈収賄の要件を構成する事実となったのである。そして、法的責任を問われないはずのおねだり妻が、「身分なき共犯」で立件対象として措定され御用となった。つまり、検察による法律解釈が変わったのだ。今、マスコミで言われているのは、あっせん利得処罰法で摘発された政治家は一人もいないということであり、斡旋行為は政治家の日常仕事だということだ。マスコミが、甘利明を免責する世論を醸成するべく、処罰法をザル法として当然視させる認識を刷り込み、口利きは刑事事件にできないから諦めろというプロパガンダを散布している。あっせん利得処罰法などあってもないのと同じで、空文の紙切れだという空気に染めている。これだけ典型的な事件が発生し、証拠が判明しているのに、検察があっせん利得処罰法を適用しないということは、法の存在を当局が否定すると共に、法の運用主体である自己を否定する行為だ。検察の自己否定に他ならない。

甘利明を弁護するマスコミ - 「法的責任は問えない」とする者に反論する_c0315619_17305077.jpgもう一つ、加えて論点として提出したい異議が私の中にはある。この事件をめぐるところの、甘利明を擁護する弁護士の態度に我慢ができない。あっせん利得処罰法の条文が明確にあり、立法時に設計され合意された逐条解説がありながら、法的責任は問えないとか、ハードルは高いとか言っている法曹家たちの詭弁と非常識に憤りを覚える。ずいぶん過去の話だが、法学部に入学したとき、教授からオリエンテーションを受けたのは、法律(実定法)というのは、誰が運用・解釈しても同じ判断になるように、曖昧さを排除した精密な体系だという一般論だった。自動販売機にコインを入れれば缶ジュースがゴトンと落ちるように、一つの結果が機械的自動的に出力されるのが法律なのだと教えられた。一つの法律があり、一つの事件があったとき、そこに誰が司法主体として関与し処理しても、どれほど変わり者が適用・裁量・審理をしても、差異なく同じ決定に導かれるように、解釈が割れたり揺れたりしないように、厳密に成文されているのが法律で、どこまでも一意性が前提された、万民に公平で条理に即するのが法律だということだった。今回の事件に限らないが、最近、法の一意性という前提や原則が蔑ろにされているようで、不具合に感じられてならない。脱構築主義のイデオロギーが支配する世の中になり、「行列のできる」何とかのように、法律解釈は多様であればあるほどいいという世界に転倒した。

甘利明を弁護するマスコミ - 「法的責任は問えない」とする者に反論する_c0315619_1731121.jpg逆立ちしてしまっている。あっせん利得処罰法と甘利明の口利き事件については、郷原信郎のようにしか判断しようがなく、事実(物的証拠)から要件を構成して容疑(法的責任)を断定せざるを得ない。他にどんな結論があるのか。常識的にもそうだし、法曹家であれば尚更そうだ。法曹家が詭弁屋になっている。弁護士の任務が、法の一意性に即して国民の権利を守るものではなく、逆に、法を恣意的なものに歪め、支配者や金持ちの特権を守る道具になっている。安倍晋三が憲法の一意的な原則を詭弁で逸脱させて安保法を制定したように、法律家たちが勝手気儘に法律を捻じ曲げ、クロをシロと言い、不当きわまる言説をマスコミで敷き固めている。彼ら詭弁屋は、まさしく現代のソフィストだ。あっせん利得処罰法で立件された政治家がいないのなら、今回、甘利明を最初の事例にすればよいのである。守屋武昌をゴルフ接待の収賄罪での逮捕第1号にしたように、東京地検が甘利明をあっせん収賄罪で起訴すればよいのだ。郷原信郎と掘田力と落合洋司は、他のヤメ検弁護士と連携して記者会見を開き、カメラの前で正論を訴えて欲しい。テレビ局に対して放送法に従って中立公平に報道せよと注文し、法的責任なしとする者との公開討論を中継することを提案して欲しい。世論は、決して甘利明の辞任で満足していない。人々が求めているのは真実であり、事件の全貌の解明である。

以上、防衛庁疑獄事件のときの検察の捜査で、新しい法律解釈の適用と逮捕第1号があった経験を思い出せということと、法の一意性の原理の崩壊と不在という問題について述べた。週刊誌は秘書を直撃取材することだ。野党は予算委で爆弾を落とすことだ。


甘利明を弁護するマスコミ - 「法的責任は問えない」とする者に反論する_c0315619_17311377.jpg

by yoniumuhibi | 2016-02-01 23:30 | Comments(1)
Commented by 私は黙らない at 2016-02-02 03:59 x
安倍政権になってからのマスコミ操作が一番の問題ではないかと思います。文春の記事が出てすぐ、「立件は困難」とニュースで読みましたが、露骨な甘利擁護というよりも、政権維持のためのなりふり構わぬマスコミコントロールがみえみえです。これにあっさり騙されている国民がどれだけいるのでしょうか。安保法案の時もそうでしたが、政権が法を守らない、マスコミが政権維持のツールになっていることに、暗澹とします。


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