中国は「五カ国協議」を開催せよ - 二つのシナリオと北朝鮮非核化の提案

c0315619_16404255.jpg昨年は、シャルリーエブドのテロ事件で暗い年明けとなったが、今年は、北朝鮮の「水爆実験」で正月気分が吹っ飛ばされた新年となった。2013年末の張成沢粛清のあと、国際政治の中で影を顰めて話題になることが少なかった北朝鮮が、2年ぶりに急に大きく存在感を示す憂鬱な局面が到来した。ずっと引っ込んだままでいて欲しかったのに、歓迎すべからざる登場人物の出現だ。今回の北朝鮮の「水爆実験」が、今年の東アジアをどう動かしていくか、悪いシナリオと良いシナリオと二つの方向性を検討し、最後に日本の政治に与える影響を考えてみよう。まず悪いシナリオから。今日の朝日の1面と3面の記事でも、この問題で最も注目が集まっているのが中国の出方だということが分かる。北朝鮮の最大の後ろ盾である中国は、核実験について事前に何も知らされておらず、大きく面子を潰される衝撃の事態となった。中国外交部が6日午後に発表した声明では、過去には必ず付記してきた「関係方面に冷静な対応を呼びかける」の一文がなく、中国政府の深刻な動揺と激怒の様子が伝わってくる。国連安保理での新しい非難決議にも留保なく応じると見られている。今後の焦点は、36年ぶりに開かれる5月の労働党大会に中国が代表派遣を取り止めるかどうかだ。テレビ報道の解説では、北朝鮮情勢の専門家たちは口を揃えてキャンセルを予想していた。



c0315619_16405920.jpg今回の「水爆実験」は、私の見方では、北朝鮮による中国に対する瀬戸際外交だ。見かけ上、この政治は米国へのプロポーズである。休戦協定を平和条約に変え、体制保証を要求する北朝鮮が、米国に2国間協議に応じてくれと必死にアピールした政治と意味づけられている。一般的な説明はそれでいいだろう。だが、北朝鮮の狙いは二重であり、今回の外交が米国向けであるとともに中国に向けての意味も持っていて、中国に対して強烈な駆け引きを仕掛けていることが看取できる。中国は、5月の労働党大会に代表を送るか、送らないか、二者択一の決断を迫られることになった。これは、北朝鮮との関係改善を図っていた中国にとって、きわめて厳しい選択を突きつけられ、容易ならざる立場に追い詰められたことを意味する。まず、昨年3月のAIIBの経緯を思い出そう。このとき中国は順風満帆で、英国や韓国をはじめ西側諸国を次々とAIIBに加盟させ、返す刀で北朝鮮を斬り捨て、経済データが怪しい北朝鮮は加盟させないと一蹴した。北朝鮮が2月に北京に特使を送り、AIIBへの参加を懇請していたにもかかわらずである。この事実は大きなニュースとなり、中国の株を上げ、金正恩に恥をかかせる顛末となった。ところが、その後に何が起きたかというと、上海株の暴落であり、人民元の切り下げであり、中国経済の低迷である。果てしなく続いた中国の高度成長が終焉した。

c0315619_16413068.jpgさらに、南シナ海での緊張が始まり、TPP協議が妥結し、東南アジア情勢に変化が起き、この地域での中国と米国の影響力のバランスが変わった。ASEANを米中どちらがテリトリー化に成功するかという見通しが、昨年後半に大きく変わり、中国が後退して米国のプレステージとモメンタムが増大する状況が出現した。日本の安保法制の成立もある。ミャンマーでのスーチーの勝利と民主化もある。台湾で民進党への政権交代が確実になった情勢もある。2015年のアジアは、米国にフォローの風が吹き、中国にアゲンストの風が吹き、米国の高気圧が張り出して「米高中低」の気圧配置となった1年だった。習近平指導部が、平壌で10月に行われた朝鮮労働党結党70周年の軍事パレードに、序列No.5の劉雲山を送り、中朝の関係改善を図ったのは、中国経済のリセッションと南シナ海情勢での劣勢を受けての、国際社会での威信低下を挽回するべく動いた結果と察してよいだろう。周辺との関係を再構築し、国際外交での地位を万全にしようと図ったものだ。金正恩はそこを見逃さなかったのであり、言わば中国の足下を見たのだ。北朝鮮の目標は、世界から核保有国として正式に認められることである。インドやパキスタンのように核保有国として公認され、経済制裁を受けない実力国になることだ。北朝鮮は、まずその公認を中国から取ろうとしている。それが今回の「水爆実験」の真の狙いだ。

c0315619_16414218.jpgもしも、このまま5月の労働党大会に中国が代表を派遣すれば、中国は北朝鮮の核開発を黙認したことになる。六カ国協議を再開させて北朝鮮の核放棄を実現させるという従来の方針を転換させたことになる。金正恩の狙いはそこだ。だから、これから5月まで中国と水面下で熾烈な駆け引きをするのである。5月までは時間がある。政治交渉するには十分の時間だ。労働党大会に中国が欠席を決めた場合、北朝鮮の孤立は決定的になるが、それは中国にとっては北朝鮮暴発(=大量難民発生)のリスクであり、それだけでなく、宗主国でありながら北朝鮮をよくコントロールできなかった失敗、能力不足という評価を国際社会に与える結果になってしまう。中国の威信低下をさらに強める。南シナ海の問題が典型的だが、胡錦濤とくらべて習近平は外交がどうにも稚拙で粗雑な印象が拭えない。外交のセンスが悪く、前時代的で、ソフトパワーという国際政治の概念と意義を全く理解していない。経済力と軍事力さえあれば何でも押し通せるとか、力のない小国は力のある大国に従わざるを得ないといった、アナクロ的な、20世紀の社会主義国の指導者のバッドセンスを彷彿させるところがある。三跪九叩頭の礼の前でふんぞり返る清の皇帝のようだ。今、北朝鮮の暴挙を眼前にして、習近平は怒り心頭に違いないが、だからと言って、簡単に北朝鮮との貿易や援助を停止するなど不可能なのは当然のことだ。

c0315619_16415674.jpg中国にとって北朝鮮は重要なカードであり、北朝鮮を管理監督できるのは中国だけだという関係構図を常に武器にして、米国や韓国との外交に臨む必要がある。厄介者の北朝鮮を動かせるのは中国だけだから、北朝鮮を何とかしたいのなら中国と親密に相談せよという立場的前提こそ、東アジアにおける中国の外交優位性を条件づける枢要な要素に他ならない。中国がそのカードを捨てる決断をするのは容易ではない。ASEAN諸国が反中親米の姿勢に移り、日本が安保法制を成立させ、中国封じ込めの態勢がアジアで整いつつある中、北朝鮮の保護者という国際的地位を失うことは、中国にとってはあり得ない方向と結論だろう。すなわち、最悪のシナリオは、中国が北朝鮮に折れて、核開発を進める現状のまま、代表を労働党大会に送る図である。このとき、中国は六カ国協議を追求する政策を断念しないといけない。半島非核化を諦めないといけない。米国がイランに与えたような宥和的妥協を、中国が北朝鮮に与えないといけない。つまり、北朝鮮は、中国に対して、米国がイランに対して折れたように自分にも折れよと強請しているのだ。米国による中国封じ込めが着々と奏功している現状を睨みながら、苦境に立つ中国の内情を見透かして、オレの言い分を受け入れろと無理を通す思惑なのである。中国が北朝鮮の核開発を黙認する決定に踏み出せば、六カ国協議の再開は潰え、北朝鮮の野望が実現へと向かうことになる。

c0315619_16422685.jpg良いシナリオは、これとは逆の展開で、中国がこの危機的フェーズを逆手にとり、外交のウルトラCを演じて理想的な地平を開く図である。これは、今回の事態をどういう策で打開すればよいかという私の提案でもあるけれど、中国が、六カ国協議から五カ国協議に路線を変えて、心機一転、開催を呼びかけることだ。五カ国とは、中国、米国、韓国、日本、ロシアである。議長国は中国。北朝鮮抜きで、北朝鮮を招かれざる主客にして外に置いたまま、北朝鮮の非核化をどう実現するか五カ国で協議し合意する。抽象的な非核化の要請や合意ではなく、具体的なビジョンとロードマップを描き、非核化を決断するならここまで支援するという条件を提示する。支援内容の五カ国の分担も明示する。金額と時期、インフラ整備の中身、工場建設と技術供与の明細、進出企業と投資規模の一覧、医療と教育の無償支援、等々、そこまでアジェンダとリストを並べ、プロジェクトを示して北朝鮮に突きつける。これは、嘗て米国が腹案として北朝鮮に示していた「包括的支援」を五カ国版に拡大したものであり、また、日朝平壌宣言が日朝平和友好条約に至った暁に - したがって右翼化する前の、財政にも余裕があった当時の - 日本が北朝鮮に考えていた「改革開放」の支援計画を五カ国版化した事業でもある。それを、中国が主導し、中国が五カ国協議でプランを纏め、北朝鮮に条件提示し、五カ国と北朝鮮との間で非核化交渉するのである。

c0315619_1647347.jpg成否がどうなるかは分からないが、この策を打てば、北朝鮮は核保有国として公認される展望を間違いなく閉ざされる。北朝鮮の野望は頓挫する。大事なことは、五カ国(中韓米日ロ)がチームとして緊密にスクラムを組むことだ。中国と米国が別個に動いて、北朝鮮に狡知に振り回されるのではなく、対北朝鮮では中国と米国が心を一つにし、情報を共有し、目標と手段を一致させて外交に臨むことである。それは可能だ。国連安保理の非難決議や制裁強化だけでは、北朝鮮の非核化は絶対に実現できない。それは、空爆だけではイスラム国を壊滅できないのと同じである。北朝鮮を攻略するにおいては、発想を原点に戻す必要がある。困ったときは原点に還れ。原点とは、イソップ物語を比喩に用いた金大中の「太陽政策」である。六カ国協議を止揚して新しく編成替えする五カ国協議の政策思想は、Back to the Sunshine Policyであり、国連安保理決議の「北風」オンリーの限界を打ち破り、「太陽」の熱で凍土の国のコートを脱がせ、核保有国化の野望を打ち砕くものにする必要がある。この提案については、韓国は両手を挙げて賛成だろうし、ロシアも賛同するだろう。米国が同意するかどうかがカギだが、韓国が熱烈に支持すれば拒否はあるまい。大事なことは、中国が米国に渾身の説得を試みることで、北朝鮮問題については一つになろうと、率直にアグレッシブに呼びかけることだ。残り任期1年のオバマなら、心を動かすことも可能だと信じることだ。

c0315619_16471666.jpgこの提案の意味と射程は、単に北朝鮮の非核化だけに止まるものではない。北朝鮮問題を切り口にして、中国が米国に平和外交の攻勢を果敢に仕掛け、相互の理解と合意を重ね、南シナ海の問題についても胸襟を開いて話し合う関係を築くというところまでが視野に入っている。この2年間、米中関係は悪化の一途を辿り、米国のアジア太平洋戦略は、軍産複合体(=ネオコン=ジャパンハンドラーズ)が完全に掌握して、南シナ海で軍事衝突を起こす一歩手前の段階まで至ってしまった。どこかで、何かを取っかかりにして、この最悪の状態を変えないといけない。米中を3年前の原状に戻さないといけない。災い転じて福となすという諺(ことわざ)がある。突然降ってわいたように到来した北朝鮮の「水爆実験」への対処を足がかりに、これを奇貨として、中国が乾坤一擲の新機軸(五カ国協議)を打ち出し、中国のリードでホワイトハウスを対話に巻き込み、東アジアの問題は米中がフランクリーに話し合って解決を見つけるという平和と信頼の図式が得られればよい。そうなることを切望する。以上、悪いシナリオと良いシナリオの二つを述べた。今、中国外交部は苦悩しているだろう。ジレンマだろう。今のままだとお手上げで、国連安保理の「北風」路線に渋々と追随し、米日に無能を嘲られ、表向きは厳しい制裁を言いつつ、裏で暴発しないようにびくびくと目配りして手当するしかない。北朝鮮問題でも米国に主導権を握られ、アジアは北から南まで米国主導の中国封じ込め体制が固まる。

最後に、日本の政治への影響だが、ひとつ確実に言えるのは、安保法制への支持世論が増えるということだろう。それは、国民の反対多数を押し切って安保法を制定した安倍晋三への支持が増えるということでもある。そしてそのことは、安保法反対の一点で野党共闘を実現し、安保法廃案を争点にして参院選を勝利しようとする左翼リベラル勢力に不利な風が吹くことを意味する。さらに、もっと危惧されることは、この事件を契機に国内で核武装論が台頭することだ。実際のところ、昨日(1/6)のうちからネットでは右翼が盛んに扇動を始めていた。今は議論はネットだけで止まっているが、いずれマスコミでも観測気球を上げて世論を動かそうとする者が出てくるだろう。国内の今後については、残念ながら、悪いシナリオしか思いつかない。


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by yoniumuhibi | 2016-01-07 23:30 | Comments(2)
Commented at 2016-01-07 20:59 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by 私は黙らない at 2016-01-08 05:54 x
今、どうして水爆実験なのか、北朝鮮の意図について、コメンテーターが色々言ってますが、どれもいまひとつ納得できなかった。「米高中低」の気圧配置を見逃さず、核保有国として公認しろということか。なるほど。
中国相手に、なかなか強かだ。
私も中国のウルトラC外交を切にのぞむ。もう、核も、テロも、空爆も、軍拡も嫌だ。これ以上、地球をめちゃめちゃにしないでくれ!


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