衆参同日選と憲法改正の可能性 - 改憲が成功する二つの政治想定

c0315619_15451253.jpg今年の政治の焦点として、衆参ダブル選挙と憲法改正が話題になっている。昨夜(1/4)のプライムニュースとNHK-NW9でも、この問題に注目が当たっていた。解説していたのは後藤健次とNHK政治部の山下毅で、この2人の発言は、すなわち安倍晋三の代弁でもあり、安倍晋三からのアナウンスが撒かれている。後藤健次は、公明が同意しない衆院選はあり得ないと言い、ダブル選の可能性を否定する結論だった。山下毅は、可能性は低いけれど、この機を逃すと2018年の任期満了まで解散の時機がなくなると言い、可能性がないわけではないと判断を留保した。どちらの説明も、現時点の政局談議としては頷ける見方だろう。同日選の可能性を考えるとき、マスコミやネットの議論で欠落していると思われる視点は、現在の衆院の議席構成の所与である。全475議席中、自民292、公明35、与党が327で3分の2以上を占めている。衆院の優越の中、政権は基本的にどんな法案でも通せる状況にある。この議席があるから、安倍晋三は党内を押さえられ、どんな暴慢で凶悪な政策でも有無を言わせず強行できる。この国会の環境条件は政権にとって得がたいもので、容易に失うことのできないものだ。解散総選挙は博打である。必ず勝てるとは限らない。どんな変動要因が発生するか分からず、意外な誤算で足をすくわれるか分からない。 



c0315619_15454590.jpgダブル選を挙行すれば、政権側に有利に風が吹くことは政界の一つの常識だけれど、かと言って、2014年末に圧勝で得た自民292議席を維持できる、あるいは上回ることができるという確証はない。自民292議席の現状をリセットするリスクを取るのは、策として定石とは言いがたい。万が一負けた場合は、参院で過半数割れし、衆院でも過半数割れして一瞬で政権を失ってしまう。憲法改正の悲願どころではなくなる。現時点で冷静に考えたとき、絶対安定多数を占める衆院を賭けに出す選択はあり得ない、というのが、普通の政治の観測というものではないか。まずは前提として、この観点を一つ入れないといけない。その上で、衆参ダブルの可能性が皆無かというと、そうとは言えないと私は思う。博打に出る事態もあり得る。それはどういう場合かというと、ズバリ、憲法改正を争点にしたときだ。憲法改正を標的にして、具体的な改憲内容をフィックスし、その改憲内容で合意した諸党派で一つの勢力となり、衆参同時に戦いに討って出る局面である。護憲vs改憲の選挙にして、正面から国民にYes/Noの判断を問う場合だ。そのときは、民主の中に手を突っ込み、岡田克也も合意に引き入れるか、右派を分裂させて取り込むか、いずれにせよ、自民+お維で断行するのではなく、護憲勢力を限りなく少数化させた上で踏み切るだろう。

c0315619_15455487.jpg今、マスコミで流されているのは、「緊急事態条項」を追加する憲法改正案で、そこから着手する方針だと新聞が奉じている。この改憲案が安倍晋三の本音なのかどうか、私は懐疑的に見ている。アドバルーンというか、ルアー(擬餌針)というか、囮(おとり)的な意味の陽動作戦のように察せられる。この改憲案で成功すると思っているのなら、2年前に「改憲要件変更」の政治戦で負けた教訓を安倍晋三は忘れていることになる。基本的に、改憲のハードルを下げる戦略も、「緊急事態条項」の戦略も、本質において「お試し改憲」であり、本丸である9条改正が困難だから、迂回して容易なところから改憲を馴れさせ、改憲の既成事実を作ろうとする姑息な手法だ。付け焼き刃の「お試し改憲」の謀略は、3年前に小林節らによって悪だくみを暴露され、木っ端微塵に粉砕された。手を変え品を変えて「お試し改憲」で騙そうとしても、同じように挫折することは自明の理だろう。この「緊急事態条項」での改憲工作が成功する場合というのは、考えられる想定は唯一で、パリのような大規模テロが東京で起こった場合だけである。まさかそこまで安倍晋三が準備した上で、この「緊急事態条項」の改憲工作をセットしたと言うのは、あまりに陰謀論的なバイアスの深読みというものだろう。連立を組む与党の公明は、一貫して憲法改正に慎重な姿勢をとり続けている。

c0315619_1546582.jpg「緊急事態条項」の改憲案は、公明の合意を取りつけられないし、参院選の争点にすることもできない。おそらく - テロが本当に起きれば別だが - 観測気球あるいは当て馬の役目を終えて、どこかで立ち消えになるに違いない。安倍晋三の狙いは本命の9条改正であり、岸信介の無念の遺命を果たすことである。だから、衆参ダブル選を憲法改正で討って出るときは、「お試し」ではなく、必ず9条改正を正面から掲げるだろうし、そのときは、どうしても妥協できない公明(学会)を排除して、9条改憲で合意した新しい連立(お維+民主)の組み直しを発表した上で、満を持して同日選を仕掛けてくるだろう。この憲法改正を争点にした同日選が、成功すると思われるケースが二つ考えられる。第一は、同日選の前に戦争を始める場合だ。南シナ海で自衛隊が中国軍と軍事衝突を起こした場合である。5月、最初に中国軍とフィリピン軍(もしくはベトナム軍)が衝突し、米軍がフィリピン軍支援の名目で艦隊を派遣。6月、米国が日本政府に正式に自衛隊派遣を要請、安倍晋三が安保法制に基づく「重要影響事態」を発動、艦隊出撃を決断して命令する。日中で軍事衝突が起き、初めて自衛隊に犠牲者が出る。日の丸の棺桶で帰国、国葬の儀式が催行される。そのとき、おもむろに安倍晋三が9条改正を次の選挙の公約にすると宣言、諸野党と合意して署名、衆院を解散してダブル選の日程にする。合意形成した諸野党と挙国一致内閣を作る動きに出、9条の改正文案を発表、選挙後に発議に出る。

c0315619_15461742.jpg第二の場合は、安倍晋三が「新9条」を取り込み、「新9条」を自公の改憲案に据えてダブル選に臨んだ場合だ。もともと、「新9条」の中身は自民党が結党の時点から追求してきた保守の改憲案の本命に他ならない。自民党が戦後一貫してめざしてきた改憲の目標は、9条を変えて自衛隊を正式な軍隊と位置づけ、国家の自衛権を条文で明記するというものだった。平和憲法の絶対平和主義・非武装中立主義の原理原則を放棄し、軍隊の保有と交戦権を認め、そして集団的自衛権を認めた憲法に変え、それを国民投票の手続きによって正式に制定するというのが、保守合同で誕生した自民党の改憲路線だ。この基本方針は、60年安保後に経済成長路線にシフトした池田政権によって実質的に封印され、70年代を通じて党のヘゲモニーを握ったハト派宏池会の営為で長くお蔵入りとなるが、80年代半ば、新保守の旗手として登場した小沢一郎によって「普通の国」路線として新たに定式化されて復活した。以上は、くだくだしく詳説する必要もない政治の一般論だけれど、想田和弘など若い人間の話を聞いていると、「普通の国」の議論と論争について何も知らない蒙昧がまかり通っているようで、やむなく煩を厭わず解説しないといけない。「新9条」の中身は「普通の国」である。当時は最も右寄りの位置にあった小沢一郎が、リベラルだった自民党主流派の殻を破って本卦還りに動いたときの看板が「普通の国」だった。

c0315619_16345021.jpg今、「新9条」を公然と唱えている売れっ子左翼リベラルは無数にいる。想田和弘、中島岳志、伊勢崎賢治、鈴木耕などマガジン9条の論者たち。今回の「新9条」プロジェクトのフィクサーである東京新聞の佐藤圭。SEALDsの牛田悦正、SEALDs学者の高橋源一郎など、錚々たる顔ぶれが並ぶ。現在の左翼リベラル業界のメインストリームが、悉く「新9条」賛同で名乗りを上げている。週刊金曜日の北村肇もそうだろう。「左折の改憲」の池澤夏樹もそうだ。同じ主張だ。池澤夏樹を使ってこの主張を宣伝させた朝日新聞も、この立場に違いない。小沢一郎の「普通の国」は、四半世紀の時を経て右翼の思想から左翼の思想に変転してしまった。時の移ろいとは恐ろしいものだ。今回、左から装いを凝らした「普通の国」の工作である「新9条」論は、佐藤圭が東京新聞の紙面を使ってキャンペーンの口火を切った後、すぐに斉藤美奈子がコラムで反論を上げ、朝日で杉田敦が反論を上げ、やや鎮静化した雰囲気があったが、年が明け、タイミングを狙いすまして中島岳志が報ステで仕掛けてきた。いずれにせよ、安倍晋三が「新9条」を担いで改憲に討って出た場合、それを止められる可能性はきわめて低い。小沢一郎(生活)は必ず乗る。「それは僕が前から言っていたこと」と賛同する。民主党もこの改憲案には異論がない。「新9条」は、民主党の改憲策よりも左寄りの中身だからだ。共産党ですら、「新9条」に反対かどうか態度が怪しい。

その行く手を阻む勢力というか、護憲の最後の砦としてわれわれが頼れるのは、両陛下の存在しかないのが実状だ。


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by yoniumuhibi | 2016-01-05 23:30 | Comments(3)
Commented at 2016-01-05 21:10 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by NY金魚 at 2016-01-06 05:33 x
◆ ベアテ・シロタさんが12年末に逝かれてから、ちょうど3年が経ちました。そのたった3年のあいだに、日本国憲法を変えようとする体制からの動きに同調する国民が増え、それを意味的に食い止めようとする昨年の左からの改憲は、さらなる護憲勢力の分断をまねいています。さらに改憲勢力が増え、ベアテさんの遺言は風前の灯火です。逝かれたすぐあとの新春に書いた金魚ブログ「天の明星を飲む ベアテの遺した美しい空気のようなもの」を再度TBします。http://nyckingyo2.exblog.jp/17571757/
◆ 14年9月、NYでのベアテさんの映画の上映会で、かの女の遺志を継いでいこうと、堅く手を握りあった想田和弘さんは、そのわずか1年後にマガジン9条で「憲法9条の死と再生」
http://www.magazine9.jp/article/soda/22727/ を書かれて、9条の亡骸と心中はできない、と宣われました。「改憲」ではなく「創憲」なのだそうです。僕には護憲の意志を分断する「誤憲」としか思えない。
◆ 天国のベアテさんの大粒の涙が観えます。決してノスタルジーなどではない。さきの大戦での三百万の同胞、いや世界の何千万という犠牲者の魂の叫びからできあがった9条が、この精神の汚濁し切った時代に、より良く創り変えられるとでも思っているのでしょうか?
http://nyckingyo2.exblog.jp/22443788/ 
◆ この憲法の意味は、ひとつの国の政治情勢にあわせて、平和憲法を創り直すということではないのです。世界人類の平和のための「象徴」です。それを(我々を含めた)精神汚濁乱時代にいじるのは、ベアテさんだけでなく、大戦の犠牲者何千万、いや人類が行なって来たほとんど無数といっていい「戦争」という愚かな行為の、無数の犠牲者の魂への冒涜です。自信過剰の現代日本人の傲慢です。
ベアテさんが9条を創ったわけではないけれど、かの女の存在は、9条の存在と同義の「象徴」となりました。日本国憲法のなかで謳われているもうひとつの「象徴」としての天皇皇后両陛下が、この「護憲」運動そのもののシンボルであるつづけられていることに、深く敬意を評しています。
Commented by 山桜 at 2016-01-18 11:47 x
私は北朝鮮による拉致被害者救出の活動をしています。
こういうと、ウヨク、安倍支持者と思われるかもしれませんが
違います。
安倍政権の政策はどれも国民無視、
ファシズムに近づいていると思っています。

拉致問題という観点から衆参W選挙を考えると
小泉元総理のごとき、訪朝・被害者帰還もありうるのではないかと
考えています。
拉致被害者というのは、横田めぐみさん他12名だけではありません。
「北朝鮮による拉致の可能性を排除できない事案に関る方々」という名称の
いわゆる「特定失踪者」と呼ばれる800人を超す人達が存在します。
そのうちの生存者を帰還させることができれば、
それなりに「拉致問題での成果」をあげたことになります。
安倍支持者を含む国民が狂気乱舞する中、W選を実行する。
もちろん、拉致問題は幕引き、国交正常化を図ることはいうまでもありません。
国交正常化後、北のインフラ整備等2兆円を超す金が動くといわれています。
その1%~2%がゼネコンから政治家へ行くとも。
拉致問題は支持率浮揚には利用価値の高い案件です。
「拉致の安倍」という看板を使うにはもってこいの場面だと思います。


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