沖縄の「政府」と「党」 - 沖縄タイムスの社説から、リーダーと議論の必要

c0315619_1537428.jpg今日(10/30)の沖縄タイムスの社説にこう書いてあった。「埋め立ての既成事実を積み上げること、それによって後戻りできない状況をつくり出し裁判を有利にすること、県民にあきらめの感情を植え付け地域を分断すること-これが政府の狙いであることはあきらかだろう」「県が孤軍奮闘するだけでは政府の強硬姿勢を改めさせることはできない。全国の弁護士から知恵を借り、影響力のあるさまざまな人々からアイデアを提供してもらい、現地での取り組みと国内外に向けた発信力を強めていくことが急務だ」。一文一文、考えながら、思いを重く廻らしながら書いていることが分かる。この社説には共感を持てた。辺野古埋め立ての本体工事着手のニュースについて幾つかの反応を見て回ったが、私と最も近いと感じたのは、この沖縄タイムスの社説だ。県の孤軍奮闘だけではだめだと言っている。全国の影響力のある人々からアイディアを集めるべしと言っている。同感だ。ここで言われている「県」とは、県知事の翁長雄志のことだろう。辺野古の政治を見ていて感じるのは、埋め立てに反対して政府に対抗する取り組みの主体性と起点が、あまりに翁長雄志一人に集中していて、運動全体がそこにディペンドしている点だ。他のところに発信力と説得力の主体性がない。



c0315619_15375627.jpg言い換えれば、「政府」はあるけれど「党」がないということだろうか。翁長雄志は「政府」である。どこまでも県知事であって、だから行政法に則った闘争しかできないし、県知事の役職と権限の範囲でしか抵抗はできない。法に拘束されている。そして、その点では可能な限りの手を尽くしているように見える。「党」は「政府」とは違うのだ。そのとき、辺野古の埋め立て阻止を実現する沖縄の「党」はどこにあるのだろうか。このことは、今年の1月からずっと言っていることである。よく見えない。「党」のヘッドクォーターがあり、「政府」の長である翁長雄志と調整して行政上の作戦方針を決め、足下の県民闘争の戦略を効果的に立て、辺野古ゲート前での抗議行動についても差配し、沖縄2紙に機関紙的役割を担ってもらい、さらには県外国外と繋がって反対運動を強める手を打つ、というのが本来あるべき形だろう。「県民会議」でも何でもいいのだが、そうした組織体の姿が見えない。「党」のリーダーがいない。「政府」のリーダーしかいない。以前、そんなことを言っていたら、辺野古反対闘争は「緩やかなネットワークでやるのだ」などと、最近の左翼リベラルのお得意の脱構築的な定番トークが返ってきた。遊びじゃないんだぞと言い返したかったが、おまえに沖縄のことが分かるのかと反発されそうなので口を噤んだ。

c0315619_1538797.jpg沖縄には山城博治というカリスマがいる。今の日本の政治世界で最も有能なアジテーターだが、どうやら彼はシンボル(精神的支柱)であってリーダーではないようだ。沖縄に「党」がないのは、「党」など要らないという脱構築的な思想の影響のせいだけでなく、リーダーがいないためだろうと、私はそう見ている。どう考えても、埋め立て工事着手の日に辺野古現地に抵抗する市民が100人という数は少ない。もっと多くないといけない。もし、ここにキング牧師のようなリーダーがいて、言葉を発することができれば、言霊の震えが本土の者の心を共振させ、覚醒に導き、LCCチケットの購入を促して、ゲート前に1000人、2000人の群衆を作ることができるのだろう。誰もがそのリーダーの言葉に神経を集中させ、いま何をすべきか知り、各自がパートを受け持って実践に移し、運動が一つの大きな力になるのだろう。やや残念なことに、辺野古の政治について、誰から情報を得ればいいのかよく分からない。マスコミは、表面的な政府と県との行政闘争については、あれこれ細かく手続きを説明している。だが、本当に知りたいのは、そういう問題ではなくて、この政治闘争全体の俯瞰図であり、埋め立てを阻止して勝利の結果に終わらせる可能性と行程だ。確信できるウィニング・ストラテジーである。今、その言論がない。「反対の声を上げよう」しか行動提起がない。

c0315619_15381866.jpg沖縄タイムスの社説には「埋め立ての既成事実を積み上げること」への言及があった。私はこの点の指摘が重要だと思う。辺野古の新基地建設工事には、今年度1900億円の予算が計上されているという現実がある。1900億円の工事費を消化するということは、当然、無数のブロックと砕石袋を海中に放り込んで例の仮設岸壁を建設するということを意味する。辺野古関係のTwなどを見ていると、裁判では必ず勝つとか、沖縄に有利だとか、そんなことが書いてある。私には意味不明だ。コンクリートと土砂を流し込まれた後、裁判に勝ってどうするんだろう。翁長雄志が「あらゆる手段を使って阻止する」と言うとき、その「あらゆる手段」は、法的行政的に限られたものだ。つまり、物理的に止める手段を考えないと二度と原状を回復できなくなる。既成事実作りに惑わされるなと言うのはたやすい。だが、政府側の怒濤の既成事実攻勢に抗して、本土の反対世論を盛り上げるためには、それなりの勝利の展望と戦略の担保が必要で、そのメッセージを届けるシンボルが必要だ。本土の市民が、常にその一挙一動を注目して見守り、その言葉を信頼し、その指導と要請に従って最後まで闘争を支え抜く、そういうリーダーとチームが必要だ。本土の市民は、全体として決して辺野古に無関心というわけではないし、沖縄への基地押しつけを当然とは思ってないし、翁長雄志を支持する者が多数だろう。

c0315619_15382912.jpgテレ朝もTBSも、沖縄に寄り添い、安倍晋三ではなく翁長雄志の側に立った報道をしている。だが、それだけでは埋め立て工事の阻止はできないのである。例えば、本土にいて何もできないからカンパだけでもしましょうと、そう思ったとき、その本土の市民は誰にカンパするのか。どの口座に金を振り込むのか。どの窓口を「沖縄で戦っている応援すべき仲間たち」と認識して信用するのか。そういう問題がある。各自で調べてそれぞれ判断して動いて下さいというのでは、それでは政府に反撃する有効な力を結集できない。なけなしのお金をカンパするのだから、責任ある会計報告をしてもらうのは当然のこと。辺野古の問題は、もうかれこれ10年くらいになるだろうか。ずっとこの国の重要な争点だった。不思議に思うのは、本土(全国ベース)での反対運動が組織されてないことだ。東京での活動がない。いわゆる左翼リベラルにとって、すなわち週刊金曜日だの岩波「世界」などを定期購読し、日比谷の集会や国会前のデモに時折参加し、SEALDs運動に熱を上げている一団の人々にとって、辺野古が埋め立てられて米軍基地が建設されるという悪夢は、耐えがたい人生の苦痛であり、まさに憲法9条が変えられるのと同じほど拒絶度の高い凶事だろう。東京での活動が見えない理由は何かというと、東京に支部を立てる本部が沖縄にないからだろうと、私にはそう思われる。こうやって阻止するというアイディアや議論が少ない。

沖縄タイムスは「さまざな人々からアイディアを提供してもらい」と書いている。リーダーと組織が必要だ。アイディアと議論が必要だ。


c0315619_15384375.jpg

[PR]
by yoniumuhibi | 2015-10-30 23:30 | Comments(6)
Commented by 愛知 at 2015-10-30 22:23 x
「どうして、同じ日本人なのに、同じ被害者なのにこれほど差別されるのだろう。後藤健二に対しては、マスコミによる尊厳への配慮がなされ、首相の『目に涙』と米大統領による絶賛の辞が与えられ、左翼による救命運動のプラカードの山ができるのに、どうして湯川遙菜にはそれがハプンしないのか。ネコの死骸のように無視されて扱われるのか。そのことを誰も不自然と思わないのか。」―――貴下ブログ、今年2月2日のご教授から引用させて頂きました。その少し前、1月19日、20日は「正念場の辺野古」と題され。

今年6月11日、琉球新報は1879年「琉球併合直後、明治政府が分断作、県公文書館に新史料2通」と報道。伊藤博文内務卿が「厳重に問い詰めるように」と。1892年、伊藤博文初代首相は朝鮮の権益略奪のため、日清戦争を開始。

私含めた本土人が、その伊藤博文を千円紙幣に押戴いたのが1963年11月1日。明後日で52年。既に長井健司の名も忘れたであろう同朋。
憲法9条を守れと呼びかけた有名論者は、米中開戦を考えられない「大はしゃぎ」と揶揄し、米国に建立された韓国慰安婦象を「末代まで日本の恥」と嘆くお粗末。不思議に思う私なども「左翼思想の者たち」か。つくづく帝大(東大)は伊藤博文がひり出した糞のようだと思える。


Commented by マリモフィズ at 2015-10-31 09:47 x
1998~2010年の知事選は残念な結果となり、
沖縄県民に対して疑問に思った時期もあったが、
現在は日本で最も民主主義が成熟している。
一部で翁長知事を左の視点から批判する向きもあるが、それは左からのゆるふわお試し改憲並みに危険な考えと思う。
我が山形には残念ながらリーダーはもとよりシンボル的な人がいない(その昔、服部という怪物はいたが…)
心の響く言葉を発するリーダーは必要。以前日本はもうダメだと嘆いちゃったけど、まだ今後を見ていたくなるね…
Commented by 半覚醒状態 at 2015-10-31 15:47 x
いつもありがとうございます。このところの政府のやり口を見ていると秀吉の一夜城のようにさっさと工事を進めて沖縄県民のやる気を削いで、基地反対の意欲を無くさせてしまおうとしているのだなと感じます。こうした流れに対して翁長さんを頭に立てて対政府対米にあれこれやっても限界があるのかなと思います。前日ブレア元首相がイラク戦争について謝罪したり習近平の訪英の記事を見ているとアメリカ=日本政府を牽制するには欧州中国ラインに働きかけるのはある程度の効果が期待出来るように思ったりするのですが如何ですか?何分素人考えなのですけれど…
Commented by 長坂 at 2015-10-31 15:59 x
遅々として進まない海兵隊のグアム移転。今朝の朝日によると問題山積らしい。移転費の一部は日本持ちだが"沖縄の負担軽減やってます"のポーズを取るためには、腰の重いアメリカに代わってもっと出すから早くしてになるのか?返還密約のように。戦争法案が通って、3K仕事をやる事になったのに、思いやり予算の3割増を要求。日本側は難色、でもきっと折れるだろう、東シナ海の為ならと。ご指摘のパシリのパシリ、フィリピン軍の面倒も押し付けられた。やたら演習に連れ回し(講習料いくら?)言い値の装備品や兵器も購入させられている。これで新9条なんかできたら、どうなるかは火を見るより明らか。
こんな状況でどうやって辺野古を守る?ちょっと期待したイルカ大使はジュゴンには全く無関心。"中国、ロシアに頼め"とTWしていた人がいたが、、確実に言えるのは、民主主義なんか根付いちゃいない。
Commented by mori at 2015-10-31 19:14 x
恥ずかしながら伊勢崎氏というのは今回のことで初めて知りましたが、まともな言論人ではないことがはっきりとわかりました。口の聞き方がゴロツキそのものです(「ぜ」って何だ「ぜ」って)。相手(古舘氏など)が何を言っているかも交通整理できずに、自分だけに通じる気取った論理を振り回し、いたずらにミスコミュニケーションを繰り返すようでは、言論人どころか普通の社会生活すら怪しいと思われます。
私は氏のことを怪しげな改憲派だと認識しました。理性的なやりとりを臨めないという意味ではネトウヨみたいなもんです。(それができると言うならどうぞ喧嘩殺法と軽侮的言辞を止めなさい。)
Commented by kuma at 2015-10-31 22:48 x
憲法、辺野古を守る......最後の頼みは両陛下ではないかと思います。
生放送の画像・肉声(動画)での発言が放送できれば.......。
叶わぬ希望でしょうか?


カウンターとメール

最新のコメント

ブログ管理人殿のアイデア..
by 齋藤正治 at 08:01
一部の半島専門家は年初か..
by おにぎり at 10:22
プーチンは「あの戦争(ア..
by 愛知 at 06:12
スノーデンのTWによると..
by 長坂 at 00:05
常識的に考えると、アメリ..
by jdt01101 at 10:56
【続き】内藤氏は、シリア..
by tenten at 20:55
「内戦に勝利目前のアサド..
by tenten at 20:34
実にラディカルな推論に心..
by NY金魚 at 16:51
一旦、軍需産業が発達して..
by 七平 at 11:40
内藤さんのtw結構読むの..
by 長坂 at 03:52

Twitter

以前の記事

2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月

記事ランキング