なぜ安倍内閣の支持率は上がったのか - 暴挙から3週間で安泰の謎

c0315619_13324519.jpg10/7の内閣改造の後、マスコミ各社から世論調査が発表された。読売新聞では安倍内閣の支持率は46%で、前回から5ポイント上昇している。共同通信の調査では44.8%で、前回よりも5.9ポイント上昇。日経新聞の調査でも44%で、前回を4ポイント上回った。毎日新聞の調査でも39%で、前回よりも4ポイント上回っている。朝日新聞とNHKの数字はまだ出ていないが、おそらく同じ傾向になるだろう。朝日の前回は35%だったから、40%くらいになると予想される。各社の前回調査は強行採決の直後(9/19-20)のもので、あれから3週間も経っていない。まさに喉元も過ぎてないのに、「民主主義の敵」である安倍晋三の支持率が反転上昇した。普通に考えれば、国民の怒りが爆発し、安保法反対の世論が強く尾を引き、慣性の法則で支持率下落の流れが固まってよいはずである。国民と安倍晋三との間に決定的な断絶が生じ、支持が元に戻らなくなってよい。だが、その事態にはならなかった。この結果は私には予想されたものだが、法案反対派の左翼リベラルにとっては衝撃の事実だろう。9月のデモの意味を無化する数字であり、9月のデモを「民主主義の成熟」だとか「主権者意識の高揚」だと自画自賛して有頂天になっていた者たちに冷水を浴びせる政治の進行だ。数字こそが冷厳な現実を示している。



c0315619_13325734.jpgデモでこの国の民主主義が成熟・前進・発達した結果が、安倍政権の支持率上昇だと言うのか。デモが市民に日常化した画期的な結果が、3週間後の内閣支持率の反転回復なのか。60年安保のとき、30万人の怒濤の反対デモで国会を包囲した市民は岸内閣を退陣に追い込んだが、その直前、60年5月の岸信介の支持率は17%に落ちている。安保闘争が始まる前の支持率は32%だった。その歴史と比較したとき、特に8月以降の、今回の安保法反対の運動がほとんど効果がなく、政治を変えるものではなかった事実を認めなくてはいけない。マスコミは大騒ぎしてSEALDsのデモを礼賛したが、結局のところ泰山鳴動してネズミ一匹で、安倍晋三による強権独裁の政治体制を揺るがすことができなかった。内閣支持率45%という線は安定圏の水準であり、政権運営に何の支障もない。中曽根内閣の盤石期である84年から85年がこの数字だ。マスコミや左翼リベラルが言うように、本当にSEALDsのデモがこの国の政治を変え、市民の政治意識を変革したのだったら、3週間後の内閣支持率は下がっていなくてはいけない。SEALDs運動のメッセージがこの国の人々の心に届き、SEALDsの「デモクラシー」に共感が集まり、「安倍を倒せ」のアピールに応える世論結果になっていなくてはならない。だが、現実は逆で、安保法が国民の平和と安全を守るものだと嘯いて強行採決した安倍晋三の支持が増えた。

c0315619_1333782.jpgそして、野党は全くの腰砕けで、臨時国会を開かせる動きをしようともしない。前の記事に書いたように、憲法53条に規定があり、衆参どちらかの4分の1の要求で臨時国会を開くことができるのに、憲法を根拠にした要求に出ず、安倍晋三の逃げを見逃そうとしている。10月も半分が過ぎた。だらだらと料亭国対で駆け引きを続けていたら、安倍晋三と菅義偉の思うツボで、時間を刻一刻と消化させられ、本当に会期日程の時間がなくなってしまう。臨時国会開催の攻防は今週がヤマ場であり、今週中に開催を決められなければ見送りになるだろう。マスコミも関心を向けなくなる。安保法を考えたとき、ここで臨時国会を開くかどうかはきわめて重大な問題である。議事録や公聴会の報告等、異常まみれの議事と採決の瑕疵の問題は残っていて、法成立の正当性は担保されていない。野党が臨時国会で9月17日の原点に戻って政府与党を厳しく追及することは、来年3月に施行となる安保法の運用に大きな影響を及ぼすのであり、臨時国会で安保法を政局にするかしないかは、野党が口先で国民に言っている「法の執行を止める」という主張の成否に関わる問題だ。人の記憶は時間とともに薄れてゆく。新しい関心が古い関心を消して行き、大脳の主記憶をリフレッシュする。特に日本人の場合、新年という時間の区切りが特別な意味を持つ。古い年を終え、新しい年を迎えるとき、日本人は生まれ変わる。

c0315619_13331896.jpgリセットする。リセットするときというのは、既成事実を認めるときだ。「戦後70年の大きな安保政策の転換点を超えました」という、NHKが意義づけを定式化する報道を自己のものとして了解する。安保法制に反対した立場と論理をば、宣長的な「さかしらごころ」として相対化して滅却し、体制と軋轢する態度を自ら止揚する。空気と折り合いをつける。不満や異論や執着を捨て、体制に順応し協調する。年末から正月はそういう内面整理の時期だ。丸山真男が「歴史意識の『古層』」で論じたように、日本人には歴史始原的な一体性と等質性の所与があり、悪く言うならば、他の諸国民・諸民族と較べて、存在そのものが生まれながらに全体主義的な社会特性を持っている。ヒトラーは、為政者が苦労せずにファシズムを完成することのできる日本社会を羨んだ。戦前、日本人は正月を迎えると同時に国民全員が1歳年をとった。数え年の習慣である。全員が仲よく一斉に、心を合わせ手を繋いで新しい時間に移行する。新しい試練に向かう。皆が一緒なのだ。全員が心を一つにする共同体に生きる日本人。今、その年越しの新生儀式の演出はNHKが仕切っている。心を一つにするとき、半年前の安保法の政治戦もまた、個々の記憶が共通化された記憶に変化するのであり、NHKの巧妙な情報操作によって、政府が意図するイデオロギーの刷り込みが、平準化された公的な意義説明の言葉に化ける。そのNHKのフレーズが国民に受け入れられて共通認識化される。

c0315619_13332725.jpg私が臨時国会の開催に焦りを覚える理由はそこにある。臨時国会を開かないまま年越し(新生)の儀式を迎え終わると、間違いなく国民は安保法の記憶を薄め、それへの拒絶感や恐怖感を小さくしてしまう。祭司であるNHKが年越し時に演出し説教するところの、賛成派も反対派も双方が折り合えるような欺瞞的な「一つの記憶」に収斂される。日本の年越しにはそういうマジックがあり、丸山真男が基底範疇を析出して示した日本の思想の本質が介在する。昨年1年間の既成事実を丸ごと容認し、共同体が向かう一つの方向性に準拠してしまう。瑕疵だらけの「法成立」に異を唱える意思を失ってしまう。その変容は、来年7月の参院選の前提になる。それゆえに、今ここで臨時国会を開けるかどうかは、まさに参院選で安保法を争点にできるかどうかの深刻な分岐点なのだ。安保法は、秋の臨時国会でも当否を論議する必要があるし、来年1月からの通常国会でも論戦の中心に位置づけないといけない。国会で紛糾の討論を続けることで国民の関心を持続できるのであり、そのことによって自衛隊の海外派兵に歯止めをかける可能性が生まれる。米国がイラクへ南シナ海へ派兵を要求する事案について、法の運用に抑止をかけることができる。反対運動を盛り上げることができる。もし、臨時国会を開くことなく年を越せば、来年の通常国会で安保法を論戦の中心に据えることはできないだろうし、そうなれば参院選の争点は安保法ではない別の何かに設定されるだろう。

c0315619_13502095.jpg話題を元に戻そう。安倍内閣の支持率が上がった理由について、マスコミは、TPPが大筋合意したからとか、いろいろと辻褄合わせを言っている。報道を見ると、一億総活躍大臣が不人気だとか、どうでもいいお茶濁しにフォーカスしている。安倍晋三の改造の目眩まし戦術にお茶濁しで付き合い、安保法の記憶を消して新しい関心に入れ替える謀計の手伝いをしている。本来、ジャーナリズムが考察しなくてはならないのは、3週間前にあれほど民主主義を蹂躙する暴挙があり、民意無視で憲法違反の戦争法が強行採決されたのに、どうして安倍内閣の支持率が上がるのかという問題ではないのか。この世論調査の結果は何を意味するのかという真相分析と仮説追求こそ、政治ジャーナリズムにとっての本題だろう。その謎の解明について、誰も真面目に取り組んでおらず、目を背けて説明を試みていない。その努力をする代わりに、SEALDsを神格化して偶像崇拝する言論を繰り返し、「デモ=民主主義」の言説を押し固め、共産党の「国民連合政府」の宣伝に一役買っている。真実を言えば、安倍晋三の支持率は上がったのではなく、元に戻ったのだ。元に戻る動きは7月中旬から始まっていて、8月にはくっきりと世論に現れ、9月の強行採決時に一瞬だけ下がったけれど、そのまま回復軌道を続けたのである。つまり、6月の憲法学者による言論攻勢こそが、国民の心を動かし、安倍晋三を一時的に苦境に立たせた打撃だったというのが政治の真相に他ならない。

事実として、9月のデモは政治を変えることができなかった。安保法の政治戦の半年を振り返って、7月以降の後半は安倍晋三を危うくする要素はなく、安泰に戻ったまま時間が流れた。眼前の世論調査の数字が全てを物語っている。SEALDs運動の失敗を証明している。


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by yoniumuhibi | 2015-10-12 23:30 | Comments(6)
Commented by マリモフィズ at 2015-10-12 19:16 x
山形市に住む者ですが、今回の退潮は当然のことですね。
デモの騒ぎ見ても連呼だけで知的なのは微塵も感じられなかった。
千代田にあれだけ集まるんだったら市長選の最中だけでも応援しに来いってんだ。
梅ちゃんが勝てば「安倍政権の後退~」と喜んで
ツイッターやら雑誌やらに記すくせに佐藤の小僧に負けたら何も言わない。都合の悪い結果にはだんまり。先月から全国の市長選で自民勝ちまくりでも見ざる聞かざる。だからあの連中はろくに相手されないんだ。
昔の左翼はズレてても頭の良いのはいた。
けれど今の左翼の多くは勉強せずに自分の言葉と思考を持たず教祖さまの声でうっとりするダーキニーの集まり。
Commented by tama at 2015-10-12 19:36 x
与党が愚行なら、野党はそれに倍する愚行をやったから、支持率が元に戻ったのです。野党や左は、自分だけが正しい、正しければ何をやってもいい、何を言ってもいいと錯覚した。なぜ錯覚したのかというと、思想も論理もない、マスターベーションだったからです。民主主義のデモじゃなかった。自分だけが気持ちよくて、それで果てただけです。マスターベーションデモ、これが今のかっこよさなのでしょう。他人なんかどうでもよい。自分さえ気持ちよければ。でも、国民はバカな若者のマスターベーションに付き合うほど、暇ではない。
Commented by もりた at 2015-10-12 20:31 x
こういう耳の痛い指摘に対して、一々絡んでくる人が多いですよね。「民共連携に水を指すのか」「与党を利するだけ」とかなんとか。危ない傾向だと思います。しっかり現実を直視しないと、次の展望は開けない。

支持率はほとんど安保法審議入り前の水準に戻りつつあるわけですが、この5ヶ月で一番支持率にダメージを与えたのは憲法学者発言の直後の時期であり、デモがもてはやされるようになってからは、むしろ安定or回復に向かっていったということは、どうしてもおさえる必要があります。
Commented by すねお at 2015-10-12 22:00 x
正直、1ヶ月がたちTPPやらマイナンバーやらノーベル賞やらで報道が埋め尽くされ、私の中でも安保はもう記憶から薄れている。
また7月の強行採決以降は衆議院の90日ルールもあるし消化試合的な感じがしたし、それ以降の安保についてこれといって印象に残った活動や報道はない。
この法案はTPP、辺野古同様アメリカからの押し付けでありアメリカを敵に回す覚悟がないとどうしようもないが、アメリカを敵に回すということは経済的にも制裁を受けるということになり、そこまで踏み込んだ覚悟のある報道や政治家の活動は皆無であった。表向きは国内の政治問題となっていたが、内実対米問題であったことは辺野古の無言の圧力を見ていれば一目瞭然である。
国民の関心はもう身近なTPPやらマイナンバーに向かっている。
今度この問題が世間で話題になるときは自衛隊の海外派兵が現実になったときではないか。ただ中国ともめればウクライナやシリア情勢を見ているとロシアの動向も心配だ。共産圏の中国とロシアはセットで考えるべきで中国を敵に回すということはロシアを敵に回すのと同意だと考えている。ロシアが背後から襲い掛かってくるときは第2次大戦で日ソ中立条約を破棄し満州に攻めてきたように誰も予期せぬときである。法案の中身が具現化したときは時既に遅し。
Commented by 私は黙らない at 2015-10-13 02:15 x
9月19日、安保関連法が参議院で可決成立して以来、未だに無力感から立ち直ることができない。どうあがいたところで、無駄なのではないかと思えてくる。これからは、もう政治に一切期待せず、自分と自分の家族をどう守るかだけを考えた方がよいのだろうか。
一億総XXというワーディングに、ものすごくキナ臭さを感じるのは私だけだろか。一人の落ちこっぼれも許さない、皆(お国のために)働けということか。それとなくマスコミから垂れ流される中国脅威論にも、もううんざりだ。皆麻痺しているのだろうか。NHKが最近になって、山崎豊子さんの特集、大地の子の再放送を始めた。安保関連法が成立したことで、今更公共放送としての中立性アピールのためだろうか。
希望がもてない。私も最初は、若者のデモに興奮したが、あれも結局何だったのか。
今、一縷の希望をもって注目しているのは辺野古だ。もう日本の民主主義はここでしか生き残れないのではないかと思えてくる。
今後、どうすればよいのか、教えてほしい。
Commented by 労働と職業 at 2016-02-19 07:01 x
現行の恐怖政治がいかに問題か
私は、ホワイトカラーエグゼプションのIT関連職への適用と
前代未聞の情報処理技術者の等級評価を下げたことも
本当に許しがたい事実で、なぜ情報系の技術職をこれほどまでに弾圧するのか不思議でならない。
そもそも、電気・電子や通信、資源などの技術者の評価も徹底された過小評価であり、さらに追い打ちをかける意味で、今度は情報処理技術者の評価を落とし、帳尻を合わせるために合格率の上昇まで行った。
逆に、厚生労働省傘下の資格が過大評価になっていたことから、帳尻合わせのために後付けで難易度を上げた。厚生労働省傘下の資格は、あるカリキュラムを終えれば、殆ど全員に近い人数が合格する資格ばかりで、逆に、技術系資格(経済産業省傘下)については、合格率も極めて低い多段階層からなる資格ばかりである。

だから、技術系の優秀な人材は、医療系の下位の集団にすら評価の上で劣る政策を法案で通したのである。

これは、日本のカースト制度である。
現在、インフォメーション・ディバイドの問題が叫ばれているが、
情報系技術者に対しての偏見を煽り
第二次世界大戦時のドイツによるユダヤ人への弾圧にほど近いと気づく。

厚生労働省(労働党?)の暴走は止まらない。

そうこうしているうちに、あと1か月の間に、ITエンジニアや投資銀行アナリストに対しての弾圧的な、「高度プロフェッショナル制度」が始まる。

禁じ手に、これでもかと手をかける政党を断固許してはいけない。


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