野党とマスコミはなぜ憲法53条を言わないのか - 臨時国会の政治の欺瞞

c0315619_1528835.jpg臨時国会の開催の問題が一つの焦点になっている。新内閣を発足させたわけだし、新内閣の所信表明を国民は聞く必要があるから、臨時国会が開かれるのは当然のことだ。だが、安倍晋三は先送りを示唆していて、外交日程が詰まって窮屈だからとかという言い訳をマスコミに流させている。非常に不思議なのは、マスコミ報道の説明が、臨時国会の開催が与野党の合意で決まるものだという前提になっていて、恰も開催の諾否の最終権限が政府与党側にあるという議論になっていることだ。臨時国会の開催は慣例で決まっている問題ではなく、国の最高法規である憲法に規定があり、第53条に「いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない」と明記されている。もし参院の議員61名が署名して議長に要求すれば、それで憲法の要件は満たされるのであり、内閣は開催を拒否することはできない。それは憲法違反である。現在の参院の構成は、民主58、共産11、社民3、生活2となっているから、この合計74名が要求すれば、それで臨時国会は開催に至る。憲法に条文があり、統治機構である国会の手続きが決められているのだから、それに従うのは当然のことだ。この半年間、政治のキーワードになったのは立憲主義だった。眼前の臨時国会の開催は、まさに立憲主義の問題そのものではないか。



c0315619_15282184.jpg政府与党の判断で先送りにできる問題ではないのである。もし野党(民・共・社・生)が正式に要求して、その上で内閣が先送りにすれば、憲法違反が発生する。臨時国会の開催は憲法問題なのだ。ところが、マスコミがそのことを一言も言わない。議員の4分の1の要求で臨時国会を開けるという法的事実を、朝日を始めとするマスコミが一切案内しない。昨日(10/7)の報ステでも、臨時国会が話題になったが、古館伊知郎も、中島岳志も、憲法の条文規定については何も言及しなかった。無知だからだろう。今日(10/8)の朝日の社説は、「ただちに国会論戦を」と見出しが打たれ、「ここは、すぐにでも国会を開き、与野党の論戦を再開することを政府・与党に求めたい」と書いている。憲法53条については一言も解説しておらず、臨時国会開催を要求する法的根拠について触れていない。Twではすでに憲法53条の情報が流れていて、朝日の論説が不明ということはないだろう。つまり、朝日が意図的に憲法53条を報道から隠している。国民に知らせてない。マスコミが、臨時国会の開催が憲法に要件規定された法的事案である事実を伝えず、政府のフリーハンドの専権事項か、与野党の折衝に委ねられた慣習案件のように情報工作している。

c0315619_15283177.jpg憲法53条の法的事実がマスコミの表に出れば、臨時国会を開かないという選択や判断はあり得なくなる。マスコミは、口では「臨時国会を開くべき」と言いつつ、それを政府与党に強制する憲法要件については語らず、政府与党の逃げの言い訳を代弁して国民を説得している。マスコミがそのような態度に出ているのは、安倍政権を応援しているからと言うよりも、野党が本気で臨時国会を開く意思がないことを承知していて、野党の本音に沿って報道をしているからである。マスコミが憲法53条を無視する背景には、野党のプロレス(ホンネとタテマエ)の真相がある。もっと平たく言えば、民主党が臨時国会に積極的でないから、朝日新聞がその立場に沿って政治報道しているのであり、臨時国会を憲法問題にしないように情報操作しているのだ。当然ながら、安倍政権は臨時国会を開きたくない。おそらく、赤坂の料亭国対で、「臨時国会を開くと労働基準法改正案を通さないといけないけど、いいですかね」と、安住淳と長妻昭の杯に一献注ぎながら牽制をかけているのだろう。労働基準法改正案とは、別名「残業代ゼロ法案」のことで、一定年収以上の労働者について、労働時間や休日・深夜割増賃金などの労働基準法の制約を除外する例の制度である。

c0315619_15284285.jpg「ブラック法案」とも呼ばれている。連合はこれに反対し、民主党も通常国会では猛反発、安保法案の審議と採決が優先されたため、積み残しの継続審議になった。おそらく、7月の夜の国対で自民と民主が取引したのだろう。民主からすれば、安保法を人身御供にして通過阻止したブラック法だ。自民からすれば、安保法通過と交換でこのカードを譲って民主に連合への体面を与えたわけで、要するに一国会の延期は許してやるというモラトリアムである。だから、次の国対ではカードにできる。安住淳と長妻昭に腹黒い熱燗の給仕をしているのは、佐藤勉と萩生田光一。ひょっとしたら菅義偉も上座で箸を動かしているかもしれない。臨時国会を開く以上、日程と法案の予定を決めないといけない。いつ何をテーマに集中審議をやり、何を何時間審議して採決すると、シナリオを調整しないといけない。与党側は、労働基準法改正案というタマを見せて、民主を牽制し、臨時国会開催に及び腰になる口実を与えている。だが、実際は、それは表向きの理由で、深層の急所を言えば、安保法が蒸し返されるのがイヤなのである。9月17日の委員会での乱闘劇と9月19日未明に及んだ本会議の攻防の記憶は生々しい。臨時国会を開けば、国民世論は当然、安保法を審議し直して採決し直せとという要求になる。

c0315619_15285213.jpg安保法について、野党は基本的に成立を認めていない。委員会での議事が不正常で、採決は無効であり、法案成立の手続きに瑕疵があるという立場だ。そして、その主張は至極妥当で、多くの国民が支持する正論でもある。9月17日の委員会の議事録の問題がある。本当にあの混乱の修羅場の中で、鴻池祥肇が採決の発声をしたのか、議事進行の内実が怪しまれている。自民党議員ではない部外者が議場に乱入し、委員会席を囲んで固めるスクラムに参加して野党議員をブロックしたという情報もある。映像を検証して国会で真偽が確認されるべきだろう。前日の地方公聴会が委員会報告されてないという重大な過失もある。野党3党と折り合った付帯決議の中身が委員会で正式に説明されておらず、採決前に文言さえ示されてなかったという看過できない問題もある。何から何まで異常づくめで、国会の手続きが乱暴に蹂躙されており、常識で考えても法律が正しく成立したとは言いがたい。安保法に賛成の立場の者でも、手続きの不当性に対して納得できないとする意見の点では同じだろう。臨時国会が召集されれば、当然、一か月前の9月17日に帰らないといけない。不正常な暴力と混乱のまま終わった安保法案の国会に戻り、時間を巻き戻し、実際に何があったのか、国民の前で議員が説明しないといけない。

c0315619_1529378.jpg当然、津田弥太郎と大沼瑞穂の問題も含まれる。民主党は、自民党以上に蒸し返したくないのだ。国民の記憶のフェイドアウトに委ね、年を終え、年を越し、時間をかけて記憶をリフレッシュし、新しい関心と話題の中で国会に臨みたいのである。最も重要なことは、民主党そのものが、この時期に政権に就いていればアーミテージの指令に従って日米新ガイドラインを策定し、そのために必要な集団的自衛権の行使を法制化していたという本質論だ。民主党は集団的自衛権に反対ではなく、憲法改正にも反対ではなく、過去の岡田克也や野田佳彦の発言の中でそれを認めている。この安保法制を牽引しているのは米国の側で、急いでいるのは米国であって、そのときの日本の政権が自民党であろうが民主党であろうが、有無を言わせず法制化を断行させるのである。民主党の基本的な方針としては、安保法制に反対の素振りをしつつ、腹の中で成立を認め、自公を悪役にして参院選を有利にするというもので、断固反対で絶対阻止するというものではなかった。したがって、衆院で審議入りした時点から、質疑の態度はプロレスモード(出来レース)であり、「野党共闘での廃案」は世論向けのポーズでしかなかった。民主党と自民党は今でも懇ろにプロレスを続け、夜の国対を続けているのであり、臨時国会を開くなら開くとして、どんな具合のプロレス興行を見せて幕を閉じようかと宴席で密談しているのである。

c0315619_1529139.jpg問題は共産党で、共産党は民主党のこうした態度を知りつつ、そのプロレスに狡猾に加担している。通常国会の時点から、民主党のプロレスに側面支援で加わって、国民に「野党共闘による断固阻止」の芝居の演出に信憑性を持たせる役割を果たしてきた。国民は、まさか共産党がプロレスをやっているとは思わない。共産党だけは八百長に与しない純潔の党だと信じている。だから、今回のプロレスは国民をよく騙せる性質のものとなった。考えてみればいい。普通であれば、本当に秋の臨時国会で安保法を追及するつもりがあるなら、通常国会が閉幕した時点で4野党の党首会談を開き、採決の暴挙を糾弾し、ただちに臨時国会の開会を要求し、法廃止に向けた国民運動を提起するものだ。その場で、憲法53条の規定を言い、要求の法的正当性を明示したことだろう。それが当然で、国民多数も、左系マスコミも、4野党の主張と提起を強く支持したことは疑いなく、臨時国会でリベンジという気勢が盛り上がったに違いない。ところが、共産党のやったことは、憲法53条を武器にして臨時国会で即反撃に出ることではなく、そのための野党共闘の強化ではなく、「国民連合政府」を目標にした選挙協力という、10か月も先の選挙戦略の提起だった。この頭ごなしの術策はすぐに党利党略と見破られ、連合(旧同盟)を神経質にさせて警戒させ、党内多数派の民主右派に維新との連携を急がせる方向に追いやった。

維新の松野頼久は、野党連立は共産党抜きだと明言しており、安倍政権の打倒は「改革勢力の結集」によってだと言っている。結局、共産党の「国民連合政府」の提言は、野党共闘に微妙な亀裂を生じさせ、安保法廃止をめざす即時の野党共闘と世論の盛り上がりではなく、来年の参院選に向けての野党連携と政策調整のあり方の問題に収斂し、今秋臨時国会での安保法リベンジという政治の現実性を消してしまった。


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by yoniumuhibi | 2015-10-08 23:30 | Comments(3)
Commented by 愛知 at 2015-10-09 02:14 x
いつも科学的な分析記事を読ませて頂き感謝します。私のような馬齢にまでティーンズソウルさんへの賛同の呼びかけを頂きましたので、理由も添えてきっぱりお断りしました。先の大戦への反省がうやむやなまま、誰が子供や孫に責任を転嫁できるでしょう。「普通のタレントとは違う」って、寝込みたくなります。BC級戦犯の孫としては眩暈すら覚えます。どこまで責任転嫁でしょう。

桜井元様ご紹介のビデオ、dailiy motionで全編、拝見しました。先生(帰還兵の教諭)が言っておられたことは事実であったと再認識いたしました。中学、高校の副教材として用いられるべきだと思います。

Commented by ライジングさん at 2015-10-09 15:03 x
民主党は本当に、他人のやることには文句つけますけど、
「自分は、こうする」というのを避けますよね。

なぜなら、自分はこうする。と言ってしまうと、今度は、自分自身が批判の対象になってしまうからです。

つらい思いをしないで、楽して文句だけ言っていたいだけで、つらい思いしてまで民衆を守ろう。という信念はないのです
ボロクソに言われても、自分の信念つらぬく政治家や政党のほうが、よっぽど立派です
Commented by tama at 2015-10-09 21:08 x
民主党が消滅しない限り、野党の台頭はないでしょう。国民は民主党がやったことと無能さを絶対に忘れない。今回も内閣改造に際して枝野が「論評に値しない」との発言。完全に終わっている。しないのではない、できないのだ。国民を納得させるような論評ができないような政党は要らない。挙げ足とりの批判のための批判は、国民にすでにバレている。要するに、民主党はバカな芸人の集まりであることが国民にわかってしまっているのだ。
ブログ主様指摘のように、国民の大部分は「かっこいいデモ」どこではない。生活がかかっている。バカで暇な学生に付き合っている暇はない。騒いでいるのは、趣味的左翼だけだ。国民は左翼に政権がいったらどうなるか、思い知ったのだ。


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