堤防決壊はなぜ早期に予知警報されなかったのか - 国交省の不作為

c0315619_1865967.jpg昨夜(9/10)、常総市の堤防決壊のニュースを見ながら、最初に思ったことは、堤防が危険な状態になっているという情報がどの時点で住民に告知されたのか、行政による避難勧告や避難指示の時間は適正だったのかということだった。映像を見ていると、不意に堤防が決壊したような感じで、手の施しようのない自然災害だったという報道になっている。NHKのニュースでは、専門家たちが、想定外の線状降水雲と鬼怒川の南北の流路の偶然ばかりを言い、災害の天災性をやたら強調し、人災の側面に全く関心を向けない説明になっていた。私の場合は、こうした災害が起きると、人災の要素はなかったのか、行政の責任はどうだったのかという方向に関心が向かう。一級河川の鬼怒川が、あの下流地帯で、堤防を決壊させて氾濫したらどうなるか、その想像力は付近の住民なら誰でも容易なことだろう。新聞記事を読むと、常総市は午前2時20分に、決壊地点より上流の若宮戸地区に避難指示を出している。これはネットで議論され、報ステでも報道されたところの、例のソーラーパネルの民有地のことだ。実際に堤防が決壊したのは少し下流の三坂町地区だが、ここに避難指示が出されたのは午前10時15分だった。決壊したのは午後0時50分。決壊の様子が撮影されていて、ニュースの映像では現場上空に - 報道か行政か不明だが - すでに ヘリが舞っている。



c0315619_1871286.jpg決壊が起きた後の洪水の規模を考えたとき、避難指示が決壊の2時間半前の午前10時15分というのは、対応としてあまりにも遅すぎるのではないか。行政の監視ミス、判断ミスの人災の側面はないのか。これは、常総市に対して言っているのではない。当然ながら、河川を管理する国土交通省に対して言っている。また、国交省と連絡を取り合っているはずの内閣府と警察庁と茨城県に対して言っている。というのは、昨夜(9/10)の報ステを見ていると、事前に国交省で鬼怒川の氾濫と水害がシミュレーションされていた事実があり、堤防が決壊すると仮定された地点が、今回決壊した場所と同じだったからだ。国交省(関東地方整備局)は、このシミュレーションデータを元にして予想される浸水面積を割り出し、被害戸数を割り出し、どういう推移と被害になるか想定して、その数字と予測をすぐにマスコミに流したのだが、このシミュレーションの存在は、国交省が事前の調査によって、三坂町地区(新石下)の堤防が特に脆弱で危険だと判断があったからに違いなく、常識で考えてその推測にたどりつく。偶然の一致とは思えない。例のソーラーパネルの地点も含めて、新石下の辺りの堤防を改修する必要性の認識があり、計画も組まれようとしていたのだろう。関東整備局の事業(予算と工事)が間に合わなかったのは仕方がない。それは責任問題ではない。そうではなく、問題はこの調査が避難行政に即活用されなかったことだ。

c0315619_1872315.jpg関東地方整備局河川部は巨大な組織であり、膨大な人員が動いている。水災害予報センターなどという部署もあり、「水災害の監視・予測の実施や高度化、水災害の監視・予測、予警報、水位情報等に関する情報収集や情報提供」を行っていて、「都道府県河川管理者や水防管理者に対する支援等」を行っていると業務が書かれている。シミュレーションを行ったのは、関東整備局河川部のどこかの部署だろう。河川部の下には現地の事務所があり、鬼怒川は下館河川事務所(筑西市)が管理している。8課8出張所もある大きな組織だ。課長さんが8人もいる。国交省の組織は、道路事務所にせよ、河川事務所にせよ、本当に身近と言うか、どこにでも目にする国の出先機関と言うか、そこら中に事務所があって人員を多く抱えている。予算(税金)を使っている。この下館河川事務所の職員たちが、今回の豪雨と増水と氾濫をどのように監視し、予測し、洪水災害を未然に防ごうとしたか、住民避難に資する情報提供を迅速にしたか、水防責任を十分果たしたか、それについては検証が必要だろう。あるいは、下館河川事務所は有効な情報を報告したけれど、上の関東整備局や本省がそれを自治体に示さず、事態を過小評価して握り潰した可能性もある。鬼怒川の河川氾濫発生情報は、9/10の午前8時に出されている。下館河川事務所が発信元だ。が、これは避難には直接役立っていない。

c0315619_1873356.jpgこの氾濫情報というのは、例のソーラーパネルの場所(若宮戸地区)で越水が発生したという情報だ。超水や氾濫の警戒情報というのは、堤防決壊の危険性の告知情報とは違う。本来、下館河川事務所がやらなくてはいけなかったのは、単に水位の発表をして氾濫一般の警戒を発することではなくて、具体的な堤防の決壊の危険性を予報することだっただろう。水位についてはカメラがリアルタイムに観測している。堤防のどの場所が脆弱か、最も決壊の恐れがあるかについては、見た目だけでは素人の市民は分からない。専門家のみが技術的に測定推断できる。昨日(9/10)からのマスコミ情報を追いかけるかぎり、事前に三坂町地区の堤防が危ないという警報を下館河川事務所が出していた形跡はなく、堤防決壊は全く予想していなかったかの如くである。だが、国交省はこの地区の堤防の改修工事を計画していたのだという言い訳の情報をマスコミに出していて、要するに、この場所が危ないという特定を済ませていた。要注意危険箇所の認識を持っていたわけだ。だから、工事計画を立てて準備していた。であるならば、50年に一度の豪雨と増水が発生したときは、その調査情報を住民避難に活用させなくてはいけないではないか。関東地方整備局河川部のHPを見て、気になったことがある。その一つは、「河川整備基本方針、整備計画」のサイトの中の「鬼怒川」のファイルが消えていることだ。

c0315619_1874752.jpg下館河川事務所以外の管轄である河川については、例えば、利根川・江戸川中川・綾瀬川荒川多摩川鶴見川については、河川整備計画の策定情報が公開されている。鬼怒川と小貝川についてはページのファイルが削除されていて、きわめて不自然な状況になっている。もう一つ不審な点があり、下館河川事務所のサイトの中の「重要水防箇所」のページで、「河川別一覧」と「位置図」の情報がどうやら消されてしまっている。このページにはこう書いている。「水防上重要な区間や重要水防箇所の評定基準のご案内です」。「洪水の時には、濁流が堤防を越えてあふれ出したり、その濁流で堤防が壊されたりする場合があります。そのようなときは被害を未然に防ぐため、水防団の方々が土のうを積んでせき止めたりする『水防活動』をして堤防や人々を守ります。そうした事態をいち早く察知するため、洪水が一定の規模(水位)になると水防団の方々は危険な箇所がないかどうか、堤防を巡視、点検します。しかし堤防を点検する区間はとても長いため、あらかじめ注意しておく区間を(水防上重要な区間)を決めておけばより効率的な堤防の点検ができ、危険な箇所の早期発見につながります。このような考えから毎年重要水防箇所を定めるとともに、台風シーズン前には関係者で重要水防箇所を確認する合同巡視を行っています」。

c0315619_1875774.jpg河川事務所が具体的に巡視、点検をして、予め特に重要な堤防の区間を情報公開しているわけだ。その位置を示す特定情報が本来は掲載されているはずだが、なぜか情報が上がっていない。関東地方整備局河川部の下の他の河川事務所のHPには、「重要水防箇所」の「一覧」と「位置図」がPDFで公開されている。江戸川河川事務所、荒川下流河川事務所、京浜河川事務所、利根川上流河川事務所などは、細かな情報を掲示している。下館河川事務所の「重要水防箇所」が出てないのは不自然で、おそらく、昨日(9/10)、上(本省)からの指示で故意に消されたのだろう。その理由は、この「重要水防箇所」の中に、件の三坂町地区(新石下)の堤防が載っているからだ。すなわち、下館河川事務所の責任問題になるからである。責任問題にならないよう、証拠情報を削除したのだ。そしてマスコミには、堤防の改修補強は計画していて着工前だったとアリバイを言い、豪雨が異常だったという自然の猛威を強調する説明ばかりを撒いているのだ。下館河川事務所の職員は、鬼怒川の水量がオーバーフローする状況を一昨日(9/9)の夜には察知できていただろう。現実に、常総市はソーラーパネルの場所で越水、氾濫することを覚悟し、午前2時20分に若宮戸地区の住民に避難指示を出している。この時点で、下館河川事務所が「重要水防箇所」の調査データを元に堤防決壊を予測し、常総市に緊急連絡を入れていれば、三坂町地区に対しても避難指示を出しただろう。

常総市の防災関係者は無念だったに違いない。堤防決壊に伴う三坂町地区の人的被害は - 現在は明らかではないが - 天災ではなく人災だ。国交省の不作為である。常総市に大きな責任があるわけではない。国交省関東地方整備局だ。


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by yoniumuhibi | 2015-09-11 23:30 | Comments(6)
Commented by Masa at 2015-09-11 20:44 x
http://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000621158.pdf

この写真を見るとすでに決壊地付近で何か工事らしきことをやってますね。この工事が原因で決壊したのでは?
Commented by 愛知 at 2015-09-11 23:16 x
親の在所(岐阜県安八郡安八町)で長良川の堤防が決壊し、親類縁者の家が1階の屋根の上まで濁流に浸かりました。1976年9月12日のことでした。水位が下がると壁に水痕が残ると言われ、ボートで近付き壁をブラシで擦っていました。今から思うとインテリア云々ということではなく、忌み嫌ったのでしょう。あの当時は受験生を持つ親が「落ちる」「滑る」をタブーとするように、「切れる」が地元のタブーでした。今は頻繁に「切れる」が使われていますが。

直系と言うか、直接の親戚は加わりませんでした(建設省=当時の河川管理事務所員がいたため)が、その後、国の責任を問う形で、長良川水害訴訟が起こされました。一審、岐阜地裁は国の責任を認めましたが、高裁、最高裁で退けられました。そのとき「ヒラメ裁判官」という言葉を学びました。BC級戦犯であった祖父と祖父一族、戦後も下男(番犬と寝食一緒)を置いていた在所が嫌いだったので、そのときは何も思いませんでした。その後のヒラメ裁判官は、今も忘れません。記事を拝読、とうに忘れていたことを思い出しました。最後になりましたが、ご被害にあわれた方にお見舞い申し上げます。
Commented by TXM at 2015-09-12 02:22 x
投稿禁止キーワードに引っかかっていろいろかけないので河川整備基本方針、整備計画 鬼怒川のアーカイブリンクだけ
参考資料
http://web.archive.org/web/20130206043635/http://www.ktr.mlit.go.jp/shimodate/plan/index.htm
Commented by オンクル at 2015-09-12 10:53 x
下館河川管理事務所のSiteで「鬼怒川・小貝川氾濫シミュレーション」のページには今回の決壊箇所でのシミュレーションがあり、常総市役所付近では破堤2時間後の最大浸水高さ1~2mとされていますね。

http://www.ktr.mlit.go.jp/shimodate/simulation_pdf/
Commented by 長坂 at 2015-09-12 13:15 x
(出羽の海でスミマセン)アメリカでは、大規模災害時には、市長、州知事それこそ大統領が「非常事態宣言」を発令して必ず記者会見しますよね。警察、消防、軍、関係省庁が外で立ったままだけど、記者の質問に答え、住民への避難指示が適切だったかとか、災害の原因とか責任の所在が追求され、その模様が放送される。その時点でわかる限りの情報は(一応)公開されるし、災害時のリーダーとしての資質も試される。日本はアクロバッティックな救助シーンばかり繰り返し見せられ、その間に姑息にも、都合の悪い箇所をホームページから削除って、国民の生命財産よりまずは責任逃れ。中国の脅威以前に自然の脅威じゃないか。
Commented by 設計屋 at 2015-09-12 19:08 x
メディアに河川管理者である国交省の役人が出てこないのはおかしいな。
堤防の管理や工事をできるのは国交省しかないのにね。


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