武藤貴也への議員辞職勧告決議案はなぜ提起されないのか

c0315619_17555622.jpg総裁選の日程が決まってマスコミで報道された。9/20(日)に投票。昨夜(8/27)のNHKの7時のニュースでは、党内の全派閥が安倍晋三の再選を支持することになったというが伝えられ、他に立候補者はなく、無風での再選が確実になったことを既成事実として固めていた。立候補に意欲を見せていた野田聖子は、ここへ来てトーンダウンしていて、推薦人20人が集められない厳しい状況になっている。この総裁選の情報系が意味するものは何かというと、ズバリ、法案の採決は9/14の週に行われるという日程だ。9/14の週から60日ルールが適用できるが、60日ルールは使わずに参院の委員会と本会議で強行採決して可決成立させる。その方針が自公で固まり、全体に既成事実として受け入れさせ、抵抗を未然に排除するべく、安倍晋三の側が政治を押し進めている。山口那津男が「来月11日までの成立が望ましいとの見方を示した」事実は大きい。参院の自民幹部が審議時間を理由にして9/11までの採決をゴネたのは、まさに9/14の週に採決という予告通知に他ならない。9/20に総裁選が組まれ、その後、安倍晋三は訪米に出る。国内は、9/19から9/23まで5日間の大型連休だ。公明党が9/11までの採決でOKなのだから、9/14の週まで延ばす妥協のポーズを見せれば、世論への一応のエクスキューズにはなるという算段だろう。



c0315619_1756814.jpg今から1か月前、こんな具合に法案の政局が進行するとは思わなかった。完全に予想外れとなった。7/15に衆院で強行採決されたとき、マスコミ各社は「今国会で成立の公算大」と記事を打ったが、私はそれに噛みつき、「成立の見込みは五分五分」と書くのが当然だろうと政治記者を批判した。それには十分の根拠と自信があった。まず、6割以上の国民が法案に反対し、反対派が賛成派の2倍以上という前提があったことがある。次に、テレ朝とTBSの報道が法案反対の論陣に徹し、SEALDsを持ち上げて宣伝し、官邸による「放送法とBPO」の脅しの頸木から脱して安倍晋三と正面から対決する姿勢を示していたことがある。最後に、世論調査での内閣支持率が低落に転じ、8月の慰霊の季節を挟むことで、国民の間に反戦平和の意識が強まり、反安倍の傾向と勢いがさらに助長されるものと予測していたことがある。9月には法案成立を阻止できる状況が到来するだろうと、7/15の時点では楽観的な期待を抱いていた。マスコミ各社の世論調査が、戦後70年談話の後に支持率上昇に転じたのは意外で、不思議で、憂鬱な気分にさせられる。天皇陛下も「先の大戦に対する深い反省」を初めて式辞に入れ、法案反対運動を静かに支援する行動に出たのに、世論の感化に奏功しなかった。1か月前の政治の空気が嘘のようで、キツネにつままれたような心境になってしまう。

c0315619_17562021.jpg魑魅魍魎なのは、内閣支持率の世論の変化だけでなく、国会の面妖な動きにある。1か月前、審議が参院に移ったとき、参院では衆院よりも厳しい野党の追及が続き、法制局長官と閣僚が詰め上げられて立ち往生する場面があるとばかり思っていた。なぜなら、参院は衆院より野党の議席数が多く、福島瑞穂や山本太郎がいるからであり、衝撃力のある論点が適時投入され、テレビ報道のトップニュースで「爆弾」が落ち続けるものと予想していたからだ。福島瑞穂が憲法論議 - 憲法学者が示した立憲主義論の国会質問への応用 - で見せ場を作るディベートを楽しみにしていた。蓋を開けてみれば、意外や意外、参院審議は無風同然で、共産党が統幕監部の内部資料を暴露するだけの騒動で終わり、審議をストップさせる強力な材料や言論は何も登場せず、政治の流れを変える力にはならなかった。国会の動きで最も不審に感じたのは、武藤貴也に対する議員辞職勧告決議案を野党が参院に提出しなかったことだ。どういうことだろう。8/21の時点で、井上義久は会見で「説明なければ、議員資格にも影響」と言い、議員辞職すべきという認識を示唆している。武藤貴也が行ったことは明白な詐欺行為であり、普通の者なら即逮捕されている案件だ。だからこそ、井上義久は議員辞職やむなしの見方を示したわけだが、これに対して野党が全く応じなかった。キツネにつままれた気分とは、まさにこのことだ。

c0315619_1756308.jpg参院は自民が過半数を制しておらず、公明がキャスティング・ボートを握る立場にある。野党が議員辞職勧告決議案を出せば、公明が乗って可決成立しただろう。実現していれば、(われわれには順風の)とんでもない重大な政局の事態となっていた。参院で可決成立すれば、当然、野党は決議案を衆院に回す。公明は衆院でも賛成に回り、結果は否決となったとしても、公明が自民と亀裂を深めた構図が演出され、マスコミが大喜びでネタにして騒いだだろう。法案への影響ありやという政局報道で祭りになったに違いない。この井上義久の発言は、野党に誘い水をかけたサインであり、政局にするなら協力してもいいというシグナルだった。こうやって、学会内の造反を沈静化するガス抜きの政治を思惑したのだろう。議員辞職勧告決議案が公明の賛成で通れば、次は武藤貴也を政治倫理審査会で証人喚問という順番になる。未公開株の資金集めに間接的に協力した麻生太郎も、参考人で追及の対象となる。国会は大荒れで、法案審議どころではなくなる。武藤貴也が辞めるまで混乱が続き、最後は司直の出動という、安倍晋三にとって最悪の幕に転んだはずだ。この政治を実現することで、参院の審議時間不足の絶対条件を作り出し、法案先送りの状況を固めることができた。公明は、言わば二股をかける浮気の素振りに出たと言えるのだ。どうして、野党は議員辞職勧告決議案を出さなかったのだろう。理解できない。

c0315619_1758473.jpgもっと理解できないのは、マスコミだけでなく、ネットですらも、野党は議員辞職勧告決議案を出せと要求する声が上がらなかったことだ。不思議としか言いようがない。それがどうしてなのかは私には分からないし、理由を探りようもないし、思考回路が迷宮に入って堂々めぐりするだけだ。結論を単純に言えば、本気の人間がいないということに尽きる。8月に入って、広島と長崎の記憶の報道があり、恐ろしい事実が映像と証言で突きつけられた。被爆者の平和の叫びがあり、終戦の日の8/15を迎えた。だが、戦争法案を廃案に追い込むということを本気でやっている人間が少ない。マスコミに出て来る者も、ネットで喚いている者も、国会で立ち回っている者も、それを半ば商売でやっていて、自身の欲望や利害が第一で動いている。多くの者はそれに乗っかって振り回されている。今、声を上げないと後悔するから、デモに出てないとあのとき出てなかったことを後悔するから、だから頭数になるのだと、その理由づけや動機づけは内的に説得力を持つけれど、それを横で言って扇動している者たちが、実は本気ではなくて、別の動機で扇動しているだけだと疑ったら、普通の人間はなかなかその理由づけを自分のものにできないものだ。地べたで生きる弱い人間は、他人に巧く利用されることを恐れ、本能的に政治の扇動を忌み嫌う。デモの頭数の一人になることに納得して確信を持つことは、今の日本では容易ではないのが実情だ。

c0315619_17585871.jpgこんなに悲観的な情勢になるとは、1か月前には思ってもいなかった。外国特派員協会も動かなかった。元最高裁判事を揃えて記者会見をやれという呼びかけは、もう2か月前からやっているが全く動きがない。創価学会の人間を揃えて出せという呼びかけも、夏休みで休業中だったのか無視されてしまった。8月は創価学会が政治のカギを握る存在で、創価学会の造反組が政局の主役にならなくてはいけなかった。TBSなど報道番組を見ていたら、それは簡単にできそうだったが、造反組が並んで「学会の理念」を言う会見は実現しなかった。それが実現すれば、ずいぶん大きく政治が動いたはずだ。6月の憲法学者の立憲主義の言説と同じ衝撃になり、この安保法案の論点になっただろう。外国人記者クラブが「言論の府」なのだ、論点を立ち起こす原動力なのだ、政治を動かす前衛なのだ、法案を廃案に追い込む機動軸なのだと、幾度も口を酸っぱくして褒めちぎったが、返ってきたのは長い長い夏休みのお昼寝の寝息だった。ロングバケーション。彼らは商売で反対運動の周辺に寄り添っているだけで、本気で安倍晋三を倒す戦略戦術を考えて動いているわけではないようだ。法案が成立しても、外国特派員協会の商売は続く。こんな感じで、法案反対運動を商売の道具にしているだけの者や、自勢力の拡大や宣伝に利用しているだけの者が多い。そして、戦争になれば最も悲惨な目に遭う市民が、残念ながら無力すぎる。政治戦はきわめて厳しい状況だ。


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by yoniumuhibi | 2015-08-28 23:30 | Comments(3)
Commented by 愛知 at 2015-08-28 22:36 x
「キツネにつままれたような」「キツネにつままれた気分」「どうして、野党は~理解できない」「もっと理解できないのは」理解できないとの貴下ご教授で、やっと逆に理解が進み、この間のできごとが腑に落ちました。参議院のネット中継録画に目を凝らし、武藤貴也の未公開株事件を報じた文春を買いに走り。その間、報ステが70年談話後の内閣支持率アップを伝え。まさにキツネにつままれた気分でした。文春の記事を読んだとき、それが事実であれば、てっきりすぐ新聞あたりが「地検特捜部、会期末を睨んで」みたいに早とちりし、ウィキで不逮捕特権を調べたりしていたのですが。

国会での追及も生ぬるく。蓮舫も武藤問題はあっさりした感じで。それに薄気味悪い武藤の記者クラブ会見。薄気味悪かったのは質問した記者の方。「先生」「先生」とよいしょ。

なぜ日本は、ナチス親衛隊を排したノイエ・ヴァッヘのような施設が作れないのか、いい歳してやっと疑問も解消。あの大戦は大東亜共栄圏樹立のための正しい戦争であり、戦犯などいないと。安倍や稲田を始めとするする連中の腹がはっきりとわかって。ついでに法案反対派の一部内部対立まで謎が解け。

今回の記事を精読するに、与野党議員含め、9割近い国民は戦争など絶対に起きないと、頑なに信じ、疑うことを拒否しているのだろうと思えてきました。谷口稜曄さん、赤崎勇さんら業火に焼かれ、機銃掃射で狙われた方々には、はっきりと目前に迫る戦火が見えておられるのだと。このままでは市民は戦火に皮膚を焼かれ、水を求めて彷徨い死んでいくのだと。過ちは繰り返されるのだと。
Commented at 2015-08-28 23:05 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by 私は黙らない at 2015-08-29 04:51 x
全くもって同感です。なぜ、議員辞職勧告決議案を出さないのか、逆立ちしても理解できません。野党は一体何を考えているのか。
国会議員という特権階級と、それ以外の国民の間の乖離がこんなにもあっていいのでしょうか。国会外のデモの声は、一体、議員達に届いているのでしょうか。
イギリス労働党の党首選で、ジェレミーコービンという人が予想に反し、党員の指示を集めているそうです。Hard Leftということですが、これも結局、保守党となにが違うのかよくわからなくなってしまった現労働党にたいする国民のNoがつきつけられた結果じゃないかと思います。この人の言うことは、素朴に国民に寄り添っています。こうした自分の言葉で、国民の思いを率直に語ってくれる議員は今の日本にいないものでしょうか。プロレス国会を続ける民主党も、今のイギリス労働党も本質は同じです。


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