中国との戦争への想像力を - 民主党が衆院で憲法論議をやらなかった理由

c0315619_168560.jpg6月の衆院特別委での安保法案の論議で、民主党が法案を阻止する有効な質問をせず、無駄話ばかりで時間を潰していたのを不審に思っていた。長島昭久は堂々と政府の集団的自衛権行使を援護射撃する議論ばかり繰り返し、後藤祐一は法案細部の枝葉末節を穿り返し、辻元清美はプロレスの「乱闘」場面を作ってマスコミに「対決姿勢」の演出の絵を提供し、頭の悪い寺田学は横畠裕介に論破されて恥をかくという、わけの分からない質疑を延々と続けて時間を浪費していた。「100時間以上の審議時間」はそうしたガベッジ・コレクションの堆積だ。国民が見たかったのは、長谷部恭男や小林節が講義した違憲論の戦術応用であり、憲法学者による批判の論点をそのまま政府にぶつけ、国会で噛み合ったディベートが演じられる進行だった。つまり、民主党議員が憲法学者の代理人となり、国会で憲法論争をたたかわせて法案の破綻と不全を証明することだった。不毛な「新三要件」の詭弁で逃げる安倍晋三を立憲主義の論陣で撃破し、包囲攻略し、違憲立法の結論に導いて窮地に立たせることだった。その期待を担って登壇するべきは、党内きっての弁達者で法曹家の、そして党内で憲法政策を仕切ってきた枝野幸男であるはずだった。だが、2か月近く100時間以上の長丁場の審議で、幾度もNHKの中継が入りながら、われわれは遂にその瞬間を見ることはなかった。



c0315619_1681773.jpgどうして、民主党はエースの枝野幸男を出して憲法論議を挑まなかったのか。憲法学者が丁寧に解説し指南したところの、法案論破の完璧な憲法理論を国会に持ち込んで真剣勝負の論戦をしなかったのか。鬱々と考えながら、ようやく答え(仮説)に辿り着いた。灯台もと暗し。岡田克也は最初から、「安倍政権の下での集団的自衛権行使には反対」と言い続けていたのだ。これはすなわち、民主党政権になったら独自に集団的自衛権を行使する、という意味に他ならない。結局のところ、彼らは集団的自衛権行使には基本的に賛成の立場なのであり、「憲法改正」を経ない不当な解釈改憲の手続きであっても、自分たちが政権にあれば同じことをするという含意と態度なのだ。昨年7月に閣議決定が強行された後、民主党内では政策対応をめぐって調整が続いたが、1年やっても賛否が分かれて意見集約されなかった。もし、民主党政権がずっと続いていたらどうだっただろう。日米新ガイドラインの作業は着々と詰められている。第3次のナイ・アーミテージレポートは2012年8月に発表されている。その中で、「集団的自衛の禁止は同盟の障害である」(Prohibition of collective self-defense is an impediment to the alliance)と明言されている。以前(2013年11月)、「安倍晋三の裏マニフェストとしてのアーミテージ・レポート」という記事を書いたことがあった。

c0315619_1682916.jpg政権獲得後の安倍晋三の1年間の政策過程は、第3次ナイ・アーミテージレポートで日本に要求された政策項目を一つ一つ忠実に実行に移したものだった。このレポートでは、原発再稼働も要求しているし、秘密保護法の制定も要求している。ホルムズ海峡への掃海艇の派遣も明記している。PKOの駆けつけ警護もある。武器輸出三原則の緩和もある。法改定しろと言っている。集団的自衛権の行使、すなわち憲法9条の改定は、アーミテージが第2次のレポートから求めていたもので、安倍晋三が政権を取り戻して2014年に閣議決定に踏み切ったが、果たして、このとき民主党政権が続いていたとして、この米国側の要求を断ることができただろうか。秘密保護法もそうだし、武器輸出三原則やPKOもそうである。武器輸出三原則は、民主党政権の2011年、菅内閣と野田内閣のときに積極的な緩和が決定された。おそらく、民主党政権が続いていても、米国は日本に集団的自衛権の憲法解釈を変えろと強要しただろうし、現在の安保法制と同じものを整備せよと催促したはずだ。日米新ガイドラインは、この法制がないとプログラムをアクションさせることができない。新ガイドラインの方が先に策定され、それに従って安保法制が作られるのだから、米国にNoと言う政権でないかぎり、自民党であっても民主党であっても、この法案は同じ内容で上程されていたに違いない。

c0315619_16841100.jpg仮に民主党政権下でこの安保法制が国会に出されたとして、国民は当然ながら猛反発しただろうが、果たして、野党である自民党はどういう態度に出ただろう。おそらく、その結論は、「民主党政権での集団的自衛権行使には反対」である。岡田克也と同じフレーズ。民主党の安保法制は生ぬるいとか、われわれなら憲法9条の改定から先にやるとか、われわれは立憲主義を守るとか、そういう狡猾な口上を言い立て、右からの立憲主義の正論を言い散らして、民主党の安保法案に反対する立場で政局に臨んだだろう。国民は、自民党(野党)のホンネを知りつつ、タテマエの(目の前の)法案反対の姿勢を支持し、法案を廃案に追い込むと息巻く自民党(野党)を応援せざるを得なかっただろう。そうして、民主党政権の内閣支持率が低落し、選挙で自民党が勝って政権に復帰し、民主党政権のときに廃案になったものよりずっと悪質で過激な戦争法案が国会に上程されていただろう。無論、野党時代に政府を攻めた「立憲主義」の論法など忘れている。「憲法改正」など悠長にやっていたら急迫する国際情勢と安保環境の変化に対応できないから、などと子供騙しを言い抜け、コロッと態度を変え、やはり解釈改憲で集団的自衛権行使を認めただろう。要するに、これが二大政党制なのだ。どっちに転んでも米国の言いなりになり、米国の要求する政策を要求する時期に実行するのだ。

c0315619_1685323.jpg民主党は、なぜ衆院で本格的な憲法論戦をやらず、憲法学者が指南した「集団的自衛権=違憲」論の理論武装で政府与党を論破しなかったのか。理由は、その質疑をやると議事録が残ってしまうからだ。証拠が残るからだ。野党のとき委員会でこう言ったじゃないかと、後で自民党やマスコミから非難されるからだ。今回の法案が廃案になり、政権が民主党に戻ったとき、同じ法案を出して国会で成立させないといけないから、法案は憲法違反であると説明する質疑記録を残せないのである。だから、枝野幸男は出て来ないのだ。枝野幸男の役目は、民主党政権になって同じ法案を提出するとき、私は国会で一度も集団的自衛権が憲法違反などと言ったことはないと、そう弁明して法案を正当化することなのだ。その将来を見据えた布石として、今国会では敢えて論陣を張らないのである。議事録に残さない、国会前のデモや日比谷の集会のマイクで、それらしい調子のいいことを場に合わせて勇ましく言うだけだ。その民主党は、国民の法案への反対世論の高まりを受けて、衆院での対案路線を一転させ、廃案をめざす強硬姿勢で参院審議に臨んでいる。一方の安倍晋三の側は、これまた方針を旋回させ、曖昧模糊とした空論術をやめ、法案のターゲットが中国であることを明確に言うようになった。正直に、中国封じ込めを狙った軍事作戦の発動こそが法案の目的であることをアンベイルする戦略に変えた。

c0315619_169569.jpg6月の衆院の審議を眺めながら、痛痒でならなかったのは、法案の正体である中国封じ込めと南シナ海での自衛隊の軍事行動の問題が質疑で提起されなかったことだ。誰もが奥歯にものが挟まったような表現になり、野党の側も議論を恐がって敬遠し、この法案の本質に触れようとしなかった。「立法事実」に迫らなかった。あれだけ、ジャパンハンドラーズによって新ガイドラインの真相が教示されているのに、そうした報道を踏まえた質問が国会で野党から発せられなかった。共和党系シンクタンクの日本部長であるマイケル・オースリンは、明確に自衛隊には南シナ海でコンバットをやってもらうのだと期待を述べている。ジャパンハンドラーズの本音と衆院での議論があまりにギャップがあり、反対論の立論と説得力が憲法問題だけに収斂したことが、私には大いに不満だった。違憲立法論の世論への定着と立憲主義の啓発は結構だが、安全保障の具体論は疎かにしてはいけないし、そこに土俵を持って行けば安倍晋三の側の説得力が増して挽回に転じるということでは困る。逆でないといけないし、逆になるのが本当だ。要するに、本当に中国と軍事衝突する羽目になってもいいのかという問題であり、集団的自衛権で日米同盟を強化すれば、それが中国に対する抑止力として機能して日本の平和を守ることに繋がるのかという争点だ。この安保法制の施行と運用が、中国との全面戦争の入口になるというのが私の一貫した認識である。

c0315619_1691634.jpg国会の論戦を聞いても、ネットの議論を見ても、安保法案と新ガイドラインが中国との全面戦争に導くという指摘と警告がない。誰もそのような危機感を示さず、焦躁した問題意識を有していない。当の左翼リベラルが、米国は中国との戦争など望んでいないという楽観的忖度のバイアスに引っ張られていて、平和ボケの安心理論に浸りきり、安保法案を日中全面戦争のイマジネーションに結びつけようとしない。市民の抗議デモは、何やら若者カルチャーの流行現象の範疇に意味が回収されていて、3年前の官邸前デモと同じ<社会現象>の類型で言説がなされ、マスコミや論壇が商売ネタで煽る空気感となりつつある。国会正門前の一角だけにカメラが集中し、全国各地で起きている地味なデモには注目が向けられない。地方での団体旗がはためく伝統的なデモには、例によって「ヘサヨ」のレッテルが貼られ、オシャレじゃない、クールじゃないなどと貶められている有害な状況がある。果たして、60年安保のときのように、市民が戦争への恐怖感からストレートに爆発する動きになるだろうか、一抹の不安がよぎる。ここで考えなくてはいけないことは、中国の人々は、今の日本の法案の政局をどう見ているかということだ。全面戦争の恐怖感と想像力は、中国の人々の方に強烈に存在するだろう。何とか法案が廃案になってくれと、天に祈る気持ちで深刻に日本を見つめているだろう。中国の人々の方が、日本のわれわれよりリアルで透徹した認識と直観を持っている。

c0315619_1693683.jpg毎年、戦争をふり返る季節になると、戦争を体験した人たちが重い証言をする。どれほど辛く悲しいことが起きたか、過酷で壮絶な人生を背負ってきたか、その過去を語って教えてくれる。一人一人の言葉が痛切に迫る。それを聞いて心を揺り動かされるとき、想像をはたらかせなくてはいけないのは、中国大陸にも同じような人々がいるということだ。戦争で辛く苦しい目に遭った人々がいて、周囲に重い言葉で体験を語り伝えているということだ。証言を聞いて心を打たれている、われわれと同じ世代の者がいるということだ。中国の人々の戦争体験は、日本と違って、B-29が空襲で焼夷弾を落として、というものではなかった。沖縄の地上戦よりもさらに苛烈で残虐で非道な地獄が出来し、それによって2000万の罪もない人々の命が奪われている。米軍は日本を占領したとき、日本人から財産を強奪することはしなかったが、日本軍はそれをやり、中国人から奪い尽くし、それが例えば児玉機関の財宝となり、戦後の自由民主党結党の資金となった。中国で侵略戦争の体験者が悲惨な事実を語っている。それを耳にした人々が、今回の日本の戦争法案をどれほど恐ろしく感じていることか、われわれは想像力を持たなくてはいけない。300万人が死んだ日本で、戦争の記憶は生々しく伝えられ、両陛下の言葉や行動となっている。中国では2000万人なのだ。中国との戦争という問題と向き合おうではないか。過去と現在と。社会科学しようではないか。法案論議で欠落しているのはその問題だ。

憲法論議だけでは足りない。安保政策の検討と判断には歴史認識が必要だ。中国と日本の関係を真剣に考えることが必要だ。


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by yoniumuhibi | 2015-07-29 23:30 | Comments(2)
Commented by 愛知 at 2015-07-30 01:09 x
今回の記事、終段、殊更、心に、身に染みました。不肖の身乍ら、衆院での南沙諸島タブーは異様に映りました。ナチスのように嘘八百の危機を煽っておきながら、衆院での談合タブー。50年代、当地にも隣県にもあった米軍基地。米軍機が墜落し、書くのも憚られる米兵による近隣女性への暴行。その基地を「追い出した」のが、その当時の大学生や市民、新聞社。「追い出した」はずの米軍基地を岸が一手に押し付けた沖縄。沖縄は当地域の50年代のまま。為政者の悪辣さは、さらに悪化。誰かを踏み付け、置き忘れての戦後は民主党政権でも同じだったわけですね。おそらく多くの人も疑問に思われているはずの南沙諸島タブー。個人的にはホルムズ行く途中、偶発的に南沙諸島で衝突がというシナリオかと疑っていました。そうでも考えないと、ホルムズの例外をやたら強調することが、おかしいと思われて。本来、70年談話とかは、五日市憲法草案のように広く市民、地方自治体などで、これまで議論してくるべきものだったのでしょうね。祖父戦犯ゆえ戦争加害者の子孫との自覚はあったはず乍ら、読んできた本に偏向があったと思います。申し訳ないという思いは沖縄と南洋、中国飛び越えミャンマー(ビルマ)方面に向いていました。正直申し上げて陸軍が阿片栽培まで含め、中国で残虐非道を尽くしたことは浅はかな知識としか持ち合わせていませんでした。まるで国粋主義者のごとく単なる知識であり、心に浸みていませんでした。今後は中国の犠牲者にも手を合わせ乍ら勉強したいと思います。参院でも御ブログ終段ご教授の観点からの真摯な議論を期待します。安倍はでたらめ。先制攻撃すると言ったり、軍事活動しないと言ったり。速記おこす人の頭が混乱するでしょう。今日も夕方デモ行きましたが、もっと人数、増えてほしいです。
Commented by 長坂 at 2015-07-30 12:22 x
アーミテージ・ナイレポートでお馴染みのCSIS。防衛産業のみならず日本政府からも多額の資金援助を受けているシンクタンクと7/25のThe Nationの記事に書かれてますが、、、
殆どの日本人が反対している"安保法制"のバックにいるアメリカの組織を、私達は知らぬ間に血税でサポートしてたんですねぇ!お金払って「ああしろ、こうしろ」と言って頂き(見上げた奴隷根性)、自民だけでなく民主の先生方もお世話になっている、叩いたらキノコ雲級のホコリが出そうな戦争推進組織。「議事録が残ってしまう」なるほど‼

2週間程前、土曜に「731部隊の真相解明」、日曜に「北朝鮮在住の従軍慰安婦」の勉強会に参加。もう精神的にいっぱいいっぱいで、同じ週末の「ジョン・ラーべ 南京の真実」の上映会は無理でした。70年経っても日本軍の戦争犯罪の全容が明らかになっていないのに、又中国相手に戦争したいというシンゾー達に「良心」とか「人として」とか、そんな言葉は存在しないんでしょう。


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