コンセンサスの二段階革命 - 恒常性のバランス回復と四つの宿題の解決

c0315619_1515817.jpg革命とは、単に国家権力がある勢力から他の勢力に移行する変動をいうのではなく、その社会を生きる人々の価値観や世界観が根底から変わる転換を伴うものだと、丸山真男がどこかで言っていた。安保法制をめぐる論議が始まって、もう2か月近くになるが、眼前の政治状況を見ながら気づくのは、右と左の対立が激しくなっている事実である。法案を成立させようとする右と、それを阻止しようとする左の対立が甚だしい。テレビ報道では、TBSとテレ朝は明確に撤回・廃案を求める論調に徹していて、法案に反対する世論を代弁しリードする形になっている。逆に、NHKやフジの番組は政権の思惑に従った編集が際立っていて、法案成立というゴールに向かうべく必死に世論工作している姿が看て取れる。反対派が多数であり、賛成派が少数なのだけれど、内閣支持率は未だに40%から50%もあり、歴代内閣と比較してはるかに高く安定した位置にある。右の岩盤の固さと強さを思い知らされる。TWのTLが最も端的に今の政治情勢を反映していると思われるが、右と左の間の中間の意見というものがない。安倍晋三に対する強い批判とその逆の強い支持とがTLに交互に現れ流れていて、批判派の言葉は拒絶と憎悪そのものであり、逆に擁護派は批判派に対する罵倒(左翼叩き)で埋めている。日本の政治がこれほどくっきり二つに分かれたのは久しぶりだ。



c0315619_152751.jpg法案をめぐる意見の分かれ方の特徴はさらに他にもあり、具体的に言えば、国会の中と外とで温度差が際立って違っていることが挙げられる。国会の中は法案に対して許容的であり、野党も含めて宥和的であり、法案に対する態度がルーズであること著しい。法案と安倍晋三を拒絶していない。これは、改憲に賛成の議員が8割もいて、一般の世論と大きく隔たって偏向している事情が影響している。逆に国会の外へ行けば行くほど、法案に対する反対の声は激しく熱を帯びていて、国会の外では法案反対は国民的合意になっているとさえ言っていい。憲法学者のほとんどが反対の立場に立ち、法案に反対する学者の数も8000名を超えた。それと、もう一つの特徴は、世論調査に示されているように、この政治では女性と男性の対立が際立っている点が見逃せない。毎日の最新(7/6)の世論調査では、法案の今国会成立に賛成か反対かの問いに対して、男性の賛成が33%に対して女性の賛成は22%と目立って低い。この傾向は内閣支持率にもあらわれていて、支持するは、男性で48%だが女性は36%となっている。朝日の調査でも、今回の内閣支持率は全体で39%だったが、女性の支持の落ち込みが大きく、前回の42%から34%に激減している。この変動は非常に大きい。簡単に言えば、この1か月の安保法制の論議で、日本の女性は安倍晋三に対して支持から不支持に転じた。

c0315619_1701869.jpg60年安保のときの歴史を見ると、左右の政治勢力が激しく衝突していることが分かる。今では半ば想像もできないことだが、棍棒を持って武装した右翼集団が国会周辺でデモをしている市民に襲いかかり、多数を負傷させるなどという事件が起きている。児玉誉士夫に動員を依頼したのは岸信介だった。当時の政治は生々しく暴力的だ。今回は、そういう深刻な激突の事態が起きるとは誰も予想していないが、ネットの中ではバーチャルに激突的状況になっていて、何か容易ならざる緊張した空気ををひしひしと感じる。大きな価値観の対立が起きていて、その鬩ぎ合いが進行していて、どこかで爆発に至るのではないかという予感を禁じ得ない。安倍晋三の支持率40%というのは、奇妙なほどとても高い数字だ。安倍晋三というシンボルを担ぎ、この機に念願の改憲を果たし、靖国を国営化し、武力攻撃によるPRC解体を果たそうとする人々、われわれの目からは狂気の集団だが、いわゆる右翼の数はきわめて多い。この価値観は、この20年間にしっかり教育されて根づいてきたもので、日本人の多くの信念になってきたものだ。日本人は右傾化してきた。マンガ右翼のブームと新しい歴史教科書の運動によって。北朝鮮拉致事件の絶えざるプロパガンダと刷り込みによって。靖国参拝の挑発から惹起させた中国の反日デモと尖閣問題の謀略によって。20年間は国民的な右翼教育の時代だった。

c0315619_153442.jpgその結果、先進国の中では信じられないほど右翼の人口密度の濃い国家が出現してしまった。それはまた、反知性主義の国ではないかという反省の声もある。村山談話が発表されたのは、今から20年前の1995年だったが、当時を振り返って、談話の内容に反発する声というのはほとんどなかった。あったのは、メッセージの中身はあれでよいとしても、もっと格調高い本格的な宣言の形式を整えるべきだという声で、総理大臣の個人談話では格落ちで拍子抜けだという批判だったような気がする。中身に対するイデオロギー的な反対論の存在は記憶にない。マスコミ報道でも、そんなものは全く紹介されなかった。この20年間で、いかに日本の国が醜悪に変わってしまったことか。そして、この20年間の日本社会の変化が国民にとってプラスだったのか、成功だったのか否かが、今、深層のところで問われているように思われる。生命体がホメオスタシスの原理を持っているように、社会もまた、行き過ぎによって自らが破滅することを警戒する均衡回復の生理メカニズムを持っていて、本来的な健康状態に戻ろうという運動が起きるのかもしれない。前回、もしも安保法案を撤回に追い込み、安倍晋三を退陣に追い込む市民革命が起きた場合のことを考え、オルタナティブとして立憲主義の新政権・新政府のデザインを素描、提案してみた。今回、もう少し政策の中身をつける試みをしてみたい。

c0315619_1525341.jpg市民革命は飛躍のときであり、未来が向こうの方からこちらに駆け寄ってくる瞬間である。と同時に、過去に戻る瞬間でもある。過去の政治において人々が要求して運動したもの、実現しようとして果たせず挫折したもの、課題として残ったものが再び表面にあらわれ、それを人々が掴み取る瞬間なのに違いない。1960年の市民革命は、1945年の8.15革命で約束され、市民の未来として提示されたものを、そして、約束されながら反故にされ台無しにされつつあったものを、市民が実力で体制化した政治だった。15年かけて、文書(日本国憲法)だった政治体制を、揺り戻しのない現実にしたものである。われわれは、どういう過去に戻るのだろうか。そう考えたとき、不意に「コンセンサスの二段階革命」というコンセプトが思い浮かんだ。まず、社会的コンセンサスを2009年9月にまで戻すことが第一段階の革命である。わずか6年前だ。時計の針を6年前に戻す。大きな柱は何本かある。第一の柱は、報道の自由である。専修大の「マスコミと法」の専門家で、清水英夫の教え子である山田健太は、NEWS23の映像コメントの中で、自民党による報道への介入が異常にひどくなったのは10年前からだと言っていた。10年前というのは、小泉政権での官房副長官と幹事長、つまり安倍晋三が張本人だということだ。安倍晋三が権力を握る以前は、日本のマスコミは今のようにグロテスクではなかった。

c0315619_1524049.jpg第二の柱は、沖縄問題と日米地位協定の改定である。6年前、まさに未来が近づいた瞬間があった。あのとき、民主党は普天間移設の国外県外を公約に掲げ、マニフェストで日米地位協定について「改定を提起する」と書き、民主・社民・国新の連立政権合意でもそれを確認している。日米地位協定の中身と改定の必要がマスコミで詳しく報道されたのは、1995年の米兵少女暴行事件の後は、この2009年の政権交代のときだった。気運が盛り上がった。そして、あえなくクーデターで頓挫した。日米地位協定の改定は、もうそろそろ実現してよいときで、未来が訪れてよい時期である。何度も何度も、言われながら、果たせないままの課題であり続けている。思えば、2009年9月の頃の政治の空気というのは、今の日米同盟真理教の絶対的支配が嘘のように、日米関係に対する国民の認識と展望が左に傾いたときだった。日米中二等辺三角形の外交論は国民的コンセンサスとなり、マスコミ論者でそれに悪口を言う者は一人もいなかった。私は、市民革命が成功して政権の性格が大きく変わり、ホメオスタシスの正常化バネで恒常性を回復させることができたら、東アジア(特に韓国)に対する村山談話と同じような、日本国政府による対沖縄宣言を正式に起草すべきだと考える。沖縄に対する150年の歴史の謝罪と反省を、政府として正式に文書にして宣言すべきだ。このラディカルなアイディアは、まだ誰から出ていないけれど。

c0315619_15173614.jpg第三の柱は、2009年の政権交代の原動力となったところの反貧困の政策である。この問題について、時計の針を6年前に巻き戻さないといけない。2009年の政権交代のときの選挙で最も重要な争点となったのは消費税だったが、それ以上に深刻に問われたのは格差と貧困の問題であり、ワーキングプアの問題だった。そして、小泉改革での「聖域なき構造改革」の残酷に対する憤慨が、国民をして政権交代に踏み切らせる大きな政治動機になった。今、安倍晋三は、そのときのリベンジとばかり、堂々と「聖域なき」の言葉を掲げて社会保障の歳出削減に血道を上げ、マスコミはそれを支持して後押ししている。6年前は、一般会計と特別会計を統合し、無駄を削減する財政改革によって社会保障の財源を確保するという政策がコンセンサスになっていた。それがクーデターで覆され、余分な財源などないというになり、官僚の天下り法人の増殖と放蕩には一切メスが入れられなくなっている。が、その一方で、ピケティのセオリーがブームとなり、富裕層から徴税して貧困層に分配するべきだという再分配論の政策が注目されるという新しい状況も出てきている。先月、県営住宅の家賃を払えなくなった母親が、強制退去の日に娘を絞殺した事件があった。8年前とかだったら、このニュースの衝撃はどう伝えられただろうかと、NHKのワーキングプアを思い出しながら考える。コンセンサスを取り戻さないといけない。不条理への怒りを取り戻さないといけない。

第四の柱は、原発の再稼働停止と全基廃炉決定、すなわち脱原発である。2011年からの4年がかりの政策課題だ。もういい加減に決めないといけない。無意味な先送りや反動はやめて、歴史を正しく前に進めないといけない。自然エネルギーの最先端技術国となって世界の環境問題をリードすることだ。以上、4本の柱を市民革命の第一段階の課題として整理し提起したい。原発の問題は4年前からだが、残りの三つは6年前に戻ることである。6年前の政権交代と三党合意時のコンセンサスに戻ることだ。これが第一段階。第二段階は、1995年以前に戻ることである。河野談話や村山談話が当たり前に出た日本、その時代の健全な精神と意識を取り戻すことであり、それを担保する健全な政治システムを取り戻すことだ。すなわち、諸悪の根源である山口二郎の「政治改革」を揚棄・清算し、元の中選挙区制に戻すことである。


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by yoniumuhibi | 2015-07-07 23:30 | Comments(5)
Commented by NY金魚 at 2015-07-08 08:20 x
「拒絶と憎悪」派として、上にTBさせていただきました。NYにも本格的な暑気が近づいていて、怒りが「焚書隊」の火炎放射器からの炎のように燃え上がります。おっしゃるようにウヨクのほうも、憲法学者の離反などで怒り心頭に達していて、それが新聞弾圧の言論となって現われているわけです。当方ブログに、現政権の行なっているマスコミへの弾圧は、2009年におなじブラッドベリの小説で日本のマスコミ批判をした時期と、くらべものにならないほど圧倒的だ、と書きましたが、その6年前の状況に戻すという発想はありませんでした。ご慧眼恐れ入りました。
>市民革命は飛躍のときであり、未来が向こうの方からこちらに駆け寄ってくる瞬間である。と同時に、過去に戻る瞬間でもある。<
いいですねぇ。都知事選のときの年寄り軍団(失礼!)から、SEALDs などの若い力が結集しはじめ、つぎの市民革命にいたる道が観えてきたのは、ぼくのアタマのなかだけのことでしょうか。楽観はできませんが、なにか大きなものが動きはじめている予感があります。
Commented at 2015-07-08 11:31 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by 一介の医者 at 2015-07-08 21:10 x
いつも危機感を持って本ブログを拝見しております。
よくわからないのは、どうしてそこまで安倍晋三が戦争法案にこだわるか、本当の根本的理由です。私見では、アメリカとの密約のため、憲法改正の布石のため(今は無理なので、法案で既成事実を作って次の機会を狙う)と思いますが、所詮は祖父岸信介を超える実績をのこしたい単なる私欲のため、と思ってますが・・。この根本的な理由を解明すれば、安倍政権に対するさらなる攻略法も出てくるのではないでしょうか。
日本が戦争を永続的にしない国家であることを願っています。
Commented by 愛知 at 2015-07-08 23:58 x
第五の柱に2006年改悪(最悪)の「教育基本法」を加えて頂けないでしょうか。公聴会で市民に金を握らせ、世論操作してできた法律がなぜ有効なのでしょうか。当時、小学校1年生だった子が、もう高校1年生ですか。それに合わせて選挙権の年齢引き下げたのでしょうね。平和憲法を誇りと思い、それを尊重し、守って下さった先輩、先人の比率を引き下げようという魂胆が見え見えですね。学生時代、競輪場で警備員のバイトをしていました。あれは、共催自治体与党による世論対策でした。選手が八百長に甘く、ファンの目が肥えていて八百長に厳しく、暴動騒ぎが続いていましたから。開催日には機動隊員がたくさん来て。1日中、やることないから、みんな待機室で寝たり、マンガ読んだりして。バイトのローテで、機動隊待機室警備もありました。待機室の前で交代で立ってただけですが。マル1とかマル2とか、暴動を扇動したお客さんの顔を覚えさせられ。その動向をいちいち自衛警備隊本部(オール警察天下り)に報告させられ。騒ぎ出したら、すぐその本部に誘導しないと。複数の警備会社に分割で請け負わせ、競争させ。マル1なんて見逃すと、正社員は気の毒でした。人手不足だったから叱られないバイトは気楽でしたが。今だと学生バイトから先に処分するんでしょうね。競輪場の現金輸送なんて、学生どうし、襲われたら、全員、別の方向に走って逃げようと相談していました。今も儲けの少ない現金輸送は超ブラック・バイトのようですが。御ブログに接する度、なぜか懐旧の念に。ウヨクの考える統制なんて、ずっと同じで、競輪場から地球の裏側に広がっただけなんでしょうね。子細な体験で恐れ入ります。「教育基本法」も「戦争法案」も画策する側は姑息なだけ。「生」に真摯に向き合ったことなく、人の命を虫けら扱い。絶対に戦争法案、辺野古、原発、すべてSTOPさせなければ。
Commented by 私は黙らない at 2015-07-09 04:47 x
あきれて物も言えない。アベ君とアソウ君が不良になぐりかかられという話。どこまで国民を愚弄したら気が済むのか。「国民の理解が進まない」と、今度は理解が進まないことを国民のせいにする。堪忍袋の緒が切れそうだ。文化芸術勉強会の件といい、あまりにあきれた行状がこれでもかと繰り返されると、感覚が麻痺し、この異常事態さえ異常と感じられなくなり、思考することをギブアップしてしまいそうだ。そうなったらアベの思う壺だ。
今の日本の政治、絶対におかしい。国民の大半が反対していることが、どうして法律として成立してしまうのか。永田町の論理なんか理解できないし、理解したくもない。所詮、カネと権力か。いざ戦争が始まったって、貧乏人の子供を戦場に行かせて、自分たちはのうのうとしていられるということか。


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