南シナ海での「重要影響事態」 - 具体論を詰めて暴露しない散漫な野党質疑

c0315619_13522214.jpg昨日(6/1)の衆院特別委の審議を報じた朝日の1面記事を見ると、安倍晋三が「重要影響事態」の範囲を例示して、「中東やインド洋での武力衝突が、この事態に当てはまるとの認識を示した」とある。「重要影響事態」とは、これまでの「周辺事態」から地理的な制約を取り払って、地球規模で米軍や他国軍を支援できるように新設した概念だが、国会で初めて具体的な地名を口にした。玄葉光一郎の質問に答えての答弁で、「仮に中東、インド洋などの地域で深刻な軍事的緊張状態や武力衝突が発生した場合で、わが国に物資を運ぶ日本の船舶に深刻な影響が及ぶ可能性があり、かつ米国等がこうした事態に対応するために活動している状況が生じたときは、重要影響事態に該当することがあり得る」と述べている。この直後に、玄葉光一郎は南シナ海はどうかと論点を振り、南沙諸島で中国軍とフィリピン軍・米軍との間で武力衝突が起き、中国軍が海域に機雷を敷設した場合は「存立危機事態、重要影響事態」になり得るのかと質問した。それに対して安倍晋三は、わが国が輸入する原油の8割が南シナ海のシーレーンに依存しているのは事実だが、迂回路がないホルムズ海峡に対して、南シナ海には迂回路があるので、ホルムズ海峡の状況とは大きく違っていて想定し得ないと答えている。



c0315619_13523575.jpgこの安倍晋三の答弁は、先週(5/28)の委員会でも登場したもので、民主党の緒方林太郎が同じ質問をし、安倍晋三が同じ答弁を返している。これだけに注目すると、南シナ海での「事態」は特に想定してないように聞こえるが、実はこれは玄葉光一郎の質問のミスであり、「機雷」を問題にしたから、ホルムズ海峡とは違うという答弁が返ってきたに過ぎない。つまり、玄葉光一郎の質問が幼稚で不注意であり、南シナ海の問題を「機雷」に特定した質問にしたため、自衛隊が直接に武力行使する「存立危機事態」には該当しないという答弁にスリカエられてしまったのである。結論を言えば、安倍晋三は、南シナ海について「存立危機事態」は考えてないが、「重要影響事態」は考えていて、このことは5/28に江田憲司への答弁の中で明確に言っている。日経がその質疑応答を見逃さず記事にしていて、安倍晋三は、「様々な出来事が起きている中で具体的に法律の対象にするかは言及を控えるが、可能性があれば法律を使えるようにする」と発言した。この「法律」というのは、「重要影響事態法」のことである。つまり、朝鮮半島有事や台湾海峡有事を想定した「周辺事態法」を「重要影響事態法」に変えるのに伴って、南シナ海有事に「重要影響事態法」を適用し、米軍(等)への後方支援を自衛隊が任務するという意味に他ならない。「機雷」で「存立危機事態」を問題にすれば、「それはない」という返事になる。

c0315619_13524479.jpgが、少し考えれば分かることだが、南シナ海での「重要影響事態」に自衛隊が出て行き、アクシデントにせよ何にせよ、そこで中国軍と衝突という事態になれば、すぐに両軍の戦闘が始まって、喋々されている「存立危機事態」を飛び越えた本格的な戦争に発展することは確実だろう。間違いなく、尖閣での両軍の作戦行動に飛び火する。中国軍にとっては南沙諸島は自国の領土であり、12カイリは自国の領海である。海自の艦隻がそこに侵入することは主権の侵害であり、武力による不当な威嚇と侵略だ。実際に米軍との間で南シナ海有事が発生したときは、自衛隊の行動は米軍を支援する同盟軍による兵站作戦だから、当然、敵を撃滅する防衛行動で対処しなくてはいけない。米国が日本に要請し、日米防衛ガイドラインの項目に入ったのは、自衛隊によるシーレーンの偵察監視活動(Ⅳ-A-3:平時の海洋安全保障)である。具体的には、現行の東シナ海での任務を南シナ海まで広げ、中国の潜水艦の動きを哨戒機で探知追跡することだ。昨日(6/1)の中谷元の答弁では、南シナ海で自衛隊が警戒監視の任務を行うことは「法的に許されている」とある。この法律が何かはよく分からない。「重要影響事態法」の中に、平時での米軍支援目的の警戒監視が入っているのだろうか。専守防衛の自衛隊が、南沙諸島の海域に、有事ではなく平時に出張って警戒監視活動をすることが、具体的にどのような法的根拠で正当化されるのか、私には不明なので、野党に審議で問い質してもらいたい。

c0315619_13525484.jpg国会の審議をリアルタイムにテレビ中継で見ていると、何が議論されているのか本当に分かりにくい。が、マスコミはそれなりに注意深く聞いていて、議論の要点を整理して記事にしてくれる。新聞記事を見て、そういう話だったかと納得する。政府側が何を考えているのか、法案の狙いがどこにあるのか、記者たちは関心の的を絞って答弁を把握し、安倍晋三や中谷元が曖昧にボカす内実を探り当てて記事に書く。そのことで、法案の輪郭や真意が浮かび上がってくる。けれども、そうしたマスコミの営為は、同時に、裏腹の問題として、法案が想定する自衛隊の(恐るべき)未来像が国民の間に情報として届き、理解され、共通認識として根を下ろすという側面もあることに注意しなくてはいけないだろう。政府(安倍晋三や中谷元)は、明確にこうすると断言しておらず、責任ある説明を国民の前に示していないのに、法案の中身が既成事実として浸透し、国民の認識が「未来」を先取りしてしまい、そのことによって憲法9条があるという基本的な現実が忘れられ、薄められていくという悪い方向に導かれるという問題だ。憲法9条の条文や、専守防衛の原則や、その原則の下で積み重ねられてきた過去の政府答弁からの自衛隊への縛りとは全く無縁で真逆の「未来」が、国会で語られ、マスコミが記事にして報道している。それらの記事の大半は、ニュートラルな主観的立場が心がけられていて、法案や政府を不当(違憲)として批判する視角からのものではないのだ。

c0315619_1353733.jpgマスコミの記者たちは、南シナ海の問題に照準を合わせて国会論議を見守り、それを報道で整理してよく伝えている。国民もマスコミも、南シナ海の問題に関心を寄せ、政治的立場の左右の別なく安保法制をその焦点に引きつけて注視している。当然のことだ。が、報ステのショーン川上が指摘していたように、政府も、野党も、新安保法制が南シナ海の平時や有事に具体的にどう適用され、どう機能するかについて、互いに非常に慎重というか、奥歯にものが挟まったような、腫れ物に触るような恐る恐るの感じで、なるべく具体的なシミュレーションは避けようという態度に徹している。政府(安倍・中谷・岸田)がその姿勢になるのは分かるのだが、野党まで一緒になって、すなわち中国を刺激する結果に導かれることを恐れて、南シナ海での具体論を詰める審議を避けている。ひたすら不誠実な「すり替え」と「ごまかし」と「はぐらかし」で逃げ、質問とは無関係な喋りで審議時間を潰そうとする安倍晋三に対して、野党議員までが問題を婉曲に尋ねて及び腰の問答にするため、南シナ海の「事態」をめぐる言葉はきわめて曖昧なまま委員会室の宙に霧散して漂ってしまう。日中戦争がかかった重大な問題であり、軍事行動の国会審議なのに、野党が国民の関心を率直に代弁せず、法案が隠している「未来」の真実を暴露しようとしない。この法案は、単に集団的自衛権の行使を認めた法体系に編成替えしたというだけでなく、近い将来の具体的な戦争が予定されている。

c0315619_13531713.jpgここで、これまで何度も紹介して注意を喚起してきたところの、昨年12/19の報ステの特集映像をあらためて確認しようではないか。新顔のジャパン・ハンドラーとして日本のマスコミに登場したマイケル・オースリンが、南シナ海での紛争事態について、「(そこは)米国が介入しないと決断をした地域で、日本の単独の参加も含まれるかもしれない」と言っている。また「(戦後)日本は空爆の経験がない。航空自衛隊や陸上自衛隊を戦闘状況で派遣したことはない。もし日本が貢献できるのであれば素晴らしいことだと思う」とあっけらかんに言っている。この映像を見れば、新安保法制が射程に入れている「事態」、すなわち戦争がどういうものか、疑う余地もなく一目瞭然というものだろう。安倍晋三は、6/1の答弁で、「重要影響事態」が発生する場所として中東とインド洋のシーレーンを例示したが、そこでは米軍と軍事衝突を起こす勢力はない。日本のシーレーンで米軍が軍事衝突を起こす国と場所は、中国と南シナ海しかない。マイケル・オースリンは本音を言っていて、要するに、きっかけは米軍が作ってやるから、あとは自衛隊が中国軍と存分に戦争しろと言っているのだ。繰り返すが、南シナ海で、言われるところの「存立危機事態」がそのまま起こることはないのである。武力行使の「新3要件」に該当する経済的事由が南シナ海で発生するわけではない。「重要影響事態」から始まるのだ。「存立危機事態」というのは、集団的自衛権行使を正当化するために作った大義名分で、また、ホルムズ海峡の「事態」を強調して宣伝するための方便にすぎない。

c0315619_13532841.jpg荒唐無稽で論外な詭弁だけれど、一応の理屈としては、「新3要件」の看板は、集団的自衛権の発動による武力行使を正当化するロジックになっている、と、そう言えるかもしれない。杜撰で破綻している説明だが、ホルムズ海峡の機雷掃海(経済的事由)が説得力の材料になっている。だが、「新3要件」がどう「重要影響事態」にかかるのか、なぜインド洋で米軍が始めた戦争に自衛隊が兵站支援する必要があるのか、そのような自衛権の発動・行使を日本がしなくてはいけないのか、3日間の特別委の審議では説明されなかった。広いインド洋だから、シーレーンと言っても細い海峡があるわけではなく、航路の選択と迂回は無限に可能である。そのようなシーレーンとその防衛が、自衛権の行使(戦争)を要件化する事由になるはずがない。報ステの映像を確認していただきたいが、米国側が日本の自衛隊に求めているのは二つで、南シナ海での中国との戦争(コンバット)と、イスラム国を軍事壊滅した後のイラクでのPKO活動である。ホルムズ海峡での機雷掃海は要求していない。当然のことだが、米国はそのような軍事的事態を想定しておらず、イランとの戦争を計画してないからだ。だから、ホルムズ海峡の機雷掃海というのは、「新3要件」を合理化するためのフィクションであり、集団的自衛権行使と自衛隊の海外派兵を正当化する方便であり、そこに国民の注意を向けさせて安保法案を国会で通すための囮の毛鉤だ。法案が国会を通れば、ホルムズ海峡の話はすぐに消えてなくなるだろう。

国会論戦では、憲法9条の存在がすっかり消えていた。本来、憲法9条の原則があり、周辺事態法にせよ、イラク特措法にせよ、憲法9条の制約から引き出された立法時の政府答弁が山のようにあるはずで、それが野党の質疑での武器となり、集団的自衛権行使の新立法を粉砕する根拠を提供していたはずなのだが、野党側がそれを精査して論戦に応用する努力をしていなかった。


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by yoniumuhibi | 2015-06-02 23:30 | Comments(4)
Commented by 私は黙らない at 2015-06-03 03:52 x
 素朴な疑問。
 今、国会で議論されている安保関連法案は、憲法違反にならないのですか?憲法は最高法規と学校で教わったと思うのですが。うろ覚えですが、少し前、テレビで亀井さん(だったと思う。)が「こういうことは本来憲法改正してからでしょう、手段が姑息だ」と言ってました。国民が原告になって、憲法違反で訴えることはできないのですか?
 三権分立が正常に機能しているのなら、司法は国策に影響されてはいけないはずです。でも、もしかして、もはや司法も正しく機能していない?
Commented by 愛知 at 2015-06-03 08:54 x
私は黙らない様、2015年5月29日、日本弁護士連合会は「安全保障法制等の法案に反対し、平和と人権及び立憲主義を守るための宣言」を決議しました。「憲法前文及び第9条が規定する徹底した恒久平和主義は、この悲惨な戦争の加害と被害を経験した日本国民の願いであり、日本は二度と戦争を行わないという世界に向けた不戦の誓いの表明である。これまで幾度も9条を改正しようとする動きがあった中で、今日に至るまで恒久平和主義を堅持してきたことがアジアのみならず世界の人々の平和国家日本への信頼を育んできた。ところが戦後70年を迎え、日本国憲法の恒久平和主義に、今大きな危機が迫っている。今般、国会に提出された安全保障法制を改変する法案は、憲法上許されない集団的自衛権の行使を容認するものであり、憲法9条に真正面から違反する。」「1931年9月18日、日本軍が謀略により起こした柳条湖事件を口実に開始された中国侵略は、1937年7月7日の日本軍演習中の偶発的出来事から生じた盧溝橋事件を機に本格化する。日本はアジア・太平洋地域への侵略により、同地域の多くの人々に重大かつ深刻な被害を与え、約1900万人の戦争犠牲者を出したとされており、数々の重大な人権侵害を引き起こした。日本軍の多くの兵士や関係者も、戦死し、病死し、餓死していった。日本国内でも、沖縄における地上戦、広島・長崎への原爆投下、大空襲等により、膨大な数の人々が被害を受けた。我が国の戦争犠牲者の全体数は約310万人といわれている。」「内閣総理大臣、国務大臣及び国会議員は憲法尊重擁護義務(憲法第99条)を負う者として、充実した国民的議論が保障されるように、必要かつ十分な情報を提供し(中略)国民に対して十分な説明を行わないまま、不透明な状況下で既成事実を積み重ねてきたのである」日弁連もパリ不戦条約~国連憲章~現在の日本国憲を「世界の平和主義の系譜での中でも類がない徹底した恒久平和主義を基本原理」と定義。読みやすく明瞭な9頁ですので、ぜひ日本弁護士連合会のホームページでお読み下さい。」
Commented by バンシルー at 2015-06-03 11:07 x
上記コメントでおっしゃる通りの疑問を私も持ちました。憲法9条があるのに何故、許される事のないはずの安保法制の審議が公然と行われているのか。野党もそれをふまえた上での質問で、この審議のうやむやにされそうな点を暴いて欲しいのに、むしろ法案に賛同した上で質問に立っているような印象を与える方もいらっしゃる始末。どうしたのですか?裏取引でもあったんですか?もう諦めていらっしゃるのですか?と、問いただしたくなります。明確に反対しないのは、賛成したのと同じだと考えるのは乱暴でしょうか。

基地が乱立する地に生活する、いわゆる子育て世代。今の政治の状況を、まるで崖に立たされるような気持ちで見ています。
この法案がそのまま採決されてしまったら、再度この地は盾にされてしまうのでは?との懸念がぬぐえません。
友人達は生活で忙しく、安保法制の事も殆ど知らない様子です。笑顔で子育てに励む彼らの心に、何か重い重い負担を背負わせてしまうのではないかと、この話題は話せないでいます。

小さな子ども達を守る義務が大人にはあり、子どもや若者を大人のエゴに巻き込むべきではないと思うのです。どうかこれからも戦争をしない日本でいられますように。宝物の憲法9条が子ども達世代までもしっかりと守られますように。

以下引用
   第二章 戦争の放棄

第九条  日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
○2  前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

引用終了

上記に憲法9条を引用しましたが、ネットにうとすぎて適切かどうかが分かりません。不適切な可能性があればブログ主さま判断でこのコメントは非公開として下さい。毎度長々としたコメントで申し訳ありません。いつもありがとうございます。
Commented by Columbites at 2015-06-03 13:14 x
松下政経塾関係者の無能ぶりには今さらながら驚かされます.「南シナ海に中国海軍が機雷を敷設する」という質問の設定自体がナンセンスです.あり得ません.本来なら「存立危機事態にあたらない」という首相答弁を言質にとって,「ならば,米国が南シナ海に自衛隊の出動を求めても応じないという理解でよいか?」と切り返せたはずです.極論すれば,日本は南シナ海の問題に自ら首を突っこむ必要は全くありません.
だいいち,領有を巡って中国と鋭く対立している(と日本では報道されている)フィリピンとベトナム両国が,いちはやく中国主導のAIIBに加盟したのは何故ですか?危機を煽る者は,まずこの事実をきちんと説明すべきです.東南アジア諸国のしたたかな二枚腰外交こそ参考にすべきだと思います.


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