安保法制の委員会審議 - 志位和夫の秀逸な議論と今後の法案の行方

c0315619_1755343.jpg一昨日(5/28)の特別委での志位和夫の質疑は素晴らしかった。ネットに賞賛する声が多く上がっていたが、NHKの国会中継を見逃した者はぜひ録画を確認していただきたい。審議全体のトリを務めた志位和夫の持ち時間は60分だったが、時間はあっと言う間に流れ、30分くらいの短さだったような感覚だった。退屈しないどころか、完璧な講義が目の前で展開され、まさに溜飲が下がる思いをさせられた。志位和夫の質疑には構成がある。入念に練られた設計があり、起承転結のストーリーとドラマがある。持ち時間を考え、相手の回答を予測想定し、問答の中で政治の真実を明らかにする見事なシナリオがある。討論は、最初から最後まで志位和夫が主導権を握り続け、政府側を窮地に追い込み、脱線や混乱を許すことなく、目的とする最後の着地点の結論に持って行く。昨日の質疑は全体で四つの部分に分かれていた。第一部はISAFに参加したドイツ軍の話で、戦後初めて憲法解釈を変え、NATOの域外に派兵したドイツ軍が、本来は治安維持と復興支援を目的とした活動が、現地で戦闘に巻き込まれ、55人の犠牲者を出しただけでなく、多数の民間人を誤爆で殺傷する事態に陥り、ドイツ社会に深刻な傷痕を残した事実を紹介。この法案がこの国の将来にもたらす禍根をリアルに想像させ、議場の空気を一気に静粛にさせた。 



c0315619_176460.jpg第二部は、米国の先制攻撃と国連による反対決議の問題で、1983年のグレナダ侵攻、1986年のリビア爆撃、1989年のパナマ侵攻の三つの例を上げ、米国が過去も現在も、どれほど国際社会から反対されても自国の都合で戦争を始め、先制攻撃の戦争を正当化する政策をとり続けていて、日本政府がそれを認めてきた過程を説明した。今回の集団的自衛権の行使を法制化した法案とその執行が、実際には米国による先制攻撃の戦争への追随を招く真実を喝破したもので、これまで、1年以上にわたる集団的自衛権をめぐるマスコミ論議で語られてない新しい視角の提示だった。議場はさらにしんとなった。そして、第三部のトンキン湾事件の謀略と第三部のイラク戦争の大量破壊兵器の過誤に話を進め、二つの戦争が米国の陰謀によって惹起され世界が欺かれたこと、正義の戦争という偽りの仮面の下で侵略戦争が行われ、同盟国が関与加担する結果となったことが明らかにされた。まさに、集団的自衛権の問題を考える上で重要な現代政治史が紹介され、入門編のコンパクトな基礎知識が提供された瞬間だった。本来、こうした志位和夫の説明は、テレビの報道番組が特集で制作しなくてはいけないもので、リベラル系の学者が講演等で普及させ、一般の共通認識にしなくてはいけないものだ。昔の朝日新聞なら、2面見開きで特集記事を組んだことだろう。

c0315619_1761478.jpg志位和夫の持ち時間は60分だった。最近の国会審議はほとんど見ないけれど、常に思うことは、共産党議員の持ち時間がもっとあったらということだ。前回の党首討論は7分間だった。せめて20分、30分あれば、どれだけ安倍晋三は窮地に追い詰められていたことだろう。共産党の質疑時間を削ったのが、山口二郎の「政治改革」だったことは言うまでもない。どれほど野党議員の数が多くいても、まともに政府の政策や法案を批判できず、その問題点を喝破して国民の前に知らしめることのできないガラクタの山では、議会制民主主義は機能しない。民主主義は単に数の問題ではなく質の問題がきわめて重要なのであり、国会での熟議は質のよい代議士がいないと実現できない。二大政党が政権交代するシステムができれば、それで民主主義がバージョンアップすると言った後房雄や山口二郎は、国会から熟議が消え、熟議する主体が消された事実についてどのように釈明し、自らが保守派と組んで扇動した「政治改革」を正当化するのだろう。現実の国会は、代議制民主主義のバージョンアップではなくハングアップとなり、議員の資質はとめどなく劣化し、惨憺たる末期症状を示している。自民党の一党支配と万年野党の国会だった過去の方が、日本の代議制民主主義ははるかによく機能していて、その代表的事例だったのが、優秀な共産党議員と霞ヶ関の官僚との丁々発止の論戦だった。

c0315619_1762478.jpg昨日(5/29)の朝日の紙面を見ると、1面、2面と4面に安保法制の記事が載っているが、志位和夫の質疑にはほとんど触れておらず、民主党議員の方にフォーカスし、「存立危機事態」「攻撃切迫事態」「重要影響事態」の定義の問題を並べている。5/20の党首討論を報じた翌日の記事と全く同じ関心と態度の編集だ。民主党議員(辻元清美、後藤祐一、緒方林太郎)の質疑に意味がなかったわけではなく、今後の審議の流れを作る重要で有効な問題提起が発されたことは間違いない。しかし、集団的自衛権の本質が見事に整理されたところの、まるで優秀な政治学教授の講義を聴くような、格調高い志位和夫の議論は、これから2か月の政局論議に国民が参加する上で最高のオリエンテーションを提供するもので、この情報を朝日が無視し黙殺したことは政治ジャーナリズムとして自殺行為だったと言うしかない。法案の中身の審議に入る前に、国会に注目する国民を前にして、集団的自衛権を行使するとはどういうことか、行使すればどうなるかの前提的な論議が必要で、志位和夫が投じた説得力ある批判に対して、法案を提出した政府は明確な反論で根拠を証明する必要があった。この問題は、江田憲司が質問した「立法事実」の問題とも関わるもので、そもそもどうして集団的自衛権行使へと解釈改憲して、自衛隊が海外で武力行使をしなくてはならないのかという根本問題である。国民は、政府(安倍晋三)の唱える必要性に納得できていない。

c0315619_1763452.jpg全国民が注目する特別委の審議は、2日目に安倍晋三が辻元清美に下品なヤジを飛ばす事件が起き、冒頭から荒れて混乱する状況となった。民放のテレビは、5/28の夕と夜のニュースでこの失態を大きく報じ、翌日の巷の話題の中心となった。報ステが急所に切り込んでいたが、今回の審議で目立つのは、安倍晋三が他の閣僚を制して自分が答弁に立とうとすることで、審議時間を自分の「演説」で埋めて潰し、滅茶苦茶な詭弁で繋ぎながら、一回の答弁で壊れたレコードのように「新三要件」の復唱を挿入することだ。とにかく強引に押し切って質問者の持ち時間を終わらせようとする。リアルタイムで中継を見ている者は、意味不明で、答弁になっておらず、無性に腹立たしいばかりだが、これは安倍晋三の作戦で、その場の答弁などどうでもよく、後で放送されるNHKのニュースの数十秒のカットだけを意識して、恰も質問に答えたような映像に編集させるべく、「新三要件」の文言をリピートするのである。法案が国会に上程される前から、「存立危機事態」や「重要影響事態」の語がマスコミにリークされ報道されていたが、記事を読んでも、どういう概念なのか、従来とどう違うのか容易に掴めなかった。前の記事に推測を書いたように、どうやら新法案の作成には安倍晋三が深く関わっていて、安倍晋三がオーナーシップを握っている。防衛官僚ではない。国会対策も安倍晋三が陣頭指揮していて、短期でとにかく強行採決するつもりだ。

c0315619_1764576.jpg委員会で中谷元に指名が集中するのは、安倍晋三が「ごまかし」と「すり替え」で時間を潰す度が高いからであり、中谷元の方がその手口のあくどさが弱いからだ。委員会はまだ2日が経っただけで、6月末に予想される強行採決まで時間があるが、安倍晋三の出席しない会議では、岸田文雄と中谷元は答弁に詰まり、各「事態」の法理の説明で矛盾を衝かれて困窮し、審議ストップの連続になるものと思われる。「ごまかし」と「すり替え」は、単に安倍晋三や閣僚の答弁のレベルの問題ではなく、法案そのものにインプリメントされた構造的な問題だから、論理的に中身を詰めていけば、政府側はすぐに説明不可能な破綻状況に陥ってしまう。状況を打開すべく安倍晋三が委員会に出て来れば、NHKの中継が入った場で必ず暴言を吐いて騒動を起こす事件になる。一週間後には事態はさらに深刻になり、スムーズな会期延長の合意が図れない見通しになるだろう。同じような醜態を安倍晋三が二度三度繰り返せば、法案の今国会成立を支持する世論はさらに小さくなり、マスコミで反対論が強まり、与党内でも法案先送りの声が上がる推移になるはずだ。党内でキーマンの位置にある二階俊博は、急いで成立する必要はなく、国民の理解が深まるように時間をかけるべきだと言っている。世論調査で法案への反対と安倍晋三への不支持が高まれば、石破茂の子分である野田聖子や小池百合子が牽制の観測気球を上げるようになるだろう。

楽観はできないが、希望はまだある。
 

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by yoniumuhibi | 2015-05-30 23:30 | Comments(7)
Commented by 梅子 at 2015-05-30 22:38 x
「安倍に懲罰動議を」というツイッター拡散をしている人たちがいるようだが、私も全く同感。それがどう良いかと言うと、国会中継を見ず(仕事で昼は見られないあるいは興味ない)、せいぜいニュースを見る程度、新聞を読む程度、あるいはワイドショーを見るだけといった一般国民にもさすがに懲罰動議が出れば、安倍のこの恥ずかしい行動を知らせることができるからだ。驚くことにNHKのニュースはこれを報道せず、安倍が答弁しているところをうまく継ぎ接ぎしていた。あるいはワイドショーなどは連日宮家邦彦、田崎史郎らを出演させ日本の主婦たちをミスリードしている。これに加えてアベノミクスによって景気が良くなる、あるいは良くなっているという情報刷り込みがあれば安倍政権の高支持率も理解できる。しかし懲罰動議を出されれば、籾井がどれほど潰そうとしようが、さすがにニュースで取り上げざるを得まい。ニュースで取り上げなかったら日本はもはや北朝鮮だ。
今回大きな希望になったのが、委員会の審議拒否に維新と共産が共同歩調を取ったことだ。共産党が審議拒否したことは数十年来なかったことだそうだ。さすがにこの局面になれば、党利党略など言っていられないのに気づいたかと思う。維新もよくやってくれた。松野氏、柿沢氏、江田氏、片山氏、心から感謝申し上げたい。
それにしても安倍が総裁で自民党議員は恥ずかしくないのか、それと公明党、もう公明党は二度と自分のところを「平和の党」などと言うなという気持ちである。
Commented at 2015-05-31 03:45 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by 若葉 at 2015-05-31 11:18 x
先日の大阪住民投票や党首討論以来、こちらのブログをひとつひとつ拝見してまいりました。
今回は国体がどう変貌するかが問われる法案審議のはずですが、この委員会の委員(志位氏除く)のディベート力の不足は目に余ります。それに輪をかけて、首相の言動…ああ、なんてことでしょうか。
20数年、時間と都合が許せば国会中継を見てきましたが、自分史上これほど自国の国会を情けなく感じたことはありません。
今朝(5/31)のサンデーモーニングはTwitter上でプチ炎上しているみたいですが、主に書き込んでいる方々にあえてわたしは問いたいのです。
「軍事的に」抑止力があることばかりに国の安全保障を頼っていないか、と。
持っている宝である憲法と自衛隊の現状運用を維持しつつ、尚且つ国際外交力で他のどのような国も追随を許さぬ、それこそオンリーワンの高みを目指すことを誰も期待できない国なのだろうか、と。
普通の国とはなんなのか。
ただ、血を流すだのそれはいけないだのということの次元の上をいく憲法を持つ稀有な国であることを、みなさん忘れていらっしゃるような気がしてならないのです。
それを言うとお花畑ということのようですが、リスクという面を究極的に詰めるとそこに行き着くと思います。

Commented by たこさん at 2015-06-01 01:56 x
質問者の持ち時間に答弁の時間を含めない仕組みにしないとダメですね。質問時間を議員数で比例させると、少数会派の時間が極小になるのも弊害です。不公平と言われようとも、民主主義=多数決じゃないってトコロをわからせないといけない気がします。
Commented by 長坂 at 2015-06-01 10:07 x
一人暮らしの義母の様子見に、5日間程日本を留守にしていたら、地震に噴火に1ドル124円と。でも一番のビックリはシンゾー、中谷、岸田のドタバタ答弁。これが日本の"the Best &the Brightest"?! ヒェ~!
アメリカじゃIS相手のイラク軍が全く役立たずで「早く数千人規模の米軍地上部隊を派遣しろ」とマケイン達(米軍の3K仕事を自衛隊に)。国際紛争を火事に例えた日本の元外交官(これも自称か?)がタクシー代だけでいいのか、火消しに加われと。火事場泥棒のアメリカが放火してるのだから「放火はやめろ」が先だろう。血を流さないと対等にならない?米韓同盟は対等なの。スノーデンのファイルにある様に、まず情報共有はFive Eyes(米英加豪 ニュージー)、あとはその他、格下パシリ。
今はまだ日本の世論が冷静だけど、アメリカ製テロ事件や南シナ海でのミスハプで日本国民が熱くならない事を願います。
Commented by インコ at 2015-06-01 14:26 x
安保法制の新たな見直し案、こんなひとまとめ状態で、今の安倍内閣では絶対に成立させたくないです。
個別にもっとしっかり検討し、これまで日本が努力して築いてきた立場を無駄にすることのない形で決めて欲しいです。
昨年末、安倍さんは消費税増税のことで可否を問う(ほとんど無意味な)解散をしましたが、この安保法制は、日本国民の命を危険に近付ける可能性もあるもっと大事なことなのですから、解散して国民に可否を問うべきだと思います。
Commented by 私は黙らない at 2015-06-02 03:34 x
 子を持つ母の一人として。この法案、何がなんでも否決させなきゃいけません。戦後に生まれ、(今まで)平和を享受してきた私達の世代は、何と幸福であったことか。最愛の息子、娘、孫達が戦争に巻きこまれるような事態になったら、どうするのですか。
 現自衛官の方々、ご家族、親御さん達はどう思われているのでしょうか?元自衛官の方が、こちらのサイトに、他国の国益のために戦いたくないとコメントを寄せられていましたが、当然です。
 もっと世論が盛り上がらないとダメです。それには、世のお母さん達がもっとこの件に関心を持たないと。こちらのサイトを読んでいられる方は、関心の高いごく一部の方であって、世の大半は、なんとなく不安らしきものはあっても、ここ最近、賃金あがったし、株も高いし、まぁ、いいか、程度なのではないでしょうか。(ちなみに、この景気、所謂アベノミクス効果なのか、それとも単に円安のせいか。穿った見方をすると、ABEに追い風を吹かせるため、アメリカが円安をわざと見逃しているってこと、ある?)これには、マスコミにも責任があります。 だいたい、政府が『右』と言っているのに我々が『左』と言うわけにはいかない」、なんて言ってる人が会長になってること事態、まるで戦時下のようではないですか。
 国会中継を視聴しているお母さん達、一体何人いるのだろう。それを考えると、もっとお母さん達が見ている番組で、真剣に、わかりやすく、しかも熱心にとりあげないと。(ただし、だからといって、コメンテーターに、池上彰なんて使っちゃダメですよ。)この法案で、一体何が変わるのか、どういうことが起こりうるのか。
 今、戦後の一大事です。消費税導入とか、そんなのと、次元が違う話です。戦争を放棄してきた日本の国是が変わるかもしれないのですよ。お母さん達、子供の受験、習い事も勿論大事ですが、どんなに一流校に入れたところで、日本が戦争に巻き込まれたら、どうするんですか?


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