志位和夫の誠実と安倍晋三の不誠実 - ポツダム宣言問題を無視するマスコミ

c0315619_18485313.jpg志位和夫と安倍晋三が演じたポツダム宣言の党首討論は、特にネットの中で大きな話題と反響を呼ぶ政治となった。討論が行われたのは一昨日(5/20)だが、当夜のNEWS23は全く無視して放送せず、翌日(5/21)の朝日も特に論評をせず、マスコミとネットで関心の差が際立つ状況になっていた。ようやく、今日(5/22)になって朝日が1面の天声人語で取り上げ、志位和夫の質問について力量を評価し、4面に関連する囲み記事を入れている。ネットでの波紋の大きさに編集部が動かされた様子が窺える。昨日(5/21)の朝日は、岡田克也と安倍晋三の討論にフォーカスした紙面が編集され、「武力行使を目的として他国の領土・領海に入っていくことは許されない」とした答弁と、「機雷除去は例外として認められる」とする答弁の矛盾に注目、自衛隊の派遣のリスクを問題にする報道に仕上がっていた。5/20のNEWS23も同じであり、報ステも同じである。5/21の朝日の紙面では、4面に志位和夫の質問内容が採録されていたが、ポツダム宣言をめぐるやり取りを捉えた記事になっていない。安保法制が後半国会の政局の中心だから、マスコミ報道がこのような姿勢になったのだろうが、マスコミの惰性と鈍感と形式主義が強く印象づけられ、政治ジャーナリズムの無能が証明された残念な一幕となった。マスコミの安倍晋三への恐懼と遠慮が垣間見える。



c0315619_1849421.jpg5/20の党首討論の全体を見て、志位和夫のポツダム宣言の質疑に注目しなかったら、それは政治ジャーナリズムとして失格だ。政治記者としての正常な感性を持ってないということになる。朝日新聞は官報ではなく、公共放送でもなく、国会の機関紙でもないのだから、各党に目配りしたバランスのよい報道など配慮しなくてよい。3人の党首討論の中で、最も重要な見せ場を作り、スリリングで衝撃的な質疑を提供したのは志位和夫で、政治ジャーナリズムが飛びつくべき材料が生々しく成果されていた。それに比べれば、岡田克也が試みた質疑など、ほとんど「言葉の綾」同然の中身であり、ホルムズ海峡の機雷掃海の問題も目新しさは何もない。報ステとNEWS23と朝日が懸命に光を当てて持ち上げてやり、何か点数を得たような話になっているが、安保法制の審議のとば口の質疑として、また世論を動かすべくマスコミに提供された材料として、決して出来のよい論点設計だったとは言えないだろう。民主党が野党第一党だから、そして安保法制の政局だから、形式的に、既定序列のプロトコル(お約束)に従って、岡田克也の質疑がマスコミ報道の第一に飾り上げられたのである。だが、テレビを見ていた市民がビビッドに反応し、ネットで瞬時に論議が盛り上がったのは、ポツダム宣言の認識を問うた志位和夫の秀逸な論戦に対してだった。志位和夫こそステイツマンと呼ぶに相応しい。

c0315619_18491583.jpg人々がビビッドに反応したのは、ポツダム宣言の認識を問いただされた安倍晋三が、そんなものは知らないと開き直った態度に呆れたこともあるけれど、不誠実な態度に終始する安倍晋三に対して、志位和夫が一貫して誠実な態度で正面から臨み、論点を逸らさず、はぐらかしと脱線を許さず、感情的にキレることなく、正しい論理で追及したことがあるだろう。文字でおこされた表面上の言葉のやり取り以上に、現場はもっと深いものがあり、見る者を確かに感動させた。昨日(5/21)の朝日の社説は、「党首討論 - 不誠実な首相の答弁」というタイトルを掲げて批判している。今回に限らず、安倍晋三の国会答弁は常に不誠実だ。だが、その不誠実さを、朝日が社説で強調するほど強く浮かび上がらせる要因になったのは、その不誠実さとコントラストが際立った志位和夫の誠実さだったのではないか。7分間という短い討論時間で立った志位和夫は、揚げ足取りをせず、言わば、どこまでも憲政に対するリスペクトを崩さず、国権の最高機関たる国会の権威と品位を守り、首班指名された代表の立場を軽んじない、真面目な言葉で安倍晋三に対峙した。それはまさに、近代日本が積み上げてきた議会政治と民主主義の伝統を守る姿であり、首相の地位を簒奪して暴走を続けている安倍晋三を、その本来のあり方に戻す議会人の努力そのものだった。逸脱と堕落の極みにある国会を、憲政の常道に引き戻そうとする営為だった。

c0315619_18492795.jpgペストと戦う唯一の方法は、誠実さということです」という言葉を、6年前に辺見庸がカミュの小説から引用して紹介している。その言葉を、志位和夫の質疑討論を見ながら思い出した。ファシズムと戦う唯一の方法は、何より知的に誠実な態度を貫くことであり、不誠実と欺瞞が蔓延する現実と緊張感を持って対決し、人々を良識の覚醒へと導くことだろう。誠実さこそが、ファシズムに抵抗する者の武器であり、政治のフィールドで最も有効な説得力なのに違いない。もう一つ思い出したのは、吉野源三郎の『君たちはどう生きるか』を解説した丸山真男の文章の中の、知識と倫理のあり方をめぐる教育論の言葉だった。頭がいいことと頭が悪いこと、人格がいいことと悪いこと、この二つは決して無関係ではなくて、密接に関係した問題であることを二人の討論は示していた。世界の客観的認識というのは、どこまで行っても主体のあり方の問題と分かちがたく結び合わさっているのだと丸山真男は言っている。つまり、主体の倫理的な態度を欠くとき、客観的認識というものは得られないのだと。今回の問題は、安倍晋三だけでなく、一人一人に突きつけられた問題であり、それぞれが考えて、戦争の歴史についての善悪の判断を出さなくてはいけない問題なのだ。ポツダム宣言をあらためて読み直すことが、国民一人一人に求められているのである。

c0315619_18493952.jpgコペル君というあだ名の由来であるこの事例の意味づけは全編の主要主題として流れているのですが、地動説は、たとえそれが歴史的にはどんなに画期的な発見であるにしても、ここではけっして、一回限りの、もう勝負が決まったというか、けりのついた過去の出来事として語られてはいません。それは、自分を中心とした世界像から、世界の中での自分の位置づけという考え方への転換のシンボルとして、したがって、現在でも将来でも、何度も繰り返される、また繰り返さなければならない切実な『ものの見方』として提起されているのです。(略)地動説への転換は、もうすんでしまって当たり前になった事実ではなくて、私達ひとりひとりが、不断にこれから努力して行かねばならないきわめて困難な課題なのです。そうでなかったら、どうして自分や、自分が同一化している集団や『くに』を中心に世の中が回っているような認識から、文明国民でさえ今日も容易に脱却できないでいるのでしょうか。つまり、世界の『客観的』認識というのは、どこまで行っても私達の『主体』の個の側のあり方の問題であり、主体の利害、主体の責任とわかちがたく結び合わされているのだ、ということを、著者はコペルニクスの『学説』に託して説こうとしたわけです」(岩波文庫 P.317)。ここでの「地動説」は、ポツダム宣言に読み替えられる。ポツダム宣言は、決して過去の歴史の問題ではないのだ。

c0315619_18494986.jpgポツダム宣言の文言を暗記しているか否かとか、そういう受験勉強的な問題ではない。何度でもその文言の前に立って、一回一回、認識をあらたにするべき問題であり、右翼の「天動説」に戻らないよう、国民が自らの拠って立つ基本を確認しないといけない問題なのだ。党首討論で志位和夫を前にして、安倍晋三はやりにくそうな苦手意識を表情に丸出しにしていた。7分間という持ち時間の短さだけが安倍晋三の頼りであり、逃げるだけ逃げ、駄弁を長々と弄して時間を潰せば何とかなると、そういう愚劣な作戦心理が見え見えだった。「ポツダム宣言について詳しくは知らない」という発言が出たのも、知らないという「無知の砦」に逃げ込めば深手を負わずに済むと咄嗟に一計を案じたからに違いなく、善悪の判断を問うているのだと迫る志位和夫に対して、知識の有無を問うクイズ問題の類にスリ替えて逃げようとした思惑が透けて見える。しかし、その安倍晋三の姑息な手口を見抜いた大衆は、逆に、「ポツダム宣言も読んだことがない安倍晋三」という断定と戯画にして切り返した。その後のネットの議論では、安倍晋三はポツダム宣言の趣旨は知っているけれど、ポツダム宣言から始まる戦後日本を否定したい歴史認識の動機から、ポツダム宣言を知らないという態度に出て歴史修正主義の悪意を示唆したのだという分析や、否、安倍晋三はポツダム宣言について本当に無知だったのだという見方など様々な意見が出ている。

c0315619_11433187.jpg実際はその両方であり、正しい認識を持っておらず、国会で正直に言えば国際政治の大事件になる誤った認識しか持っておらず、だからこそ、ああやって卑怯に「無知の砦」に逃げ込まざるを得なかったのだろう。ポツダム宣言の中身について、政治家がそれに無知であるということは、形式的にも実質的にもあってはならないことだ。日本国という国家が誕生する原点にポツダム宣言があり、そこから戦後日本が始まっている。憲法もポツダム宣言から誕生している。文言を丸暗記していなくても、「知りません」という態度を国会議員がとることは到底許されない。それは、憲法や国連憲章について「知りません」と言う厚顔無恥と同じであり、国会議員として基本的に失格である。フランスの大統領や議会の議員が、1789年の人権宣言について「詳しくは承知していない」と言えるだろうか。米国の大統領や上下両院の議員が、1776年の独立宣言について「詳らかには読んでない」などと言えるだろうか。ポツダム宣言というのは、日本国の歴史においてはかくも重要な、国家のそもそもの成り立ちを決めた歴史文書である。Twを見ていると、ポツダム宣言なんて知ってなくても構わないと平然と言っている者がいる。義務教育の知識だけれど、一般市民は無知も非常識も許されるかもしれない。しかし、フランスの人権宣言、アメリカの独立宣言に匹敵するところの、この国の土台となる歴史文書を、国会議員が知っていなくてよいはずがないではないか。

まして総理大臣の職にある者が。本来、7分間の持ち時間では詰められなかった論議を、マスコミこそが志位和夫に代わって延長するべきなのであり、ポツダム宣言の認識について、戦争の善悪の判断について、菅義偉や谷垣禎一や山口那津男を問い詰めないといけないのだ。


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by yoniumuhibi | 2015-05-22 23:30 | Comments(7)
Commented by NY金魚 at 2015-05-22 22:26 x
いまでは、その風貌も定かではなくなっているのですが、ギリシャの賢者・ソクラテスの彫像から、現代の賢者・志位和夫を連想してしまう金魚です。きのうの古本屋のレジでは、岩波の「ソクラテスの弁明」が入っていました。かれを告発した無能な者どもの言葉は出てきませんが、賢者の高らかな宣言から、告発者たちのさらなる嫉妬、怒りを買い、刑死に至ったかれの物語を辿っています。
ソクラテス刑死の後、かれ自身が最後に予言した通り、アテナイの人々は不当な裁判によってあまりにも偉大な人を殺してしまったと後悔し、告訴人たちを裁判抜きで処刑したといいます。
志位和夫にソクラテスの意志が憑いたと考え、この議論の真の意味が、この権力者のポツダム無知/無視が、海外のメディアによって世界に拡散され、アメリカを烈火の如く怒らせ、終戦記念日までに安倍の失脚がはじまることを願って止みません。
Commented by 愛知 at 2015-05-23 02:08 x
アリスタルコスの没後約80年で前漢の記録に登場するのが倭。記事とNY金魚様ご指摘の通り、倭国内閣総理大臣に対する志位さんの質問、素晴らしかったです。私には志位さんのお顔が十六一重表菊に見えてきて。その志位さんがポツダム宣言を持ち出されたことに対してネットには噴飯物のつぶやきが溢れ。「だから(日本共産党の)幹部になれず、いつまでもパシリなんだ。」とか。生の政治に疎い私ですら、倒れるほどの眩暈。ツイッターではなく倭言ったー。前に中学時代の苦い思い出を書きましたが、実は私の亡父も公立中学の英語教諭でした。子細な話ですが。私を筆頭に公立校教諭の息子は手に負えません。人生最大の研鑽期、「センセの子」と甘やかされ。社会人になり適合するのに大変でした。一緒にはできませんが、倭国総理も同じようなものかと。「それでも地球は回っている」志位さんの発言、記事、コメントに深謝。私の昔からの持論で(星新一の受け売りなんですが)、韓国の人が日本を許さないのは、戦前、戦中ではなく、本音は戦後のキーセンツアーだと思っています。倭人の蛮行への怒りだと思うのです。それを手引きしたのは日のもと旅行会社とD通ですが、実行したのは倭人、民です。70年談話に「謝罪不要」って。前の談話は別として、そもそも心から謝罪してないでしょ。倭人がグチャグチャ言ってますが、ポツダム宣言は受諾し、中学の教科書に載せたんです。倭国総理の発言からメディが無風なのが最大の気掛かり。NY金魚様のご指摘のように米国に頼るしかないかと。
Commented by 私は黙らない at 2015-05-23 03:51 x
 とても不思議なのですが。。。
今の「安倍独裁」的風潮に対して、どうして反対勢力が一致団結しないのか理解できません。安倍がアメリカ議会で安保関連法案を夏までに成立させると確約した時、枝野さんが、烈火のごとく怒ってたじゃないですか。あの怒りはその後、どうなったのですか?安倍を退陣させるネタなら他にもあるじゃないですか。
 今の日本の一番の不幸は、「野党」がないことだと思う。安倍の暴走の責任は民主党にあるんじゃないだろうか。民主党がしっかりしていれば、もう少し違うのではないだろうか。
 外国人の友人が言っていた。今の日本は、まるで挙国一致内閣みたいだ、と。
 それと、自民党内で安倍の反対意見は出てこないのか。亀井静香さん、野中広務さんのような大御所がテレビにでて、安倍に警句を発していたが。元総理の福田さんも最近訪中し、今日のネットのニュースでも、アジア諸国への配慮を訴えていたが。こうした声は、散発的に見受けられるけれど、安倍を退陣させるほどの大波にはならないのか。なぜ、安倍政権は「安泰」なの?株高のせい?
 するどいツッコミは、共産党の十八番。そうだ、ぶれてはいけない。
Commented by 長坂 at 2015-05-23 11:12 x
アーレントは「真理と政治」で歴史的出来事や「事実の真理」が数学や科学、哲学といった「理性の真理」よりはるかに傷つきやすい。「事実の真理」は、それが集団や国家に歓迎されないとき、タブー視されたり、それを口にする者が攻撃されたり、事実が意見にすりかえられたりする。「事実の真理」は、共通の世界の持続性を保証するリアリティでもあり、それを変更できるのは「あからさまな嘘」だけである。(矢野久美子 著ハンナ・アーレント)
仮にメルケルが、「ヤルタ会談、何それ?」「ニュルンベルグ裁判?勝者が一方的に裁いたの」「戦犯という汚名を着せられたゲーリング、ヘスにリッベントロップ」「いつ迄イスラエルに謝るの!」何で日本国民はこれと同じ事を言っているシンゾーを野放しにしているのか、全く理解できない。
Commented by りるれ at 2015-05-23 22:19 x
安倍首相のポツダム宣言読んでない件について、スルーしている大手メディアと、ネット上での騒ぎの温度差が不気味です。あまりにも落差がありすぎる光景を目の当たりに寒々しくなりました。
さらに不気味なのが、私の気のせいだといいのですが、現在、工作員が必死に火消ししているような印象を受けます。メジャー紙に信頼をなくして以来(国民が知るべき情報を知らせてない状態は損害を与えているのと同じ)、もっぱら新聞やテレビニュースよりネットから必要な情報を得ようとしている日々なので愕然としています。現政権による言論封殺がジワジワと…やはりあるのでしょうか。
Commented by ころ太 at 2015-05-24 06:56 x
NHKのM井を筆頭とする人事、A倍と毎月会食する大手マスコミ。日本の大手マスコミはもう配下に置いたも同然です。

これに抗するということは、気付いた人から自分のできる方法で主張を張ることしかないと思います。

私も、何かできないかを模索しながら行動し始めたところです。
Commented by 通りすがり at 2015-05-25 00:02 x
安倍は謝罪やお詫びは口にしないが反省は口にする。
反省とは一体何に対して反省をしているのだろうか。
戦局を誤り戦争に負けたことか、戦後長らく憲法に縛られ軍隊をもって戦場にいけなかったことか、一体何に対する反省だ。
これまでの談話の内容から少なくとも戦争で内外に多数の犠牲者を出し尊い命を失ったことに対してではないだろう。
国会議員は安部は何に対して反省しているのかを公の場で徹底追及しはっきりさせろ。


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