AIIBでマスコミが言わない国際金融動向 - 人民元国際化の7年を見る

c0315619_17345416.jpgAIIB(アジアインフラ投資銀行)の問題がニュースになっている。日本国内の報道は、AIIBに日本が参加するべきかという点に議論が集中していて、報道の中身は毒々しい反中プロパガンダの散布ばかりであり、公平な経済的解説をマスコミは全く提供していない。そのことは、昨日(3/29)のBS朝日で宗文州が批判していたとおりだ。経済にせよ何にせよ、日本のマスコミは、中国について報道するときは戦争している敵国のように悪魔視する論調が常態になっていて、あらゆる情報がネガティブな感情で染め上げられている。桃太郎の鬼ヶ島だ。10年以上にわたるマスコミによる悪質な反中教育の刷り込みが奏功して、中国を無前提に敵視する観念は国民的なものとなり、左翼リベラルですら口を開けば中国叩きを言うのが当然の光景となった。ユネスコ憲章前文に則せば、この行く着く先がどうなるかは自明の理なのだけれど、そのことを声を振り絞って警告する知識人が一人も出ない。もう元には戻らないだろう。思えば、このブログ活動の10年間は、悪化する一途の日中関係と日韓関係を前に、ユネスコ憲章、ユネスコ憲章と、全力で叫び続けた10年間だったが、ユネスコ憲章の教訓をマスコミで言挙げする者は遂に登場せず、ネットですら話題にする者は出現しなかった。勇気と良心のある者がいない。左翼リベラルのメインストリームが、右翼と一体化して中国共産党潰しの立場になった。



c0315619_1735987.jpg今から7年前、リーマンショックが起きた直後、中国と世界金融をテーマにして何本か記事を書いた。「中国が世界金融の覇権を握るとき」の(1)(2)(3)、「人民日報の石建勲論評の衝撃」、「ソロスの予言『新たな金融帝国は中国』」などである。7年後の今から読み返して、それなりに面白い考察と提起になっていると思う。2008年の10月は経済の話ばかり書いている。この後の7年間、中国が人民元の国際化をどう進め、それをどこまで成功させているか、整理して検証する必要を感じていたが、ネットの中にその概要を短く説明した記事があった。宿輪純一の要約を見ると、2008年の翌年の2009年7月に中国は貿易における人民元建て決済を試験導入している。地域と企業を絞って制度改革を進め、次第にその範囲を拡大し、2011年には元建て貿易を中国全土で認めるに至ったとある。2008年のリーマンショックの時点で、当時の全人代財経委副主任の呉暁霊とか、中国社会科学院金融研究所主任の曹紅輝とか、中国の専門家たちが人民元国際化のロードマップを語り、人民元をドルと並ぶ国際決済通貨に育成する必要と展望を論じていた。その地点から振り返ると、この7年間、中国は時間をかけて着々とプログラムを実行し、設定した目標を首尾よく成し遂げて行ったことが確認できる。まさに見事な「計画経済」の成功だ。

c0315619_17352463.jpg呉暁霊や曹紅輝や周小川が言っていたことは、まず何より、現物貿易の商取引で少しずつ人民元決済の範囲と規模を拡大するということだった。それが第一の戦略で、財・サービスの実体経済から物理的に人民元決済のカバレッジを上げて行くという方向性である。曹紅輝の2008年の所論は、今からすれば慎ましく控えめに感じられる内容で、ラオス、ベトナム、ミャンマー、ネパール、カザフスタンと順番に名前を挙げ、周辺の小さな国々から人民元流通を広げるのだと言っていた。7年後の今、それがどうなったかを見ると、韓国大手のサムスンが今月から人民元取引を始めたという情報がある。昨年7月、香港、ロンドン、フランクフルト、シンガポールに続いて、ソウルの交通銀行(支店)がオフショア人民元取引センターとして認定された措置を受け、サムスンがこの決済取引の利用に踏み出した。現在、韓国の銀行間のウォン・ドル取引高は一日平均で100億ドルで、ウォン・人民元の取引高は16億ドルの規模だと言う。サムスンのような大手抜きでも、すでにドルの16%の水準に達していて、サムスンに続いて財閥大手が同様に参入すれば、瞬く間にドルに並ぶ決済通貨になることは確実だろう。トロント、バンコク、シドニー、カタールでもオフショア人民元取引センターが開設され、人民元取引はグローバルに面を拡大させている。

c0315619_17355258.jpg中国市場に輸出ビジネスする企業からすれば、ドルを介さない二国間通貨決済の方が為替のリスクとコストが小さくて済む。今後、貿易取引での人民元流通はさらに増大するに違いない。7年前の曹紅輝の地味な戦略論から比較したとき、7年後の今日の業績はまさに大いなる成功という評価に尽きる。人民元流通の国際貿易での拡大は、逆から見れば、ドルの取引量の縮小を意味する。FRBが発行する通貨が決済で用いられる場面が減り、流通金額が減っていることを意味する。このことは、国際金融市場でのドルの信用力を減衰させ、人民元の信用力を増強させることに繋がる。7年前に呉暁霊や曹紅輝が語った二つ目の戦略は、中国の銀行は国際金融の実務に慣れておらず、ビジネスのスキルとノウハウがないから、時間をかけて経験を積み、人民元を市場活用する技能を習得するのだということだった。こちらの方も堅実かつ迅速に手が打たれ、有言実行の成果を出している。2011年には人民元の海外投資と国内投資が解禁された。先週(3/25)、欧州で初めてとなる人民元建てMMFがロンドンで発行されている。2010年のネットの記事を見ると、香港で起債が始まった人民元建て債券(点心債)のブームを解説したレポートがあり、今日の関心と視角から非常に興味深い。つまり、中国は、人民元国際化の戦略プログラムを香港を拠点にして起動・確立させている。

c0315619_1736652.jpg香港で事業をスタートさせ、経験と自信を積み重ね、そこから国際市場に展開する方法を採っている。しかも、そのときは、ユーロがフォーカスされていて、中国とEUとの貿易量の多さを背景にして、中欧の親密な経済関係を基礎に、人民元投資を中華圏から欧州圏へ広げる国際化を進めている。面白いのは、EU諸国の中で人民元マネーの争奪競争のような現象が起こっていることで、ロンドン、フランクフルト、パリ、ルクセンブルクと、続々とオフショア人民元取引センターが発足し、人民元建て金融事業が準備されていることだ。これが昨年2014年の市場のホットな動きであり、今の欧州諸国のAIIB加盟の動きとそのまま連動している。貿易で巨大化したユーロ人民元経済の利益実体があり、欧州各国の政府と銀行が人民元マネー市場の成長と利益を見込み、人民元の国際化を後押ししているのである。こうした国際金融の動きは、本当なら、NHKが日曜夜9時からの特集で詳しく報道し、国民に分かりやすく教育してくれるところだった。また、こうした動向を取材・解説する番組を作らせたら、他の追随を許さない、抜群にセンスのよい啓蒙番組を仕上げて放送するのがNHKだった。2014年を通じて、残念ながらわれわれは、そうした国際金融の最前線の真実を知る報道に接することがなかった。

c0315619_17442028.jpg経済動向の中身を知らず、中国は悪だというプロパガンダばかり刷り込まれているから、AIIBに世界中の国が参加する実情も理解できず、痴呆化した国民も愚かな悪口ばかり言って満足しているのである。人民元マネーの金融市場が立ち上がり、そこに資金が集まって増殖するということは、逆から見れば、国際市場でドルに集まる資金が逃げて分散することを意味する。投資家のスコープにおいて人民元建て金融商品がポートフォリオの一角に入ってくる展開を意味し、人民元マネーの蓄積増殖現場の中心となる上海や香港の株式市場に注目が集まるという図になる。それはすなわち、NYSEの魅力が枯れて存在が相対化されるということだ。そのプロセスは、AIIB設立の後に続くところの、世界銀行とIMFや格付機関の相対化を通じて、徐々にくっきりとした姿になって行くだろう。2008年の曹紅輝は、10年後に人民元をアジアの主導通貨にすると言っている。2008年の10年後は2018年で、2015年の現在から3年後の時点だ。最後に、円および日本経済と比較しての中国の実力をベーシックな数字で見てみよう。外貨準備高(1980-2013年)で中国と日本を比較したグラフがある。AIIBの問題を論議する上では、この情報の紹介こそが鍵だろう。次に、貿易収支の推移で中国と日本を比較したグラフがある。一目瞭然。さらに、人民元/円の為替レートの推移のグラフもある。この円安の傾向が中国人観光客の爆買いの原因だ。

c0315619_7533958.jpg日本と中国のGDPの推移を比較したグラフを見よう。4年後の2019年には中国は日本の3倍になると言われている。中国経済の成長の減速は明らかだが、為替レートの変動要因を加味して予測すれば、ドルベースでのGDPの彼我が3対1になるのは、おそらく2019年よりも前倒しになるだろう。中国は、為替市場への国家介入から少しずつ手を引いていて、人民元の変動相場制へ完全な移行をめざしている。7年かけてこの程度だから、さらに時間を要するだろうが、円安・人民元高の長期トレンドは常識的に疑えない。現在は1人民元:19円だけれど、数年の中期レンジで25円、30円と人民元が高くなる相場が予想される。このような経済動向を示すリアルでシンプルな指標が、AIIBを考える上でのギブンである。日本国内は、長く続いた反中プロパガンダの漬け込みで国民の頭脳が麻痺していて、経済問題について国益を客観的に判断する思考回路が機能していない。だから、焦りも何も感じておらず、単に感情的に反発して中国を罵倒して狂騒するだけだ。都合の悪い事実を無視し、中国との戦争へ向けて一億火の玉になるだけだ。焦って悩んでいるのは米国だろう。焦躁が大きいからポーカーフェイスの素振りをしている。盟友のはずの英国には、2013年のシリア空爆時の逃亡に続いて、これで二度目の手ひどい裏切りの屈辱を受けた。米国の保守派には痛恨の一事に違いなく、米国はあらためて中国とどう向き合うか真剣に検討する必要に迫られた。

日本に中国と戦争させて中国を潰すか、中国と新型大国関係を結ぶか。基本的に方向は二つに一つだ。
 

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by yoniumuhibi | 2015-03-30 23:30 | Comments(9)
Commented by 長坂 at 2015-03-31 00:42 x
韓国もアメリカからの圧力があったらしいが、日本の様にアメリカの顔色を伺ってオドオドではなく、将来を見据え主体的な判断でAIIBに参加決定。至極真っ当だと思います。
日曜の夜、BS1の「世界の食料争奪戦」を途中から見たのですが、中国の大豆輸入量が激増して日本の商社が大苦戦していました。中国の成長、中国の存在を無視して日本はどうやってサバイブして行くつもりなんでしょう。中国と領土問題を抱えているインド、ベトナム、フィリピン、モンゴルだって、それはそれ、これはこれで創設メンバーになってるし。
まさか死んだ岡崎久彦の「アメリカについていけば100年安心」の教えを忠実に守ろうなのか?アメリカが参加しちゃったらどーする。
Commented at 2015-03-31 02:44 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by ローレライ at 2015-03-31 10:02 x
ロシア制裁を止めるように大前研一が説いていたが『経済制裁』の被害者は西側だった経験が中国を助けている。
Commented by トントン at 2015-03-31 10:47 x
周りがやってるからうちもやらなきゃ損だ、とか
アメリカが待ったをかけているから、不参加だとか
本当にくだらない議論ばかりです

日本の国益はなにか
反日国で共産主義の中国が
主導する銀行で果たして日本が存在感を発揮できるのか
よく考えて安易に事大するのはやめるべきです

ルールを作るのはアメリカなのか、それとも中国なのか、
という戦いですから
雌雄が決した場合は、アメリカが電撃的に参加することもあると考えます
Commented at 2015-03-31 23:03 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by 愛知 at 2015-04-01 01:51 x
AIIBの議論まで行き着かないというのが、感想、実情です。出張から戻り、今、NHKのテレビで「NHK予算審議・参院総務委」が流れ、それを聞きつつです。法律の構成まで無知ですが、見ている限り与党による籾井の吊し上げでしかありません。私が口座振替をしているのは、NHKであり、国会議員に朝ドラの内容云々まで負託した覚えはありません。こちらのブログをご覧の層からすれば、初歩的な問題かと存じますが、おかしいです。たぶんいつも深夜放送なので、ご覧になった方は、面白くないと、すぐにチャンネルを変えてしまわれるでしょう。法律としてはおかしくないのでしょうが、自民の委員にペコペコしている籾井や副会長は何だろうと思います。公開された朝鮮中央テレビというべき。実家の隣ぱ班に県議1名、市議1名がいます。母は選挙カーのウグイス嬢でした。私は市議と仲が悪いのですが、波風立てるなとの言いつけで黙っています。仁川空港で、偶然、市議にあったとき、先方は会いたくなかったのでしょうが、父の葬儀への礼を言いました。市議は孫娘いたいな現地女性とデレデレでした。出張回数、日数だけで言えば、ほとんどがタイとビルマなど周辺国です。現実はどうかと言えば、華僑がオーナーで、まったり漢字新聞を読み、タイヤイ(先住民)が忙しく動き回っているのです。いつもながら些細な話で申し訳ありあせん。さてAIIBですが、最初から参加すべきだったと思います。ただどっちにしろ麻生が言ったのでは現実感がありません。日本は不戦を誓い、69年間、それを守ってきました。それは宝だと思います。反中を捨て、今こそ、恒久平和を祈るべき。
Commented by 私は黙らない at 2015-04-01 02:22 x
 もはや、日本に独自の外交、経済政策というものはないのでしょうか。中国とアメリカのはざまで難しい選択を強いられたはずの韓国でさえ、参加を決めたのは、あっぱれな判断です。今の世界経済をみれば、当然のことでしょう。
 この数日、AIIBに日本が参加しないという信じられないニュースにあきれかえっていましたが、家族、友人に話しても、それを大問題ととらえる者はおらず、孤独感を深めてましたが、こちらのサイトで、思いを同じにする方々にであえて救われました。
 これじゃ、まるで日本はアメリカの51番目の州、いや、戦争で使い捨てにされるパシリのような存在なら、州以下、所轄領みたいなものです。ここは、はっきりAIIBへの参加を表明して、一国家としての尊厳を取り戻してもらいたいです。米国と心中するなら、ABEさん一人にしてほしいです。
Commented by 梅子 at 2015-04-01 09:12 x
考えてみればイギリスの今回の選択は当たり前すぎるほど当たり前。
日本と同じく国土は狭く大した資源も期待できないイギリスは金融大国として生き残ることを目指しているように見える。
ロンドンにある世界最大の投資銀行HSBC、それは1991年に設立され、母体となったものは香港に本店がある香港上海銀行。これがイギリスの世界戦略にどれほどの橋頭堡となるであろうか。もちろん香港上海銀行は19世紀からの中国列強支配の置き土産であるが、中英間の不幸な歴史も不幸にしない、この中英両国のしたたかさには本当に感心する。
日本はダメだろうと最近悲観的なのは、あれほどの不幸を経験しながら、なし崩し的に原発再稼動が事実化されていくところ、世論がそれを決して反対していないところ。多くの国民は福島の悲劇など忘れたようだ。
誰かがドイツがまともになるために大戦で二度負けなければならなかったと言っていたが、日本も二度戦争に負け、二度原発事故を起こさなければまともにならないのかも知れないと最近私は思っている。
しかし、それは日本の本当の終わりなのだが。
Commented by H.A. at 2015-04-02 23:33 x
莫邦富氏や浅井基文氏の意見を思い出します。
ところで日本の「左翼リベラル」、あるいは社会(ないし共産)主義政党支持者で中国を好まない人というのは、今の中国は政権党は「共産党」だが、本当に社会(共産)主義をめざしているのか、人々の疎外からの解放を求めているのかがみえない、貧しくとも平等志向だった時代がよかった、ということでしょうか。キューバは好かれるというのが好例です。
もちろん、誰でも豊かになりたいし、その国とそこの人が自らの国民性に合った方法を選んだことを、内在的に理解することが大事なのですが。


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