左翼リベラルにおける中国軽侮の態度と傾向 - 子安宣邦と辺見庸

c0315619_16291388.jpg何がリベラルかの括りは難しい問題だが、日本の左翼リベラルが徐々に反中嫌韓にシフトしている状況は間違いない。5年前や10年前と比べて、確実に中国や韓国に対して距離を置き、冷淡で隔絶的になっている。尖閣問題についてのマスコミのプロパガンダのシャワーがあり、それに影響され、中国に対する認識や感性が左翼リベラルも右翼とコンパチブルになっている。マスコミの報道も、それを聞く側も、中国や韓国で何か日本に関わる発言や行動があったとき、それに対して最初から反感や反発ありきの、ネガティブな情報系の受発信が定着している。中国の動きは、まるでオウム真理教のように邪悪視された扱いで編集されている。そうしたマスコミの偏向や歪曲に対して、左翼リベラルの側からの批判や内省がなく、素通りを続ける中で意識が堆積され、アプリオリに中国を敵視する観念が定着してしまった。戦後70年談話の政局が佳境へ向かう中、日本の左翼リベラルは異口同音に「村山談話を守れ」と言うのだけれど、村山談話で主題になっているところの、中国と韓国に対する謝罪と反省の精神がどこまで自己の内面において本物なのか、怪しく思われる事例と場面ばかり最近は遭遇する。例えば、TBSのサンデーモーニングがそうだ。昨年の韓国叩きの報道はひどかった。文春・新潮のテレビ版だった。



c0315619_16292579.jpg古館伊知郎はリベラルではなく、立ち位置を正確にプロットすれば保守のネオリベに違いないが、テレ朝の報ステは、右翼化の極みにあるこの国のマスコミの中では相対的にリベラルな番組だと評価されている。その古館伊知郎も、口を開けば中国の悪口を言い、中国のニュースを伝えるときは露骨に感情を出してネガティブな口調と演出に徹している。3/13のアジアインフラ銀行の報道もそうだった。韓国についても同様だ。もともと、古館伊知郎は反共の立場であり、イデオロギー的に右翼とはネイティブな親和性を隠せないから、中国叩きや韓国叩きの報道をリードすることに躊躇はないのだろう。だが、そうした反中嫌韓の言論と態度を全開にさせながら、同時に村山談話の擁護を言うのは、あまりに矛盾と欺瞞が甚だしく、正論が正論として響かない。正論が口先だけのトークに止まり、真剣で説得的なメッセージにならない。コンテクストにフリクションが生じる。村山談話とはきわめて倫理的な性格の宣言だ。こう書いている。「わが国は、遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。私は、未来に誤ち無からしめんとするが故に、疑うべくもないこの歴史の事実を謙虚に受け止め、ここにあらためて痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明いたします」。

c0315619_16293643.jpg20年前、この談話が成文され発表されたとき、今の左翼リベラル一般に見られるような、中国や韓国の指導者を侮って軽口を叩く者は左派の中にはいなかった。日本の右翼政治家が反動的な妄言を発して物議を醸し、それに対して中国や韓国から猛然と批判が上がったときは、今の左翼リベラルに見られるように、ニューヨークタイムズやガーディアンからの批判記事はありがたがって喜ぶけれど、中国や韓国からの直接の批判には素直に耳を傾けないというような、そのような態度は持ち合わせていなかった。Twを見ていると、左翼リベラルの定番論者として回覧されている学者たちは、必ずと言っていいほど、ニューヨークタイムズやガーディアンの英文記事を引用して悦に入り、安倍晋三に痛打を与えた気になって得意になっている。メルケルがこう言ってくれたぞと騒ぎ、欧米の要人や新聞からの発言ばかりを重宝している。植民地根性丸出しだ。村山談話の、「痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明いたします」という言葉は、アジアの人々に向けられたもので、特に韓国と中国が念頭に置かれているのに、左翼リベラルは、歴史認識の問題について欧米からの言論ばかりに注目し、それを安倍晋三叩きに利用して騒いでいる。中国と韓国に向き合っておらず、中国と韓国の指導者の言葉を注視しない。関心を払わない。右翼だけでなく、左翼リベラルが中国韓国を軽視している。

c0315619_16294984.jpgこの問題を考えたとき、二人の人物が念頭に上がる。一人は子安宣邦であり、もう一人は辺見庸だ。どれほど影響力がある知識人かはよく分からないが、二人とも一般的には左翼リベラルの範疇に属する論者であり、そのことは異論はあるまい。どうしてこの二人なのか、察しのいい方はすぐにお気づきだろうが、簡単に言えば中国共産党に対する態度のことだ。問題だと思う。何が問題なのか。現在の左翼リベラル界隈における、常態化した中国蔑視の風潮を考えたとき、そこにこの二人の影響は全くないだろうか。二人の言論を見ると、すぐにでも中国共産党政権に倒れて欲しい、倒れるべきだと、そう念じているように聞こえる。二人の中国共産党論が決して軽はずみな言説ではなく、真剣な関心と重厚な思考の上での結論であることは承知しているつもりだが、今の日本の政治状況で、それが果たしてどれほど有益で有意味な言論といえることか。私の観点からすれば、二人の中国共産党論(中国共産党否定論)は、やはり全共闘を思想的源流とする脱構築主義の所産であり、それの無自覚な垂れ流しに映る。それは右翼の主張の補強として機能する。日本の右翼化は、畢竟、反中化と嫌韓化に他ならない。守るべきは、村山談話の思想である。われわれ日本人が即くべき原点が、平和憲法であり戦後民主主義であることは誰も否定できない。われわれには原点と土台がある。それは、平和憲法と戦後民主主義で再出発し、それを守って努力してきた戦後史だ。

c0315619_1630470.jpg同じく、中国にも原点がある。中国の人々にも神聖な出発点がある。それは抗日解放の歴史であり、半植民地状態から脱却して新生を果たし、社会主義国として歩んできた戦後史だ。その原点と土台を、われわれは軽々に否定することはできない。社会主義国だから、当然、20世紀の歴史の荒波を受けた試行錯誤がある。決して美しい歴史ではない。けれどもそれは、中国人自身が選び取った未来であり、抗日戦争と内戦の中で必然的に導かれた方向であることは事実だ。また、中国がそうした試練を享受する運命になったのは、何より日本による苛烈な侵略戦争が関与している。日本の戦後民主主義が、右翼からは虚妄と言われ、新左翼(全共闘)からもナンセンスと唾棄され罵倒されたように、中国の建国以来の社会主義の歴史もまた、毀誉褒貶が混沌とする論争の対象であり、一党独裁の弊害が内外から厳しく批判されていることは間違いない。だが、その国家の政治体制の選択主体はあくまで中国の人々であり、責任主体も中国の人々である。侵略戦争で多大の犠牲を出させしめ、謝罪と反省をする側の日本が、軽々にああせいこうせい、ここが悪いと口を出し、中国共産党など潰れてしまえなどと無造作に言論する資格があるのだろうか。多少とも良識で主張を禁欲する必要はないのか。われわれと中国との関係の基本は、あくまで1972年の日中共同宣言にある。そして、村山談話にある。

われわれが戦後民主主義を大切に考えるのなら、中国の人々が大事にしている歴史の原点も尊重しなくてはいけない。日本と中国は価値観が違う国だなどと、安倍晋三と右翼が言うような愚論を軽はずみに口走ってはいけないし、そんな無知で無意味な発想をしてはいけない。二国間には相互関係の重い近現代史がある。殺し殺された歴史がある。日本人は、中国と韓国に対して、自由と民主主義がどうのと喋々したり、法の支配が云々と傲慢に説教する前に、前提として、過去を反省しての禁欲と自制が必要なのだ。どんな立派な知識人でも。


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by yoniumuhibi | 2015-03-17 23:30 | Comments(12)
Commented at 2015-03-17 20:01 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by まゆ at 2015-03-17 20:21 x
中国のPM2.5にしろ、偽装問題にしろ中国人のマナー違反にしろ良い所より悪い所が顕著に報道されますから、余計にイメージも良くなくなりますね。お互いに良い所ももっと報道すべきですね。
Commented by 長坂 at 2015-03-17 22:00 x
加害国の私が言うのも何ですが、村山談話の「わが国は、遠くない過去の一時期、、、」ここからが大好きです。これ以外考えられない。(ちょっと前迄は諳んじられたのですが)
1月に亡くなったワイツゼッカーの「過去に目を閉ざす者は、、、」は盛んに引用するのに、こんな素晴らしい村山談話には口を閉ざしてしまうんですよねえ。
「同じく、中国にも原点がある」から最後の「どんな立派な知識人でも」まで、もう圧巻です。standing ovationです。
Commented by グーグー at 2015-03-17 23:12 x
3月17日付東京新聞夕刊、森村誠一の「この道」60回目に、「八紘一宇」のことに言及しています。連載なので少し前に書いた文章だと思われますが、あまりにもタイムリーで驚きました。森村さんには、もっともっと発言してほしい。
Commented by 愛知 at 2015-03-17 23:48 x
こちらでの紹介で知った朝日の記事、戦争のリアル近づく靖国と自衛官「遠ざかっていた『戦死』が再びリアルに感じられる時代に、自衛隊員やOBが靖国との距離を縮めている」。ブログ主様は露払いの記事と評されていましたが軍事国家になること、なりつつあることの高らかな宣言と読めます。朝日デジタルで読み、身震いしつつ驚愕。美しいほど論理的な村山談話の対極の翼賛報道。ただ史実を宣言したに過ぎない村山談話を批判する人に、いったいどういう合理的な根拠があるのか。村山談話は自虐的歴史観ではない。それを飛び越えて靖国に祀られたいという今後の『戦死者』にまで踏み込むとは。村山談話の否定は日本の理性、品性、英知の否定である。一人一人が、中韓蔑視という風潮に洗脳されず、村山談話の意味と意義を腰を落ち着けて考えるべき。些細でセンチメンタルな感情論を振り回している限り、犠牲者の許しは永遠にうけることができない。
Commented by あんそーる at 2015-03-18 00:05 x
村山談話、河野談話は平和憲法とセットです。非の打ち所のないperfectな談話です。ここに日本人としてあるべき姿勢が語られていると思います。村山談話は人間にとって最も大切な「誠意」が心に深く感じられます。中国、韓国政府はそのことがわかっているのです。このままそっとしておくべきです。残念ながら安倍談話が出るらしいですが何故所謂知識人と呼ばれる方々の発言がないのか悔しいです。ここが大きな岐路となるであろうことがわかっていながら何故黙しているのか。
文学者は何をしているのか。何のために文学をしているのか疑問に思います。非常に残念でなりません。
Commented by swissnews at 2015-03-18 06:36
300人以上の高齢者が参加したスイスの成人大学講義で、大きなパネルに村山談話がオリギナルで大写しになった。それまでうつむき加減に講義を聞いていた私は、このときどんなに解放されたか。顔をあげて、私は日本人ですと言いたかったほどだ。こちらの一般人はあまり縁もゆかりもない遠い異国の事でも好奇心旺盛で、良く勉強していると思ったほうが良い。この時の参加者はきっと注意深く安倍談話を注目しているだろう。そしてがっかりするのだろうか!悔しい事だ。
Commented by インコ at 2015-03-18 14:34 x
ずいぶん前、三国志の漫画にハマって全巻揃えたり、中国を舞台とする映画を観るのが好きだったり、韓国にしても、食べ歩きやショッピングなどの番組が、観光に行くときの参考になるからと見るのが好きだったのに、数年前ぐらいから、韓国・中国による反日行動の映像を見せられ続けるうちに、好きだったものがそうでなくなる心境に、知らず知らずのうちに、させられていたことをこの記事で気付かされました。

偶然ですが、今、図書館で借りて読んでいる、アルノ・グリューン(独人の精神分析家)の、別の本を見てみようとアマゾンを見ると、「私は戦争のない世界を望む」に目が留まり、私が刷り込まれたような現象は、戦争へ進めようとする過程にある現象といったようなことが書いてあるみたいなので、即、購入してみました。レビューを読まれるだけでも良いかと思います。

しかし、ふと思ったのは、春節の大型連休で、中国人が観光で日本へ押し寄せ、大金を使って帰っていったことをどのニュースでも大騒ぎしていましたが、中国国内では、現在、そこまで反日キャンペーンは行われていないということなのでしょうか?
それとも、行われていても、押し寄せた中国の方々は、メディアに感化されない思考力・判断力を持っているということでしょうか? もしそうだとしたら、悲しいかな、日本人の方が劣化しているということになりますね・・・。
Commented by at 2015-03-18 16:41 x
今、我々がすべきことは、戦後70年の8月までに一秒でも早く、安倍を総理大臣の席から退かせることです。国会前で起こすべきデモは『I AM NOT ABE』。すべてはここに集約されます。もう時間はありませんが、私は8月まで諦めません。
Commented at 2015-03-18 23:19
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by serenatalouvre at 2015-03-20 23:56 x
19日の東京新聞によると、【ワシントン共同】安倍首相が4,5月の連休中の訪米で検討している米議会演説について、第2次大戦に従軍した米退役軍人らの有力団体が上下両院に書簡を送り、戦時中の日本の過ちを安倍氏が明確に認めることを演説の条件とするよう要求した。演説が実現しても、内容次第で米世論の厳しい批判にさらされる可能性が出てきた。議会筋が17日、明らかにした。

とありました。 日本国内では右翼たちに護られている安倍ですが、世界の眼に、現在の日本がどのように映っているかを知る、よい機会ではないかと思います。
Commented at 2015-03-21 02:36 x
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