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福島原発事故の風化 - 国道6号と常磐道から見た帰還困難区域

福島原発事故の風化 - 国道6号と常磐道から見た帰還困難区域_c0315619_1845567.jpg原発事故も風化している。フクシマから4年の日に、われわれが顔を見て話が聞きたかったのは、飯舘村の菅野典雄、浪江村の馬場有、双葉村の井戸川克隆、南相馬市の桜井勝延など、被災自治体の首長や元首長たちだ。4年経って、村や町はどうなったのか、原発事故とは何なのか、事故は収束しているのか、住民はどうなったのか、当初の予想や計画と比べてどうなのか、復興できるのか。それらについて、一般の人々に真面目な言葉を送り届けてくれ、福島の現状について考えさせてくれるのは、この首長たちの言葉だっただろう。昨年の3/12に、「震災から3年 - マスコミ報道から消えた被災地の首長たち」という記事を書いた。昨年に続いて、彼らはテレビに出ることなく、地域の現実を国民に報告する機会はなかった。もしも国民の中で原発事故の記憶が風化しているのなら、そしてその風化がよくないと言うのなら、風化を防止する上で最も効果的なのは、首長たちが4年を振り返って今を語り、国民がそれに耳を傾けることだっただろう。マスコミは彼らを隠している。大越健介は、事故直後はあれだけ自分の人気取りに彼らを利用してベタベタしながら、4年経った今はすっかり忘れたように番組に出演させない。他のマスコミも同じだ。震災から4年の日に、菅野典雄や馬場有の顔が思い浮かばないことは風化であり、マスコミが彼らを隠すことは、風化と忘却を促す作為に他ならない。



福島原発事故の風化 - 国道6号と常磐道から見た帰還困難区域_c0315619_185535.jpg菅野典雄や馬場有を出す代わりに、大越健介は(お呼びでない)姜尚中を出し、くだらない雑談をさせ、「風化していない」と勝手に決めつける報道に徹した。放送の電波は公共のものだ。NHKは国民の受信料で運営されている機関だ。どうして、原発事故から4年の福島と日本を語る言葉が、姜尚中から発せられなくてはならず、それを国民が聞かされなくてはいけないのだろう。原発事故と福島の現状についての最近のマスコミ報道は、中間貯蔵施設と、帰還と、そして廃炉の問題が中心になっている。どのテレビ局の報道の内容も同じであり、定番論者の上っ面を撫でただけのコメントも同じだ。耳に残るものがなく、福島の現実を語る言葉に生身の人間の顔が見えない。風が砂を運ぶように、軽薄に言葉が流れ映像が流れている。白い防護服姿の作業員と、除染で出た黒いビニール袋の絵が出る。そして、福島原発の建物と敷地を上から撮った映像が出る。汚染水と廃炉の話が淡々と流れる。何か無機質的で、ルーティン的な感じで、見ながら、またかと受け流してしまう。説明や情報に熱がなく、注意を喚起する契機がない。政府の説明がマスコミの口を通じて流れているだけだ。2年前、3年前、馬場有などの言葉を通じてされていた説明に感じたところの、痛切な福島の現状認識と全く違う。問題を問題として語る人、訴える人がいなくなった。だから、他人事のニュースになった。まさしくこれが風化だろう。

福島原発事故の風化 - 国道6号と常磐道から見た帰還困難区域_c0315619_1851559.jpg全線が開通した常磐道を北上すると、富岡ICの手前で左右に黒い袋が並んでいるのが見える。富岡ICで下りると、すぐに右側に高津戸スクリーニング場があるが、田圃のそこら中に黒い袋が置いてあった。スクリーニング場って何だったっけと、すぐに思い出せなかったのは私自身の風化である。国道6号線に接する手前で、「この先帰還困難区域」と看板表示された地点があり、人が立って案内をしている。車は通行できるが、自動二輪は禁止だった。テレビで紹介されていたように、空間線量計が常磐道に設置されていて、私が通行したときは、帰路の双葉町付近で5.2マイクロシーベルトだった。左折して国道6号を北上すると、沿道の家屋や店舗の入口がすべて鉄柵で厳重に封鎖されていて、事故後にテレビで見た光景を確認することとなる。交差点の左右の道路に侵入できないよう、柵で封鎖した横に人が立って監視している場所が何か所もあった。この人たちは、一日中こうやって屋外に立って見張りをやっている。南相馬に抜ける手前だったか、「除染作業中」のピンクの幟を立てて何人かが作業をやっていた。富岡、大熊、双葉、浪江と次々に町を通過する。どの町も東西に長く南北に短い短冊の形をしていて、切って揃えた羊羹を国道6号の串が縦貫するように並んでいるため、中心部を過ぎるとあっと言う間に次の町に入って行く。

福島原発事故の風化 - 国道6号と常磐道から見た帰還困難区域_c0315619_1852577.jpg国道の左右は、パチンコ店やガソリンスタンドやファストフード店が並び、どこの地方都市にもある幹線道路沿いの風景と変わらない。違うのは、人がいないことと、敷地に入れないようバリケードで封鎖されていることだ。交差点の信号機は黄色が点滅している。大熊町の中心部を過ぎると、右折して福島第一原発に向かう道路があった。当然ながら、ここはバリケード封鎖されておらず、前を走る大型バスが入って行った。また、飯舘村へ続く国道144号に左折する浪江町の交差点も、同じく封鎖されていなかった。常磐道と国道6号を走る運転席からは、件の中間貯蔵施設なるものをよく確認できない。常磐道から見下ろす浪江IC-富岡IC間の景観は、阿武隈の麓を開墾した田圃一面が原野に荒れ果てて、まるでスコットランドの全英オープンのラフのように、伸び放題の草茫々が冬枯れで茶色に染まって強風に波打っていた。人の手の入ってない原野。こんな風景は、冬の北海道で一度見ただけだ。飯舘村の過去の絵を見てもそのことに感動するけれど、阿武隈の里山の景色というのは実にいい感じで、美しい自然に日本人が丁寧に手を入れて、品よく落ち着いた、マイルドでバランスのいい、芸術的と言ってもいい日本的自然の空間を作っている。あの荒涼とした、エミリー・ブロンテのような荒野を見て、住民たちはどれほど心を傷つけていることだろう。

福島原発事故の風化 - 国道6号と常磐道から見た帰還困難区域_c0315619_1853570.jpg震災から4年の3.11の夜、報ステは特別企画で最終処分場について大型特集をした。今回は古館伊知郎はどんな爆弾を投擲するだろうと、放送を期待していたが、まずまずの首尾だったと言える。昨年の甲状腺がんの特集は強烈だった。今回も被曝の告発かなと思ったが、何と言っても、原発問題については報ステは安倍晋三から厳しい仕置きを受けたばかりで、言わば保護観察処分の境遇にあり、再び難癖を付けられてBPOの審理と処罰に持ち込まれれば、番組打ち切りという最悪の事態を招きかねない。今回は安全策を選んだのか、テーマは最終処分場だった。だが、中身は3.11特集として十分に衝撃的で、政府が目論んでいる最終処分場の候補地が暴露されたのだ。画期的なスクープ報道だった。が、その割には放送後の余波が小さく、ネットでも特に大きな話題になっていない。従来、最終処分場は自治体が手を挙げるのを待って選ぶ方策だったが、福島原発事故の後はそれが不可能となり、政府が候補地上からを決めるという恐ろしい方式になった。番組によれば、すでに御用学者の日大の高橋正樹(火山地質学)が残酷な具体案を発表していて、去年1月に自民党に呼ばれて説明を済ませていた。候補地は、(1)阿武隈山地北部、(2)北上山地海岸部、(3)根室・釧路海岸部の3か所である。政府が狙っているのは(1)と(2)だ。(1)と(2)で押しつけ合って決めろという意味に違いない。

福島原発事故の風化 - 国道6号と常磐道から見た帰還困難区域_c0315619_1855360.jpg「30年後に福島県外」と言いつつ、堂々と「阿武隈山地北部」を指定してくる厚かましい態度に呆れる。2年前、こんなことが許されただろうか。さて、最後に、反原発側の風化についても言及しておきたい。3/8に「NO NUKES DAY」という集会とデモが国会周辺で開催されている。主催は反原連など3団体。だが、この行動はマスコミの関心を惹くことなく、当日のテレビのニュースでも紹介されなかった。どれだけ人数が集まったか調べようとしたが、マスコミの記事が検索に引っ掛からない。丁寧に調べ直すと、朝日と時事と東京が書いていた。ベルリンで3/7に反原発のデモがあり、700人が参加した事実はマスコミの記事になっている。パリでも3/11に脱原発のデモがあり、参加者は200人ながら報道されて人の知るところとなっている。東京で3/8に行われた集会とデモは、左翼リベラルのTwでもほとんど話題になっていなかった。身内と常連の集まりという感じで、参加者もいつもの金曜のデモと同じ感覚だっただろう。これも風化現象の一つに違いない。3年前、2012年の3/11には、大江健三郎らが郡山で「福島県民大集会」を開いていて、これはテレビでも取り上げられていた。反原発運動のモメンタムはすっかり小さくなってしまった。反原発は世論の多数を占めながら、マスコミから発信されるのは政府と東電からのアップデート(successfully ongoing)ばかりで、反原発の側からのカウンター・ステイタス・アップデートがない。有効な反論や告発が出ず、一般を啓発することがない。

広瀬隆の定点観測も出ず、結局、反原発の側は理論武装が不十分なまま、反撃の機会を作れず、大越健介的な御用報道と世論工作の闊歩と跳梁を許してしまっている。


福島原発事故の風化 - 国道6号と常磐道から見た帰還困難区域_c0315619_186729.jpg

by yoniumuhibi | 2015-03-14 23:30 | Comments(4)
Commented by NY金魚 at 2015-03-15 07:54 x
原発事故が風化してしまった、ということを理解するのに、現場(ゾーン)を訪ねてみることが必然です。ぼくなど地球の裏から「反原発」を叫んでいるだけで、3-11以降、福島はおろか東京にも帰っていない。このような普段読んでいるブロガーの体験記はとても貴重です。ありがとうございました。
風化するということは、人びとが意識からそのことを追い出す、ということと認識しています。事故の直後「風評」という言葉が流行りましたが「ここは放射能値が高い」という本当のことを言っているのに、それはウソである、風が運んだうわさである、「風評」である、というわけです。あるいは本当に過剰反応の風評もある。そのこと(風評)の不明解さが、ムラやマスコミの力でゆがめられ、否定され、人びとはますます口を閉ざすようになる。風化していく。
ところが現実は、7年後までにまだ時間を残しているのに、ゾーンのなかに住んでいる子どもたちの甲状腺癌がもはや急増している。当然ムラと政府とマスコミは隠蔽する。
史上最悪の原発事故になったことは、悔やんでも取り戻せない。その最悪の立場からやり直すことが、日本人の力だったのではないのですか。ひとりでも多くの子供の命を救い、汚染水を必死に1リットルでも少なく食い止め、除染の新技術を必死で考える。現存する原発をすべて廃炉にし、自然エネルギーを開発する。
ぼくたちが生まれる前の、あの荒ましい敗戦の経験がある日本人なら、これからやれることがいっぱいあると思うのです。オリンピックや、中東に自衛隊を派遣する話より、先に。
とても苦しいけど、それができたらそのとき、日本人は世界から本当に尊敬を集める民族に成長しているでしょう。いつも「遠くからの叫び」ですみません。
先ほど、日本最古の物語、高畑「かぐや姫」を二度目に見たあと、痛切にそのようにを感じました。
いまのすべては、過去のすべて。
必ず、また会える、なつかしい場所で。
いまのすべては、未来の希望。
輝く、おぼえてる、いのちの記憶で。
       —「かぐや姫の物語」の主題歌リリックス

Commented by at 2015-03-15 18:47 x
日本の政府は今まで本当に一度も国民を護った事が無いですね。
昔から報道は制限され、一辺倒。もしくは全くなかった事もありました。
凄惨な事故、災害、戦争、そして棄民にされた人々…。
特に国の直接的責任が問われる被害が多くの国民に及んだ時、メディアは平等には伝えなかった。
型通りの情報は流されるものの、その後の加害者である側の、被害者に対する保障の有無の情報が余りに少ない。人生を壊されても、その後の壮絶な長い闘いは、ほとんど知らされません。
私は、とある原爆被害者の方と話をする機会がありました。
私の被曝と健康被害の話をしたら「私達も同じでした。私達は国に認められるまで半世紀以上かかりました」と涙していた。その方の家族の直接的な被害と社会的な被害がどれほどのものだったか…。子細は聞けませんでしたが、深夜に困りごとの相談のボランティアをなさっていて、その方の「こういう人生に遭ったことは、何か意味があり、あなたにも役目があるんでしょう」との言葉で、大変なものだったと想像されました。
私も自分の身に起きた事を人の為に語る事は大事だと思いました。
ここに至るまで、致命的な情報の断絶が無ければ、多くの人生が狂わされる事はなかった。
広島や長崎の被曝者の話が、辛い健康被害はもとより、さらに辛い半世紀以上のこの国との闘いが、自ら探さなければ出てこないのがおかしいです。
私は愚かな事に、福島県の原発事故で初めてメディアに対する疑念が一気に湧きました。
もし、広島や長崎、そして水俣病や多々ある災害公害被害者と加害者との闘いが、メディアによって国民につぶさに語られていたら、私達国民の大多数は、こんなにまで盲目でいる事はなかったのではないか?
こんなにまで国が腐って、国民が塵芥のように棄てられる事にはならずにすんだのではないか?
政府が大多数の国民を置き去りにして大企業財閥優遇の政策をとり、他国の人々を死に至らしめたり、自国の民の健康も護らせず、結果、日本人同士が被害者でありながら加害者になる「復興」「食べさせて応援」…こんな不幸な世の中にならずにすんだ筈ではないかと。
Commented by 愛知 at 2015-03-15 20:19 x
1982年、広島に赴任した際、原爆、原爆と言っていた自分に、人が良く信頼できる協力会社の社長から、原爆の話をするなとお叱りが。子や孫の縁談に支障を来す恐れがあるのでタブーと諭されました。これは個人的な体験で広島の当時主たる世論というわけではありません。また33年前のことであり、現在の状況でもありません。お叱り以降、赴任期間中、二度と原爆の話はしませんでした。バスの中、無言で舟入病院へ通うご年配の方を見て暗澹たる気分に。今から思えば被爆から37年後です。ヒロシマと廣島、フクシマと福島。統治者の狙いは原因究明の先送りと風化。はっきり言えばゼロへのリセット。GOTOHと湯川も少し違うが本質は同じ。30代の息子に言わせると前者は立派なジャーナリスト、後者はプータロー。教育方針を誤りました。間もなく選挙ですが、広告代理店へ莫大な投票啓蒙費を垂れ流すことはやめ、300円、500円でも良いから投票に行かなかった人に反則金を定めるべき。投票所でもらえる栞(私の選挙区の粗品)では女性は動きません。ブログ主様のように正当に政治活動をされている方には異論があるかもしれませんが、軍国の母となるか否かの重要な選択です。小銭で投票の動機付けができれば、宣伝費の垂れ流しは阻止できるはずです。
Commented by serenatalouvre at 2015-03-15 23:48 x
数年前に、フランスで処理されて日本に送られてきた核燃料が運搬されるフィルムを見ました。ドイツのグリーン活動家がとったものでした。

日本の港に着き、日立物流のロゴが入ったものものしいトラックの戦列が、深夜、首都高を走っていました。

すでに原子力基本法に『安全保障に資する』という文言が入ったいま、特定秘密保護法とリンクした。 原発の機密性が高まって、今後は、高レベル廃棄物などの運搬の情報も開示を拒否される可能性もあるでしょう。消防にも通告されなくなるようで、事故が起こっても対処できない。

わたしたちはこんな道に踏み込んできています。メディアはこのまま黙っているつもりなのでしょうか。

先週末の安倍の支持率がまだ50%弱あるとの報道に唖然としています。  


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